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(投稿:by 僻地の産科医)
産科施設の3割以上から悲鳴,
出産育児一時金制度変更で
開業医の1割が廃業も考慮
小島 領平
MTpro 2009年9月10日
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0909/090930.html
日本産婦人科医会は昨日(9月9日),都内で開かれた記者会見で,今年(2009年)10月から制度が変更される出産育児一時金について説明した。今回の変更によって,被保険者への支給額が4万円増額されるだけでなく,支給方法も医療機関への直接支払が可能となる。2011年3月末までの暫定措置だが,少子化対策の1つとして関係者が寄せる期待も大きい。ところが,この制度変更によって産科施設から悲鳴が上がっている。直接支払によって入金に1か月半〜2か月のタイムラグが生じ,今年11月以降,一時的に運転資金が不足するためだ。同医会常務理事の加納武夫氏によると,愛知県内にある産科施設の35%が直接払い導入に当たって「融資の必要あり」と回答しており,開業医の1割以上が廃業も考慮している状態だという。
「産み逃げ」防止に期待
現行の出産育児一時金は,支給額が原則38万円※1で,支給方法は被保険者が出産にかかる費用を医療機関に支払い,各医療保険者に申請して受け取る。また,出産育児一時金の受け取りを医療機関に委任する受取代理制度もあるが,国民健康保険(国保)の場合,(1)役所の国民健康保険課で申請書を受け取って記入し,病院で医療機関同意欄に記入してもらう,(2)申請書と妊娠月数の証明書を添えて提出,(3)出産後,一時金支給申請書と病院の振り込み口座番号を添えて提出—と被保険者の手続きが煩雑だ。さらに,被保険者が一時的に多額の現金を用意する必要があり,すべての医療機関が取り扱っていない,保険料未払いおよび滞納者は受給できない,分娩費積算の内訳が不明瞭などの問題点があったことから,暫定措置ながら今回の制度変更が行われることとなった。
これにより,支給額が原則42万円※2に引き上げられ,支給方法も医療機関への直接支払いが可能となる。出産者が費用を未払いのまま去ってしまう「産み逃げ」の防止が期待できるため,医療機関側にとっても意義のある制度変更だろう。なお,増額する4万円の財源は地方交付税措置が1万3,000円強,保険料が7,000円弱,国庫補助が2万円。支給方法は,従来の退院後請求も選択可能で,出産費用が42万円未満の場合,差額分は被保険者が保険者に請求することになる(直接支払い制度の内容は当日配布資料参照)。
同医会会長の寺尾俊彦氏は「現在の世界一を誇る産科レベルを保つには,多くの分娩を行うことが必要。しかし,出産費用が余りにも低いため,開業医が次々と分娩を取りやめている」と産科医療崩壊の現状を訴え,今回の制度変更が医療崩壊や少子化,さらに「産み逃げ」を防止することに期待を寄せている。
33施設中23施設が2,000万円以上の融資希望
しかし,直接支払いに変わることで,これまで被保険者から退院時に支払われていた出産費用を,医療機関が請求しなければならない。具体的には,1か月分の請求を翌10日までに審査支払機関である国民保険団体連合会(国保連)へ提出し,国保連が医療保険者に請求,医療保険者が請求額を確認したうえで,国保連を介して医療機関に入金される。この期間が約1か月半。異常分娩の場合は約2か月かかるため,医療機関はその間の運転資金が不足することになる(当日配布資料参照)。
加納氏らが愛知県内の93産科施設に融資の必要性を聞いたところ,「必要なし」が4割を超えた(41施設)ものの,「必要あり」も3割以上(33施設)にのぼり,残り3割(29施設)も「わからない(予測不能)」と回答。さらに,「必要あり」と答えた33施設中23施設が2,000万円の融資を必要としていた。
同氏は「1か月に50件の分娩があるとしたら,2か月で100件,4,000万円程度の運転資金が一時的に入らなくなる。有床診療所では半数以上が融資が必要と回答し,1割強の医療機関が(廃業も考慮するほどの)“お手上げ”状態。特に12月はボーナスがあるため,大変厳しい状態だ」とし,こうした医療施設に対して福祉医療機構からの融資(当日配布資料参照)を呼びかけている。
「出産育児一時金直接支払い制度」で緊急要望
「日本のお産を守る会」が署名活動を開始、
長妻大臣に提出へ
橋本 佳子
m3.com 2009年9月17日
http://www.m3.com/iryoIshin/article/107858/
約40人の産婦人科医で組織する「日本のお産を守る会」が、この10月からスタートする、「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」について緊急要望を公表、9月16日の長妻昭・厚生労働大臣の就任決定直後から署名活動を開始した。現時点では9月25日までに集め、翌26日に長妻昭・厚生労働大臣に提出する予定。
出産一時金等は従来、出産した妊婦が医療機関にまず支払い、その後に保険者から妊婦(被保険者)に費用が支給される仕組みだった(制度の概要は厚労省のホームページを参照)。新制度により、医療機関が、通常の診療報酬請求と同様に、国保連等に一時金等の請求を行う仕組みに代わる。対象となるのは、10月1日以降の分娩。その最初の支払いは12月5日ごろになるため、一時金に相当する収入の入金が1-2カ月遅れる。その結果、資金繰りに支障を来す医療機関が出てくる恐れがある。
「日本のお産を守る会」代表の田中クリニック(京都市右京区)院長の田中啓一氏は、「分娩一時金が4万円アップするという情報は昨年来から伝わっていたが、われわれが詳細な事務手続きの流れを知ったのは、8月に入ってからのこと。医療機関の負担がこれほど大きいとは思わなかった。2カ月の運転資金の準備が必要になるが、それを手当てできる医療機関はほとんどない」と問題視する。
厚労省保険局総務課は、「新制度に関する通知を今年5月末に出している」としており、「今のところ、10月1日からの開始について変更の予定はなく、融資についても福祉医療機構以外には考えていない」(同課)。独立行政法人福祉医療機構が、年1.6%での低利融資などを実施している。
なお、この問題では、全国保険医団体連合会も9月15日に対応を求める要望書を厚労省に提出するなど、制度運用の改善を求める声が上がっている。
※要望書はこちら(PDF:32KB)。
署名の送付は、田中クリニック(FAX:075-873-2926)まで。
【日本のお産を守る会の要望事項】
1.出産育児一時金の可及的すみやかな入金処理を要望します(せめて産後1週間までに)
2.現行の事前申請による代理受取制度の存続を要望します(妊産婦にとって直接支払制度と同等の利便がありますが、今回廃止されようとしています)
3.直接支払制度に伴う事務手続きの簡素化を要望します。
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