過去のインフルエンザ・パンデミック

（関連目次）→新型インフルエンザについても集めてみましたo(^-^)o

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぽち→

（投稿：ｂｙ　僻地の産科医）

新型インフルエンザ特集、
日本医師会雑誌2009年1月号より

　　　　

　　　　

　　

　　　

　　　　　　過去のインフルエンザ・パンデミック

　　

　　　　　　名古屋市立大学大学院医学研究科 ウイルス学教授

　　　　　　　　　　　　　　　中島捷久

（日医雑誌第137巻･第10号/平成21（2009)年１月　p2100‐2101）

　インフルエンザとして知られる非常に伝播力の強い急性呼吸器疾患は古い時代からヒトの世界で知られていた．歴史的にみたインフルエンザの流行は，1889年以前では書物による記載からの推定，1889～1933年の流行は血清考古学あるいは遺伝子の解析から，1933年以降はウイルス分離により知ることができる．ビヴァリッジは，歴史的な記録をたどると，インフルエンザの世界的大流行（パンデミック）と思われるものが1510 年にまた,1700～1900年までの約200年間に７回のパンデミックが起こったと述べている1）.日本においてもインフルエンザの流行がうかがえる記録が古くからある．富士川の『日本疾病史』2）によると，貞観4（862）年にすでにインフルエンザによると思われる死者が多数出たことが記録されている（『日本三代実録』）．日本が鎖国政策をとっていた江戸時代においても享保T15（1730）年，享和2（1802）年，天保3（1832）年，安政元（1854）年に外国から入ってきたと思われるインフルエンザの大流行が記録されている．これらはいずれも西欧の記録によるパンデミックの時期にほぼ一致していた.19世紀末には旧アジアインフルエンザ（1889～1890），20世紀中には1918年，1957年，1968年，1977年と４回，パンデミックが起こっている（表1）.

１.スペインインフルエンザ（1918～1919）
　世界中の死者数の総計が2,000万～4,000万人に達した.1918年の早春のアメリカ合衆国の兵営で始まり，４月にフランス，スペインに広がり，スペインインフルエンザと呼ばれた．９月には第２の波がヨーロッパを席捲し，数週間のうちに世界中の人が影響を受けた．第２波による死亡率は高く，特に20～35歳の年齢層で著しかった．日本における流行は大正７（1918）年８月下旬から始まり，全人口約5,500万人中約2,400万人が罹患し，約39万人が死亡した3）（表2）.最近，当時死亡した患者の肺病理検体などからウイルスの遺伝子がPCR（polymerase chain reaction ； ポリメラーゼ連鎖反応）法で検出され，Ａ（Ｈ１Ｎ１）ウイルスであることが確認された4）.

２.アジアインフルエンザ（1957～1958）
　1957年にＡ（Ｈ２Ｎ２）ウイルスによるパンデ
ミックが勃発した．流行の発生地は中国で，２月に発生し，全世界に広がった．日本における流行の始まりは５月で，侵入と同時に全国的に広がり，死者数は約１万人であった5).

　　　

３.香港インフルエンザ(1968～1969)
　1968年にＡ(Ｈ３Ｎ２)ウイルスによるパンデミックが発生した．流行は７月に香港で始まったが，それに先立って香港の九龍に接する中国大陸の地域でインフルエンザ様の病気の流行があったと伝えられている．香港での流行は発生以来，約６週間でほぼ収束した．日本には７月の終わりに船により香港から持ち込まれたが，流行は10月になって初めて起こった．死者数は1,231人であった6).

　　　

４.ソ連インフルエンザ(1977)
　1977年にＡ(Ｈ１Ｎ１)ウイルスによるパンデミックが発生した.1977年の晩春に中国北部で流行したインフルエンザから，1950年に分離されたＡ(Ｈ１Ｎ１)ウイルスと区別のつかないウイルスが分離された．流行は中国南部に11月には香港，シンガポール，ソ連に広がり，ソ連インフルエンザと呼ばれるようになった．主として20歳以下の若者に病気を起こした．これまで抗原性の不連続変異(シフト)が起こった場合には，それまで流行していたウイルスは消失していたが，ソ連Ａ(ＨＩＮ１)ウイルスが出現した後，香港Ａ(Ｈ３Ｎ２)ウイルスは消失せず，以後，現在まで両亜型ウイルスは共存して流行を起こしている.

