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(投稿:by 僻地の産科医)
ものすごい正論過ぎて、ビックリしましたo(^-^)o ..。*♡
診療報酬の辺りなど、よく勉強された記事です。
まさに、この診療報酬に人件費やそのための設備・労力度など
まったく考えられていないために病院は衰退し、
外来点数が高いために外来のみのクリニックが有利だと考えられ、
入院・救急設備を持った病院はどんどん人件費を削られ、
時間外手当も払えず、勤務医に跳ね返り、
そのために「病院」から勤務医がどんどん逃出していると言う図式があります。
「診療報酬」にきちんとコスト計算を。
私達の悲願ですが、それがなされなければ保険診療は崩壊し、
自由診療へとなだれ込むようになるでしょう。
医療荒廃の罪深き元凶
厚労省「医系技官」
(選択 2009年4月号 p110-113)
「医療崩壊」が叫ばれて久しいが、いっこうに改善の兆しが見えてこない。いや、むしろ症状は進むばかりというべきだろう。
妊婦をはじめとする患者のたらい回し、医療過誤、薬害や海外新薬がなかなか使えるようにならない「ドラッグラグ」など、厚生労働省に由来する問題は枚挙にいとまがない。
日本の医療費は三十三兆円もあり、ほかの産業と比較して圧倒的に多い。問題なのは、その三十三兆円を自らの利権のために非効率このうえない使い方をしている元凶がいることだ。それが厚労省「医系技官」である。
学界ではとうに否定された医師誘発需要説(医師が増えれば医療費が増える)をいまだに信じる医系技官は、医師を増やすことに必死で抵抗してきた。その結果招いたのが、今日の深刻な医師不足だ。日本は先進国の中で最も高齢化が進んでいるにもかかわらず、総医療費の対GDP比は8%と、最低水準に抑えられているし、医師数は経済協力開発機構(OECD)加盟三十カ国中で最低レベルとなっている。
現場知らずの「専門家集団」
この事態の主犯たる「医系技官」とは、医師・歯科医師の資格を有し、医療や公衆衛生等の分野で活動する厚労省採用の国家公務員である。国家公務員I種試験に合格したわけではないが(医師国家試験合格で同等とされる)、人事面では「キャリア」と同じ待遇だ。医療政策を立案するのも彼らである。医療は専門性が高く、キャリアに現場は分からないという理屈で技官が存在しているが、彼らに現場が分かっているかは怪しい。
むしろ逆である。
原則として臨床経験五年未満(以上ではない!)でなければ採用されず、臨床現場に戻らない終身雇用が前提なので、臨床医個人として患者に対して責任を取る経験を持たない人間がほとんどだ。
「医師として、一本立ちできなかった」
このコンプレックスの裏返しか、医療現場をとにかく統制しようとする発想が、制度設計ににじみ出る。驚くことに、医系技官は約二百五十人も存在する。知る人ぞ知る霞が関の一大勢力。局長ポストを二つも持ち、ほぼ全員が幹部ポストに就いてから多額の退職金とともに退官する。まさに現代最後の「白い巨塔」だ。
医系技官は二手に分かれ、保険局で医療費の差配を、医政局で病院の義務増加と医師免許剥奪・停止等の行政処分を行って、自らの権限を拡大する循環構造を作り上げている。
わが国の医療費決定システムは、実は世界に例を見ない国家統制下にある。三十兆円を超える医療費の価格を一円単位まで厚労省が決めているのだ。
その中核が中央社会保険医療協議会(中医協)だ。中医協を担当するのは保険局医療課で、その課長ポジションは医系技官が占めている。つまり、医系技官が医療の価格を決めているわけで、その結果には彼らの思惑が見え隠れする。
例えば、外来の再診科は病院で六百円、診療所で七百十円だ。先進国で類を見ない低価格といえる。弁護士なら新米でも時間一万円はとるだろう。これは、医系技官が医師の問診に価値をおいていないことの証左である。この状況で病院が生き残るためには、報酬を増やすための無駄な検査や、いらない薬の処方しかない。
また病院には重症患者が集まり、診察に時間がかかるのに対価は反対だ。ここには開業医の利益を代表する日本医師会の政治力が反映されている。
心肺蘇生で「二千九百円」
このような差は外科手術にも存在する。外来でも可能な白内障の手術の診療報酬は十二万円もするのに、夜間の緊急帝王切開術の診療報酬はわずか十八万円だ。この収入では、多くの医療スタッフを待機させることはできず、産科救急を続けることはできない。その結果が招くのは、妊婦たらい回しの悲劇だ。
さらに悲惨なのは救命医療の現場だ。先月の「東京マラソン」で心肺停止したタレントに心臓マッサージが施されたが、この診療報酬は一時間あたりわずか二千九百円だ。命に関わる行為で、この格安ぶり。これではコストのかかる救命医療は維持できない。
