(関連目次)→今月の産婦人科医報..。*♡
では日本産婦人科医会報4月号より
支部からの声。香川県
【会員数】
平成19年2月現在で会員数は98名(うち女性会員23名、免除会員16名(女性会員:2名))である。会員減少による会費不足が問題になっており、支出削減や免除会員の寄付など何らかの対策の必要性がでてきている。
【医師・助産師の充足度】
香川大学の産婦人科はここ6年問入局者がいないが、他大学からの医師派遣にてどうにか県内の病院は充足していると思われる。平成18年度の新卒助産師は8名が卒業し、うち県内に就職したのは3名であった。堀病院の無資格助産問題は起訴猶予になったが、現場の厳しい現状を重視しただけで根本的解決にはなっていない。さらに、4月施行の改正医療法で産婦人科嘱託医が義務化され助産所の3割が確保困難とのことだが、医会の発表した「嘱託医契約書モデル案」が安全面で問題のある助産所にどう影響を与えるか今後見守りたい。
【周産期医療】
全国1狭い当県には香川小児病院と香川大学の2カ所も総合周産期母子医療センターがあり恵まれている。緊急母体搬送は平成17年度は133例、新生児搬送は345例あった。
先日、妊産婦(周産期)死亡率が公表され、当県はほぼ全国平均であったが、地域差がかなりあることが判明した。「集約化」も含め、一刻も早く原因究明をすすめてほしい。
【分娩取りやめの事例】
産科医不足による平成18年度の分娩取り扱い停止施設は4件(うち、病院2件、診療所2件)あった。平成19年度は新たに1施設の分娩取り扱い停止が予定されている。ただ、当県では現在のところ幸い「お産難民」は発生していない。しかし、「産科医が減っているのは出生数の減少で医療二一ズが低減した反映」という最近の厚労相の発言にはがっかりさせられた。
【子宮がん検診】(略)
さて。特集が、
「母体搬送や新生児搬送で苦労したこと」
ぐちぐちつづられています。私はNICUのある病院勤務が8年ほどと圧倒的に長かったせいで、受け入れ側のことをすぐに思う癖があります。ではいってみます。
最後がさりげなく注目です。
■捨てる神あれぱ拾う神あり
ある当直の深夜、妊娠25週初産で、子宮口7cm開大、胎胞パンパンの方が入院してきました。陣痛抑制をかけながら、搬送先を探し始めます。比較的近く普段から交流があって、好意的に受け人れてもらえるK大とT大が満床で、今宵も難航する予感。
区西部ブロック内地域周産期母子医療センターは満床だったため、ブロックの総合母子センターのJ大へ電話。しかし、冷たく現在受け入れ不能と断られ、それでは
「ブロック内の搬送症例の受け入れ先調整の使命がおありなので、それをお願いしたい」と申し出たところ、他ブロックのA病院とH大に空床があるのでそちらへ自分で電話するように言われました。
この問、自院の小児科医に分娩になった際の立ち会いだけでもと泣きつきましたがお断り。陣痛の続く妊婦が破水したらおしまいとハラハラしながら、教えられたA病院とH大に電話したところ、捨てる神あれば拾う神ありとはこのことでしょうか?この2院の産科当直の先生がとても好意的に対応してくださり、2院のNICUとも中等度の未熟児のみ受け入れ可能で25週は無理だったのですが、2院の先生が連絡を取り合い「こういう時は貴ブロックの総合センターであるTJ医大が受け入れることに決まっているので僕たちから言ってあげますよ」と助け船を出してくださり、ようやくTJ医大に受け入れてもらえました。
以上の搬送先探しの電話のやり取りには2~3時間かかったかと思います。それから救急車で45分、リトドリン点滴のもと、陣痛のたびにいきまないように呼吸指導しなら、何とか破水・分娩にいたらず、搬送し終えました。こんな経験は、NICUの充実した施設に勤務されている先生以外は、皆様多数お持ちでしょう。毎回寿命が縮まります。
■油断大敵
ある平日の午前の外来でのことです。次の患者さんが入ってきました。初診で軽い腹痛を訴える35歳くらいの小太りの女性。今朝9時頃からお腹が少し痛いとのこと。看護師のアナムネでは妊娠が疑われましたが、どこにもかかっていないといいます。4回経産であった!べッドで外診すると腹囲115cm?子宮底35cm?超音波をすると下の方に児頭がある。BPDは9cm近い!!推定体重が2,500gくらい?完全に飛び込みだ。頭の中が混乱してきました。前置胎盤は大丈夫だ。まてよ、頭が子宮底部の方にもある?もしかしてツイン??念のため内診すると帯下は産徴様で、子宮口はやわらかく3cm開大するも先進部は高く何も触れませんでした。双胎の陣発だ。