　1997年５月から12月にかけて香港で鳥インフルエンザＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスがヒトに感染した．このＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスはすべての遺伝子が鳥インフルエンザウイルスで，鳥インフルエンザウイルスのニワトリからヒトヘの感染経路が存在することが初めて明らかになった.2003年になり，再び東南アジアを中心にＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスのヒトヘの感染が起こり，60％を超える致死率がみられている．過去のパンデミックとは異なり，サーベイランスやウイルスの検出法が発達した現在では，パンデミックの初発を捉えることが可能である．しかし，鳥インフルエンザＡ（Ｈ５Ｎ１）ウイルスがヒトに感染してから12年経った今もこのウイルスのヒトでの流行はみられていない．

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（投稿：ｂｙ　僻地の産科医）

新型インフルエンザ特集、
日本医師会雑誌2009年1月号より

　　　　

　　　　

　　

　　　

　　　　　　過去のインフルエンザ・パンデミック

　　

　　　　　　名古屋市立大学大学院医学研究科 ウイルス学教授

　　　　　　　　　　　　　　　中島捷久

（日医雑誌第137巻･第10号/平成21（2009)年１月　p2100‐2101）

　インフルエンザとして知られる非常に伝播力の強い急性呼吸器疾患は古い時代からヒトの世界で知られていた．歴史的にみたインフルエンザの流行は，1889年以前では書物による記載からの推定，1889～1933年の流行は血清考古学あるいは遺伝子の解析から，1933年以降はウイルス分離により知ることができる．ビヴァリッジは，歴史的な記録をたどると，インフルエンザの世界的大流行（パンデミック）と思われるものが1510 年にまた,1700～1900年までの約200年間に７回のパンデミックが起こったと述べている1）.日本においてもインフルエンザの流行がうかがえる記録が古くからある．富士川の『日本疾病史』2）によると，貞観4（862）年にすでにインフルエンザによると思われる死者が多数出たことが記録されている（『日本三代実録』）．日本が鎖国政策をとっていた江戸時代においても享保T15（1730）年，享和2（1802）年，天保3（1832）年，安政元（1854）年に外国から入ってきたと思われるインフルエンザの大流行が記録されている．これらはいずれも西欧の記録によるパンデミックの時期にほぼ一致していた.19世紀末には旧アジアインフルエンザ（1889～1890），20世紀中には1918年，1957年，1968年，1977年と４回，パンデミックが起こっている（表1）.

１.スペインインフルエンザ（1918～1919）
　世界中の死者数の総計が2,000万～4,000万人に達した.1918年の早春のアメリカ合衆国の兵営で始まり，４月にフランス，スペインに広がり，スペインインフルエンザと呼ばれた．９月には第２の波がヨーロッパを席捲し，数週間のうちに世界中の人が影響を受けた．第２波による死亡率は高く，特に20～35歳の年齢層で著しかった．日本における流行は大正７（1918）年８月下旬から始まり，全人口約5,500万人中約2,400万人が罹患し，約39万人が死亡した3）（表2）.最近，当時死亡した患者の肺病理検体などからウイルスの遺伝子がPCR（polymerase chain reaction ； ポリメラーゼ連鎖反応）法で検出され，Ａ（Ｈ１Ｎ１）ウイルスであることが確認された4）.

２.アジアインフルエンザ（1957～1958）
　1957年にＡ（Ｈ２Ｎ２）ウイルスによるパンデ
ミックが勃発した．流行の発生地は中国で，２月に発生し，全世界に広がった．日本における流行の始まりは５月で，侵入と同時に全国的に広がり，死者数は約１万人であった5).

　　　

３.香港インフルエンザ(1968～1969)
　1968年にＡ(Ｈ３Ｎ２)ウイルスによるパンデミックが発生した．流行は７月に香港で始まったが，それに先立って香港の九龍に接する中国大陸の地域でインフルエンザ様の病気の流行があったと伝えられている．香港での流行は発生以来，約６週間でほぼ収束した．日本には７月の終わりに船により香港から持ち込まれたが，流行は10月になって初めて起こった．死者数は1,231人であった6).

　　　

４.ソ連インフルエンザ(1977)
　1977年にＡ(Ｈ１Ｎ１)ウイルスによるパンデミックが発生した.1977年の晩春に中国北部で流行したインフルエンザから，1950年に分離されたＡ(Ｈ１Ｎ１)ウイルスと区別のつかないウイルスが分離された．流行は中国南部に11月には香港，シンガポール，ソ連に広がり，ソ連インフルエンザと呼ばれるようになった．主として20歳以下の若者に病気を起こした．これまで抗原性の不連続変異(シフト)が起こった場合には，それまで流行していたウイルスは消失していたが，ソ連Ａ(ＨＩＮ１)ウイルスが出現した後，香港Ａ(Ｈ３Ｎ２)ウイルスは消失せず，以後，現在まで両亜型ウイルスは共存して流行を起こしている.

　1997年５月から12月にかけて香港で鳥インフルエンザＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスがヒトに感染した．このＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスはすべての遺伝子が鳥インフルエンザウイルスで，鳥インフルエンザウイルスのニワトリからヒトヘの感染経路が存在することが初めて明らかになった.2003年になり，再び東南アジアを中心にＡ(Ｈ５Ｎ１)ウイルスのヒトヘの感染が起こり，60％を超える致死率がみられている．過去のパンデミックとは異なり，サーベイランスやウイルスの検出法が発達した現在では，パンデミックの初発を捉えることが可能である．しかし，鳥インフルエンザＡ（Ｈ５Ｎ１）ウイルスがヒトに感染してから12年経った今もこのウイルスのヒトでの流行はみられていない．

Comments

[投稿情報: でこらんぱん（高齢ママです）]

新型インフルエンザ、こわいですね。
流行しないことを祈ります。