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(投稿:by 僻地の産科医)
うう(>_<)!!!
日本エイズ学会、行けなかったんです。
でもなんとなく、しかわかりませんけれど。
(母児感染のセッションしかあんまり関係ないんですよね)
第22回日本エイズ学会
HIV合併症と治療対策の現状と課題
Medical Tribune 2009年2月26日号(VOL.42 NO.9) p.14
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M42090141&year=2009
多剤併用療法(HAART)が普及し,エイズ患者の予後は改善されてきたが,合併症を持つ,あるいは治療方針の決定が容易でない症例も少なくない。大阪市で開かれた第22回日本エイズ学会(会長=京都大学ウイルス研究所・小柳義夫教授)のシンポジウム「抗HIV療法をいつ,どの薬剤で始めるか―症例経験から考える―」(座長=奈良県立医科大学病院感染症センター・古西満准教授,国立国際医療センター戸山病院エイズ治療・研究開発センター臨床研究開発部・菊池嘉部長)では,最新のガイドライン(GL)や,さまざまな疾患を合併した症例に対する各施設の治療経験や課題について活発な議論が行われた。
〜ガイドライン改訂〜
エイズ指標疾患以外の発症予防を視野に治療の早期導入を
東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野の小田原隆講師は,無症候期の抗HIV療法導入基準に関する最新のGLを紹介。改訂の根拠となった背景やエビデンスを概説し,「無症候期で見つかったHIV感染症の治療は,慢性疾患の治療に近付いた印象がある。治療目標を説明し,患者にはアドヒアランスの重要性をさらに強調すべき」と述べた。
CD4数350/μLからHAART開始を
2000年以前は早期治療が望ましいとされていたが,2007年ころまでは,抗HIV療法の副作用を考慮する立場から,CD4数が200/μLに近付くまで治療を待つべきとの意見が主流であった。しかし,DHHSやIASの最新GLではCD4数350/μLからHAARTを開始するよう推奨されている。
このような治療早期化の根拠として小田原講師は,(1)SMART(Strategies for the Management of Anti-Retroviral Therapy)試験によってHIVはエイズ以外の疾患リスクも高めることが明らかにされた(2)治療開始の遅延によりCD4数の回復が悪いという観察研究がある(3)治療開始の遅れにより副作用出現頻度も上昇(4)忍容性が高く抗ウイルス効果も安定した薬剤の開発により治療失敗リスクが減少した―と指摘した。
SMART試験はCD4数が350/μLまで回復した時点でHAARTを中断する群と350/μL以上でも治療を継続する群を比較したランダム化試験で,治療遅延群では予想に反して,心血管疾患(CVD),腎疾患,肝疾患などの非エイズ疾患リスクも有意に高くなることが示された*。HIVがCVDリスクを上昇させる原因は未解明だが,炎症反応の増大や凝固の亢進が原因ではないかとの仮説があり,それを傍証する研究もある。
初回治療の推奨処方は各国のGLで多少の違いはあるが,NNRTIまたはRTVで,ブーストしたPIをキードラッグとし,NRTI2剤の合剤を組み合わせる点は共通している(表)。
同講師は「これまでは日和見疾患を起こす前に治療開始することを勧めてきたが,現在の指針に従った治療を行うには新たな治療目標の説明が必要である」と述べた。
*NEJM(2006; 355: 2283-2296), JID (2008; 197: 1133-1144)
〜B型肝炎合併例〜
B型肝炎治療薬単剤治療は避けるべき
HIVとB型肝炎ウイルス(HBV)は共通の感染経路を持つため,HIV感染者の5〜10%は慢性HBV感染症合併例だという。国立病院機構大阪医療センター免疫感染症科の富成伸次郎氏は「耐性変異の出現を防ぐためにもB型肝炎治療薬単剤の治療はすべきでない」と述べた。
いずれかの適応ならHAARTの対象
HIVとHBVの重複感染例では,HBV単独感染に比べて肝疾患による死亡リスクが19倍,HIV単独感染に比べて8倍以上に上昇すると言われている。しかし,NRTIである抗ウイルス薬にはHBVとHIVの双方に効果を有するものが存在する(表)ことから,富成氏は「HBV合併HIV感染者に対する抗HIV療法には特別な配慮が必要だ」と述べた。
DHHSの最新GLでは,初回HAARTはキードラッグとしてPIまたはNNRTI+2剤のNRTIを推奨しており,いくつかのNRTIの組み合わせを示しているが,すべての組み合わせに抗HBV効果も有する薬剤が含まれている。したがって,GLに従ったHAARTを行うことは,そのままB型肝炎治療薬の開始になる。
