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(投稿:by 僻地の産科医)
先進国で実質最悪の幼児死亡率!
PICU整備で改善へ
厚労省検討会が第1回会合
平田 直樹
MTpro 2009年3月5日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0903/090309.html
新生児死亡率は先進国中最も低いのに,幼児死亡率は実質的に最も高い―この現状を改善しようと,厚生労働省(厚労省)の「重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会」※が発足し,昨日(3月4日)第1回会合を開催した。
高い幼児死亡率の大きな原因としては,重篤な患児が適正な救急医療を受けられないで死亡している現状が考えられる。同検討会では,小児の救命救急医療体制の強化,特に小児集中治療室(PICU)の整備について議論し,5月末をめどに見解を取りまとめる方針だ。
他殺が多い米国に次いで2番目に高い死亡率
小児救急医療体制の整備はなぜ必要なのか。わが国の現状について報告した委員の山田至康氏(順天堂大学浦安病院救急診療科教授),植田育也氏(静岡県立こども病院小児集中治療センター・センター長)が揃って引き合いに出したのは,平成19年度厚労科学研究「乳幼児死亡に関する研究」が示す次のデータだ。
それによると,わが国の生後28日未満の新生児死亡率は出生1,000対1.8と経済協力開発機構(OECD)加盟国中第1位の低さだが,1~4歳の幼児死亡率は同1.2と21位に下がり,先進14か国に限ると米国に次いでワースト2位となる。しかも,植田氏によると,米国の幼児死亡率の高さは他殺の多さによるもので,実質的にはわが国の乳幼児死亡率は先進国中最悪である。
このデータについて,「世界一低い新生児死亡率のために,1~4歳に死亡が持ち越されたのではないか」とする解釈も示されているが,同氏は「幼児の死因のうち,周産期に発生した病態は1.5%しかない。また,わが国と同様に新生児死亡率が低いスウェーデンやオーストラリアでは,幼児死亡率が上昇するような傾向は見られない」と反論した。
多くの患児が小規模施設で集中治療を受けることなく死亡
わが国で1~4歳の幼児死亡率が高い原因については,山田氏がいくつかのデータを分析し,小規模施設で集中治療を受けることなく死亡している例が多いためだとの推論を示した。例えば,死亡小票に基づく調査では,2005~06年の1~4歳の幼児の死亡は1,880例だが,うち314例は同期間に他に死亡例がない施設で死亡している。また,別の調査では外因性疾患による場合でも,過半数の症例が救命救急センターのない施設での死亡である。
こうしたことから,小児の高次救急医療体制の整備によって,高い小児死亡率を改善することが期待される。座長に選出された中澤誠氏(総合南東北病院小児・生涯心臓疾患研究所所長)は,「小児救急においては初期から高次救急までの連続性が重要。わが国では,すべての段階で体制整備が不十分だが,初期救急や二次救急については,これまで厚労省も対策を行ってきた。しかし,高次救急についてはまったく未整備な状態と言える」と指摘した。
PICUをどう整備するか? 1型か2型か
高次救急の整備を進めていくうえで核になりそうなのが,小児を対象とした集中治療室(ICU)の整備だ。わが国の現状はどうだろうか。救命救急センターに設置されている小児救急専門病床(小児専門集中治療室)は6施設に合計19床しかなく(表1),小児専門病院のPICUも15施設に合計160床設置されているのみである(表2)。
後者の小児病院設置の小児専用タイプが1型PICU,前者の救命救急センターに設置される成人共用タイプが2型PICUと呼ばれるが,両タイプの特性を踏まえ,どちらのタイプをどう配備するかは,地域の一般小児医療との連携の問題などと並んで,同検討会の重要論点のひとつになりそうだ。阪井裕一氏(国立成育医療センター総合診療部部長)からは,PICUの整備について「重点化・集約化がポイント」との意見が出された。
なお,植田氏は静岡県の例を元に,PICUの導入は内因性・外因性疾患ともに治療成績を向上させ,カバーする医療圏の小児死亡を減少させると指摘し,国レベルで PICUを整備することの意義を強調した。
※[メンバー] ○座長
阿真京子 「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会 代表
有賀 徹 昭和大学医学部救急医学講座 主任教授
石井正三 日本医師会 常任理事
市川光太郎 北九州市立八幡病院 副院長/北九州市立八幡病院 小児救急センター長
植田育也 静岡県立こども病院小児集中治療センター センター長
上野 滋 東海大学医学部小児外科学 教授
阪井裕一 国立成育医療センター総合診療部 部長
杉本 壽 大阪大学医学部救急医学 教授
田中 裕 順天堂大学医学部 救急災害医学 教授
○中澤 誠 総合南東北病院 小児・生涯心臓疾患研究所 所長/日本小児科学会小児救急委員会 委員長
宮坂勝之 長野県立こども病院 院長
山田至康 順天堂大学浦安病院 救急診療科 教授
渡部誠一 土浦共同病院小児科 部長/日本小児科医会小児救急医療委員会 委員長(敬称略、五十音順)
[オブザーバー]
総務省消防庁
小児救急関連の先生方とは委員会等でご一緒しますが、みな素晴らしい先生です。
投稿情報: 江原朗 | 2009年3 月10日 (火) 21:20
日本の乳幼児の死亡原因1位は不慮の事故。その中でも溺死が最多であると記憶してますが・・・。
PICU 整備もいいですが、両親への啓発(洗濯目的で浴槽の水を抜かないことによる事故が多い)や用水の暗渠化工事に金をかける方が大事では?
ああ、そういえば不慮の事故の第二位は、誤嚥、窒息ですよね。これも親への啓発の方が大事では? PICU 整備を報道する前にマスコミはやることがあるのでは? 本当に子供のことを思うのならね。
それから、階段・ベランダからの墜落も多い。ハウスメーカーや工務店も、子供の安全という面からやることがいっぱいあるんじゃないでしょうか? 「快適な空間」「地震や火事にも安心」ってのはやたらと宣伝してますけどね。
なんとなく報道の基本的な方向が間違っている(医療のリソースが足りないから子供が死ぬというイメージを抱かせる)様な気がして、気になります。
投稿情報: 国家試験知識程度 | 2009年3 月11日 (水) 16:37
実際の所、PICUを作ってどれくらい救命率が上がるのかが、いまいち産婦人科の私にはよくわからないんです。
でもなんだかとても違和感があって。
NICUだって崩壊しかけている今日この頃。
どんな疾患で、どれだけ助かる見込みがあるのか???
そもそもそんなに医療費投入できるほど受入れできるのか?
今の日本は高度医療がどんどん崩れ始めている(実感として)状態なのに、PICUなんて夢のまた夢なんじゃない?なんて思うわけです。
ICUに勤めていた頃はそういえば子供も普通にICU入っていましたし、(心臓手術後だけでなく、虐待による脳出血手術後の子とか)それとPICU整備も結びつかないし。。。。。
ただ単に、小児科医が足りないだけなんじゃ。。。という気がするんです。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年3 月11日 (水) 17:02
導入によってどれぐらいの数字の改善が見込めるのか事前に提示した上、毎年、ほんとうに費用をかけただけの効果が上がっているのか、厳しく検証を続けていくべきでしょう。
そもそも人が配置されないのであれば絵に描いた餅ですし、費用と人材を投入して当初目標に漸近できないのであれば、それは机上の空論だったということです。
投稿情報: rijin | 2009年3 月12日 (木) 02:30