(関連目次)→大淀事件
(投稿:by 僻地の産科医)
大淀事件!判決内容概要です!
たまりょさま、三上さま、うろうろドクターさま、詳細ありがとうございました。
ばみゅさまもきっと喜ばれます(>▽<)!!!
みんな待ってたから。
ばあばさまのコメントどおり、一人医長の問題点、
産婦人科医の勤労状況についても触れられており、
③因果関係
このようにM医師に過失を認めることはできない。
しかし、M医師らがもっとも適切な処置を取れたと仮定して、因果関係を検討する。
・0:14頃に、脳内出血の診断は無理なので、経過観察としたことは相応。
・心因性意識消失は30分以内なので、0:14頃から30分経過した時点で再び診察し、意識が戻っていないことから、脳に何らかの異常が生じていると判断し、速やかに搬送先を探し始めるというのが、大淀病院が取りえた最善の措置である。
・0:14から30分余後の0:50頃に搬送先を探し始めたと仮定すると、ここから先は、全く仮定の話であるが、M医師は奈良県立医大に電話したと思われる。
・さらに、奈良県立医大にその時点で、たまたま受け入れ可能であったと仮定する。
その場合直ちに搬送準備を始めても、搬送には30分程度はかかり、救急車の出動要請もあるので、奈良県立医大到着は1:30頃になると考えられる。
・人的物的設備が整った国循でも手術開始まで2時間かかっているのだから、奈良県立医大でもこの程度の準備時間は必要で、手術開始は3:30頃になったと考えられる.
・しかし、M香さんの病態の進行は急激であり、2:00頃から数十分以内に開頭手術を行わないと救命は不可能だったのだから、3:30に緊急OPをしても救命の可能性はきわめて低いと考えられる。
したがって、M医師らによって想定できる最善のことをしても、M香さんの救命はできなかったといえる。
の部分が本件のキモであり、
控訴を行うとしてもかなり原告側にとって難しい判決文だと思われます。
お決まりの日々 2010.03/01
大淀町裁判に行ってきました (←2だけでもみてね!)
(その1)http://okimari.blog26.fc2.com/blog-entry-2985.html
(その2)http://okimari.blog26.fc2.com/blog-entry-2986.html
判決要旨のつもり
日々のたわごと・医療問題資料館 2010.03.01
http://symposium.b-r.under.jp/?eid=1328894
なお、医学鑑定閲覧結果をこちらに掲載させていただきます。
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平成19年 ワ 第5886号 資料閲覧
■2009年以降の経過
3/11~3/31 産婦人科、脳神経外科の鑑定結果報告
4/21、6/9、7/28 鑑定結果に対する再質問事項など?(非公開)
10/14 弁論準備手続き(非公開)
■鑑定人
産婦人科鑑定人 平松祐司氏 (岡山大)
脳神経外科鑑定人 斉藤勇氏 (杏林大)
■証拠資料
(前回、三上様http://symposium.b-r.under.jp/?eid=1157978#sequel確認以降の追加分)
・乙B-31 日本経済新聞 2008/10/25(土) コラム「蘇れ医療」
墨東病院の脳内出血を起こした妊婦の死亡を受けて、医師不足についてコメント
・乙B-32 Nikkei Medical Online 2009/3/23
日本脳卒中学会による脳卒中治療ガイドライン改訂について
・乙B-33 Minds 2003/4/?
Evidenceに基づく日本人脳出血患者の治療ガイドライン策定より「研究組織」および「5. 高血圧以外の原因による脳出血の治療」
・乙B-34 研修ノートNo.82 2009/5/?
「分娩周辺期の救急医療」(日本産婦人科医師会)分娩周辺期緊急対応の臨床水準血圧、意識消失、痙攣、頭痛の対応子癇の対応、治療法と、CTを行うべきケースについて
・診断と治療を並行して進める。鑑別診断にこだわって対応が遅れてはいけない
・治療的診断は子癇発作に対する処置から行う。治療に抵抗して発作が続く場合、他の可能性を考える
既往歴がない患者で、頻度が高く重篤な場合、脳血管障害を考える
脳血管障害を考えるべき(CTを行うべき)ケース
・血圧が正常または低い
・妊娠20週以前、または、分娩から48時間後
・前駆症状がない
・極めて強い頭痛がある
・持続する神経学的局所症状がある
・神経症状に左右差がある
・神経症状が継続的に増悪する
・発作後に発熱がある
・治療にかかわらず発作が反復する
■鑑定依頼
・産婦人科医師および脳神経外科医師、各1名に、これまでの証拠資料と共に質問事項を送付
・脳神経外科鑑定人には、本人の希望でCT画像8枚、レントゲン写真2枚を追加送付
産婦人科質問事項
1.AM1:37の発作は子癇と言えるか?
