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(投稿:by 僻地の産科医)
「陣痛に耐えきれず」覚醒剤使用容疑で女を逮捕 京都
朝日新聞 2011年12月15日
http://www.asahi.com/national/update/1215/OSK201112150002.html
なんか、結構学会で見かける演題でもあります。
珍しくないところでは「シンナー」。
これは妊婦馬尿酸を調べて反応が出ればシンナーです。
覚醒剤の反応って、
ルーティンの検査では何を使うのかな~
と思っていましたら、
「薬物中毒を検査するトライエージキットという、
尿検査のキットがありますよ~。
一通りの眠剤なども引っかけられますよ。」
と脳外科医の先生から教えていただきましたo(^-^)o..。*♡
メルクマニュアルですとこんな感じ。
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アンフェタミン:
妊娠中にアンフェタミンを使用すると、先天異常、
特に心臓の先天異常を引き起こすことがあります。
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さらっとしてますね。
論文、2本上げておきます。
覚醒剤の胎児に対する影響について
(治療 82(10): 2622-2625, 2000)
大阪大学医学部法医学教室 教授 的場梁次
科学警察研究所化学第一研究室 室長 井上博之
近来増加し続ける薬物依存者の中には妊婦も認められるようになり,妊娠中に薬物を使用していた母親から生まれてきた胎児に種々の奇形などの異常が認められることが問題となってきた.これらの薬物ではアルコールが最も多く,有名である.これは「胎児性アルコール症候群」と呼ばれる.
妊娠中の母親の飲酒が胎児に影響を及ぼすことは古くより知られていたようであるが,医学的に1つの症候群として確立したのは最近である.1968年にフランスのLemoineらが69名の慢性アルコール中毒の母親から生まれた127名の子どもの症例を発表し,1973年に米国のJonesとSmithは8人の症例について母親のアルコール摂取と子どもの奇形・知能障害との間に因果関係があることを指摘して,“Fetal Alcohol syndrome”(胎児性アルコール症候群)と命名した.わが国では1978年高島らが兄弟例を報告したのが初めである.妊婦が摂取したアルコールは,血液から容易に胎盤を通過して胎児の血液に入る.しかしアル
コールに暴露された胎児に精神発達遅延などが起こるメカニズムは十分に解明されておらず,実験的には脳神経伝達物質や酵素活性の異常などが報告されているが,必ずしも統一的な見解は得られていない1).また,近来,乳幼児の突然死のリスクファクターとして母親の喫煙が上げられており,このように種々の薬物が胎児に悪影響を及ぼすと考えられているが,その1つとしての覚醒剤も無視できなくなってきた.
すなわち,Garriottらは胎生7~8ヵ月で早産し,補助呼吸などを行ったが死亡した症例を報告し2),Stewartらは子宮内死亡,未熟,気管支肺炎が死因であった8死亡症例を報告した3).またOroらは,メタンフェタミンやコカインを使用した母親から生まれた46人の生産児は,対照群と比べて睡眠パターンが異なっており,振戦や緊張充進があり,全体に未熟で子宮内発育遅延があると報告している4).わが国においては,岩尾らは覚醒剤常用の母親より生まれた新
児が出生直後から過呼吸,過敏,易刺激性などの中枢興奮状態を呈する症例を報告している5).
これらの実際症例により,覚醒剤の胎盤通過性や催奇形性が考えられることから妊娠動物に覚醒剤を投与し,仔に対する影響を見た多数の研究報告がある.まず,覚醒剤の胎盤通過性に関しては,Burchfieldらは妊娠した羊にMAを静脈投与したところ,MAは投与後30秒で容易に胎盤を通過し,投与2時間後の胎仔臓器のMA濃度で様々な心病変が出現するが,動物種,覚醒剤の種類,投与期間,投与量などにより,その病変は変化するものと思われる.
