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(投稿:by 僻地の産科医)
臨床研修見直し案に反対!
愛知の10団体が記者会見
m3.com 2009年04月10日
橋本佳子編集長
http://mrkun.m3.com/mrq/top.htm
「このたびの臨床研修制度の見直し案は愛知県の医療、特に病院の救急医療に甚大な悪影響を与えるので、愛知県医療関係者は一致して反対を表明します」
名古屋大学をはじめ、愛知県内の医療関係の10団体(詳細は文末に掲載)は4月10日、午後0時30分から、臨床研修の見直し案に反対するために記者会見を開催します。その趣旨が添付の資料です。
10日朝、電話取材に応じてくださった、名古屋大学付属病院院長の松尾清一氏は、こう語気を強めて語ります。「愛知県では、少ない医師数で非常に効率よく医療を実践している。しかも、改革を実施し、医療のさらなる改善に取り組もうとしていた矢先、突然、前触れもなく、臨床研修制度の見直しで、研修医の募集定員の上限が不合理に設定された。これは大きな問題。今回の見直しがそのまま実施されれば、愛知の医療、特に救急医療はかなり甚大な影響を被ることが予想される」。
愛知県の人口10万人当たりの医師数(2006年)は180.7人で、全国平均の206.3人よりも少ないのが現状です。愛知県全体の研修医の採用実績は2008年度の場合、446人。一方、募集定員は707人。現在の厚労省の計算式では、見直し後の募集定員は448人と大幅に減少します。「マッチ率を9割と高く見積もり、医師国家試験の合格率を90%と仮定すると、採用研修医は最低でも2割、100 - 120人減ることが予想される」(松尾氏)。
愛知県は2004年に臨床研修が必修化される以前から、「名大方式」の実践で知られ、初期研修は大学ではなく、地域の病院が実施する仕組みになっていました。後期研修以降も、地域の病院と大学がうまく連携して取り組んでいます。
研修は“屋根瓦方式”で、1年目研修医は2年目研修医の指導を、2年目研修医は後期研修医の指導を、さらに後期研修医は指導医の指導をそれぞれ仰ぎ、研修と救急医療の実践を両立させるノウハウを持っています。つまり、決して研修医を労働力として見るのではなく、研修医を育てながら、臨床を実践しています。医師数は少ないながらも、総務省の「平成20年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査」によると、重症患者の搬送で、「4回以上の照会」を行った件数は、全体の0.5%で、全国平均の3.6%より低い水準を維持しています。しかし、研修制度の見直しで、研修医が2割程度は減ることが予想され、この“屋根瓦方式”が崩れることを懸念しているのです。
愛知県では、松尾氏が座長を務める「公立病院等地域医療連携のための有識者会議」が今年2月25日に「地域医療連携のあり方について」(有識者会議最終報告書)をまとめました。現在、総務省による「公立病院改革ガイドライン」に基づく改革が進められていますが、愛知では公立病院だけの問題に限らず、県全体の地域医療の問題として捉え、改革に取り組もうとしていた矢先の研修制度の見直しだっただけに、松尾氏の怒りは増しているのです。今回の10団体は、この有識者会議に参加していた団体です。
「確かに募集定員に何らかの上限を設けることは必要だと思うが、今回の計算式は不合理。しかも、医師が非常に不足しているところに研修医を行かせたら、研修医は一人で診療に当たることになる。研修の質は低下する。仮に医師を計画配置するなら、まず後期研修以降の医師を派遣し、その上で初期研修医を行かせないと研修はできない。また、今回の見直しで、後期研修医の“争奪戦”はより激しくなるだろう。そもそも2004年度から今の制度を開始して、検証もせずに見直すのは問題」(松尾氏)。
10団体のち既に幾つかの団体は、厚生労働省にパブリックコメントを出しているそうです。また、今後、10団体としても出す予定。「あらゆるルートを使って、この問題を訴えていく」(松雄氏)。
※「臨床研修制度の見直し案に対する反対意見書」は、以下の10人の連名です。
愛知県医師会長
愛知県病院協会長
愛知県公立病院会長
愛知県厚生連理事
名古屋第一赤十字病院長
名古屋第二赤十字病院長
名古屋大学医学部附属病院長
名古屋市立大学病院長
愛知医科大学病院長
藤田保健衛生大学病院長
臨床研修制度見直しに反対 医療団体など
研修医大幅減を懸念
読売新聞 2009/04/12
http://chubu.yomiuri.co.jp/kenko/kenko090412_1.htm
臨床研修制度の見直し案により、来年度以降、100人以上の研修医が減るおそれがあるとして、愛知県内10の医療団体や病院の代表者らが、見直し案に反対する意見書を発表した。厚生労働省に近く提出する。 見直し案は、医師の偏在を解消するのが狙い。人口や医学部定員などを基に、募集定員に都道府県ごとの上限などを設ける。
案によると、県の定員は08年度に比べ259人減の448人となる見込み。同年度の採用実績に近い数字だが、国家試験の不合格者などがおり、定員が埋まることは難しく、来年度の採用研修医が最大120人減るという。
県の人口10万人当たりの病院従事医師数は全国36位と医師不足が指摘されている。従来から、約80の病院で研修医を受け入れるなど研修教育体制が確立されてきた。医療関係者によると、研修医が地域の救急医療の現場を支えている側面もあり、研修医の大幅減少は医療体制に大きな支障が出るおそれがあるという。
名古屋市内で会見した松尾清一・名古屋大医学部付属病院長は「案が採用されれば、救急医療体制が崩壊する危険性が極めて高く、容認できない」と述べた。
【トピックス】じほうMRメールニュース 2009年4月13日号 vol.1635
特定の地域や診療科で医師不足が生じないようにする方法はないのか─。
超党派による「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」が10日に開いた講演会で、医師側からこの問いへの答えが示された。地域で、患者数に応じた専門医数を規定する方法を提案したのは、新潟大脳研究所統合脳機能研究センター長の中田力氏。希望の地で専門医になれない場合は、他の地域で応募するか、希望地で別の専門領域に進む仕組みのため、「時間をかけて地域や診療科による偏在も解消していく」という。
医師の初期臨床研修制度が見直され、今度は専門医養成制度が議論されると予想される中、医師らが自らルールを定め、自由な競争を通じて専門領域や診療する地域を決める仕組みの方が、広く受け入れられるのかもしれない。
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