(関連目次)→連載 弁護士が語る医療の法律処方箋
(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ2009年1月号よりo(^-^)o ..。*♡
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今月の井上先生は、医療経済・法律についてですo(^-^)o ..。*♡
私はこの不況で、もう医療政策はダメかな~
と思っているのですけれど。
(だって健康な人が生きるに苦労する時代、
弱者をこの国が守るとはとても思えないから!)
契約の自由がないのは、本当にその通りです。
井上先生の仰るとおり。
でも訴訟ですものね。。。。
法律家の人たちはちゃんと考えて欲しいです。
医療政策は市場原理からの転換を
井上 清成 弁護士
(MMJ January 2008 vol.5 N0.1 38-39)
アメリカ型市場原理の挫折
1980年代以降の米国を支配していた市場原理主義が、昨年、挫折した。 2008年の前半期は、医療保険改革を1つの目玉としつつ、オバマ対クリントンの民主党大統領候補レースが、世界の眼を釘付けにし、市場原理からの転換を予感させていたように思う。後半になると、サブプライムローン問題からりーマンブラザーズ破綻を経て、金融危機が全世界的な経済危機へと顕在化した。この間、民主党のオバマが共和党のマケインを軽く凌駕する。そして、本年は、才バマ民主党政権が誕生した。今後はオバマ大統領・クリントン国務長官のコンビが世界に大きな影響を与えるであろう。日本も例外ではない。
日本の医療界も昨年は大変動を開始していたが、米国の市場原理の挫折とその政策転換は、日本の医療にも良い影響を及ばすであろう。
市場原理の典型モデル
米国で挫折した市場原理ではあるが、日本ではまだ政策転換をしたわけではない。必ずしも学問的ではないが、市場原理の典型モデルの特徴をあげてみよう。
1 均衡財政(財政再建)
2 間接税重視(企業減税)
3 夜警国家(刑罰重視)
4 私的自治偏重(契約の自由)
均衡財政を指向すれば、財政再建を強力に推し進めることになる。その結束、医療費を筆頭として社会保障費が削減されてしまう。しかし、この政策はデフレを招きやすく、ついに経済危機に陥り、失業者が増大した。ただ、雇用対策の採用とともに、財政再建政策は転換されざるをえず、それは医療費抑制政策の転換へもつながるであろう。
消費税を代表とする間接税は、税金の確実な徴収という点て優れている。税の捕捉率が、所得税を代表とする直接税よりも高い。しかし、間接税は景気変動を緩和する効果に乏しく、累進課税を伴った直接税と異なり、景気変動の波をもろにかぶってしまう。また、経済格差も助長しやすい。景気対策、格差対策からすると、間接税重視から直接税重視へのシフトをせざるをえないと思う。なお、医療費増加の財源問題が巷問いわれるが、景気対策・格差対策と割り切れば、公的事業たる医療への財源捻出に抵抗はなくなると思われる。
医療への刑罰は不整合
夜警国家は、往々にして、一罰百戒という意味で刑罰の威嚇力を重視してしまう。典型モデルは、自由な市場の中で欲望が暴走した際の一罰百戒である。典型的には、それは過失犯ではなく、故意犯であろう。不正会計を伴う背任罪・詐欺罪、強制わいせつ罪・児童賀春罪などが一罰盃成にふさわしい。過失犯といっても刑罰に値するのは、飲酒運転や危険暴走の結果としての業務上過失致死傷罪のようなものである。つまり、飲酒やスピード違反のような故意犯的な要素が伴ってこそ、はじめて過失犯も処罰に値してこよう。
にもかかわらず、誠実かつ勇気をもった医療に対して、そこに仮にミスが伴ったら、ただちに処罰しようとした。医療ミスに業務上過失致死傷罪を適用しようという発想は、いねば夜警国家の暴走である。夜警国家を維持しつつも暴走を抑えさせるか、それとも、市場崩壊に伴い夜警国家自体を改めさせるか、どちらかにしなければならない。ここは知恵を駆使した十分な政策論議をすべきところであろう。
「診療契約」論は「契約の自由」
司法の世界では、当たり前のように「診療契約」という用語が使われている。アメリカで合理的期待形成などというフィクションが流行した頃に、市場原理主義の台頭に伴って、法律の世界では「契約の自由」もことさらに強調されるようになった。「契約の自由」の本来の適用場面は、私的自由競争市場の分野であったはずである。ところが、公共的・公益的な性質をもつ医療の分野にまで、「契約の自由」が無反省に持ち込まれてしまった。日本では1990年代のことであろうか。
「診療契約」論は、経済面での市場原理主義とともに歩んできた「契約の自由」論に立脚しているように思う。そのため、医療の公共性・公益性は何ら意に介さない。その揚げ句、診療契約の債務不履行というワンパターンのフレーズの下、病院への医療過誤損害賠償請求や医師への責任追及が激増した。しかし、市場原理が崩壊した今、それとともに歩んできた「診療契約」論も改められねばならないと思う。
市場原理からの転換を
アメU力型の市場原理の挫折をきっかけとして、市場原理に基づいた政策の転換をすべきである。今年は、医療費抑制政策から医療費増加政策へ、医療財源論から医療格差解消策へ、医療刑罰論から医療の非犯罪化へ、診療契約談から公的医療論へ、総合的に医療への経済的・法律的諸政策を変更していくべきであると思う。
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