我々もラットを用いて,人の覚醒剤の常用量に近い投与量でラット胎仔に心病変が出現するか否かを検討することを目的にし,またその心病変は肉眼的な異常よりも組織学的な異常,特に従来まで行ってきた人や成熟ラットの心臓の観察と一致するか否かを検索することを目的として,前述のFeinらの方法を参考として,実験系を組み立てた14).その結果,Feinらの報告と比べて,死亡率,奇形率ともに少なく,両者ともに2.5%であった.しかしながら1匹あたりの胎仔数は対照群14.2匹に対してMA群11.1匹と有意にMA投与群が少なく,また胎仔体重はMA投与群において対照群と比べて有意に小で,他の報告に述べられている通り,発育の遅延,障害を生じることが証明された.
次に心臓の組織学的所見であるが,対照群に比し,核の変化が目立った.MA投与群においては対照群に比し,核は大小様々であり,巨大なものや小さく萎縮あるいは凝縮するものもあり,また所謂picnoticnuclei状のものもあった.次に目立った所見は,心筋線維の粗鬆化,すなわち筋原線維の数が少ないことであった.光顕では細胞質は明るく,空胞状を呈しており,一部PAS陽性と思われるものもあった.これを電顕で見ると,しばしば電顕上でも筋原線維の数が少なく,空胞状を呈しており,グリコーゲン穎粒が認められるものもあった.また,光顕上で見られる核が大きく,細胞質の明るく見られるものは,電顕上では,細胞膜の突起を持った筋線維の認められない,所謂myoblastと同じものと考えられた(図1 病理像省略).これらのことから,MA投与により心筋の発育の遅延があることが示唆されるが,このことはFeinらの報告と一致する.
次に,しばしばMA投与したラット胎仔心筋に,ミトコンドリアの異常が見られた(図2 病理像省略).変化の主たるものはクリステの粗造化や消失であり,これは成熟ラットにMAを投与した際にも電顕的によく観察される所見であり15),このような心筋障害は,通常,虚血,低酸素症によるとされている.したがって,このミトコンドリアの異常はあるいは胎仔の酸素欠乏によるかもしれない.その他,心筋線維の融解像や壊死,過収縮,細胞浸潤なども見られたが,これらもMAによるカテコールミアンの放出や虚血による.ものかもしれない.
以上,妊婦が覚醒剤を使用することの危険性について述べてきた.本稿にて,本シリーズは終わりとなるが,覚醒剤を初めとする種々薬物依存は今後とも増加するものと考えられ,社会全体でそのような風潮を阻止することが大切である.
文献
1)玉井洋一:胎児性アルコール症候群一妊婦ラットを用いた発現機序の解明一.日本医事新報,3776:106-107,1996.
2) Garriott JC and Spruill FG :Detection of methamphetamine in a newborn infant. J Forensic Sci,18:434-436,1973.
3) Stewart JL and Meeker JE: Fetal and infant deaths associated with maternal methamphetamine abuse. J Anal Toxicol, 21:515-517, 1997.
4) Oro AS and Dixon SD:Perinatal cocaine and methamphetamine exposure. Maternal and neonatal correlates.,J Pediart, 111:571-578,1987.
5) 岩雄初雄,近藤 乾,他:覚醒剤常用の母親より生まれた新生児の1例.小児科臨床,35 : 1923-1928, 1982.
6) Burchfield DJ,Lucas VW,et al.:Disposition and Pharmacodynamics of methamphetamine in pregnant sheep. JAMA, 17:1968-1973, 1991.
7) Stek AM,Fisher BK,et al.:Maternal and fetal cardiovascular responses to methamphetamine in the pregnant sheep. Am J Obestet Gynecol, 169:888-897, 1993.
8) Kolesari GL and Kaplan S: Amphetamines reduced embryonic size and produce caudal hematomas during early chick morphogenesis. Teratology, 20 : 403-412,1979.
9) Kasirsky G and Tansy MF :Teratogenic effects of methamphetamine in mice and rabbits. Teratology,4:131-134 1971.