2.AM0:14の意識消失からAM1:37の発作まで経過観察を継続したことは不適切であったか?
3.AM1:37に子癇と判断したのは不適切であったか?
4.奈良県の周産期母胎搬送システムによって搬送依頼を行ったのは不適切であったか?
5.2~4が「不適切」であった場合、
①被告医師はどのような対応をすればよかったか?
②①の対応をした場合、8/16の患者死亡を避けられたか?またその可能性はどの程度か?
脳神経外科質問事項
1.
①脳内出血の発生はいつか?
②脳内出血発生後の経過、出血部位、出血の多寡とその推移は?
2.国循にてCT実施時および開頭血腫除去術時の脳内病変はどのようであったか?
3.脳内出血原因は何か?(子癇の合併によるものか?)
4.AM1:37に子癇と判断したのは不適切であったか?
5.CTを実施しなかったのは不適切であったか?
ただし、当時CTを実施するには、30~50分かかったと考えられる
6.脳内出血と診断していた場合、産婦人科や新生児科がない施設でも患者を受け入れられるといえるか?
ただし、子癇の診断はないとする
7.いつ手術を行っていれば8/16の死亡が避けられたと言えるか?またその可能性はどの程度か?
8.7.で死亡が避けられた場合、後遺障害が残った可能性およびその重篤度はどの程度か?
■産婦人科医の鑑定結果
1.AM1:37の発作は子癇と言えるか?
[回答] 痙攣と脳内出血があったのは事実だが、この発作が子癇なのか脳内出血によるものか判断するのは困難。また、脳内出血の発生時期は、頭痛や意識消失があった時点の可能性が高いが、これも正確に推定するのは困難。
[理由] 日本産婦人科学会でも子癇の定義が変更されている(註書の削除)ように、子癇と脳内出血の症状は類似しており、今でも診断について多くの意見がある。本件では「子癇に伴って脳内出血が発生」または「脳内出血の前駆症状としての痙攣」という可能性が考えられるが、どちらか特定できない。
鑑定人は職務上、子癇を数多く経験している。自験例では、直前(分娩前最終の妊婦検診時)に高血圧症候群がなくても、急激に症状が悪化した場合に子癇が発生している。この時血圧の監視が重要となる。脳内出血を伴う例もある。通常、妊婦検診時に高血圧症状がなければ脳内出血と判断する。しかし、その場合でも直前に血圧が急激に上昇するケースが多く、これを子癇による高血圧ととらえ、子癇に伴う脳内出血と見なすことも可能である。
脳内出血の発生時期については、他の医師(国循の2医師)が指摘するとおり、頭痛や意識消失があった時点の可能性が高いが、その前後のCTやMRIの結果がないため、正確には推定できない。
2.AM0:14の意識消失からAM1:37の発作まで経過観察を継続したことは不適切であったか?
[回答] 不適切とは言えない。
[理由] AM0:14の時点で被告医師自身が診察している。また、自分一人ではなく内科医にも診察を依頼しており、内科医が心因性の意識消失と診断している。CTは医師が何らかの疑いをもったときに実施するものであり、失神の診断であれば検査しない。本件では全身所見をとった上で経過観察が相当と判断しており、不適切とは言えない。
また、当時CTを行うのに40~50分かかると考えると、CTで脳内出血を診断できたとしても、搬送、手術が間に合ったかは微妙である。体を動かすことで、新たな痙攣を誘発する可能性もある。脳内出血が発見されても、産婦人科医と脳外科医両方が揃っていなければ予後の改善は難しい。
3.AM1:37に子癇と判断したのは不適切であったか?
