(関連目次)→医療を理解するには
(投稿:by 僻地の産科医)
院内の迅速対応チームの介入で
心肺停止・死亡率下がらず
Medical Tribune 2009年2月5日号(VOL.42 NO.6) p.01
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M42060011&year=2009
〔シカゴ〕 全米の病院では迅速対応チーム(Rapid response teams)の導入に努めているが,米国中部心臓研究所とミズーリ大学カンザスシティー校(UMKC,ともにミズーリ州カンザスシティー)のPaul S. Chan博士らは,迅速対応チームによって心肺停止率または死亡率は低下しないとJAMA(2008; 300: 2506-2513)に発表した。
数百の病院が導入
これまでの諸試験から,心肺停止の数時間前に生理学的な悪化を呈する患者が多いことがわかっている。救急医療チームとしても知られている迅速対応チームは,集中治療室(ICU)専門家から成る集学的チームで,院内の心肺停止率とその後の悪化または死亡を減少させるためにICU以外の患者で臨床的な悪化の徴候が見られる場合に,その評価,トリアージおよび治療を担う。
ヘルスケア改善研究所(IHI,マサチューセッツ州ケンブリッジ)は,院内死亡を減少させるための6つの戦略の1つとして,迅速対応チームの導入を病院に推奨している。今回の研究の背景情報によると,迅速対応チームの効果を裏づけるデータは少ないが,この推奨に呼応して全米の数百の病院が同チームの導入に多くの費用と人材を投入してきた。
Chan博士らは,迅速対応チームの介入と院内全体の心肺停止率および死亡率の長期的変化との相関を検討した。2004年1月〜07年8月にカンザスシティーにある404床の三次医療大学病院に入院した成人患者を対象に,2005年9月1日〜12月31日に,迅速対応チームの教育および計画を開始した。同チームの介入前(2004年1月1日〜05年8月31日)に患者計2万4,193例の入院データを評価し,介入後(2006年1月1日〜07年8月31日)には,2万4,978例の入院を評価した。
介入前後で致死率に変化なし
迅速対応チームは導入後の20か月間に計376回活動した。同チームの活動理由で最も多かったのは,神経学的状態の変化,130回/分を超える頻拍(異常に速い心拍),30回/分を超える頻呼吸,90 mmHgより低い低血圧であった。1,000例の入院に対する病院全体の心肺停止率は,同チームの介入前で11.2,介入後で7.5であった。これは,一次エンドポイントである病院全体の心肺停止率が低下したためではなく,ICU以外の心肺停止率の低下がこの差の大部分を占めている。
心肺停止後の致死率には,迅速対応チームの介入前後で差は見られなかった(77.9%対76.1%)。同チームの介入後,病院全体の死亡率に有意な変化は見られなかった(入院100例当たり,介入前3.22,介入後3.09)。二次解析から,同チームの不十分な治療または利用不足が,死亡率に影響したと思われる症例はほとんどないことがわかった。
Chan博士らは「今回の試験によって迅速対応チーム介入の効果および限界に関して,重要で新しい理解が得られた。死亡率に対し有益性が証明されていないにもかかわらず,迅速対応チームを全米に普及しようとする推奨が正しいのかという批判的な疑念がもたらされた」と述べている。
コメント