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(投稿:by 僻地の産科医)
女性外科医が直面する三つの課題、外科学会調査
勤務体制、キャリアアップの障害
専門医となることの困難さ
橋本佳子編集長
m3.com 2009年4月17日
http://www.m3.com/iryoIshin/article/95234/?pageFrom=m3.com
4月4日、福岡で開催された第109回日本外科学会定期学術集会のシンポジウム「女性外科医が働き続けるために―現状と今できること―」で、東京慈恵会医科大学外科講師の川瀬和美氏は、同学会女性外科医支援委員会アンケートに寄せられた自由意見の分析結果を公表、それを踏まえ、「女性外科医の抱える問題点として、勤務体制、キャリアアップの障害のほか、専門医となることの困難さ、この3つのキーワードが浮かび上がった。今後はこの意見を生かせるよう各方面への働きかけを行い、現状を改善し、女性外科医を含め、外科医全体が健全に働ける環境づくりを進めることが必要」と、関係者への理解を求めた。
本調査は2007年11月21日から2008年1月17日に実施、回答数は一般会員3195人(男性2731人、女性464人)、代議員150人(男性149人、女性1人)。統計分析結果は昨年の同学会学術集会で発表している(「女性医師支援には体制整備と周囲の理解が必要」、日本外科学会ホームページ参照)。調査に寄せられた自由記載のコメント数は7137に上り、以下のように分類できた。
(1)女性外科医師の抱える問題点:2006コメント
(2)女性医師を働きやすくするために日本外科学会が取り組むべきこと:1766コメント
(3)女性医師を働きやすくするために各病院あるいは経営母体(自治体、国、民間など)が取り組むべきこと:1791コメント
(4)外科医師としての勤務を続ける上で育児や介護などにまつわる問題点や支援について:968コメント
(5)本アンケートについて:606コメント
これから抽出されたのが、勤務体制、キャリアアップの障害、専門医となることの困難さ、の3つのキーワードだ(図1)。
図1 女性外科医が抱える問題点
制度の整備だけでなく、関係者の意識改革が不可欠
勤務体制の面では、体力的ハンディのほか、妊娠・出産・育児の各段階で、通常勤務、時間外勤務や夜間緊急呼び出しなどへの対応の難しさが改めて浮き彫りになった。「妊娠、出産は女性にしかできないことだが、その際は勤務が不可能であり、仕事に穴を開けてしまう。また、育児では、勤務中に子供の面倒を見てくれるところを探すのが至難の業。やっとの思いで保育園に入れても保育所が終わる時間には迎えに行かなくてはならず、夜は面倒を見なくてはいけない。子供の具合が悪くなって保育園から呼び出しがかかったり、朝、急に熱を出したりする。病児保育は見付からず、運よく見付かっても利用できるか分からない」(川瀬氏)。
さらに川瀬氏は、「保育施設、ベビーシッターなどの利用の金銭的負担が大きく、勤務医にとっては容易には支払えない。配偶者や親などの強力なバックアップなしでは常勤を続けられず、非常勤での勤務体制も少ない」とし、外科医が続けられない現状があるとした。
またキャリアアップや専門医資格取得の面でも、(1)女性外科医は少数派であり、ロールモデルが少ない、(2)外科医として修練を積む時期と出産年齢が重なる上、出産・育児で常勤医としてのキャリアを中断すると、専門医資格の取得・維持に支障がある、などの問題があるとした。
その上で、「医師になる3人に一人が女性の時代であり、若者の考え方自体が自分の生活を重視するようになっている。これでは外科を志望する人がますます減少し、外科の崩壊は現実となってしまう」として、外科学会、各病院あるいは経営母体が取り組むべきこととして上がった意見を紹介した(図2、図3)。
図2 外科学会が取り組むべきこと(数字はコメント数)
図3 各病院や自治体・国が取り組むべきこと(数字はコメント数)
この日のシンポジウムでは、子育て中の女性医師が勤務の実際や直面している悩みなどを率直に語ったほか、マネジメントの立場からの発言があり、女性医師対策に取り組んでいる事例なども紹介された。その中で、クローズアップされたのが、保育施設の充実や短時間勤務制の導入など、妊娠・出産・育児中の女性医師のための体制整備を進めても、それを活用できるか否かは、上司・同僚など周囲の理解に左右されるという点だ。川瀬氏のアンケートでも、関係者の意識改革の必要性などを指摘する声が寄せられた。女性医師の勤務環境の整備は、男性医師にとっても働きやすい環境づくりであるという認識を持つことが、意識改革の第一歩だろう。
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