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(投稿:by 僻地の産科医)
迅速な診断と治療が重要
母子双方に有害な産後うつ病
Medical Tribune 2009年2月5日号(VOL.42 NO.6) p.85
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M42060851&year=2009
〔ニューヨーク〕ハックニー精神保健センター(ロンドン)のCharles Musters氏らは「産後の女性すべてにうつ病を疑うべきである。産後うつ病は母子にとってさまざまな有害な結果を招き,さらにそれが長期にわたる可能性もあるため,迅速かつ適切にうつ病の診断と治療を行う必要がある」とするシステマティックレビューをBMJ(2008; 337: a736)に発表した。同氏らによると,高リスクの母親を対象にした研究から個別的かつ集中的な産後支援の有益性を示唆するエビデンスが得られており,心理療法や薬物療法による治療の有用性が示されているという。
精神科での"救急医療"を
産後うつ病の診断で重要なのは,産後の憂うつ(postpartum blues; PPB)および産褥期精神障害(Puerperal psychosis; PPP)との鑑別である。
Musters氏らは「PPPは精神医学上の緊急事態で治療は入院を伴うことが多く,母子ユニットでの治療が望ましい。PPPの発症数は出産1,000例当たり約1例にすぎないが,そのリスクは,双極性障害またはPPPの既往歴のある女性では2例に1例ときわめて高い。このため,すべての産後エピソードを産後うつ病と診断する最近の傾向が危惧される」と指摘している。
PPBは女性の30%以上に見られるが,育児障害はなく,絶望感や無気力さも顕著ではない。また,自殺リスクも低い。この場合,医師の役割は,これらの女性でうつ病が発症していないことの確認と,うつ病への進行を防ぐことである。
産後うつ病は,産婦の13%に発症する。危険因子には,同疾患既往歴またはなんらかの精神疾患罹患歴,妊娠中の抑うつ感または不安感,最近の生活におけるストレスおよび社会的支援の不足,特にパートナーの協力が得られないことなどがある。医師は,リスクの高い女性を出産前に同定しておくべきである。
自殺念慮と子への危害に留意
リスクのある女性の同定には,産後の女性評価に対して広く有効性が認められているうつ病評価スケール(エディンバラ産後うつ病評価スケールなど)を用いるとよい。あるいは,産後女性では有効性が確認されていないが,Whooley質問法をスクリーニングの手段として用いることも可能である。同質問法の要点は以下の通り。
(1)「過去1か月間,気分の落ち込み,抑うつ感,または絶望感にしばしば悩まされたか」
(2)「過去1か月間,自分がすることに興味や喜びをほとんど感じないことにしばしば悩まされたか」
(3)「このことについて,支援が必要または支援して欲しいと思うか」((1)(2)のいずれかに該当する場合)
鑑別診断後は,自殺念慮や生まれた子に危害を加えたくなる衝動に関する質問をすべきである。また,無気力や絶望感,子よりも朝早く起きているかなどについての情報も得るようにする。疲労感,睡眠障害,性欲減退は一般的に周産期で生じることが多く,健康な女性でも見られる。
これまでに,高リスクの母親を標的とした専門家による個別的かつ集中的な産後支援が有益であることを示唆するエビデンスが得られている。同様に,閾値下うつ病の女性に対する社会的支援または構造化された短期の精神療法(認知行動療法または対人関係療法)の有益性も示されている。
母乳哺育中の女性には心理療法
産後うつ病のほとんどの女性に対しては,プライマリケアの範囲内で有効な治療を行うことができる。しかし,重度または高リスクのうつ病では,精神衛生部門の専門医への紹介を促すべきである。
さらに,さまざまな心理療法が,産後うつ病の治療に有効なことが示されている。これは特に母乳哺育中の女性に有用であり,これらの女性では抗うつ薬リスク便益比は心理療法の効果を高める。
薬物療法は,心理療法に同意しない女性,または非薬物療法による治療ができない状態になるまで治療が遅れた女性に対する適切な治療法である。
毒性に関する懸念から,産後うつ病には三環系抗うつ薬よりも選択的セロトニン再取り込み阻害薬が望ましい。ただし,母乳哺育中の薬物療法によって,新生児,早産児,全身状態不良の乳児に対し,有害作用が生じる可能性がある。
また,授乳期間中の乳児の血清中では,ノルトリプチリン,セルトラリン,パロキセチンは検出されないこと,fluoxetineとcitalopramの濃度が最も高いことがメタアナリシスにより判明している。mirtazapineとvenlafaxineは関連データが不足しているため,母乳哺育の女性には推奨されない。
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