(関連目次)→地方医療の崩壊 実例報告 地域医療をまもる取組み
(投稿:by 僻地の産科医)
日本医事新報 No. 4430(2009年3月21日号)からo(^-^)o!
。
この号、いろいろと面白いのですが、
ティアラ鎌倉設立の経緯を読んでいると、
いかに鎌倉市が困ってたかよくわかります。
ただ、あんまりうまくいくのかどうか、
文章を読んでもよくわからないんですけれどね。。。
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鎌倉市医師会立産科診療所新所長に前田所長代行
神奈川新聞 2009年3月30日
http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/entryivmar0903673/
「地元で産みたい」を現実に
―医師会立産科「ティアラかまくら」の挑戦―
(日本医事新報 N0.4430(2009年3月21日)p16-19)
去る2月17日、鎌倉市に医師会立の産科診療所「ティアラかまくら」が開院した。市内でお産ができないという状況を改善するため、鎌倉駅前のデイケアクラブを改修。医師会が運営を担い、財政面を市が負担するという全国にも例がない試みは、危機的状況にある産科医療を救う試金石となりうるのか。
市内での出産、19年度は全体の3割
湘南の海と山に囲まれ、歴史的建造物が数多く建ち並ぶ古都・鎌倉。国内外から多くの観光客を集めるこの町で、産科医療の危機的状況が表面化したのは平成18年3月のこと。市内でお産を扱う診療所がゼロとなり、唯一産科が残る湘南鎌倉総合病院でしかお産ができない状態となったのだ。
同病院は542床の病床を有し、産婦人科も年間1200人以上のお産を扱う地域の基幹病院。しかし、三浦半島だけで年間1000人、県全体では7000人にも上るといわれる「お産難民」を抱える神奈川県においては、それも焼け石に水。鎌倉市に加え、同じく産科不足に悩む近隣の藤沢市、横浜市からも妊婦が殺到する同病院に、市内のお産を一手に引き受ける余力は残っていなかった。
その結果、19年度に鎌倉市で出生届を提出した1274人のうち、市内での分娩はわずか376件(約30%)にとどまり、市外での分娩(県内他市530件、県外231件)を大きく上回った。市内の産婦人科医院でも、検診は行うが、お産は逗子など市外に送るという状況が続き、市民から「市内で出産できるようにしてほしい」との要望が相次いでいた。
市が医師会に開院打診
当初は反対意見続出
こうした状況を前に、鎌倉市では現在まで直営の医療機関を持っておらず、医師確保などのノウハウがなかった。さらに、市のの事業として新たに産科診療所を設立するためには、5年以上の長い歳月を要することが予想された。
一方で、お産場所の確保はまさに「喫緊の課題」。事態を収く見た市は18年10月、市医師会に医師会立産科診療所の開設を打診した。
この申し出に対し、医師会内では当初、反対意見が続出したという。医師会立の産科診療所という形態は前例がなかった上、麻酔科や小児科などのバックアップ体制、訴訟リスクなどへの対応も未知数―というのがその理由だ。
医師会が負担強いられるのでは「本末転倒」
産科診療所開設実行委員会の代表を務めた市産婦人科医会の矢内原 巧会長は当時の状況をこう振り返る。
「みんなお産の送り先探しに奔走していたので、診療所を作ること自体には賛成でした。しかし病床数の問題から数年は赤字となるのが目に見えており、訴訟などの問題と併せて、医師会が負担を強いられるのでは本末転倒。医師確保の難しさや、診療所での勤務が会員の義務とされることへの懸念もあり、当初は産婦人科医会として『市立にすべき』と反対しました」
実際、開設当初の見込みである年間300~360分娩で産科診療所を運営した場合、初年度で約7000万円、2年目以降も年間約4000万円を超える赤字が想定されるという。
さらに、この分娩数では常勤の麻酔科医や小児科医を置くことも難しく、不測の事態には連携先の病院に頼らざるを得ない。その上、海と山に囲まれた「天然の要塞」という側面もある地域特性が道路の大渋滞を引き起こし、救急搬送に多大な影響を与えているという事情もある。正常分娩しか扱わない診療所とはいえ、訴訟の問題も決して無視できるものではなかった。
「市が財政負担」 協定書調印が契機に
こうした問題を解決するため、市と医師会は20年5月13日、