現場を知らない医系技官による、このような独善的な「値付け」を、関係者は苦々しく思っている。しかしながら、病院経営者や製薬企業は、価格決定権を握られているため、医系技官に対しては絶対服従である。当然のことながら、多数の天下りを受け入れている。
薬や医療行為の価格は、建前上、中医協の答申を受けた厚労大臣の決定事項だ。しかしながら、厚労大臣は単なる飾り物にすぎない。中医協は、保険者、被保険者と医師や薬剤師を代表する委員らによって構成される。その数は合計して二十人だ。
この二十人の人事権は、日本医師会や日本薬剤師会など一部の団体からの指名枠を除き、医系技官が握っている。このため、中医協の委員はもっぱら医系技官に従順な人物ばかりが選ばれる。一方、医療関係者にとって中医協の委員を務めることは勲章への一里塚だ。不用意に医系技官の機嫌を損ね、これまでのキャリアを無駄にしたくはない。
では、中医協でどんな議論が行われているのだろうか。誰にでもわかることだが、わずか二十人の委員が膨大な医療行為のすべてを把握することは不可能だ。実際には、中医協は医系技官が書いた素案に「お墨付き」を与えているにすぎない。医系技官にとっては、薬価や診療報酬に詳しくない委員を選んだ方が、自らの意向が通りやすく好都合というわけだ。この委員を巡る人事は、ほとんどが国会承認人事ではないため、医系技官による恣意的な選抜が可能となっている。
ここで素朴な疑問が出てくる。
医系技官からすれば医療費が増えれば増えるほど利権も増すのに、なぜ医療費抑制に走るのか。
この理由が実に情けない。医療を知らない医系技官は、現場のニーズに見合うだけの医療費を、官僚のエリートが集う財務省と渡り合って獲得することができないのだ。要求して敗れた場合には自らの無能さが露呈するので、最初から要求する必要がないことにしてしまう。無理に闘わなくても、二百五十人とOBを養うという観点だけから見れば三十三兆円は十分すぎる額だ。
しかし、医療費抑制のため診療報酬と薬価が下げ止まらないせいで、外資系企業が日本に進出するインセンティブは薄れるばかりだ。医薬品の国際市場における日本のシェアは、一九九三年の二〇%から○五年は10%まで落ち込んだ。
高齢化が進んだわが国では、何もしなければ医療費は増える。医療費を抑制するためには、薬や医療行為の価格を安くすることがもっとも簡単だ。公共事業から医療費に回すのは、族議員や財務省を説得しなければならないが、薬価を下げるのは製薬業界団体を納得させるだけだから簡単だ。だからわが国の薬価は毎年低下するため、外資系製薬企業が日本で製品を販売する動機は失われた。これが、ドラッグラグ、デバイスラグの真の原因であり、医系技官の失政の後遺症ともいうべきだろう。
医師不足を加速させる愚策
医系技官の罪は保険局だけに留まらない。全国各地で起きている医師不足、これは医政局の完全な施策ミスによるものだ。
そもそも医系技官は、長年「医師不足」を認めず、「医師偏在に過ぎない、絶対数は足りている」と強弁し続けてきた。医師不足を認めなかった理由は先はども述べたように、必要な予算を獲得すべく財務官僚と渡り合う気概がなかったからだ。厚労大臣が、選挙で「医師不足」を掲げて当選した舛添要一氏に替わって初めて、医系技官は事態を渋々認めるにいたった。それでも舛添大臣の医学部定員増員には、大臣着任から約一年も抵抗し続けた。文部科学省に出向中の医系技官が全国の医学部に電話して、「定員増には賛同しないように」と迫ったことは、全国紙でも報じられるところとなった。
現場の医師不足を決定づけた二〇〇四年度からの医師臨床研修制度も医政局の医系技官が自らの権限拡大を狙って導入したものだった。
現在の臨床研修制度では、全国一斉に医学生と病院とが“集団お見合い”する「マッチング」により就職先を決定する。それまで医学生は全国の病院から自由に就職先を選べたが、医系技官が全医学生の就職先を強制的に決める権限を持つことになったため、わざわざ「マッチング」を導入した。新たに発生した事務作業は、厚労省の外郭団体「医療研修推進財団」が請け負っている。この財団には、“渡り”で職を得た医系技官OBが複数在
籍している。医系技官の二つの最高ポスト、保健医療局長(現・健康局長)と健康政策局長(現・医政局長)を務めた後、それぞれ国立保健医療科学院長、長寿科学振興財団理事長、日本医療保険事務協会理事長などを歴任した人物たちだ。次の退職時にも、何度目かになる多額の退職金を手にするだろう。