あまり刺激しないで早く母体搬送しなくちゃ。すぐに家族を呼んで話をして搬送だ。(略)ご主人にすぐに来てもらうことにしました。とりあえず搬送依頼だ。ツインの陣発なら引き受けてもらえるだろうとすぐ近くの総合病院に電話するも忙しいと断られた。次は隣町のもう少し規模の大きい総合病院に電話する。産婦人科の先生は小児科に聞いて電話し直しますとのこと。しばらくして小児科がいっぱいなのでと断りの電話がある。なんかいやな感じがすごくしてきた。次にやや離れた大学の付属病院に電話するもNICUがないのでと断られる。だんだん、患者さんの陣痛が強くなってきたたいだ。破水したらまずい。そうだ、わが県には母体搬送システムがあるんだ。総合周産期病院に電話をすれば受け入れてくれるはずだと思い出しました(NICUが必要で自院が満床の時は搬送先を探してくれるはずだ)。総合周産期病院の産婦人科に電話して双胎の陣発(満期近いと考えます)なので至急お願いしたいと伝えるも、NICUを確認して電話をかけますとのこと……。
ご主人が来院されたので状況説明し、当院では無理なのか母体搬送先を探していると説明する。私の心臓もバクバクしてきた。総合周産期病院から電話だ。やっと来た。「今、NICUがいっぱいなので受けられません。そちらで対処してください。もし産まれて赤ちゃんに何かあったら新生児搬送してください」。そんなあ、もうダメだ、依頼の仕方が良くなかったのかな?慣れていないからな?そんなことより4回経産だし経膣で出すしかない!!もう一度内診する。子宮口は7cm開大、胎胞触知、先進部は??頭じゃない。足でもない?上肢みたいだ。うわあ、破水したら胎児はダメだな、もうダメかも知れない。いろいろ考えながら急遽、なんとか応援の医師を呼び緊急帝王切開は間に合いました。横位でどうにか娩出。でも、双胎ではありませんでした。超音波で双胎と考えたのは、横位で浮動した児頭をあせりで2つに見間違えたためでした。しかし、いずれにしても破水して帝王切開が間に合わなっかたらと考えるとぞっとします。やはりいつ何があるかわからないのが産婦人科だと実感しました。
■常位胎盤早期剥離搬送の1例
1週問前より下腹痛があり、今朝から性器出血があるという。直ちに超音波検査を行うと子宮底から後壁にかけて胎盤は肥厚していて剥離を思わす血腫の所見を認めた。胎児心音は正常、バイタルサインは問題なく、子宮底28cm、腹開84cm、血圧100/60㎜Hg、第1頭位、NSTを行う余裕なし、推定体重2,380gくらい、この時11時45分。緊急帝切を行えば、母児共に救出できると直感した。自分が勤務した大学まで約18km、救急車にガタガタゆられたら出血量は増えるばかり、剥離面は広がるも分娩を依頼しておいた医院は木曜で休診、ドクターは今外出するところ、引き受けられないという返事。自院で看護師2人と帝切をしようと決心した。術後のことを考え、もう一軒当たる。1.8㎞離れたI君に電話する。
木曜なので出かけるところだ。だが、事情が違う、すぐ救急車に同乗して来い、と助けてくれた。すぐ静脈路を確保、輸液中にアドナ、ウテメリン、抗生物質を混入し、救急車で搬送してもらう。
到着後すぐ脊麻、執刀後4分で胎児を娩出させ、Apgar8点。胎盤をみると子宮底から後壁にかけて5分の3くらい剥離していた。そっと静かに用手剥離した。出血は多くないので、ゆっくりその後の手術を続けた。診断から手術終了まで約1時間、母子共に救命し得て安堵の胸をなでおろした。診断が確定したら即帝王切開に尽きる。時問が経過すれば母体はDICになる可能性が高い。胎児は死に至る。
病診連携は大変重要である。診診の連携はもっと大切である。常日頃から良い友を持つことである。友に感謝。
■搬送について思うこと
近隣(埼玉県的な距離感においてですが)にはNICUを有する施設が4つありますが、常にほぼ満床状態で、都内の施設へ搬送せざるを得ないこともしばしばです。搬送先の先生方には本当に頭が上がらず、せめてなるべくご迷惑をおかけしないように心がけています。以前、都内の総合周産期母子医療センターに数年間勤務していたことから、送る側と送られる側の両方の事情も分かり、時に複雑な心境になります。