①既存施設(デイケアクラブ)の改修費、設備投資、家賃などを含め、診療所の運営費を市が補助する
②運営に伴い発生した紛争・訴訟に対し、市が積極的に支援する
③重要事項については、両者の合意の上に対処する
――ことなどを盛り込んだ協定書に調印。
「市の方針は当てにならない」「市長が代わった時にどうなるか」との医師会員の懸念に対し、医師会長と市長が公印による協定書を結ぶことで、「運営主体は医師会」「財政負担は市」という形態を明確にした。
これを契機に産科開設への動きは一気に加速し、協定書調印の原口には矢内原氏を代表とする産科診療所開設実行委員会を設置。
同年8月には、候補地となっていた鎌倉駅前のデイケアクラブの改修工事が始まり、10月までに医師、助産師、看護師らスタッフも決定。今年2月17日の開院を迎える運びとなった。
「今どうするか」への一つの答えに
医師会立の産科診療所という日本初の試みについて、矢内原氏は「これだけ世の中の注目が集まってプレッシャーもかかりますが、産婦人科医会としても、いい『診診連携』『病診連携』の体制を築くために前向きなシステムを考えていきたい。『産科医療の危機』という現状に対し『今どうするか』の答えの一つを与えることができればいいと思っています」と意気込みを語る。
市医師会の細谷明美会長も「まだ最初の8床がうまくいくかも分かりませんが、ゆくゆくは年間450分娩くらいに増やし、黒字を増やして補助金を市に返していきたい」と前向きだ。
「例えば『市内の病院の空き病床を提供してもらい、正常分娩を産科医、助産師が出張して行う」「診療所をオープンシステムにして、紹介してくれた先生がお産に付き添えるようにする』などの方法が考えられます。これで鎌倉市が成功したら、全国でもぜひ実施してほしいですね。そうすればお産難民もいなくなるのではないでしょうか」
鎌倉市「市民がさまよう状況許されない」
一方、施設の改修費用として20年度予算で約1億7000万円、さらに初年度の補助金として21年度予算で約7800万円を計上している鎌倉市は、今回の財政負担について「医師会立の診療所に公費を投入する形だが、実態は市民のための負担」と強調する。
同市・市民健康課の井上道子課長補佐は「産科診療所がバタバタと閉じている中で、市民がお産のためにさまよっている状況は、市として許されることではありません。地域医療を支えるという使命でプロジェクトを立ち上げ、市としても公費を出しています」と説明し、市民の理解を求めている。
市民ら交えた「運営協議会」設置を計画
ただし、公費を支出する事業である以上、「透明性の確保」も重要な課題だ。この点について市と医師会では、医師以外の市民、外部の専門家らも交えた「運営協議会」の設置を計画しているという。
「運営協議会はもちろん『チェック機構』としての役割も担いますが、それ以上に我々が期待しているのは外部からもたらされる新しいアイデア。前例のない事業である以上、関係者だけでは思いつかないような新しい取り組みをどんどん募集し、採り入れていきたいと思っています」(同市・市民健康課)
開院直後に所長辞職も「診療に問題なし」
開院からまもなく1カ月。すでに続々と赤ちゃんが誕生し、運営が軌道に乗り始めているティアラかまくら」だが、今月初めには開院に携わった所長が人事権を巡る医師会との対立を理由に突然辞職するなど、その道のりは決して平坦とは言えないようだ。
しかしこの問題について細谷市医会長は「もともとスタッフが潤沢な上、パートの医師2名も確保できており、診療には支障はない。妊婦さんもまったく心配はないので、安心して通ってほしい」と述べ、10月以降まで予約で一杯という診療計画には支障がないことを強調。
産婦人科医会の矢内原会長も「今はまだ始まったばかりで、完全に手探りの状態ですが、あれもこれもとリスクばかり考えていても話は先に進まない。こういった問題を一つ一つ解決しながらどんどん新しいアイデアを出し、長く続けられる運営をしてほしい」と期待を込める。
文字通り崩壊の危機に瀕している地域の医療現場において求められているのは、まさに「今日、明日の医療をどう確保するか」という取り組みだ。
自治体と医師、そして市民が手を携えて地域医療の危機に立ち向かっている「ティアラかまくら」の挑戦は、日本の医療を救う試金石となりうるのか。今後の動きに注目したい。
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