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(投稿:by 僻地の産科医)
消化管出血患者 週末入院で死亡率が上昇
Medical Tribune 2009年5月21日(VOL.42 NO.21) p.01
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=0&order=1&page=0&id=M42210011&year=2009
〔米メリーランド州ベセズダ〕週末に入院した患者に提供される医療の質が平日に入院した患者に比べて低いことは以前から指摘されていたが,今回新たに消化管出血においてこの問題を検討した新しい研究2件の結果がClinical Gastroenterology and Hepatology に発表された。1件目(2009; 7: 296-302)は,ウィスコンシン医科大学(ウィスコンシン州ミルウォーキー)のAshwin N. Ananthakrishnan博士らによる,急性静脈瘤出血(AVH)と非静脈瘤性上部消化管出血(NVUGIH)による入院患者を対象とした横断研究の結果で,2件目(2009; 7: 303-310)は,カルガリー大学(カナダ・カルガリー)のRobert P. Myers博士らが米国の上部消化管出血(UGIB)入院患者のデータを解析した結果である。いずれの研究でもなんらかの"週末による弊害"が認められた。
教育機関と他の病院による差も
週末入院と死亡率上昇との相関を示した医療調査の結果は増えており,このような"週末による弊害"は週末には病院の職員が少ないこと,特定の集中治療や手技が実施できないことなどに起因するとされてきた。今回の知見は,週末による弊害に対する理解をさらに深めるものである。
1件目の筆頭研究者であるAnanthakrishnan博士らは,米国最大規模の入院患者データベースであるNationwide Inpatient Sampleの2004年版から,国際疾患分類第9版,臨床修正版(ICD-9-CM)のコードをもとにAVH患者とNVUGIH患者の退院記録それぞれ2万8,820件と39万1,119件を同定し,週末による弊害を解析した。さらに同博士らは,入院先の病院が教育病院でないということが週末による弊害に影響するか否かを調べる横断研究も行った。週末入院は金曜日の深夜から日曜日の深夜までの入院とみなし,教育病院は,米国医師会認定の研修医プログラムを行っているか,教育病院評議会の会員,もしくは患者に対する常勤インターンと研修医の比率が25%以上の病院とした。
解析の結果,週末に入院したNVUGIH患者は,平日入院患者と比べて死亡率が高く,早期内視鏡の施行率が低いことが明らかになった。すなわち,週末に入院したNVUGIH患者では,交絡因子調整後の院内死亡リスクが平日入院患者と比べて21%高く,入院143件当たり1件の割合で死亡数が増加した。また,入院から1日以内の早期内視鏡施行に対するオッズ比(OR)は0.64であった。一方,AVH患者では,死亡率は週末入院患者と平日入院患者で同等であったが,教育病院以外の病院に入院した場合,週末入院患者のほうが早期の内視鏡施行率が低かった。
また,早期内視鏡施行と入院期間の短縮(NVUGIH:−1.08日,AVH:−2.35日)と入院治療費(NVUGIH:−1,958ドル,AVH:−8,870ドル)との間に有意な相関が認められた。
同博士は「週末と平日の入院でアウトカムに差があることは以前の研究でも示されていたが,消化管出血患者に焦点を合わせた解析は限られていた。しかし,消化管出血は緊急入院のなかでも重症化と死亡につながることが多い。今回の知見で最も重要なのは,週末に入院したNVUGIH患者の死亡率が平日に入院した同患者に比べて高いことで,このことは週末による弊害の原因を同定する研究と適切な介入を進めていく必要性を強調している」と述べている。
急性NVUGIHはUGIHの過半数を占めている。AVHは肝硬変と門脈圧亢進症に起因することが多く,頻度の高い消化管出血である。
潰瘍性出血でも死亡率上昇
一方,2件目の筆頭研究者であるMyers博士らは,週末に入院した消化性潰瘍関連の出血患者は,平日に入院した同患者に比べて,死亡率と手術施行率が高いことを報告している。また,内視鏡施行までの時間も長かったが,そのことと週末による弊害が原因で起こる死亡に関連は認められなかった。
同博士らは,1993〜2005年のNationwide Inpatient Sampleから消化性潰瘍によるUGIB入院患者データを抽出し,週末入院患者と平日入院患者の院内死亡率の差を,患者背景と上部消化管内視鏡の施行時期などの臨床因子を調整したロジスティック回帰モデルを用いて解析した。
1993〜2005年に,消化性潰瘍によるUGIB入院は3,166施設で23万7,412件確認された。週末入院群では平日入院群と比べて死亡率(3.4%対3.0%)と手術介入率(3.4%対3.1%)が上昇し,入院期間の延長と治療費の増加が認められた。週末入院群は平日入院群と比べて若干重症度が高い傾向にあったが(緊急入院が多い,血液凝固疾患を有するなど),こうした交絡因子を調整後も引き続きこれらの差は認められた。
入院期間も長い
週末入院群では平日入院群に比べ内視鏡施行までの平均時間が長く(2.21±0.01日対2.06±0.01日),入院当日の内視鏡施行率が低かった(30%対34%)。内視鏡施行までの時間を調整後もなお,週末入院は死亡リスク増大の独立した予測因子であった。
Myers博士は「死亡率と手術介入率の上昇に加えて,週末入院患者では平日入院患者と比べて入院治療費が高く,入院期間も延長していることがわかった。UGIBは臨床現場と医療経済にとって大きな負担で,今後の研究でこうした影響を緩和しうる代替プロセスを検討していくことが重要である」と述べている。
UGIBの年間有病率は10万人当たり約170件で,医療費は約7億5,000万ドルと推計されている。UGIB全体の50〜70%が消化性潰瘍に起因する。
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