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(投稿:by 僻地の産科医)
最近、常位胎盤早期剥離について
調べなければならないことがあり、
ちょっと調べてみました。
というのは、早剥を起こしたことがある人が、
次回早剥を起こすことが多いというのは
よく知られたことではあるのですが、
何%くらいの人が起こるのか???
という疑問があったのですが、
なかなかその数字が出なかったのです。
(結構、出ているものかなぁ?と思ったのですが)
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常位胎盤早期剥離について
ある産婦人科医のひとりごと 2006/01/24
http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/01/post_754a.html
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というわけでようやく探し出した論文は、
なんと!助産師さんの読むペリネイタルケア。
5-15%だそうで、
起こしたことがない人に比べて10倍程度だそうです。
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。。。常位胎盤早期剝離の病態と母体のリスク
。。。奈良県立医科大学産婦人科助教 佐道俊幸
。(ペリネイタルケア 2010 vol. 29(227)p27-31)
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POINT
常位胎盤早期剝離は胎盤後血腫を形成することで早期にDIC を併発し,母体死亡に至ることもある.したがって,出血や下腹部痛などの初発症状に十分に注意する必要があり,とくに危険因子を有する妊婦においては,常に本症の発症の可能性を念頭に置き,診療を行うことが重要である.
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はじめに
常位胎盤早期剝離(以下,早剝)は,妊娠中あるいは分娩経過中の胎児娩出以前に正常位置,すなわち子宮体部に付着している胎盤が,子宮壁より剝離するものをいう.早剝の発症頻度は1,000 分娩あたり,単胎妊娠で5.9 例,双胎妊娠では12.2 例と報告1)されており,日常診療で比較的よく遭遇する疾患である.周産期医療が発展した現在においても発症の予知は困難であり,さらに,いったん発症すると急速に母児の状態が悪化し,とくに児においては予後不良となることも多い.母体においても出血性ショック,DIC,多臓器不全などを呈することがあり,患者の生命の危険を伴う疾患である.
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病態と母体リスク
早剝は脱落膜細胞の変性壊死あるいは壊死血管の破綻によって生じる基底脱落膜の剝離,出血に始まり,子宮筋層との間隙に血液貯留を生じる.貯留する血液(血腫)の増加に起因して子宮内圧の上昇および子宮筋の持続的収縮が生じるとともに,血液がさらに楔状に浸潤することによって胎盤剝離が進行する.さらに,血腫の増大に伴い,子宮筋層内にも血液が浸潤し,子宮漿膜までに波及すると子宮の外観が青黒く変色してみえる.この状態を子宮胎盤溢血(couvelaire uterus)と呼び,子宮筋組織による生物学的結紮能が弱まり,子宮復古不全や弛緩出血の原因となる.
早剝では血液凝固障害としてDIC が起こりやすく,産科DIC の原因の約50%を占める.また,われわれの検討では早剝症例における産科DIC の合併率は31.8%であり,胎児死亡や発症後3 時間以上経過した症例が大部分であった(図1).
早剝でDIC が起こりやすい理由は,胎盤後血腫中の凝固活性物質が過強陣痛などによる病的な子宮内圧の上昇に伴って母体血中に流入し,全身の微少血管内において多数の微少血栓が形成されやすくなるからである.さらに胎盤後血腫内における凝固のため,凝固因子は消費性の低下を示し,これらの病的状態が相まって,血液や全身臓器に重篤な障害をもたらす.早剝に起因するDIC は急性であり,消費性の凝固障害が著しいのが特徴である.出血は内出血型(concealed type,約20%)と外出血型(revealed type,約80%)とに大別される.内出血型では子宮内圧の上昇が高度であり,また,血腫内における凝固因子の消費が著しいため,より早期に重症なDIC が起こりやすい.
早剝では大量出血による循環血液量の急激な減少やDIC により急性腎不全が起こることもある.妊娠に関連した急性腎不全の32%が早剝に起因すると報告されている2).妊娠高血圧症候群(PIH)合併症例では,もともと腎血管の攣縮が起きていることがあり,このことが増悪因子となっている可能性がある.
早剝による母体死亡率は1 ~ 2%とされている.米国における1979 ~ 1992 年の妊娠に関連した大量出血による母体死亡症例(763 例)の検討では,早剝が141 例(18%)で最も多い原因であったと報告されている3).また,わが国においては,1991 ~1992 年に起こった母体死亡症例(197 例)の検討では13 例(6.6%)が早剝かつDIC・出血性ショックによる死亡であった.さらに,これらの母体死亡症例において一般的な早剝の危険因子を有していたのは4 例のみであり,とくにPIH の合併は2 例のみであった4).すなわち,特別な危険因子を有さない妊婦が突然発症し,急速にDIC,出血性ショック,多臓器不全を呈し,死に至るのが特徴である.
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1.早剝の既往
前回の妊娠で早剝を起こした症例で次回の妊娠時に再発する確率は5 ~ 15%とされており,既往のない症例と比べると発症の危険性は約10 倍以上も高くなる5).とくに,前2 回早剝を発症した症例では,次回の妊娠時に約25%で早剝を繰り返すとされている6).また,再発の時期は前回より早期であることが多く,さらに,症状もより重症化しやすい.
