(関連目次)→医療事故安全調査委員会 厚労省の問題点 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
昨日、大綱案についてのシンポジウムがあったようです。
私の知っている限り、大綱案に賛成の議員さんも
入っていたシンポだったのですが、(例えば古川議員)
聴きにいかれた先生のお話によると
「これらの原稿は十分だし付け加えも訂正もすることがない」
という感じだったようですo(^-^)o ..。*♡
厚生労働省が昨年6月に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」のまま制度を創設することへの賛成意見もなかった。という望外の内容でした。
うろうろドクター
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/29224778.html
ずっとインフルエンザの情報収集に忙しく、
あまり医療政策方面の記述をしている暇がなかった
(これでも忙しいのですw
情報集めは大変だし、普通の勤め人、当直もしてますし。
家は荒れ放題だし(←気にはなってるけど。。。あうーん)
掃除しなくても人は死なないけど、不衛生は良くないにゃん(;;)。)
ので、ここで一気に書いてしまいますと、
日本医学会が5月15日までに意見の提出を各学会に求めています。
まだ大綱案は一年経っても、案として有効みたいで、
一度否定されたものに再度意見提出もとめてどうするんだ?
と思うのですが、なんか産婦人科の提出案は酷いもののようですね。。。。
下に日本医学会の文書を一部(表のとことかがスキャンできてない)
だしてみます。
混迷する”医療事故調”の行方
「ここにいる国会議員は誰も厚労省案に賛成せず」
主要6政党の国会議員が参加、患者団体主催でシンポジウム開催
橋本佳子編集長
m3.com 2009年5月13日
http://www.m3.com/iryoIshin/article/97989/
「明らかなのは、誰も厚労省案に賛成していないこと」
5月12日、「国会議員シンポジウム 医療版事故調~国会での十分な審議と早期設立を求めて~」(主催:患者の視点で医療安全を考える連絡協議会)が東京都内で開催され、民主党参議院議員の足立信也氏はこう指摘した。同シンポジウムは二部構成で、前半が6人の国会議員のプレゼンテーション、後半がフロアとの質疑応答だったが、足立氏の発言は後半部分の冒頭に、前半部分を総括して行われたものだ。足立氏の発言に対し、6人の議員は誰も異議を唱えなかった。
出席した6人は下記の通りで、いずれも医師免許を持つ議員だ。
自民党参議院議員:古川俊治氏
公明党衆議院議員:福島豊氏
民主党参議院議員:足立信也氏
日本共産党参議院議員:小池昇氏
社会民主党衆議院議員:阿部知子氏
国民新党参議院議員:自見庄三郎氏
「厚労省」案とは、2008年4月に厚生労働省がまとめた「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」。同省は同年6月に、この第三次試案のうち法案化が必要な部分を「大綱案」としてまとめている。両案ともいまだにパブリックコメントの募集を継続している状態であり、昨年末から今年初めにかけて全国各地で地方説明会が開催されたが、議論は進展していない。
この日のシンポジウムは、そのタイトルが示す通り、こうした膠着状態から脱却し、“医療事故調”の早期実現を求める患者側団体が主催したものだが、法案審議の当事者、つまり国会議員の間で厚労省案への賛同が得られていないことが露呈した。
2時間半強にわたったシンポジウムでも、議論が尽くせなかった部分が多々あるが、
(1)医療事故を調査する何らかの仕組みの必要性は関係者(国会議員、医療者、患者ともに)の共通認識である
(2)厚労省案は刑事処分と連動する仕組みになっているが、“医療事故調”(医療安全調査委員会)から捜査機関に通知する範囲は限定的、あるいは刑事処分と連動しない仕組みにすべき、と出席した国会議員は考えている
(3)医療事故の原因究明・再発防止以上に、患者側が第一に“医療事故調”に期待するのは「説明責任」を果たすことである――といった点が浮き彫りになったことは大きな収穫だろう。
シンポジウムには主要政党から6人の国会議員が参加。午後6時から午後8時半すぎまで議論が続いた。
厚労省案への反対理由の一つが「刑事手続との連動」
各議員が厚労省案に反対する理由は一律ではない。ただ、多くの議員に共通しているのは前述の(2)のように、“医療事故調”が刑事処分と連動する仕組みであることを問題視している点だ。
