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Medical ASAHI 4月号シリーズです。
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医局に転がっているかも!
特集は医療紛争 転ばぬ先の杖
読んでみて思うのは、中立委員会もとっても大変そう、ということです。手探りでやっていくしかないのでしょうね。
医療問題中立処理委員会 発足一年の成果
茨城県医師会副会長 小松満
(Medical Asahi 2007年4月号 p54-55)
患者と医師の間に横たわる溝の背景に、医療機関の情報公開の少なさ、医師側の説明不足があるのはもちろんだが、患者側の誤解によることも少なくない。
これは、患者が医療行為は不確実性を伴うものであることを理解せず、期待にそぐわなかった治療結果に対してはすべて医療ミスであるかのように誤解し、医師に説明を求める場合に感情的になりがちであるためである。一方、医療機関側は、治療結果について謝罪すれば損害賠償を求められたり、裁判で不利になるのではないかと考えて、診療行為の正当性のみを訴える傾向がある。
2005年からの準備期聞を径て
茨城県医師会には1964年に設立された医事紛争処理委員会があり、患者と医療機関との間に生じた紛争の処理に当たっていたが、医師会が主宰しているために外部からは公平に行われているとは見られていなかった。患者に信頼されるためには第三者による中立的な委員会が必要であるという緒論に達し、2005年から第三者ををえた準備委員会を設立して検討した。
最初のうちは、医師会が患者のために組織を作るということが信じられないようで、準備委員から理解は得られなかった。医師会に対する不信感が国民にあまねく広まっていることを実感させられたが、回を重ねるうちに、理解が深まって真剣に検討され、1年がかりで案ができ上がった。しかし今度は、会員から、患者側ばかりが有利になって、医療機関にはメリットがないのではないかという意見が出た。中立委員会で患者と真撃に話し合うことで、日常診療に支障を来しながら当事者同士で話し合うよりは、はるかにプレッシャーなく話し合えることを示して説得した。
大きな問題として、設置主体と資金問題があった。医師会では設立主体も資金も全く医師会と関係ないNPOのようなものを考えていたが、現実には不可能だった。医師会が設置主体となり、資金も出して中立と見なされるだろうかと不安だったが、委員からの意見は、委員の選考を中立的な立場で行い、実績を積むことで理解されるというのが大勢を占めた。
06年4月に茨城県医療問題中立処理委員会が発足した。委員は弁護士会の推薦による弁護士3人、学識経験者として大学教授、新聞社社長の2人、市民代表として2人および医師会から3人の計10人で構成した。
申し立て案件は6月までに6件を数えた。07年2月現在合計14件であった。(表)
<14案件を調停>
申立人は、患者側が13件、医療機関側1件である。紛争の原因は手術結果に対するものが5件と最も多く、手術以外の治療結果に対するものが2件、診断に対するもの2件、検査に対するもの2件、処置に対するもの2件、術後感染に対するもの1件であった。
14件のうち結論が出たものが6件、継続中が5件、取り下げ2件、相手側が拒否したもの1件である。合意に達したものは1件であり、5件は合意に達せず打ち切りとなった。
打ち切りの原因は、賠償金額に折り合いがつかなかったものが3件、申立人が賠償を求めるだけであったことが1件、相手側が全く責任を認めなかったことが1件であった。
合意に至った1件は医療機関の説明に納得したことであった。打ち切った5件のうちの1件は、その後あっせん・調停会議で話し合った内容で合意に達した。
取り下げた案件の理由は、「都合で会議に出席できないこと」「昔のことを言っても始まらないと周囲に説得されたため」であった。
<経験から得たADRのコツ>
委員全員が第1回目のあっせん・調停会議を経験した後、委員会を開き問題点を話し合った。弁護士の委員は、調停を成功させるには申立人の要求は何かを知ることが第一と考えていた。このため納得できる賠偉額を尋ねたために、お互いに合意に至ることができなくなってしまったことが反省点として挙げられる。次回からは、なぜ紛争の原因となったアクシデントが起こったかを中心に会議を進めることになった。
その後も中立委員会は短期問で医療機関の有責を判断して賠償額を決定してくれる機関と誤解した申し立てが寄せられた。これは中立委員会のできること/できないことを明確に説明してこなかった責任であると反省している。
申立人の中には中立委員会を相手側にプレッシャーをかけるために利用したり、合意が得られないとマスコミに訴えるというような発言をする者がおり、問題であった。
今後の中立委員会の方向としては、
①委員会は有責無責を判断したり、賠償額を決定するところではなく、当事者同士が冷静に話し合える機会を提供し、アクシデントの原因を究明し、同じアクシデントを二度と起こせないことを第一の目的にする場であるとアピールしていく。
②会議において相手にプレッシャーをかけるような言葉は禁じるなど、ルールをきちんとする。
③会議をだらだらと何回も重ねてしまったこともあり、会議は2回ほどに限定する。
④中立委員会で扱う案件は、アクシデントの原因が不可避的なものかどうか迷うなどのグレーゾーンにある案件が適していることを発表していく。
⑤医療機関が責任を認めている一方で賠償額などで折り合いがつかない時は、医事紛争処理委員会と並行して進めることも必要。
この1年間を振り返って合意に達した案件は1件であったが、打ち切り後に当事者同士の会議で語し合われた条件で合意した例があった。この例も中立委員会の成果と思われる。
難しい案件ぱかりだったこの1年だがより良い制度を目指そう
中立委員会が成功したかどうかの判断はできないが、初めての試みとしてはまずまずであったのではないかと思う。委員の方々は暗中模索の中で一応申し立てられた案件はすべて受理して調停を試み、検討する道を選んでくれた。
事例のほとんどはアクシデントが生じて数年を経過してしまって、当事者間で既に埋められない感情のもつれがあり、賠償額にこだわりがあるものがほとんどであった。始まったばかりの取り組みであり致し方がないことだと思われる。今後は前述したような点を考慮しながらより良い制度にしなければならない。
医療は不確実性を伴うものであり、アクシデントを全くなくすことは不可能である。しかし、患者に不幸な結果が生じた場合、医療者はその責任の有無にかかわらず、患者にかかわる家族や関係者など、多くの人々が少なからぬ影響を受けるということを心しなくてはならない。不可避的な事故であっても、医療者は患者のみならずその周囲の人々にも思いを寄せ、真撃な態度で問題に対処する義務がある。
まだまだ勉強し改善していく必要があるが、中立委員会が、真に患者と医師の間にある不信感を取り除く原動力となるように努力していくつもりである。
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