~焦点~
産科医は自然に逆らって平日の昼間にお産をさせているのか?
愛知医報 平成19年5月15日 p8-9
日本の産科医療は瀕死の状態にある。お産をもうこれ以上取り扱えないと医療現場が決心せざるを得ないような外からの圧力が余りにも多すぎる。
少し前の話になるが、産科医療への根源的不信を促す主張が支払い側の中医協委員の勝村久司氏からなされた。この主張はその後一人歩きをして、かなりの人が信じ込んでいるようだ。その主張の問題点を調査室斉藤委員が指摘している。これを読むことで、会員諸先生には勝村氏の主張の誤りを理解していただきたい。
調査室委員会委員斉藤みち子
提示した3つのグラフは、平成17年12月16日中央社会保険医療協議会に委員の勝村久司氏が資料として提出したものである。出典は、“厚生労働省大臣官房統計情報部所管「保管統計表第7表(第24表)出生数、出生年月日時・出生場所別」を基に勝村久司委員が独自に作成"となっている。
勝村氏はこの3つのグラフを使って、助産所での出産は曜日別の差はなく、時間別では朝の6時頃ちょっと増え、夕方の6時頃ちょっと減るだけであるが(グラフ3)、病院・診療所では平日が日曜・休日の1.5倍、午後2時が夜間の2倍以上と指摘し、更に、「産科医には計画分娩という言葉が使われておりますが、医学的には必要はないのだけれども、陣痛促進剤などの薬を使って、平日の昼間に無理に産まそうとしていることで、子宮破裂や母親死亡、胎児仮死、胎兄死亡、重度の脳性麻痒などが頻発している…」と述べた(平成17年12月16日中央祉会保険医療協議会議事録より)。
病院・診療所では平日が日曜・休日の1.5倍、午後2時が夜間の2倍以上との指摘はその通りであるが、果たして「産科医は、医学的には必要はないのだけれども、陣痛促進剤などの薬を使って、平日の昼間に無理に産まそうとしている」から、そのような数字になるのか?産婦人科医としては納得できない主張であったので、勝村氏捉出の3つのグラフを眺めて考えた。
まずグラフ1について。このグラフ、縦軸が1,500から始まっており、実際の山と谷はここに見るほど差があるものではない。日曜・休日の平均である2,300の所に破線を引いてみた。破線より下は白然分娩分と考えられるが、その部分の出生総数は2,300×31=71,300.2004年12月の総出生数は92,714である。
破線より上の部分、つまり自然でない分娩は約23%((92,714-71,300)÷92,714×100)となる。
グラフ2についても夜間の平均値35,000で破線を引いてみた。ここでも同様に破線より下は自然分娩分と考えると、その総数は35,000×24=840,000となり、自然でない分娩は残りの27万件(グラフ2で破線の上に出ている部分の総計)で、これは全出生数の約24%である。
一方、2002年、2005年の帝王切開率はそれぞれ15.2%、17.4%である(厚労省:医療施設・病院報告の概況。各年9月の調査)。帝王切開以外の異常分娩を加えれば、医学的に必要があって医療行為が加えられた分娩、つまり“自然ではない分娩"が2004年12月の時点で23%あるいは24%ということは、産科臨床に携わるものとしては納得できるものである。
勝村氏の主張は、この23%あるいは24%が「産科医は、医学的には必要はないのだけれども、陣痛促進剤などの薬を使って、平日の昼間に無理に産まそうとしている」分娩になるということなのである。
2004年の時点で本当に計画分娩を行っていた医療機関がそれほどあったのか、実態調査はあるのだろうか。それを確認せず「医学的には必要はない計画分娩で、平日・昼間の分娩が多い」という主張は、勝村氏の単なる推測に過ぎないのではないか。また、現在行われている碑痛促進剤使用は、胎内での発熱や胎盤機能不全、あるいは遷延分娩等による母体・胎児の異常を防ぐためのものであり、医学的に意義のあるものである。このような異常分娩も扱う医療機関での分娩と、正常分娩しか扱わない助産所での分娩とで時間的な差が出るのは当然のことなのである。勝村氏は「平日の昼間に無理に産まそうとしていることで、子宮破裂や母親死亡、胎児仮死、胎児死亡、重度の脳性麻痺などが頻発している」とも述べているが、子宮破裂や母親死亡、胎児仮死、胎児死亡、重度の脳性麻痒などが頻発しているというデータがあるのだろうか。これも氏の思いこみに過ぎないのではないか?
あらかじめ分かっている帝王切開やその他の異常分娩を、可能な限り態勢の整っている平日の昼間に行うのは、安全面から考えて当然のことである。
勝村氏作成によるグラフから言えることは、正常分娩だけでなく異常分娩も扱う病院・診療所で平日の昼間に分娩が多くなるのはごく自然のことであり、決して、「産科医は、医学的には必要はない計画分娩で、陣痛促進剤などの薬を使って、平日の昼間に無理に産まそうとしている」のではない、ということである。
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