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(投稿:by 僻地の産科医)
医師引き上げで地域の婦人科腫瘍医療も崩壊の危機
周産期医療崩壊の影響――足りないベッド,手術枠
MTpro 記事 2009年1月26日
軸丸 靖子
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0901/090113.html
産婦人科医の引き上げによって,周産期医療だけでなく,地域の婦人科腫瘍医療も崩壊の危機に瀕し始めている――こんな実態が,日本産科婦人科学会の調査から示された。二次医療機関などで産婦人科医師の引き上げ,診療科の閉鎖が相次いだ結果,大学などの拠点病院に婦人科がん患者が急増,ベッドや手術枠が確保できず,手術を延ばす例もあるという。再発がん検診の外来診療や終末期治療で患者ニーズに応えられない懸念も出ている。
3年で患者倍増の大学病院も
「喜んでいるのは教授だけ」の現状
同学会拡大産婦人科医療提供体制検討委員会の婦人科腫瘍分野担当,吉川裕之氏(筑波大学婦人周産期医学教授)が,1月25日に都内であった会合で中間結果を報告した。
まず,同学会の婦人科浸潤がん(子宮頸部,子宮体部,卵巣)登録数を施設別に2004年と07年で比較すると,三重大学の42件から95件(増加率226.2%)をはじめ,群馬大学,熊本大学で160%台の増加,鹿児島大学,筑波大学で130%台,東北大学で120%台の増加と,わずか3年で大幅な患者増が認められた(07年の数字は一部未確定を含む)。
がん治療の集約化は国策にかなった話であり,大学病院など高次医療機関にとっても,診療効率・診療レベル向上の面から歓迎すべき傾向だ。だが,ベッド数,医師数とも増えていない状態で短期間に患者が2割,3割増加すると,医師が疲弊するだけでなく,十分な治療機会を患者に提供できないことになってしまう。
吉川氏らが,全国の同学会地方部会に地域婦人腫瘍医療の現状について報告を求めたところ,36都道府県から回答が得られた。特に大変,との声が上がったのは,宮城,茨城,三重,群馬,熊本,そして新生児集中治療室(NICU)も産婦人科医が診ている鹿児島の6県。
「崩壊寸前」(宮城),「現在のところ支障はないが,今後NICUを設置することに決まったため,母体搬送など周産期管理の比重が益々大きくなると予想される。その影響で婦人科腫瘍にかかわる人数確保が困難になり,腫瘍診療に支障を来すことが危惧される」(山形),「地域での分娩取り扱い施設減少による(高次施設での)分娩取り扱い数の増加が,婦人科診療を困難にしてきている」(富山)など,周産期医療崩壊の影響が婦人科腫瘍診療に及んでいることがうかがえた。
なかでも,県北唯一の三次医療機関である日立製作所日立総合病院で今年(2009年)4月に産婦人科医が東京大学へ引き上げ(8人から1人)となる茨城県は、「分娩は院内助産で継続としているが、がん治療は中止予定となっている。日立総合病院に限らず、中核病院における分娩中止は人員減によるもので,同時に婦人科がん治療の中止を意味している」と指摘。「婦人科がんの取り扱いを残した医療機関でも,治療に制限を設け,重症症例の多くは大学病院に紹介してきている。大学の負担増ははかりしれない」と窮状を訴えている。
ただ,こうした傾向は北関東に顕著で,西日本では「不都合を感じていない」(大阪)など影響は少ないとする府県が多く,地域差が目立った。吉川氏は,産科で手がいっぱいになった結果,婦人科がん患者は大学病院に送る流れが出てきている,と分析しながら「婦人科の腫瘍担当医が産科当直も担っている現状では,現場は疲弊するばかり。『喜んでいるのは教授だけ』という状態だ」と危惧する。
「終末期の患者をどう診ていくか」
総合討議では,高次医療機関での治療確保の苦悩や,高次医療機関では担いきれない終末期医療,初期治療後のフォローアップ体制に話が及んだ。
「婦人科がんは,診断から手術までがもっとも急がれるがんの1つなのに,手術枠が取れないために手術が遅れるという問題が顕在化し始めている。まず麻酔科医が足りないのだが,卵巣がんなどは待てないので自科麻酔でやっている」と話した三重県の産婦人科医は,患者への影響を指摘。
「治療や手術そのものが大変というより,ベッドを取るのが大変,手術の枠を取るのが大変という状態が続いている。患者に治療機会を提供するのに苦慮するという事態になってきている」と話した。
前述のとおり,がん治療は一定の診療レベルが担保された中核医療機関に集約を,という流れは国策に沿ったものといえる。だが,初期治療後のフォローアップや終末期ケアは地域の医療機関に期待される役割だ。それが診療科の閉鎖によって満たされなくなる影響は、患者にも高次医療機関にとっても大きい。総合討議ではフロアからもその懸念が指摘された。
「がん診療病院の崩壊というのは,新規がん患者だけでなく,再発の患者にも影響が出る。拠点病院と地域医療機関の連携の仕方を考えていかなければならない」
「地方の病院でも周産期医療が問題になっており,二次医療機関など医師が2~3人いるところは周産期に特化し始めている。そのため,婦人科がん治療をやっている医療機関にターミナルケアが必要な患者が集まってきているが,そうするとベッドが足りないという問題が出てくる。外来にも再発などフォローアップが必要な患者が殺到している。周産期医療が何とかなったとたんに,地域の中核医療機関がバタバタと倒れるのではないか」
吉川氏は会合後,取材に対して,「がん治療は,分娩に比べれば患者が遠距離に対応できる分野。50㎞,100㎞という通院は不可能ではないから,まだあまり表面化していない。だが,分娩を担っている医師の多くはがん診療にもあたっており,分娩施設の減少はダイレクトにがん治療に影響することを考える時期に来ている。周産期医療崩壊が婦人科腫瘍分野に及ぼす影響は,まだ数は少ないが,確実に出てきている」と話した。
>分娩を担っている医師の多くはがん診療にもあたっており,分娩施設の減少はダイレクトにがん治療に影響することを考える時期に来ている。
やっと今頃になって、しかもまだ「考える時期に来ている」って認識ですか。吉川氏、筑波大学婦人周産期医学教授ってことで直接の関係者なんですよね。。。リップサービスとしてもかなり語弊がある気がしますが、どうでしょうか。
投稿情報: お弟子 | 2009年2 月15日 (日) 12:40