こうして準備を整えた上で、制度設立のために医系技官が掲げた理念が、「日本の医師は臓器を見て人を見ない。すべての医師にプライマリケア(初期の幅広い診療)を」である。そして、あらゆる診療科を1ヵ月ずつ回るスーパーローテートを全医師に義務化した。
しかし実際には、卒前の大学医学部で、全員がすべての診療科を回っている。文科省との縄張り争いで大学に手を出せない医系技官は、卒後に同じ内容を繰り返させることで、権限を拡大したのだ。
この不毛な臨床研修制度によって、医師は一人前になるのが二年も遅れることになってしまった。これは、二学年分1.5万人の医師が減ったに等しい。当然、現場からは悲鳴があがる。医師不足に苦しむ地域の有権者が、政治家に対して厳しい目を向け始めたため、業を煮やした代議士らが、昨年九月に議員連盟を設立。医系技官が当初設計した制度は、政治の圧力により、わずか五年であっけなく見直される運命となった。
医療メルトダウンが止まらない
だが、担当医系技官の田原克志・医師臨床研修推進室長は見直しの過程で巧妙に立ち回り、二年分の補助金と規制権限を死守しただけでなく、全国すべての研修医配置を決めるという、新たな規制権限を獲得したのだ。制度前より地方の研修医数は増えたにもかかわらず「地方に研修医が行かない」ことを問題視し、その理由は「(研修医の)全国定員が実際の人数を上回っているからだ」として、全国に約一万一千五百人ある定員を約九千九百人まで減らす方針だ。これが実行されると、三十都道府県が定員削減を迫られることになる。
だが、「募集定員を減らせば、ますます医師の実力格差が広がる」と日本の将来を憂い嘆く声もある。募集定員枠と実際の人数が同じになれば、病院は努力せずとも研修医と補助金を確保でき、研修医は単に安い労働力と見なされ、受け入れ先でこき使われることになるだろう。これでは、新米医師に必要な医療技術の承継など、本来の「研修」がおろそかになり、医療現場での教育が荒廃し、国民が受けられる医療水準は下がってしまうことが予想される。医道審議会では「この制度は教育システムであって医師配置システムではない。教育のキャパシティを積み上げるのが先だ」(山下英俊・山形大学附属病院長)という正論も出たが、医系技官は自らの結論に沿わない意見を無視し、この夏の就職活動から強制配置を強行する。
対GDP比では先進国の中で最低水準とはいえ、三十兆円を超える巨額の医療費を差配する医系技官たち。現実に即さない診療報酬の決定は、病院機能を低下させ、救急医療の荒廃を招いた。下げ止まらない薬価は、医薬品販売における日本といら市場の魅力を著しく低下させることになった。これにより、海外で使われている最新の新薬や医療機器が、使いたくても使えないという悲劇が繰り返されている。そして、貴重な税金が無駄に消えていくばかりの「臨床研修制度」は、医学生たちから就職の自由を奪い、さらには彼らが身につける医療技術の格差を広げるばかりである。
その専門性を発揮することで、日本の医療行政に貢献することを責務とする「医系技官」。彼らが導く先にあるのは、病に見舞われた日本人を不安の淵に陥れる医療の荒廃である。
日本医療のメルトダウンが止まらない。
臨床の現場をしらない、これにつきますね。
臨床の現場で何が求められているのか、臨床医がどういう行動原理をとるのか、彼らには認識できていないのです。
医療安全委員会の議論の迷走も彼らに責任の一端があります。
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2009年4 月 8日 (水) 19:40
素晴らしい記事を紹介して下さりありがとうございます。医学部を出ていながら、官僚としては「落ちこぼれ」であるが故の、医系技官の思考パターンが良く分かりました。
こんな情けない状況を改善しようと思ったら、現場の人間を組織内に入れて、現場の支持を得られるよう努力するしかないと思います。
投稿情報: 通りすがり | 2009年4 月 9日 (木) 15:45
財務省と渡り合える他省庁の方っているんでしょうか。結局ここに問題はつきると思います。
厚労省ではメタボを武器に予算もついて天下り先も増やしたわけですから、そういう意味ではその時の事務次官は優秀だったわけです。
投稿情報: げ〜げ〜 | 2009年4 月 9日 (木) 18:02
現場を知らない人間が、現場の代表として振舞っているというお寒い現実の一端がわかる文章です。ただ役に立たないだけでなく、毒をばら撒いているのだからどうしようもないとしたものでしょうか。
こちらでも引用させていただきたいと思います。事後になると思いますがご了解ください。
投稿情報: 鴛泊愁 | 2009年4 月 9日 (木) 19:12