公明党の福島氏は、福島県立大野病院事件を例に上げ、「警察はどう判断したのか、どんな医療行為が業務上過失致死罪に当たるのか、この点について医療現場は不信感を持っているのだろう。医療安全が第一なら、そこに力点を置いて、刑事処分とは切り離してスタートする。その後、刑事処分のあり方を考えるという二段階で進めてはどうか」と提案。
社民党の阿部氏も、「医師個人の責任追及が、“医療事故調”の目的ではない。また、医療現場が組織防衛的である以上、刑事処分、行政処分が連動すると真実が集まらなくなる恐れがあり、明確に切り離すべき」と指摘した。
一方で、自民党の古川氏は、「医療への刑事介入を防ぐためには、何らかの関連付けが必要」としたものの、どんな事例を通知するかについては言及しなかった。
患者が第一に求めるのは「医療機関が隠蔽体質を改めること」
フロアからの患者側からの主な発言をまとめると以下のようになる。
◆勝村久司氏(医療情報の公開・開示を求める市民の会・世話人、中央社会保険医療協議会委員)
医療裁判の原告たちは、コミュニケーションをしたくても(医療機関で)門前払いをされている。医療裁判では事実経過を争っている。事実がなかなかよく分からない。それは非常に嘆かわしいと思っている。何があったのか本当のことを言ってほしい。
医療事故を隠してきた医療者の体質を改めることが、“医療事故調”の最大の目的ではないか。これがすべてのスタートであり、問題の解決につながる。こうしたシステムを作ることができないのか。
多くの医師は一生賢明にやっている。しかし、そうでない医師もいる。すべての医師を守るのではなく、ダメな医師はダメだとするシステムを作ることが、一生懸命やっている医師を守ることになるのではないか。
◆前田氏(医療過誤原告の会・会員)
WHO(世界保健機関)の医療安全のガイドラインは、レポーティング(報告)システムではないのか。“医療事故調”はレポーティングシステムなのか。医療安全のためには、ヒヤリ・ハット事例などのレポーティングシステム(非公開で、個人を罰するシステムであってはけない)でいいが、それ以外に医師がプロフェショナルとして、説明責任を課すシステムを作るべきではないのか。
◆砂田氏(医療事故市民オンブズマン・会員)
医療者は、厚労省案において、“医療事故調”が捜査機関に通知するシステムになっていることを問題視している。それであれば“医療事故調”は報告書を作る。それを警察に出すかどうかは医療機関、あるいは被害者・遺族に任せるのはどうか。被害者・遺族は納得がいかない場合にも、この機関を利用するだろう(厚労省案は、“医療事故調”に届け出る対象を客観的に規定することを目指しているが、主観的な届け出もあるべき、という意味)。医療事故の事案の原因究明は、データセンターなどでできるのではないか。
これらに対する国会議員の主な発言は以下の通り。
◆自民党・古川氏
厚労省案では、医療機関から“医療事故調”への届け出は、一定の基準、つまり「主観的ではなく、客観的な基準」を設けて行うべき。そうでないと、保険金殺人、虐待などが疑われる事例が上がってこない(これらが発覚する端緒にならない)。
◆公明党・福島氏
今の厚労省案も説明責任を果たす仕組みにはなっている。ただ問題なのは、刑事訴追との連動している点であり、これについては警察も何を刑事訴追の対象にするか、業務上過失致死罪に当たるかなど、明らかにする必要があるのではないか。
◆民主党・足立氏
裁判は医療者と患者の争い。医療は受ける側と提供する側の共同作業であり、今必要とされているのは、当事者間の話し合いであり、それがスタートではないか。この点ではまさに患者側と医療者側の目的は一致しているのではないか。
民主党の“医療事故調”案は、「当事者主義」であり、医療者と患者の間の話し合いを進め、理解、納得を得ることをまず求めている。それでもうまくいかない場合は、第三者を入れた機関で問題解決を図ることを義務付けている。同時に別の枠組みで、医療安全のための取り組みを充実する仕組みになっている。これに対して、厚労省案は「職権主義」であり、これを成立させることは危険であり、当事者間の話し合いを促進する意味になっていない。
◆共産党・小池氏
隠蔽や改ざんは当然ながらなくす必要があり、そのシステムは作るべき。しかし、今の厚労省案はそうした仕組みになっているのか。刑事訴追との連動があり、“医療事故調”が標準的な医療から逸脱した医療行為であり、捜査機関に通知すべきか否かを判断することになると、逆に隠蔽を招くことになりかねないのか。
◆社民党・阿部氏