[回答] 不適切とは言えない。しかし、AM2:00の瞳孔散大時には、脳血管障害も考慮すべきであった。
[理由] 産婦人科においては、痙攣や意識消失がある場合にまず子癇と判断するのは教科書にもあるとおり。子癇は頻度が低い疾患で、遭遇したことのない産婦人科医師も多い。被告医師も当時6000例の分娩経験がある中で、子癇は2~3例、また脳内出血の経験は0件。愛知県全体の2005年~2007年でも、全分娩数130,823件中、子癇は54件の0.041%、脳内出血は9件でわずか0.0069%。したがって、AM1:37の痙攣発生時点で、まず子癇と判断するのは不適切とは言えない。
瞳孔散大時には脳を考慮すべきであったし、内科医も脳内出血を考慮していたように思われる。ただし、CTをすべきかどうかは、患者を動かしてよいかどうかによるし、それで生命予後の改善を期待できたかどうかも関係する。
4.奈良県の周産期母胎搬送システムによって搬送依頼を行ったのは不適切であったか?
[回答] 不適切とは言えない。
[理由] 本システムは、奈良県で妊産婦をより迅速に搬送するために長年かかって構築されたものである。このシステムが正しく機能するには全員がルールを守るのが必須であり、各個人が逸脱して独自に搬送依頼を行えば、システムが混乱し結果的に他の全患者の不利益となる。被告医師もそれを認識して、本システムによる搬送依頼を行ったと思われる。結局、家族の再三の要望により、個人的に他施設に電話依頼しているが、それでも見つからなかったことに産科医療の現状が現れている。
5.2~4が「不適切」であった場合、
①被告医師はどのような対応をすればよかったか?
②①の対応をした場合、8/16の患者死亡を避けられたか?またその可能性はどの程度か?
[回答] 2~4が「適切」としているので回答はないが、本件に関連して私感を述べる。
本件は、産科、脳神経外科および麻酔科の完備された病院で、意識消失または痙攣直後にCTないしMRIがとれる時間帯にあり、かつ各科の医師の手と手術室が空いていない限り救命はできない、またはそれだけの条件が揃っていても救命できたかどうか不明なケースである。
鑑定人は経験上、周産期の痙攣、意識消失には以下の対応を推奨、啓発している。
(1)痙攣を鎮静する、(2) 気道および血管を確保する、(3) できるだけ早急にCT、MRIを行う
しかし、CT中に再痙攣を起こすこともあり、各科設備の整わない施設では、気道と血管を確保して救命を行った上で速やかに搬送することが望ましい。本件で被告医師は、子癇と診断した上で救命処置を行い、その後も搬送先を見つけるべく努力しており、対応は適切であったと考える。
■脳神経外科医の鑑定結果
まず、全体像を述べる。
本件は、8/8AM0:00の頭痛からAM2:00の瞳孔散大までに脳内病変が急速に進行したものである。CTによる脳内診断をAM0:00に直ちに開始したとしても、AM1:37の脳ヘルニアに伴う除脳硬直までの1時間30分間に診断から脳手術のできる施設への移送を行い、さらに手術を完了しなければ救命できない症例であった。現実的にはこのような対応は不可能であるので、本件で救命は不可能であったといえる。
1.
①脳内出血の発生はいつか?
[回答] AM0:00。
[理由]
・1)突然の、(2)激しい頭痛で、(3)嘔吐を伴い、(4)右側局所的であることから。
・症状に乏しいので、頭痛を初発と考える。
・少量の出血では時期の特定は困難。
・8/7PM17:20の嘔吐については、I助産師の記録に「分娩の約3割で吐き気や嘔吐が見られる」とあるので、脳内出血には関係ないと考えられる。
・PM23:00には「もう帰りたい」と話しており、意識障害がないことを示す。
②脳内出血発生後の経過、出血部位、出血の多寡とその推移は?
[回答] <時間切れで未確認>
2.国循にてCT実施時および開頭血腫除去術時の脳内病変はどのようであったか?
[回答] <時間切れで未確認>
3.脳内出血原因は何か?(子癇の合併によるものか?)
[回答] 不明。
[理由] <内容ちょっと自信ありません>
・高血圧生の可能性は低い。
・「血管が多い」の記述より、血管異常の可能性はある
・モヤモヤ病の可能性がある
4.AM1:37に子癇と判断したのは不適切であったか?
