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(投稿:by 僻地の産科医)
骨盤位、臍帯脱出の事例
<Y地裁H20・10・10>
(日産婦医会報 平成21年3月1日 No.707 p5)
近年、医療側に厳しい判決が増えている中、予見性のない臍帯脱出などにも過失ありとされるような納得できない事例も出てきている。今回、骨盤位分娩中に臍帯脱出が発生し、新生児重症仮死後、死亡となったことに対し、過失なしと判断された事例を紹介する。
〔事例経過〕
Xは初めての妊娠で、平成14年9月、被告Y病院を受診した。平成15年1月に骨盤位と診断され、以降、骨盤位が解消されることはなかった。同年3月、Xは被告病院に勤務するB1医師から「骨盤位の当院における取り扱いについて」と題する説明書および経腟分娩での出産を希望する旨の確認書を渡された。同年4月、Xは自ら署名した経腟分娩の確認書を提出した。
同年4月5日午前0時30分頃、Xは破水および陣発のため妊娠38週でY病院に入院した。当直医のB2医師の診察(複殿位)後、オンコールのB3医師が来院、コルポイリンテル(オバタメトロ)を挿入し、病院内に待機していた。
分娩監視モニターで胎児心拍数に異常ないため、同日午前5時16分頃モニターが外された。午前5時38分コルポ脱出のコールあり、内診にて臍帯脱出があり、緊急帝王切開が行われ、同日午前6時0分頃児が娩出された。児は重度の仮死状態で、新生児搬送されたが、同年5月12日に死亡し、訴訟となった。
〔主な争点〕
①モニターが外される前の胎児心拍モニターの判断について。
②午前5時16分から同38分までモニターが外されていたことについて。
③コルポイリーゼの注入量が150mlと少なかったという点。
④羊水混濁への対応。
⑤臍帯脱出後に経腟分娩を試みなかったこと。
⑥臍帯脱出から緊急帝王切開開始までの時間について。
〔判決の要旨〕
①原告主張の一過性徐脈は、モニターがずれたものであり、また基線細変動の減少は胎児の睡眠時と認められる。
②骨盤位分娩管理で継続的モニター監視をすべき注意義務が、無条件に存在するとは認められない。産婦の負担を考慮して一時的に装置を外すかは、産婦の具体的な状況を前提とする医師の裁量に係る事項である。
③150mlのコルポの注入量が少ないため、臍帯脱出を助長したと認めるに足りる証拠はない。
④羊水混濁が胎児の低酸素状態を示す兆候であるとの見解をそのまま採用することはできない。骨盤位分娩では正常な経過であっても発生する。
⑤臍帯脱出時、児は依然高位にあり、経腟分娩により早急に娩出が可能であったとは認められない。
⑥原告が求める10分以内の帝王切開は本件当時の日本の医療機関においては、臨床医学の実践における医療水準を上回るものである。臍帯脱出から執刀開始までの所要時間は最大で34分ないし37分程度であったことになり、特に長い時間を要したとは認められず、本件当時の医療水準にかなう。
以上より、原告らの請求をいずれも棄却とし、訴訟費用は原告らの負担とした。
〔解説〕
近年、患者救済を優先するあまり、臨床の実際を全く無視した判決も認められる。しかし、現実に起こり始めた「医療崩壊」のためか、救急医療や周産期医療の分野におけるごく最近の判決で、臨床医学の実践における実行可能性にきちんと目を向けたものが出てきている。産科医療補償制度が、これらの流れをさらに進めてくれることに期待したい。
争点となった分娩監視の方法・判定、羊水混濁の解釈、分娩方法、帝王切開までの時間等は、同様な事例での典型的なものである。本件では2名の公的鑑定人が選ばれており、今後の公平な鑑定のひとつのあり方を示すものと考えられる。
5年前の事例ですが、それでも今時、初産骨盤位に経膣分娩を試みるってのは、患者にとっても医師にとってもリスクベネフィット考えるとどうなんでしょう?
陣発時にすでに破水してたわけで、(子宮口の開大度にもよりますが)その時点で帝切に切り替えても良かったんじゃないでしょうか? しかも複臀位でしょう。
私は(産)婦人科医なので、昔はともかく今のご時世でこういう事例は”腕自慢の産科医(周産期専門医?)”のオナニーとしか思えません。無事に経膣でいけても患者からたいして感謝されませんよ、実際。彼女たちだって有り難味がわかってませんって。
はるか昔は許容されたであろう不幸な事例も今は裁判になるわけですから、危険なものは危険だとはっきり説明して(脅かして)、こちらも無理しないことだと思います。
もちろん、医師の裁量という観点で、裁判の結果はリーズナブルだと思います。でも皆さん、危ない橋を渡るのはやめましょうよ。
投稿情報: 三海 | 2009年3 月21日 (土) 01:38