結構面白いです。メディカルトリビューンも来ていました。
けど今回はこちらで..。*♡ 要はCTを撮れということです。診断基準は最後に。でも迷ったら撮れってことですね。(予後は変わらないけど、費用は安めになるらしい)
注目の論文
軽症頭部外傷患者への即時CT検査と経過観察の比
MMJ March 2007 vol.3 No.3 P206-209
軽症頭部外傷患者に入院が必要かどうかの判断が迫られるとき、CTでトリアージする場合と、そのまま入院して数日間の経過観察をする場合とを比較したときの、転帰と費用効果をスウェーデンで検討した論文に注目した。
解説をお願いした東海大学八王子病院院長の北川泰久・神経内科教授は、救急病院へのCT普及が進んでいる国内で実施が困難な比較試験例として「大変参考になる」と述べる。結果をみると、転帰は「同等」(Gejierstam JL,et al.BMJ 2006;333:465~468)であり、3ヵ月後の患者の総費用比較では「CT群のほうが196ユー口(約2万9000円)少なかった」(Norlund A,etal.BMJ 2006;333:469~471)。国内では「CTを行わずに診療を行った場合、後に診断が遅れたとして問題となるケースが出てくる可能性がある」のに加えて「患者もCT検査を望む」傾向があるために検査が行われている。ここで取り上げた論文は、医療コストを考えるうえでも貴重な示唆を与えるもので、北川教授は「医療安全の面からもCTをまず行うことを勧めたい」と呼びかける。
BMJ
Geijerstam JL,et al.2006;333:465-468.Karolinska University Hospita1,Sweden.
軽症頭部外傷患者に対する即時CT検査実施と経過観察で入院した場合の臨床転帰:無作為化対照試験
Medical outcome after immediate computed tomography or admission for observation in patients with mild head injury:randomised controlled trial
目的
軽症頭部外傷患者を入院させるべきかどうかのトリアージに即時コンピュータ断層撮影(CT)検査を実施した場合と経過観察で入院させた場合の転帰を比較する。
研究デザイン
多施設、実践的、非劣性無作為化試験。
設定
スウェーデンの急性期治療施設39病院。
参加者
軽症頭部外傷患者2,602人(6歳以上)。
介入
即時CT検査もしくは入院経過観察。
主要評価項目
2値化した拡大Glasgow outcome sca1e(GOS-E)(1~7点[完全回復せず]と8点[完全回復]に分類)。非劣性の範囲は5パーセントポイントとした。
結果
3ヵ月の時点で、完全回復に至らなかった患者はCT群の275人(21.4%)に対し入院経過観察群では300人(24.2%)であった(表)。
この差は絶対差で-2.8%であり、CT群を優位とする統計学的な有意差は検出されなかった(95%信頼区間[CI],一6.1~0.6%)。もっとも悪い転帰(死亡、より重度の機能損失)の発生率は2群間で同様であった。入院経過観察群では外科手術が必要な患者において、(外科的)治療開始までの時間にかなりの遅れが認められた。即時CT検査の所見が正常だった患者では、その後の追跡中に合併症を起こした患者は1人もいなかった。2つの診療方針に対する患者の満足度は同様であった。
結論
軽症の頭部外傷患者に対するCTを用いた管理は実施可能であり、臨床転帰は入院経過観察と同等である。
BMJ
Norlund A,etal.2006;333:469-471.Karolinska University Hospital,Sweden.