「医療事故に当たっては、事実究明が必要」と言いながら、責任追及を求めているのではないか。「二兎を追ったら、一兎も追えない」。患者側が求めることをはっきりすることが必要。今、求めていることは裁判外紛争処理機関であり、補償を含めたシステムではないのか。
厚労省案に固執せず、幅広い議論が必要
患者側は、医療事故の再発防止ももちろんだが、それ以上に医療者が説明責任を果たし、納得できる仕組み作りを第一に求めている。砂田氏のコメントにあるように、一律に“医療事故調”への届け出範囲を決める仕組みでは、患者の期待には応えられない。また阿部氏に代表されるように、医療事故の原因究明・再発防止と、患者・遺族側と医療機関との話し合い・紛争解決・補償は別の枠組みで実施すべきであり、二兎を追うことは難しいことは多くの関係者が認めるところだ。この枠組みは民主党案(通称:医療の納得・安全促進法案)に近いと言える。
もっとも、そもそも現時点で政党の合意事項の形で、厚労省案への対抗案を出しているのは、民主党のみ。「“医療事故調”に対する意見を聞くのは初めて。厚労省に任せていてはならず、国会議員が議論していくことが必要」(共産党・小池氏)とのコメントも出たように、今後は、厚労省案にこだわらず、幅広い議論を展開することが必要だ。
医療安全調、大綱案での創設に賛成意見なし
―国会議員シンポ―
キャリアブレイン 2009年5月12日
https://www.cabrain.net/news/article/newsId/21961.html
国会議員シンポジウム「医療版事故調-国会での十分な審議と早期設立を求めて―」(主催=患者の視点で医療安全を考える連絡協議会)が5月12日、東京都内で開かれ、主要6政党の国会議員らが参加した。各党の議員からは、医療事故の死因究明などを担う第三者機関の創設自体に対する反対は出なかったものの、厚生労働省が昨年6月に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」のままでの制度を創設することへの賛成意見もなかった。
自民党の古川俊治議員は、「医療版事故調の創設は必要だと考えている」と述べる一方、医療現場の委縮を防ぐ観点から、医療安全調による調査を警察の介入に優先させる必要があるとの認識も示した。また、公明党の福島豊議員は、「医療における業務上過失致死の判断基準を不明確にしたままでは、うまく機能しないという指摘がある」と述べ、医療安全調を創設するには、こうした懸念を解消する必要があると指摘した。
民主党の足立信也議員は、「医療版事故調査機関の設置は必要だと思う」とする一方、「新しい組織をつくり巨大にしていく必要は全くない」と述べた。厚労省の大綱案については「義務を課し、罰を与える職権主義で解決できるのか」と、有効性を疑問視した。
共産党の小池晃議員は「今後は、大綱案を土台に議論していく必要がある」とする一方、医療安全調の設置目的を事故の原因究明と再発防止に限定することや、厚労省ではなく内閣府内に設置することなどを主張した。
社民党の阿部知子議員は、「警察への通報や行政への通知の仕組みが組み込まれている限り、責任追及を分離したシステムにはならない」と訴えた。医師などの行政処分を検討する医道審議会の機能充実も提言した。国民新党の自見庄三郎議員は、遺族救済のための無過失補償制度の創設を主張した。
平成21年4月10日
日本医学会分科会 理事長 会長 殿
日本医学会
会長 高久 史磨
臨床部会運営委員会委員長 門田 守人
診療関連死に関する作業部会長 山口 徹
「医療安全調査委員会への届出範囲」
「医療安全調査委員会から捜査機関への通知範囲」
に関するアンケート調査について
日本医学会は、診療行為に関連した死亡に関する死因究明制度の創設に向けて、2007年4月の厚生労働省の方向性に対するパブリックコメントに始まり、第二次試案、第三次試案に対しても見解を示してまいりました。更に、分科会内に臨床部会が設置された際に、その運営委員会内に診療関連死に関する作業部会を設け、2008年1月から3回の作業部会と公開討論会を開催してきました。その議論を通じて、現在検討されている医療安全調査委員会(仮称)について、専門家集団としての意見集約と積極的な提言の必要性が認識されました。特にその詳細が不透明であることが問題とされている、①医療安全調査委員会への届出範囲、②医療安全調査委員会(地方委員会)から捜査機関への通知範囲、については、その判断を主体的に担うこととなる専門家集団としての見解を示すべきであるとの意見で一致しました。
