(関連目次)→妊娠したら気をつけること 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
最近、何かと話題のB型肝炎のワクチンですが、
(え?一般ではあんまり話題じゃなかったでしょうか)
B型肝炎ワクチン接種を子どもたちに受けさせています
シリアル・ポップな日々 2012-02-18
http://d.hatena.ne.jp/akizukid/20120218/1329525909?utm
実はうちの子も既に摂取済みです。
(両親共にB型肝炎キャリアではありません)
まぁホットな話題でしたので急遽o(^-^)o..。*♡
どうぞ!!!!
ちなみに最近はロタのワクチンが出たのも
関心に新しいところです。
ワクチン接種が急激に勢いづいてきましたね。
B型肝炎ワクチン
~母子感染予防(selective vaccination)から
universal vaccination へ
鳥取大学医学部周産期・小児医学准教授 長田郁夫
日本産婦人科医会報 2012年2月号 p8-9
はじめに
1985年に旧厚生省の「B型肝炎母子感染防止事業」が開始されてから母子感染による新規のB型肝炎ウイルス(HBV)キャリア数は事業開始前に比較しておよそ1/10に減少し、今後将来的にはHBV による肝疾患は撲滅されると期待されていましたが、実際にはさまざまな問題によりキャリアの発生は続いています。本稿ではHBV 母子感染予防の現況と問題点について、また最近話題となっている全小児に対するワクチン接種(universal vaccination:UV)について述べたいと思います。
問 「B型肝炎母子感染防止事業」が開始された経緯は?
答 1960年代にHBV が発見されて以降、HBV 母子感染は通常出生時に感染が成立すること、母子感染した児は長期持続感染により肝硬変、肝癌を発症し得ること、さらに抗HBs ヒト免疫グロブリン(HBIG)、B型肝炎ワクチン(HB ワクチン)により母子感染防止が可能であることが示されました。その後臨床治験を経て「B型肝炎母子感染防止事業」が公費負担として開始されました。
問 現在行われている母子感染予防対策は?
答 事業の対象は、開始当初は母子感染のリスクが高いHBe 抗原陽性母体からの出生児に限られていました。しかしその後1995年の改訂に伴って妊婦のHBe抗原、抗体の結果にかかわらず母子感染予防の対象となりました。
1)妊婦に対しHBs 抗原検査を行い、陽性であればHBe 抗原検査を行います。
2)HBs 抗原陽性妊婦からの出生児に対してはHBe抗原の結果にかかわらず出生後HBIG を投与します。
3)HBs 抗原陽性妊婦からの出生児に、生後1か月でHBs 抗原を検査します。
4)児のHBs 抗原が陰性であれば、生後2か月から予防措置を行います(生後2か月にHBIG とHB ワクチン、生後3及び5か月にHB ワクチン)。
5)生後6か月頃にHBs 抗体検査を行い予防効果を確認します(HBs 抗体検査陰性、もしくは低値の場合にはHBs 抗原検査を行い、HBs 抗原陰性者に対してHB ワクチンの追加接種を行います)。なお、HBe 抗原陰性妊婦からの出生児に関しては、生後1か月時のHBs 抗原検査、生後2か月時のHBIGは省略できます。ただし、HBe 抗原が陰性であってもHBV 量高値の場合にはHBe 抗原陽性例に準じた処置を行うことが望ましいと考えられます。なお、本邦で施行されているようなHB キャリア母体からの出生児に対して行う母子感染予防法は“selective vaccination”と呼ばれます。
問 現在の母子感染予防の問題点は?