しかし,HIVの治療適応があるHBV合併症例には,抗HBV効果のあるNRTI 2剤を含むHAART,すなわちFTC(または3TC)+TDFを含むHAARTを行うべきであるという。なぜなら,例えば3TCを単独で使用すると,1年でHBV耐性の1つであるYMDD変異が約20%に出現するが,これはHIV陰性患者の場合よりも高率である。また,3TC単剤では耐性HIV(M184V変異)も出現しやすい。
消化器科と連携してフォローを
一方,日本のB型慢性肝炎治療GLでは,インターフェロン(IFN)あるいはエンテカビル(ETV)が推奨されている。ETVは3TCよりも抗HBV効果が高く耐性株の出現も少ないとされているが,HIV陽性患者では1年で7%に耐性が出現する。また,ETVは抗HIV効果も有するため,HIV陽性患者に単剤で用いるとM184V耐性を誘導しうる。富永氏自身,3TCあるいはETVのみによるHBV治療歴のある患者でHAART開始前にHIV耐性変異を持っていた症例を経験した。したがって,HBVの治療適応のみを有するHIV感染者に対し,IFNによるHBV治療選択は残されているが,FTC(または3TC)+TDFを含むHAARTを開始すべきである。
最後に,同氏は「HBV合併HIV感染者は,HIVあるいはHBVいずれかの治療適応があった段階でHAARTの導入対象とすべきである。HBV治療の適応については,HBVマーカー,HBV-DNA量,ALT,肝の線維化度合いなどを参考にするため,消化器科とも連携を図り定期的にフォローする必要がある」と結んだ。
〜結核合併例〜
HAART開始まで3か月が現状
HIV感染症合併結核に対するHAART開始のタイミングに関してはエビデンスのある指針はないのが現状である。国立病院機構東京病院外来診療部の永井英明部長は最近のGLの内容を概説する一方,同院における治療例を紹介。「世界的にはHAARTをできるだけ早期に開始すべきとの考え方がすう勢だが,抗結核薬の副作用や他の合併症の治療などもあり,CD4数350/μL以下の患者ではHAART開始までに12週間程度要するのが現状だ」と述べた。
8週以前の開始は難しい
永井部長はまず,HIV感染症合併結核の治療上の問題点として,(1)抗結核薬の副作用が発生しやすい(2)リファマイシン系薬とNNRTIとの相互作用(3)免疫再構築症候群(IRIS)の出現(4)薬剤数の多さ―の4点を挙げ,臨床医としてはHAART開始をできるだけ遅らせたいと述べた。
一方,免疫機能が著しく低下すると日和見感染症を合併しやすい。DHHSが2008年に出した指針では,CD4数100/μL未満では2週後,100〜200/μLでは8週後,200〜350/μLでは症例により8週後の開始が望ましいとし,8〜24週後または結核治療後までHAARTを遅らせてもよいのはCD4数350/μL以上とされている。
しかし,IRISはHAART開始後8週目までに起こりやすいことや,結核治療の1つであるピラジナミド(PZA)治療が8週間で終了することから,8週以前のHAART開始には課題が多い。治療レジメンとしては,EFVとNRTI2剤+リファンピシン(RFP)が第一選択,PIとNRTI2剤 +リファブチン(RBT)が第二選択として推奨されている。
他の合併症も多い
永井部長らは,HIV感染合併結核症例64例中61例に結核治療を施行。そのうち42例に抗HIV療法を行ったが,結核治療先行例は36例で,同治療終了以前にHAART開始に至ったのは28例であった。64例中51例(80%)は結核以外にもカンジダ症,サイトメガロウイルス感染症,その他さまざまな合併症を有しており,HIV感染者で合併症が結核のみの患者は少ないことがわかる。
結核治療の副作用は61例中21例(34.6%)に現れ,薬疹,肝障害,白血球減少,発熱などが多かった。これら症例に対して減感作療法を行い90%以上で成功に至ったが,この治療に2〜4か月を要したことがHAART開始が遅れる要因ともなった。
28例中18例がCD4数100/μL未満,8例が100〜200/μL,2例が200〜350/μLだったが,副作用の出現頻度はCD4数が少ないほど高い傾向が見られ,副作用の90%は8週間以内に出現した。さらに,最終的にはCD4数にかかわりなくHAART開始までは平均12週を要した。
以上から,同部長は「抗結核薬の副作用や合併症の治療もあり,HAART開始まで少なくとも8週間は待たざるをえない。EFVベースのHAARTとRFPでは薬疹が多く,PIとRBTではビリルビン高値となる場合がある。この場合はRBTによる肝障害との鑑別が難しい」と述べた。