[回答] 不適切とは言えない。
[理由]
・マグネゾールが効いた。
・子癇の経過を教科書的に把握した限りで言うと、次のようにみなせば子癇の経過と合致する。
(1)頭痛、嘔吐を前駆症状とし
(2)第1期痙攣は見られないが
(3)AM1:37の発作を第2期痙攣
(4)その後の意識障害を第4期
・ただし、
(1)血圧が直前まで正常であったこと
(2)意識障害が遷延していること
を考えると、AM1:37から意識障害の遷延までの間に脳内病変を疑うことも可能であった。
5.CTを実施しなかったのは不適切であったか?
ただし、当時CTを実施するには、30~50分かかったと考えられる。
[回答]不適切とは言えない。
[理由]
・CTをとる時間のロスをなくし、迅速に移送することを優先させている。
・ただし、AM0:00の突然の激しい頭痛からAM0:14の意識消失までの経過は、単なる失神やヒステリーとは異なる。さらに、AM0:30まで意識消失が遷延しており、これは昏睡に近いと考えられる。この間に脳内病変を疑いCTをとるチャンスはあったと考える。
6.脳内出血と診断していた場合、産婦人科や新生児科がない施設でも患者を受け入れられるといえるか?
ただし、子癇の診断はないとする
[回答] 回答なし。
7.いつ手術を行っていれば8/16の死亡が避けられたと言えるか?またその可能性はどの程度か?
[回答] AM1:37までに脳外科の手術を完了できた場合であるが、現実にはそのような対応は不可能なので、死亡を避けることは不可能であったと言える。
8.7.で死亡が避けられた場合、後遺障害が残った可能性およびその重篤度はどの程度か?
[回答] 回答なし
■追加質問
・ほとんど読むことはできませんでした。
・「脳ヘルニア完成時期の認識ついて記述に矛盾が見られる」といった鑑定結果の事実認識から、救命可能性に関わる結果の評価まで、いろいろあったように思います。
・6月の日付で「鑑定人に送付済み」とあるだけで、それに対する回答は見つかりませんでした。
【参考ブログ】
<番外エントリー>大淀病院判決報道に思うこと
日々是よろずER診療 2010-03-04
http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20100304
トラックバックありがとうございました。
一つ気になったところですが、
>控訴を行うとしてもかなり被告側にとって難しい判決文だと思われます
被告側→原告側ではないでしょうか?
投稿情報: 三上藤花 | 2010年3 月 1日 (月) 23:18
あ、間違えてます!ご指摘ありがとうございます(>▽<)!!!
というより疲れたでしょう?大丈夫ですか?
無理なさらずに。本当にわかりやすい判決文ありがとうございました。間に合わなくてあきらめたのですが、(結局)抽選ではなかったのですね。初めての日みたいな結末でしたね。
次回、がないことを祈って!
(普通に再開して飲みましょう!)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2010年3 月 1日 (月) 23:24
トラックバックありがとうございました。いつも拝見しております。
判決は妥当この上ないですが、誰も報われないのが医療裁判の現実という気がします。
どうかお体に気を付けてお仕事なさってください。
投稿情報: ASK | 2010年3 月 2日 (火) 15:52
患者さまのご冥福をお祈りいたします。また、原告お子様の健やかなる発育もお祈りしております。
いろいろな意味で悲しい事件でした。次がないことを私も祈りますが、実際には同様の疾患は充分発生しえますから、気持ちは重くなる一方です。
投稿情報: REX | 2010年3 月 2日 (火) 23:29
TBありがとうございました。これからもよろしくおねがいします。
投稿情報: 3番目の落書き | 2010年3 月 3日 (水) 03:35
<奈良の妊婦死亡>遺族が控訴断念
3月15日19時56分配信 毎日新聞
奈良県大淀町立大淀病院で06年8月、同県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、19病院に受け入れを断られた末に死亡した問題を巡る訴訟で、遺族側は15日、町と産科医に求めた賠償請求を棄却した今月1日の大阪地裁判決について、控訴しないことを決めた。
大阪地裁判決などによると、分娩のため大淀病院に入院していた実香さんは、06年8月8日午前0時ごろ頭痛を訴え、間もなく意識不明となった。19病院に受け入れを断られ、午前5時47分、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)へ搬送。実香さんは長男奏太ちゃん(3)を出産したが、同月16日に死亡した。判決は「救命の可能性は極めて低かった」などとして、遺族側の請求を退けた。
投稿情報: tadano-ry | 2010年3 月16日 (火) 07:12