(関連目次)→病院の赤字・倒産 地方に病院はどうしても必要?
(投稿:by 僻地の産科医)
地域に必要とされる病院の在り方探る
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神奈川県の三浦市立病院は、人口5万人の三浦市ならではの医療の在り方を模索している。職員の意欲を高め、人を育てながら、さらに地域に必要とされる病院を目指す。改革はこれからが本番だ。
■小児科医が地域に飛び出して行く
三浦市立病院は、三崎港を臨む高台にあり、眼下には豊かな緑が広がる。2月初旬、おだやかな日差しの中、敷地内にある早咲きの桜が咲き始めていた。
多くの地域病院の例に漏れず、同院でも、産科・小児科医の確保は常に課題となっていた。県内の小児科拠点病院と医師が横浜市に集約される中、小澤幸弘院長は、三浦市唯一の急性期病院に小児科医がいない事態を避けようと、横浜市立大の医局に、外来のみで土日なしの勤務形態で働ける医師の派遣を強く要請した。現在は、1人が派遣されている。
三浦市立病院のベッド数は136床。高度な医療体制の確保は規模的に難しいというが、小児科医が意欲的に仕事に取り組めるきっかけを探していた。そこで挙がったのが「トリプルP」(前向き子育てプログラム)だった。幼児から10歳代の子どもの行動・情緒問題について予防や治療を行うことを目的に、地域の子どもを守っていくプログラムだ。
現在、保健所や市の子育て支援課、保育施設、ボランティア団体などが集まって話し合う場を設けている。小児科医もファシリテーター(会議やシンポジウムにおける進行役)の資格を取得するなど、新しい取り組みに積極的だという。
小澤院長は、「小児科医が地域に飛び出し、子どもを持つ母親と交流することで、モチベーションも高まるのではないでしょうか。実現はこれからですが、独自の子育て支援をしていきたい」と語る。今後は麻疹やインフルエンザなど感染症への対策も検討していくという。
健康を守るのは、子どもだけではない。三浦市立病院は、「アンチエイジングシステム」の確立を目指している。放射線科や検査科の技術向上や、機器の有効活用などのために市から特定健診を請け負ったが、これを足掛かりに、健診のデータを集積・管理しながら、地域のクリニックとインターネットを通じて情報共有を行う計画を進めている。
小澤院長は「市民の基礎データや検査データを一元化することで、重複検査などもなくなり、より効率的な医療体制が整うのではないでしょうか。日ごろの診療も共有データを通じて行われ、地域の医療が密接になれます」と展望を語る。
病院自体も守っていかねばならない。経営改善のため、昨年4月に「95項目の改革」をスタートさせた。民間企業出身の打越勝利事務長は、「特別なことをするわけではない。黒字にするための方法を具体的に示し、当たり前に実行するだけ」と言う。
個々の職員に問うのは、なぜ今の仕事を選んだかという根本的なことだ。打越事務長は「なぜ医師に、なぜ看護師になったのか。分かっていないと良い仕事はできないと思います。もともと抱いていた気持ちを思い出してほしい」と語る。
新たに迎える人材にも、現在の経営状況をしっかり伝える。「起きたことを悩むのではなく、これからどうやって生き残るかを説明できれば、理解してもらえる」という。
打越事務長は「事務方として、医師や看護師がやりたいことがあれば、実現できるように支援したいです。費用とも相談だが、アイデアがあれば何時間でも話を聞くつもり」と、やる気を引き出そうとしている。
また、すべきことは大きな病院も小さな病院も変わらないという。「三浦市立病院に合ったやり方を探ります。小さな成功事例を出していけば、みんなが信用してくれる」と話す。
小西えり子総看護師長は、教育を最優先事項の一つに挙げる。
病院の看護部を「地域に根差したアットホームな職場」と説明する。「専門職として看護の質を守るためには、ある程度の厳しさは必要だが、働きやすい職場をつくりたい」という。
教育担当専従の師長を配置し、プリセプターシップを導入しているが、「新人はみんなで育てます。先輩の誰かが忙しくても、誰かが面倒を見てくれる」という。私的な相談にも乗る面倒見の良さからか、近年の新人の離職率はゼロだという。
新人は、プリセプターと到達の度合いをチェックしながら、「できたところや、できなかったところをノートに書き込み、交換日記のようにやりとりをしています。先輩が新人を下から支えています。新人を育てることで、スタッフのモチベーションも上がっているようですよ」と職場の様子を語る。
小西総看護師長は、三浦市立病院は家庭と仕事が両立できる職場で、労働環境が守られていると話す。「公務員ということもあり、待遇面や福利厚生についても安心感があります。時間内に仕事や委員会活動が終わるように皆が協力しているため、残業もほとんど発生しない」という。
また、仕事で疲れることがあっても、周囲の豊かな自然環境が、気持ちを和らげてくれるという。
■「三浦ならば同じ医局の人間」に
「地域で一つの医局をつくりたい」というのが小澤院長の理想だ。「開業医、病院の職員、介護施設に来るドクターも、『三浦ならば同じ医局の人間』という関係になりたい」という。
全職員のモチベーションをどうやって上げていくかも課題だ。「人に尽くしたいという人間が医療に集まるが、次第にそれが薄れてしまいます。医師や看護師が初心に帰れるようなきっかけを設けたい」という。
小澤院長は、「地域にとって本来必要なことは何かを考え、医療を行うことが大原則。そこを外さなければ、間違いはないだろう」と言い、「倫理性や公共性の高い医療を追求できる公立病院の良さを生かしたい。この地域が必要とする三浦ならではの医療をつくっていきたい」と今後の抱負を語った。
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