〜MAC感染症合併例〜
特異的症状はなく鑑別診断が難しい
HIV感染症に合併する非結核性抗酸菌症はCD4数50/μL未満の高度免疫不全状態で発症する場合が多く,その原因として多いMycobacterium avium complex(MAC)感染症に特異的な症状はなく鑑別診断が難しい。東京都立駒込病院感染症科の今村顕史医長は,同感染症の問題点などについて解説した。
ALP単独上昇がヒントになる場合も
HIV感染者ではMAC感染症は全身播種しやすく,播種性MAC感染症の95%はMACによるものである。播種性MAC感染症による発熱は鑑別診断が難しく,治療選択やHAART開始時期に関して考慮すべき点が多い。検査所見ではアルカリフォスファターゼ(ALP)の単独上昇はMAC感染症を見分けるのに役立つ場合がある。画像所見では肝脾腫や腹部・大動脈周囲のリンパ節腫大が認められることがあるが,確定診断には血液培養やリンパ節あるいは骨髄の生検が必要とされる。結果を得るまでに時間を要するため,実地臨床においては診断的治療が求められることも多い。
播種性MAC感染症治療は耐性出現を防ぐため2剤以上の使用が基本で,クラリスロマイシン(CAM)またはアジスロマイシン(AZM)を1剤目とするのが標準である。CAMはAZMよりも早く菌陰性化をもたらすとされているが,2剤目の標準薬であるエサンブトール(EB)を併用した場合は同等との報告もある。
播種性MAC感染症例ではほとんどの場合,3剤目の治療薬も必要となる。推奨薬はリファブチン(RBT)で,代替薬としてニューキノロン系薬,アミカシンが使用可能である。
薬物相互作用の理解を
MAC感染症治療とHAARTを同時に行う場合,薬物相互作用の理解が不可欠だ。CAMはATV,LPV,FPVの血中濃度曲線下面積(AUC)をそれぞれ94%,77%,18%上昇させ,GLではATVと併用する場合はCAMを50%減量すべきとしている。RBTとCAMを併用した場合,RBTのAUCは56%上昇し,CAMは50%低下するとの報告もある。RBTはPIやNNRTIとの相互作用もあり,通常量は300mg/日だが,併用薬により増減が必要となる。2〜4週間の治療で改善しない難渋例の場合,CAMとAZMの感受性検査を行ってもよいが,その他の薬剤に検査の意義はなく,過去に用いていない2種類の薬剤を選択することになる。
最後に,今村医長は「MAC治療開始後1〜2週間以内のHAART開始は現実には難しいが,開始時には他の合併症,薬剤相互作用,副作用,食後内服の可否,免疫再構築症候群(IRIS)にも注意する必要がある」と述べ,さらに「CD4数100/μL超が3か月以上維持できた場合,MACに対する一次予防の終了としてよいが,二次予防の終了基準はない。治療を12か月以上継続し,再発の徴候がなくCD4数100/μL超が6か月以上維持できれば二次予防の終了としてよいかもしれない」と述べた。
〜エイズ関連悪性リンパ腫〜
HAART併用化学療法で予後改善
エイズ関連悪性リンパ腫(ARL)はHIV感染者で発生頻度が高く,診断時点で進行例が多い予後不良の合併症である。国立国際医療センター戸山病院エイズ治療・研究開発センターの田沼順子氏は,同センターの治療成績から「化学療法とHAARTの併用でARL患者の予後は改善する」と述べた。
診断時のCD4数とHAARTの有無が予後に影響
田沼氏によると,1998〜2008年8月に同センターで治療したARL患者は47例(男性45例,女性2例,平均年齢41歳)。組織分類ではびまん性大B細胞型リンパ腫(DLBCL)が大半を占め,バーキットリンパ腫,ホジキンリンパ腫が続く。診断時の病期(Ann Arbor分類)はステージIVが約70%を占め,CD4数は半数の患者で100/μL以下であった。
5年全生存率(OS)は約45%だが,診断時のCD4数別に予後を検討したところ,CD4数100/μL以上群ではCD4数100/μL未満群に比べて5年OSが有意に高く,CD4数が予後予測因子の1つであることが示唆された。また,HAARTあり群の5年OSは,なし群に比べ有意に改善していた。さらに,HAARTを積極的に併用するようになった過去5年間に診断された症例のOSは2002年以前に診断された症例に比べて有意に優れていたことからも,HAART併用がARL患者の予後改善に寄与していることが推察された。
HAART併用R-CHOPの臨床試験を開始
ARLに対してどのようなHAARTを行うべきかに関して,BHIVAが最近発表したGL*では,TDF/FTC+ EFV,あるいはABC/3TC+EFVが推奨されている。また,PIを使用する場合でも,化学療法の副作用リスクを避けるためにRTV併用は避けるべきとなっている。