答 現在のプロトコールは完遂すると母子感染予防に対して非常に有効ですが、数%は予防できません。またプロトコールが完遂されない症例や、母子感染以外の感染経路などの問題もあげられます。
1)胎内感染
胎内感染が成立し出生時にすでにキャリア化している場合には、予防措置を行っても予防ができません。残念ながら胎内感染を防ぐ方法はありません。
2)HB ワクチンに対する不応例(non―responder)、低反応例(low responder)
HB ワクチンを接種してもHBs 抗体価が上昇しないためにHBV キャリア化する症例や、一旦HBs 抗体が陽性化してもその後低下しキャリア化する症例があります。HB ワクチン接種後抗体上昇が不充分な症例に対しては、HB ワクチン追加接種が必要です。
3)Escape mutant
HBs 抗原領域をコードするHBs 遺伝子の変異のためにHBs 抗体で防御されないHBV はescape mutantと呼ばれ、HBV キャリア化の原因となります。
4)予防プログラムが完遂されない症例について
厚生労働省「ウイルス母子感染防止に関する研究班」(2002年)において私達が行った全国調査では、HBs母子感染の予防措置をした238施設におけるキャリア化例は41例で、この中にはHBIG やワクチン未施行例、臍帯血のHBs 抗原陽性のため胎内感染と判断された例、HB ワクチンスケジュールが大きくずれた例などの問題例がありました。また原因としては医療機関を受診されなかった症例もありましたが、医療者側の認識が不充分であった症例も見受けられました。このためHB 母子感染予防が確実に行われることを目的として2004年に日本産婦人科医会HP に「B型肝炎母子感染防止対策の周知徹底について」が掲載されました。さらに日本小児科学会雑誌2010年第1号にもHB ワクチン接種漏れによる母子感染例の発生に関する注意喚起の文書が掲載されました。
5)母子感染以外の感染経路による感染
輸血や血液製剤、医療機関内関連の血液を介する感染は献血制度の充実、ディスポーザブル製品の普及、医療安全の充実などによりこの20~30年間で激減しました。しかし近年父子感染、保育施設などの集団生活における感染、性行為感染など母子感染以外の感染対策の重要性が認識されてきています。
HBV の主な遺伝子型8種類(A~H型)のうち欧米に多い遺伝子型Aが本邦で急速に広まってきています。本邦に多い遺伝子型CのHBV は4歳以降に感染しても通常はキャリア化しませんが、遺伝子型Aでは成人に感染しても慢性化率が高いため、思春期以降のいわゆるsexual transmitted disease(STD)としてのB型肝炎感染防止対策が急務とされています。
問 世界の現状は?
答 全世界では3億人以上のHBV キャリアが存在し、年間50~70万人がHBV 関連の慢性疾患で死亡しています。WHO は1992年に全世界の出生児に対するUV を勧告しました。そしてB型肝炎は予防法の確立している重大疾患として、その後2010年を目標に各国が国民の90%にHB ワクチンの定期接種を行うよう再度勧告が出されました。HBV の陽性者率が高いアジア・アフリカ諸国や慢性化しやすい遺伝子型Aの多いヨーロッパ・アメリカでは、母子感染だけではなく水平感染も重要な感染経路であったため以前からUV が行われていましたが、2008年の時点で193か国のうち日本、北欧、オランダ、英国など10数か国ではまだUV が実施されていません。即ち、日本は世界的にもUV が施行されていない数少ない国の一つです。
問 本邦におけるUVの必要性と課題は?
答 母子感染以外の感染が増加傾向であり、母子感染予防プロトコールの不完遂
の問題から、HB ワクチン接種対象者としてはHBVキャリア妊婦からの出生児のみでは不充分で、全出生児に接種するUV 導入が急務と考えられるようになってきています。
本邦のHB ワクチンの添付文書には「生後2~3か月と初回注射の1か月後及び3か月後の2回、皮下注射する」と記載されており、HB ワクチンは生後2か月から開始されていますが、UV を導入している国々には生後数日から接種を開始する方式を採用している国も数多くみられます。早期新生児期からの開始プロトコールでは0、1、3か月と生後3か月時には3回の接種を完了できるため接種もれが少なくなることが期待されます。またこのプロトコールについては諸外国で有効性が示されており、また本邦数施設での臨床研究により良好な予防効果が得られています。これらの成績をもとに日本小児科学会では早期新生児期からの接種が可能となるよう厚生労働省に添付文書改訂の要望書を提出しています( http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_111024.pdf )。
なお現時点で生後2か月以前に接種できない状況を踏まえて、日本小児科学会では「日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール2011年11月13日版」をHP 上( http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_110427.pdf )に掲載しています。その中でB型肝炎ワクチンの接種時期については、任意接種の推奨期間として生後2、3、5~11か月の3回接種と記載されており、また乳児期に接種されていない児の水平感染予防のため、9歳以降に3回接種することが推奨されています(図2)。
事業対象以外の小児に対するHB ワクチン接種は現行では任意接種となりますが、可能な限り乳児期に3回の接種を行うことが望ましいと思われます。さらに本邦においては添付文書の改訂、接種プロトコールの検討など検討すべき事項はありますが、UV 実施に向け早急な対応が必要と考えられます。
コメント