(関連目次)→妊娠したら気をつけること 今月の産婦人科医会報
(投稿:by 僻地の産科医)
妊婦さんもシートベルトをつけることが現在では推奨されています。
自分ひとりのためではありませんo(^-^)o ..。*♡
お腹の赤ちゃんのためでもあるのです。
シートベルトはつけましょう!
交通事故後に緊急帝王切開により
出生した新生児が精神運動発達遅滞を来した事例
〈N高裁H17・5・30〉
(産婦人科医報 第61巻第2号 No.706 p6)
〔事例概要〕
平成11年1月5日午前10時頃、正常に経過していた妊娠34週の原告Bが、時速約50キロで車を運転し、交差点で加害車両に衝突された。原告Bは運転時にシートベルトを着用していなかったため、前額部をフロントガラスに打ち付け、腹部をハンドルにぶつけた。前額部は額から血が流れており、助手席の夫の声に反応するまでに5、6分程度の時間が経過した。直ちに救急車により病院に搬送され,同日午前10時50分頃から、救急外来で診察を受けた。妊婦が腹部を打撲したため、特段異常を認めなかったものの、入院措置がとられた。胎児心拍陣痛図では、胎児心拍数は110回/分とやや徐脈状態であり、基線細変動は減弱していたものの、子宮収縮に伴う遅発性徐脈は認めなかった。また、超音波検査によって常位胎盤早期剥離等の明らかな異常所見も認めなかった。ところが、同日午後0時20分頃、胎児心拍数が90回/分台へと低下し、基線細変動が消滅したため、緊急帝王切開手術の方針が決定され、小児科医立ち会いの下、午後0時58分に原告A を娩出したが、Apgar スコアは0点/1点、臍帯動脈血Ph6.7という重度の新生児仮死状態であった。その後種々の治療を施すも低酸素性脳症に起因する精神運動発達遅滞(痙性四肢麻痺)が残ったものである。
〔争点〕
本件交通事故と原告Aの後遺障害との因果関係、および原告Bの運転に過失はないか。
〔判決の要旨〕
原告Aの身体に残存した低酸素性脳症による精神運動発達遅滞(痙性四肢麻痺)の後遺障害と本件交通事故との間には相当な因果関係を認めるのが妥当である。したがって、被告(加害者:衝突したドライバー)および原告Bが加入していた生命保険会社は、原告Aに対し1億3,583万4,520円およびうち1億2,906万4,548円に対する平成11年1月5日から各支払済みまで年5分の割合による金員(および慰謝料:金額省略)を支払え。
〔解説〕
本事例は交通事故後の胎児機能不全、および緊急帝王切開にて出生後の新生児仮死により低酸素性脳症が引き起こされ、精神運動発達遅滞(痙性四肢麻痺)の後遺障害と事故との間には相当因果関係が認められるとされたものである。
また、胎児が生命保険の「被保険者」に含まれるか否かも争点となったが、本件事故発生当時被保険者である母親の胎内にあって、本件事故直後に出生した原告Aのような胎児を含むと解すべきであり、生命保険会社の主張を退けている。
さらに、交通事故の被害者(妊婦)がシートベルトを着用していなかった場合に、妊婦については道路交通法上基本的にはシートベルト装着の義務が免除されていることから、シートベルトをしていなかったことをもって過失相殺事由とすべきではないとされた。『産婦人科診療ガイドライン産科編2008』でも記載されているように、妊婦が車を運転する際、シートベルトを装着する場合は「斜めベルトは両乳房の間を通し、腰ベルトは恥骨結合上に置き、いずれのベルトも妊娠子宮を横断しない」という正しい方法を指導することに留意していただきたい。ともあれ、妊婦には極力車の運転をさせないようにお願いしたいものである。
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