10) Yamarnoto Y. Yamamoto K,et al.: Effects of metharnphetamine on rat embryos cultured in vitro. Biol Neonate, 68:33-38, 1995.
11) Nora JJ, Sommerville RJ,et al.:Homologies for congenital heart diseases:Murine models, influenced by dextroamphetamine. Teratology,1:413-416,
!968.
12) Cameron RH,Kolesari GL,et al.:Pharmacology of dextroamphetamine-induced cardiovascular malformations in the chick embryo.Teratology, 27:253-259,1983.
13) Fein A,Shviro Y,et al.:Teratogenic effect of damphetamine sulphate : Histodifferentiation and electrocadiogram pattern of mouse embryonic heart.Teratology,35:27-34, 1987.
14) 的場梁次:妊娠ラットへの覚醒剤投与における胎仔心毒性の研究.平成8,9年度科学研究費補助金研究結果報告書,1998.
15) He S-Y,Matoba R,et al.:Morphological and morphometric investigation on cardiac lesions after chronic administration of methamphetamine in rats.Jpn J Legal Med,50:63-71, 1996.
母親の覚醒剤使用により生後覚醒剤中毒を呈した新生児の1例
(日本周産期・新生児医学会雑誌 42(2): 545-545, 2006. )
いわき市立総合磐城共立病院未熟児新生児科
小笠原 啓,本田義信
【はじめに】
母親の覚醒剤使用により中毒を呈した1例を経験した.過去の報告例,法的問題について検討したので報告する.
【症例】
母親は妊婦健診を受けず当院産科を受診.野卑のため緊急帝王切開施行された.出生体重2720g, Ap6/9.6時間後より下肢振戦,哺乳力低下あり.その後,嘔吐,発汗,多呼吸を認めた.母親の1週間前の覚醒剤使用が判明(尿覚醒剤反応陽性)し,覚醒剤中毒および離脱症候群が疑われ当科に入院した.深部腱反射亢進なく,血液ガス,生化学検査は異常なし.脳波,頭部エコーで異常なし.入院時尿覚醒剤反応陽性(後日判明).入院後無呼吸あったが補液にて経過観察し,多呼吸は入院後12時間で軽快し,日齢2には哺乳力良好,日齢4には無呼吸も消失した.日齢8,尿覚醒剤反応陰性化し退院した.生後4ヶ月で発達は正常である.
【考察】
現在は第3次覚醒剤濫用期で,女性の覚醒剤使用が増加し,妊娠中の覚醒剤使用の報告が増加している.過去の8例の報告では,potter症候群・口唇口蓋裂の2例の奇形を認めた.尿覚醒剤反応が陰性だった新生児の3例も自律神経への影響,関節拘縮,胎児仮死の症状を有した.尿覚醒剤反応陽性だった4例では,深部反射充進,筋緊張再進,易刺激性の中毒症状を認め,4~8日間持続し,成人より症状持続期間が長かった.母親が致死量を摂取しなければ胎児の血中濃度も上がりすぎないため,新生児の中毒症状は軽く生命予後は良好で,補液のみで症状は改善している.しかし海外の胎児死亡の報告では母親よりも胎児の血中濃度が高かったとの報告がある.症状持続期間が長いこととも合せて,胎児・新生児の覚醒剤の半減期については,注意が必要である.長期予後では年長児になってからの行動異常の報告例もあり,妊娠中の覚醒剤使用があった場合,新生児の症状の有無にかかわらず長期的なフォローが必要であると考えられた.覚醒剤使用の場合,警察への届け出義務は無く,警察に届けた場合,医師の守秘義務違反の恐れがあるとされてきた.しかし,平成17年の最高裁判決で,『医師が治療の目的で尿を採取し,承諾無しで薬物検査を行っても違法では無い.必要な治療,検査の過程で,違法な薬物の成分を検出した場合,捜査機関に通報することは正当行為として許容され,医師の守秘義務に違反しない』(一部略)との判決が出され,その意義は大きい.
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