医療安全調査委員会への届出範囲、医療安全調査委員会から捜査機関への通知範囲について、これまでの作業部会内での検討を踏まえた提言案をお送りいたします。貴学会におかれましてもよろしくご検討いただき、ご意見を賜りたく、お願い申し上げます。それらをとりまとめて日本医学会からの提言を発信できればと考えております。よろしくご検討のほど、お願い申し上げます。
なお、ご意見の締め切りは、5月15日(金)とします。よろしくお願いします。
<資料>
1. 医療機関から医療安全調査委員会(仮称)への届出について
2. 医療安全調査委員会(仮称)から捜査機関への通知について
A.医療機関から医療安全調査委員会(仮称)への届出について
1.第三次試案及び大綱案
第三次試案及び大綱案においては、医療事故情報収集等事業の届出範囲を参考にして、下記のように書かれている。
医療安全調査委員会(仮称)へ届け出るべき事例は、以下の①又は②のいずれかに該当すると、医療機関において判断した場合。(①及び②に該当しないと医療機関において判断した場合には、届出は要しない。)
① 誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案(その行った医療に起因すると疑われるものを含む。)。
② 誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る。)。
更にこれを下記のように図示されている。
※1 例えば、ある診療行為を実施することに伴い一定の確率で発生する事象(いわゆる合併症)としては医学的に合理的な説明ができない予期しない死亡やその疑いのあるものが想定される。
2.診療関連死に関する作業部会からの提言
医療安全調査委員会(仮称)(以下調査委員会)への届出範囲については、基本的に医療過誤による死亡、原因不明の死亡の事例が対象となると考えられる。その範囲については、出来るだけ主観的判断が入りにくい形で基準を示すことが必要であり、インフォームド・コンセントや病状説明の適切性、また患者家族の理解の程度などは考慮せず、より医学的、客観的な基準として示されるべきと考えられる。
調査委員会への届出範囲について考慮すべき点を挙げる。
・届出が義務づけられる範囲は明確に規定できる範囲とする。
・「明らかな誤った医療」とは、日本医学会加盟 19学会の共同声明で提示された、「判断に医学的専門性を必要としない、明らかに誤った医療」と考える。即ち、患者や部位の取り違え、医薬品・医療用具の誤った使用など。
・「行った医療に起因する」とは、「行った医療と死亡との因果関係を医学的・合理的に説明できる場合」と考える。
・行った医療行為に起因する死亡とは、およそ2週間以内に発生した死亡を一応の目安とする。現行の医療事故情報収集等事業において、事例発生から2週間以内に事例報告を行うことを求めていることから、2週間を一応の目安とした。
・行った医療に伴う合併症として医学的・合理的に説明できるものは除外する。
・偶発的な併発症によると医学的・合理的に説明できるものは除外する。
・原疾患の進行によると医学的・合理的に説明できるものは除外する。
・受診後あるいは退院後の死亡については、24時間以内の死亡を含めることができる。死亡診断書を書くことができることから、一応の目安とした。
・患者遺族は別途に医療安全調査委員会へ調査を依頼することができるが、病院も任意で調査を依頼できることが望ましい。
・院外で発生した不慮の事故(交通事故、転倒・転落、火災、中毒等)、自殺・他殺、その他原因が不詳の外因に起因する死亡、又は外因による傷害の続発症による死亡、及びその疑いのあるものは医師法21条の対象となる。
B. 医療安全調査委員会(仮称)から捜査機関への通知について
1.第三次試案及び大綱案
第三次試案及び大綱案においては、地方委員会は次の場合に捜査機関へ通知することとされている。
①故意による死亡又は死産の疑いがある場合
②標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡または死産の疑いがある場合
注)②に該当するか否かについては、病院、診療所等の規模や設備、地理的環境、医師等の専門性の程度、緊急性の有無、医療機関全体の安全管理体制の適否(システムエラー)の観点等を勘案して、医療の専門家を中心とした地方委員会が個別具体的に判断することとする。
③当該医療事故等に係る事実を隠ぺいする目的で関係物件を隠滅し、偽造し、または変造した疑いがある場合、類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた疑いがある場合その他これに準ずべき重大な非行の疑いがある場合