2.PIH,高血圧合併妊娠
以前から,PIH や高血圧合併妊娠症例では早剝を合併しやすいことが知られている.胎盤床のらせん動脈の退行性変化に血管攣縮が加わって,胎盤の虚血状態が惹起されやすいことがその発症にかかわっていると考えられている.正常血圧の症例と比べると発症の危険性は2 ~ 4 倍高くなる.また,早剝症例の30 ~ 60%にPIH あるいは高血圧合併妊娠を合併している.PIH の重症度との関連では軽症PIHに比して重症PIH で発症率が高くなる.とくに,発症率は拡張期血圧と密接に関連しており,拡張期血圧が90 ~ 99mmHg で1.3 %,100 ~ 109mmHgで3.5 %,110 ~ 119mmHg で4.7 %,120mmHg 以上で9.5%にのぼると報告されている7).また,高血圧合併妊娠においても,軽症症例の発症率は0.7~ 1.5%であるのに対し,重症症例では5 ~ 10%にのぼり,PIH 同様に重症の高血圧を呈する症例では発症率が高いとされている.さらに,加重型妊娠高血圧腎症症例では非加重型高血圧合併妊娠症例より早剝を発症しやすい7).
3.子宮内感染症(前期破水,絨毛膜羊膜炎)
子宮内感染症例では早剝が9.7 倍発症しやすい.また,前期破水症例でも破水後48 時間未満の症例では2.4 倍であるが,48 時間以上経過し,子宮内感染の危険性が高くなると発症の危険性が9.9 倍に上昇することが知られており,早剝の発症と子宮内感染とが密接に関連していることが指摘されている8).さらに早産時期の早剝症例では組織学的絨毛膜羊膜炎が41%に観察されることが報告されている9).絨毛膜羊膜炎では,胎盤・卵膜に浸潤した好中球から放出される顆粒球エラスターゼが脱落膜細胞の接着因子(フィブロネクチンレセプターなど)を分解・不活化し,脱落膜の接着性を低下させるために胎盤が剝離しやすくなると考えられている.
4.血栓性素因(thrombophilia)
血栓性素因を有する妊婦では早剝の発症の危険性が3 ~ 7 倍になるとされている10).主な疾患には,先天性のものとして,アンチトロンビン欠乏症,プロテインS 欠乏症,プロテインC 欠乏症,活性型プロテインC 抵抗性,第V 因子Leiden,抗ホモシステイン血症などがある.後天性のものとしては抗リン脂質抗体症候群などがある.血栓性素因がどのように早剝の発症に関与しているかの詳細は現時点では解明されていない.
5.多胎,羊水過多,羊水除去
多胎における先進児娩出後,羊水過多における破水時,急速な大量の羊水除去の際には子宮内圧の急激な減少が起こり,胎盤の剝離を来しやすい.多胎や羊水過多では早剝発症の危険率が約2.0 倍に増加する10).
6.喫 煙
喫煙妊婦では早剝の発症率が非喫煙妊婦に比して1.4 ~ 1.9 倍になると報告されている.さらに,PIHや高血圧合併妊娠症例で喫煙している場合には,危険率が5 ~ 8 倍になる11).喫煙により,プロスタグランジンI 2 産生の抑制や胎盤血管の攣縮を来すことにより,早剝が発症しやすくなると考えられている.
7.外 傷
交通事故や腹部打撲などの外傷は早剝の危険因子となる.受傷直後はもちろんのこと,24 ~ 48 時間後に顕著化することもあり注意が必要である.外力により物理的に胎盤が剝がれてしまうために起こると考えられる.また,骨盤位の際に行われる外回転術でも同様に発症することがある.
8.その他
母体年齢が高い,あるいは経産回数が多い,人種差ではアジア系やラテンアメリカ系に比して,アフリカ系アメリカ人のほうがそれぞれ早剝が起こりやすい10).またコカインは胎盤血管を攣縮させる作用があり,このことにより胎盤血流が低下し,早剝が発症しやすくなる.さらに,PIH 発症予防として用いられることのある低用量アスピリン療法施行症例では早剝の発症が多かったとの報告もある12).一方,子宮筋腫全体としては早剝の発症を有意に増加させる因子とはならないが,胎盤の付着部位が子宮筋腫上であれば早剝が起こりやすいと考えられる.
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症 状
下腹部痛と出血が早剝の代表的な初発症状であるが無症状の場合もある.われわれの検討においては下腹部痛のみが41.9%,性器出血のみが23.3%,両者とも認めたのが27.9%,無症状であったのが7.0%であった(図2).典型的な自覚症状は引き裂かれるような突然の下腹部痛と外出血である.そのほかに,子宮壁の持続的硬化(板状硬),子宮の圧痛(とくに剝離部位),子宮体部の膨隆,胎動減少・消失であるが,胎盤の剝離部位や剝離の程度によって自覚症状は異なる.胎盤が後壁に付着している症例では前壁に付着しているものより腹部症状が軽度であり,腰痛を強く訴えることもある.また,すでに破水している場合には血性羊水を認める.
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おわりに
早剝は突然発症するため予知は困難であり,発症後は急速に母児の状態が悪化する.したがって,危険因子を有する妊婦においては,常に早剝発症の可能性を念頭に置き,診療を行っていくことが重要である.
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