軽症頭部外傷後の即時CT検査と入院経過観察:無作為化対照試験による費用比較
Immediate computed tomography or admission for observation after mild head injury:cost comparison in randomised controlled trial
目的
軽症頭部外傷患者を入院させるべきかどうかのトリアージに即時コンピュータ断層撮影(CT)検査を実施した場合と入院経過観察した場合の費用を比較する。
研究
デザイン多施設、実践的、非劣性無作為化試験における費用効果の前向き解析。
設定
スウェーデンの急性期治療施設39病院。
参加者
軽症頭部外傷患者2,602人(6歳以上)。
介入
即時CT検査もしくは入院経過観察。
主要評価項日
受傷後急性期および3ヵ月間の追跡中に、軽症頭部外傷に関連して発生した直接費用および間接費用。
結果
3ヵ月後の転帰は両方の診療方針とも同様であった(CT群の優位性を示す統計学的有意差なし)。急性期治療と合併症に関連した費用は、CT群の患者1人あたり461ユー口(314ポンド、582ドル、約7万円)に対し入院経過観察群は677ユー口(462ポンド、854ドル、約10万2000円)であった;CT群のほうが平均32%少な(216ユー口[3万2000円];95%信頼区間[CI],一272~一164ユー口;P<O.001)。感度分析の結果、広範囲の条件下でCTがもっとも費用効果に優れていることが示された。3ヵ月後の患者1人あたりの総費用はCT群の718ユー口(約10万8000円)に対し入院経過観察群が914ユー口(約13万7000円)とCT群のほうが196ユー口(約2万9000円)少なかった(95%CI,一281~一114ユー口;P<0,001)。すなわち、入院経過観察群との比較において、急性期における即時CT検査群でみられた費用減少は追跡期間中も持続した。
結論
軽症頭部外傷で救急部門を受診した患者には、入院させて経過観察するよりも、すぐにCT検査を行って管理するほうが費用効果の点で優れている。
[解説]軽症頭部外傷では最初CTでトリアージするのがよい
北側泰久
この2つの論文は軽症頭部外傷の患者が来院し、入院すべきか否かをCTを撮ってトリアージを行う場合と、CTは撮らずにそのまま入院し、数日経過を見て退院した場合の両方針の間に、3ヵ月後の転帰と経費に差があるか否かをランダム化して比較した試験である。結果として両群間で転帰に差はなかったが、経費の面ではCTを撮ったほうがより安価であったという結論である。
救急医療の現場における軽度の頭部外傷患者のマネージメントについてはまだコンセンサスが得られておらず、今までランダム化した比較試験は行われていない。このような研究は特に、医療コスト面から重要と考えられるが、わが国ではCTスキャンの設置が救急病院に普及している現在、このような検討を臨床試験として行うことはなかなか困難である。わが国は国民皆保険が普及し、頭部外傷に対してCTが行われることが多く、患者もそれを望んでいる。近年の患者の医療安全に対する意識の高揚、医療訴訟の増加を考えた時に、もしCTを行わずに診療を行った場合、後に診断が遅れたとして問題となるケースが出てくる可能性がある。わが国で行うことがおそらくできないという意味でも、これら2つの論文の結果は大変参考になる。
頭部外傷といってもさまざまで、臨床的にここでの軽症頭部外傷の定義は24時間以内に外傷に遭遇し、意識の消失あるいは健忘が明らかにあるかその疑いがあり、神経学的所見で脳神経、運動機能、感覚機能はそれぞれ正常で、Glasgow昏睡スケールが15点で、入院を必要とする他の外傷のない症例である。
CTスキャンは頭部外傷の場合、頭蓋内外の出血、特に硬膜外血腫、硬膜下血腫、くも膜下出血と脳出血に対して有用で、さらに骨の条件で撮影すると骨折も診断できる。このように頭部外傷をCTを用いて診断した時に有用な点は、出血の有無と骨折の有無である。脳挫傷は出血の混在があればある程度診断できるが、急性期の脳挫傷に伴う脳浮腫に対してはCTはMRIと比べて診断能力が劣る。
最初の論文で言えることは、軽症頭部外傷は救急でCTでトリアージした場合としない場合では、3ヵ月後の転帰は両群とも全体でみると同じであるということである。ただし、ここでの機能評価は大まかに完全回復せずと完全回復の2つに分けてそれぞれの比率を両群で比較している。CTで異常のなかった症例で、後に入院や手術を必要とする合併症は1例もみられなかったとあるが、個々の症例において、特に高齢者ではCTを撮らないで入院した場合、後に神経症状が出現する疾患、たとえば硬膜下血腫などが存在している可能性があることは注意すべきである。
2つ目の論文では、急性期治療と合併症に関連した費用はCTを行った群では入院経過観察群に比べ32%安いという緒果であった。このことは、CTで早く診断し、適切な処置、治療を行うことによって合併症などでかかるコストを抑えることができることを示している。両群の間で手術を行ったのは硬膜下血腫のみであったが、その数がCT群では1例,経過観察群では3例であった。その際の費用が両群の経費の差に多少影響しているかもしれない。この2つの論文から軽症頭部外傷はCTで最初にトリアージを行うことが経費の面から推奨される。本論文では言及していないが医療安全の面からもCTをまず行うことを勧めたい。
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