同センターではNRTIとして,近年はABC/3TCを使用する例が多く,TDF/FTCは避けている。TDFによる腎機能障害への影響を考えてのことであるという。一方,キードラッグは,2007年以降はFPVを最も多く使用しており,LPV,ネルフィナビルがこれに続く。英国のGLでは,NNRTIのEFVが推奨されているが,田沼氏らは精神症状と相互作用の副作用を考慮して同薬は避けている。
同センターでは未治療のHIV関連非ホジキンリンパ腫に対するR- CHOP療法とHAART併用の有用性を検討する臨床試験を昨年度から開始している(UMIN-CTR1452)。悪性リンパ腫に対する新しい標準化学療法であるR-CHOPを1コース終了後,HAART(FPV+ABC/3TC)を併用し,日和見感染症に対する支持療法も同時に行う計画であるという。
最後に,同氏は「HAART併用によりARLの予後は改善されるが,集学的治療が求められるので,さらなる情報蓄積が望まれる」と述べた。
*HIV Medicine(2008; 9: 336-388)
〜免疫再構築症候群〜
HAART前に日和見感染症の評価と治療を
HAART導入により,HIV感染者の予後は著明に改善したが,当初予想されなかった副作用として免疫再構築症候群(IRIS)などの問題がある。奈良県立医科大学病院感染症センターの善本英一郎氏は,わが国のIRISに関する調査データからその臨床像や危険因子,対応策などを解説。CD4数が低い症例では日和見感染症に対する治療を施行したうえでのHAART開始が望ましいと述べた。
CD4数増加が大きいと発症しやすい
IRISとは,免疫不全が進行した状態で抗HIV治療を開始した後に日和見感染症などが発症・再発・再増殖することを指し,症例の定義としてはShelburneらが提唱したものが知られている*。
善本氏らは,1997〜2003年に8施設を対象にHAART施行例におけるIRIS発症率やその病態についてアンケートを行った結果(厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業"HAART時代の日和見合併症に関する研究"),HAART施行例数は計2,018例で,そのうち176例(8.7%)にIRISが発症したが,施設間でかなり差が認められた。IRISと判断された病態で多かったのは,帯状疱疹,非結核性抗酸菌症(NTM),サイトメガロウイルス感染症(CMV),ニューモシスチス肺炎(PCP),結核症(TB)だが,これらの頻度も施設間でばらつきが認められた。
HAART開始後6か月以内にNTM,TB,PCP,CMV発症によりIRISと診断された66例と同期間にIRISを発症しなかった162例の臨床データを検討した結果,HAART開始前にエイズを発症していた症例では,IRIS発症群と非発症群との間で,へモグロビン値,CD4数,CD8数,HIV-RNA量,総蛋白値に有意差が認められた。CD4数50/μL以下の症例に限定すると,IRIS発症群ではヘモグロビン値とCD4数が非発症群より有意に低く,HIV-RNA量は有意に多かった。
一方,HAART開始1か月後のデータを比較すると,IRIS発症群では非発症群と比べてCD4数とCD8数の増加率が有意に大きく,HIV-RNA量は有意に減少しており,HAARTの治療効果が大きい症例ほどIRIS発症リスクが高いことが示唆された。
免疫再構築症候群に関するエビデンス構築を
HAART治療中にIRISを発症した場合の対処法について,善本氏は「HAART継続が基本であり,IRISの疾患に対する治療と過剰な炎症が認められる場合には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)やステロイド薬の投与を考慮すべきである」とした。
IRISの発症を予防しながらHAARTを開始する方法やタイミングについての統一見解はまだないが,HAART開始前に体内の病原体抗原量を減らしておくことはIRISの発症予防に寄与する。HAART開始前にMycobacterium avium complex(MAC)に対する抗菌薬を予防投与することでIRIS発症率が抑制されたとの報告もあり,特にCD4数が低い症例では日和見合併症の有無を評価し,十分治療してからHAARTを開始することが,IRIS発症予防にもつながると考えられる。
最後に,同氏は「IRISに関するエビデンスはまだ不十分であり,今後さらなる研究が待たれる」と述べた。
*Shelburne SA, et al. J Antimicrob Chemother 2006; 57: 167-170.
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