(関連目次)→インフルエンザ(流感) 目次 真の医療安全のために
(投稿:by 僻地の産科医)
インフル院内感染防げ―東京・青戸病院の試み
敦賀陽平
キャリアブレイン 2009年2月16日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/20605.html
一昨年、2つの病棟でインフルエンザの集団感染が起こった東京慈恵会医科大附属青戸病院。発生後は、連日のミーティングや全入院患者への感染チェック、面会者へのマスク着用の義務付けなど、職員一丸となって対策に取り組むことで拡大を阻止した。同病院の感染管理認定看護師の長谷部恵子さんは、「組織的な活動によって、感染対策に対する職員一人一人の意識が向上する。そこから院内での感染拡大を防ぐことができるようになった」と、病院内での連携強化の成果を強調している。
【関連記事】
インフルでの休校数、昨年同期の4倍
200万人分のリレンザ追加輸入
うがい、実はインフル予防に効果ない?
新型インフル計画改定版、発生段階ごとに対策
新型インフル流行したら、誰を先に助ける?
■発生から10日間、A病棟の戦い
「感染制御チームが、発足後の手探り状態からようやく軌道に乗り、『これで感染対策を充実して行える』と思った矢先の出来事だった」―。先日、都内で開かれた今年度の都病院管理講習会で壇上に立った長谷部さんは、当時の状況を生々しく振り返った。発生前、青戸病院には感染対策委員会、感染制御チーム(ICT)、リンクナース(感染管理スタッフ)という3つの組織があったが、それでも万全ではなかったという。
2007年の1月末、A病棟から男性2人、女性1人の患者のインフルエンザ感染を確認。すぐに患者を個室に隔離し、抗インフルエンザ薬の内服を開始した。個室不足のため、1人の男性は、病室の患者が1人だけだった6人部屋へ移動。男性にはマスクを着用させ、同室患者との距離も十分に取った。
2日目、さらに4人の患者と看護師1人から陽性反応が出た。病院側は、ウイルスの流出を防ぐため、病棟の扉をすべて閉鎖。扉には入室時の手洗いとマスク着用を促すポスターを掲示し、体調の悪い人に対して面会を制限した。職員には出勤前の検温を徹底し、微熱がある場合は病院での受診に加え、検査の陰性反応を確認した上で出勤するよう指導した。
だが3日目には、別の2人の患者と看護師1人から陽性反応が出たため、院長、関連診療科の医師、病棟師長、ICTによる初の臨時ミーティングを開いた。さらに、新規入院や転棟などを制限する「病棟閉鎖」も実施。重症化が予測される患者や家族への説明のほか、保健所への状況報告も行った。
4日目にも、患者1人と看護師2人に新たな陽性反応が現れたが、5日目以降は患者から新たな感染は見られなかった。患者の回復などを待ち、10日目に「病棟閉鎖」を解除。ようやく「終息宣言」を出すに至った。
■終息の兆しも…今度はB病棟で発生
ところが、A病棟から新たな感染が見られなくなった5日目、B病棟では、退院当日の患者から陽性反応が出ていた。症状が安定していたせいもあり、抗インフルエンザ薬を処方後に患者は退院となった。しかし、病院側は患者がいた病室を閉鎖したほか、新規入院と面会を制限。その後、同室の患者2人が罹患し、患者に抗インフルエンザ薬を投与した。
B病棟では、医療者への感染がなかったため、発症者の解熱から2日後、病室閉鎖を解除し、事態は終息した。
発生時の状況を分析した結果、
▽組織全体での対策が取れていなかった
▽ウイルス流入(感染経路)に無防備だった
▽予防策を現場に任せ切りだった―の3点が問題点として浮かび上がった。
そこで、病院側は院内への周知方法として、▽臨時のリスクマネジメント会議の開催▽「院内速報」による各部署への通知▽リンクナースらによる正しいマスク着用の確認―を徹底。その結果、インフルエンザ発生の連絡が即座に入り、可能な限りの対策がすぐに取れるようになったという。
■予防策の徹底など3つの対策
この経験を生かし、病院側は次のシーズンに向け、
▽院外からのウイルス流入の最小限化
▽発生時の迅速な対応
▽教職員の予防策の徹底―の3つの対策に重点を置いた。
特に、院外からのウイルス流入については、入院時のスクリーニング用に問診票を作成し、有症患者へのトリアージを実施。院内に入る業者や面会者に対しては、警備室前や各ナースステーションにマスクを置き、着用を促すポスターを掲示した。職員には出勤前の体調チェックを徹底し、体調が悪い場合は事前に管理者に連絡させるようにした。
職員の予防策では、ワクチン接種を促進。当直の職員に配慮した接種日の工夫に加え、未接種者への呼び掛けなども実施した。
その結果、今年度のインフルエンザ発生報告数(職員と入院患者)は、一昨年度の約半数に減少。職員のワクチン接種率は、一昨年度が85.7%だったのに対し、今年度は92%まで向上した。また、職員の感染判明時期は、昨年度50%だった「勤務前」が、今年度では66.7%に上昇した。
長谷部さんは、職員の意識が「体調が悪くても仕事を休んではいけない」から「体調の悪いまま勤務すると患者に危険」に変化している現状を説明。「院内感染対策は、組織的な対応がかなり重要。たった一人でてんてこ舞いをしては何にもならないし、“もぐら叩き”のような状況でしかない」と、職員全体での取り組みの必要性を訴えた。
コメント