(関連目次)産前・産後にまつわる社会的問題 乳幼児疾患 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ2008年11月号からですo(^-^)o ..。*♡
乳幼児突然死と細菌感染の関連性
感染と乳幼児突然死゛の関連:系統的後向き症例レビュー
Infection and sudden unexpected death in infancy: a systematic retrospective case review
( MMJ November2008vol.4 N0.11 p938-939)
〈背景〉
「乳幼児の突然起こった予期せざる死亡(SUDI)」は専門医による剖検を受けた症例でも、大多数の症例は原因および発生機序が特定されていない。本研究では過去の剖検所見を再評価し、感染がSUDIの原因である可能性を検討した。
〈方法〉
1996~2005年に、突然死した乳幼児546例(7~365日齢)に対して1ヵ所の専門施設で実施された剖検の症例記録を系統的に後向きにレビューした。SUDI症例を死亡原因が説明不能な症例、病理組織学的検査により細菌感染が死亡原因と証明された症例、非感染性の死亡原因が証明された症例のいずれかに分類した。剖検時に採取された微生物分離株を以下の3種類に分類した;①非病原体②グループ1病原体(通常、検出可能な感染巣を伴う微生物)③グループ2病原体(明らかな感染巣の形成なく、敗血症を引き起こすことが知られている微生物)。
〈結果〉
SUDI剖検546例のうち、ウイルス感染や二ューモシスティス感染または最初の虚脱および蘇生後に起きた2次細菌感染が原因であった39例は除外した。残りの507例のうち470例(93%)において細菌検査用の検体採取が行われた。細菌検査用2,079検体のうち571検体(27%)からは細菌が検出されなかった。細菌培養検査で2,871株が分離され、このうち484株(32%)は純粋培養でき、1,024株(68%)は混在培養であった。死亡原因が非感染性であるとされた乳幼児(11%[27/243])に比べ、死亡原因が細菌感染とされた乳幼児(24%[78/322])および死亡原因が説明不能とされた乳幼児(19%[440/2,306])からはグループ2病原体の分離頻度が有意に高かった(細菌感染分類群との差,13.1%;95%信頼区間[CI],6.9~19.2;p<0.0001 ;死亡原因説明不能分類群との差,8.0%;95%CI,3.2~11.8;p=0.001)(図)。死亡原因が説明不能とされた乳幼児からの黄色ブドウ球菌(16%[262/1,628Dおよび大腸菌(6%[93/1,628])の分離頻度は、死亡原因が非感染性であるとされた乳幼児に比べ有意に高かった(黄色ブドウ球菌9%[19/211]:差,7.1%;95%CI,2.2~10.8;P=0.005;大腸菌:1%[3/211];差,4.3%;95%CI, 1.5~5.9;P=0.003)。
〈結論〉
SUDI症例の剖検では多数の培養検査で微生物が分離されるが、その多くは死亡原因との関係はないようである。グループ2病原体(特に黄色ブドウ球菌と大腸菌)が、死亡原因が説明不能とされたSUDI症例から高頻度で検出されたことから、死亡原因が説明不能なSUDIの一部に関連している可能性がある。
2008 Elsevier Ltd. AII rights reserved. Translated with permission.
訳注:英文では“unexpected”が使われているが、表題では一般化している「乳幼児突然死」として、要約中では原文に準拠したSUDIを使用した。
解説
乳幼児突然死における剖検時の細菌検査が必要
九州大学大学院医学研究院法医学教授
池田典昭
乳幼児突然死症候群(SIDS)は「詳細な解剖、現場の検証、既往歴の検討によっても死亡原因が説明不能な1歳未満の乳幼児の突然死」と定義される。 SIDSの発生率はさまざまな誘因(危険因子)を減らすキャンペーンなどにより低下してきてはいるか、依然として全世界において生後1ヵ月~1年の乳幼児の死亡原因として大きな割合を占めている。 SIDSの危険因子は環境要因と遺伝要因に分けられ、前者としては親の喫煙、軟らかい布団、うつ伏せ寝などが挙げられており、軽微な感染症も危険因子と考えられている。
SIDSの死亡原因に関してはさまざまな報告がなされているが、いずれも決め手に欠ける。これは、研究の多くが各施設での少ない剖検例に基づいていることに問題があると考えられる。日本においても厚生労働省や日本SIDS学会がSIDSの診断基準を出しており、剖検例においてはその診断は適切であると思われるが、剖検率の低さのため症例が少ないうえに各施設の症例を集めての系統的レビューは全く行われていない。特に細菌検査についてはその関与の程度や菌種による違いなどの検討は各施設での細菌検査法の違いもあり、全くなされてこなかった。
本研究はこの細菌感染の関与について、SIDS症例を集めて検討したのではなく、1歳未満の乳幼児に突然起こった予期せざる死亡例(SUDIを検討している点が最大の特徴である。このような手法はコロナー制度の下で、すべてのSUDIを集約して、同一施設で、同一の手法で、複数の専門医が剖検およびその後の細菌学的検査ができる検視システムが確立している英国の大きな利点である。この検討方法を用いることでSUDI症例のうち、死亡原因が説明不能な症例群(SIDS)と同一年齢の突然死で、かつ死亡原因が明らかな症例群との比較が可能となり、SIDSの真の誘因や死亡原因が明らかになることが期待される。
結果として、SIDS症例群において非感染性の死亡原因が証明された症例群よりも“グループ2病原体"の分離頻度が有意に高く、中でも黄色ブドウ球菌と大腸菌の分離頻度が有意に高く、特に肺と肺臓で有意に高く検出された。両菌種は以前よりSIDS症例群で検出されることがあったが、死晩期の拡散や死後経過による血管内侵入が主因と考えられ、SIDSの危険因子として垂要視されてこなかった。しかし、非感染性の死亡原因が証明された症例群と比較して明らかに分離頻度が高かったことから、SIDS症例群の一部ではこれら2菌種は何らかの役割を果たしており、感染後、乳幼児の体内にコロニーを作ることなく、毒素を産生するか、あるいは別のシステムにより、乳幼児の覚醒反応を低下させることにより死に至らしめている可能性が考えられる。
SIDS症例の剖検においては、ウイルス検査や病理組織検査に主眼が置かれがちであるが、今後はわが国においても多臓器・組織からの詳細な細菌検査が必要である。
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