注)「類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた」とは、いわゆるリピーター医師のことであり、例えば、過失による医療事故死等を繰り返し発生させた場合をいう。
また第三次試案においては捜査機関の対応についても述べられている。即ち、委員会の専門的な調査により、医療事故の原因究明が迅速かつ適切に行われ、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に限定して捜査機関に適時適切に通知が行われれば、刑事手続きについては、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえて対応することとなり、その結果、刑事手続きは謙抑的な対応となる。また行政処分が刑事処分より前になされるようになった場合、検察の起訴や刑事処分は現状と比べて大きな違いが生ずることとなる。
2.診療関連死に関する作業部会からの提言
調査委員会は、医療安全の確保の観点から専門家による医学的な分析・評価を行うもので、法的な責任追求を目的としたものではない。
地方委員会から捜査機関への通知は行わず、刑事手続きとは一切切り離すべきとの意見があるが、その場合には捜査機関は独自の判断で捜査に着手することとなり、医療専門家の判断が捜査機関で尊重される仕組みとはならない。届け出られる事例の中には悪質な事例が含まれることは否定できず、この調査委員会案が医師法第21条の改正と合わせて提案されていることを考慮すれば、医療専門家を中心とした医学的評価において悪質と判断された限られた事例については、捜査機関に通知する仕組みが必要であると考えられる。
また、捜査機関への通知範囲に関する議論については、その前提条件として、第三次試案で提案されているように、医療安全の向上を目的とした適切な行政処分を迅速に行う仕組みが構築されていること、が挙げられる。以下の提言は、地方委員会の調査結果を参考に、システムエラーの改善、個人の再教育を重視した行政処分が速やかに行われた場合のものである。
行政処分が先行する場合には、捜査機関へ通知して犯罪として取り扱われることもやむを得ない事例については、従来の医療事故において刑事責任を問われた事例にはとらわれず、新しい通知範囲が考慮されるべきである。医療専門家を中心として事例の医学的評価を行おうとする調査委員会が、法的な責任追求を行うことは適切でなく、また医療専門家に法的判断を求めることも適切ではない。故意による医療行為に伴う死亡を犯罪とすることには異論がない点を踏まえると、この調査委員会では、医療者の倫理に照らして、犯罪である故意に近い悪質な医療行為であったか否かを評価するのがよいのではないか。悪質度において標準的な善意の医療行為から著しく逸脱した「故意に近い悪質な」事例か否か、さらにシステムエラーではなくどれだけ特定個人の責任に帰されるべきか、という点を判断する。
捜査機関への通知範囲について考慮すべき点を挙げる。
・捜査機関への通知範囲について、基本的には「故意に近い悪質な医療行為に起因する死亡」事例と考える。
・故意による医療行為による死亡の疑いがある場合。
・医療事故等に係る事実を隠ぺいする目的で関係物件を隠滅し、偽造し、または変造した疑いがある場合。
・「標準的な医療から著しく逸脱した医療」については、
・医学的根拠のない医療
全く医学的根拠がない医療行為を独断で効果的と考えて施行した場合など。
・著しく無謀な医療
危険性が少なくより有効なことが明らかな他の選択肢があるにもかかわらず、危険性が極めて高い医療行為を施行した場合など。
・著しい怠慢
致命的となる可能性が高い緊急性のある明らかな異常に気付きながら、何らの対応もしなかった場合など。
・類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた疑いがある場合。
過去に医療事故で行政処分を受けたにもかかわらず、再度類似の医療行為に起因して患者が死亡した場合など。
・悪意によらない誤った医療行為(不注意、思いこみ、知識不足など)は行政処分で対応し、通知事例としない。
・システムエラーに基づく誤った医療行為は行政処分で対応し、通知事例としない。
・悪意はないが、ほとんどの医療者が承知している極めて基本的な医学知識の欠如に起因する死亡事例や、ほとんどの医療者が行わない非常識な不注意に起因する死亡事例については、さらなる議論が必要である。
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