新生児搬送に関しては、県の内外を問わず施設間の連携があるようで、心強く感じています。しかし母体搬送に関しては、送る側のストレスが大きく、患者さんにとっても効率の悪い状況と言わざるを得ません。都内の周産期センターにはそれぞれ担当地域が定められていて、地域内から搬送依頼があった場合、搬送を受けるか、または別の搬送先を紹介することが義務づけられていました。したがって都内では、母体搬送依頼元の施設は地域の周産期センターに一度依頼をすればあとは搬送先が決まるのを待っていればよいことになりますが、埼玉県では基本的に、緊急を要する妊婦さんの傍らで、ご家族の視線を感じつつ、搬送先が決まるまで必死に電話をかけ続けなければなりません。
幸いまだ経験せずにいますが、眼前にまさに絶えなんとする生命があって、県内施設にすべて断られ、途方に暮れる余裕もなく県外施設へさらに電話を…なんていう状況を想像すると、夜も眠れませんし、実際に万全を尽くしたにもかかわらず患者さんやご家族に不幸な結果が待っていたら、私も分娩取り扱い中止を考えるかもしれません。
防護診療に傾けば、少しでも怪しい症例はすべて外来の段階で高次施設へ紹介したくなるのですが、一方で周産期センターを含む高次施設は、本来取り扱うべきでない低リスク症例に労力を奪われ、消耗し、逆に受け入れ能力を低下させてしまいます。反対に、ハイリスク症例を自分のところで引っ張るだけ引っ張っておいて、ぎりぎりで緊急搬送(手放す、というか捨てるに等しいとさえ思います)する開業医が多いのも事実で、限界を見極めるのが産科の醍醐味だ、などと聞いて心の中で罵書雑言を浴びせたことも当時ありました。
ハイリスク症例の在胎週数は、高次施設管理群の方が他院からの搬送群より長いのは当然のことですが、加えて施設内の状況に応じて分娩時期を調整できる利点があります。事前に母体および胎児の評価を行った上で予定帝切を行うことで産科医師およびNICUの負担も減少し、結果として施設の受け入れ能力も維持できるのです。周産期医療に正解などないのかもしれません。それぞれの医師によってリスク評価基準が異なるのも、やむを得ないことです。しかし、誤解を恐れずに言うならば、周産期母子医療センターないし高次施設群は、それぞれの地域の人々が共有する貴重な医療資源と考えるべきです。そしてその医療レベルは、周産期医療の崩壊が危ぶまれるこの時代に、慢性的人手不足の中、限界的な過重労働に耐えている先生方によって支えられていることを忘れてはいけません。周産期医療ネットワークの整備や集約化は確かに必要です。しかし、ハイリスク症例をただ基幹病院へ集約化しても、送る側の意識を変えなければ、受け入れ施設がゴミ箱化し、健全な運営は不可能です。基幹病院が軸となって、中長期的構想と同時にハイリスク妊娠の共通認識を地域で形成し、ビル診も含めたすべての産婦人科施設へ周知徹底する必要があるのではないでしょうか。
私が勤務していた総合周産期母子医療センターが、正常妊娠の取り扱いを中止すると聞きました。かつて病棟に満ちていた温かい雰囲気はおそらく失われてしまうのでしょう。当時大変お世話になった他地域の周産期センターからは既に産科自体が撤退し、センター構想自体がもはや危うい状況とも聞きます。正直なところ私は今まであまり難しいことを考えたこともなく、ただただお産が好きでやって参りました。今後もそうしていけたらと思う一方で、出産に対し安全性と同時に快適性を求める社会の厳しい監視と、分娩は安全なものであるという極めて誤った盲信に対して、やはり危機感を覚えています。しかし、実は最も不安に苛まれているのは妊婦さん本人であり、少しでも安心してお産をしていただけるよう今後も最善を尽くしていこうと思っています。
■東京砂漠
母体搬送で最近危倶するのは助産所からの搬送の問題である。医療行為のできない助産所では母児救急の初期対応ができないために重篤となることは昨年のコ・メディカル対策の調査でも明らかであるが、最近の1例も大変だった。たまたま母体ベッドが空いていたため、産褥の出血例を助産所から受け入れた。会陰裂傷はあったが縫合されてなく、子宮からの出血とのことであった。膣内に充填された3枚のタオルを抜去したところ、会陰裂傷から連続する膣壁裂傷からの動脈性出血が原因であり、簡単な縫合で止血した。
しかし、分娩後当院の処置まで1時問以上経過していたために、大量の出血(カウントできず)の結果、重篤な貧血であった。ご本人さんの早く助産所に戻りたい希望もあり、輸血を余儀なくされた。普通の開業医で分娩していればなんともなかった症例であることは間違いないが、ご本人さんは助産所分娩にご執心であり、助産所の重大なミスに気づくことはなかった。
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