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(投稿:by 僻地の産科医)
日本医事新報 No. 4417(2008年12月20日号)より
無過失補償についての記事が載っていますo(^-^)o!
とても参考になりますので、どうぞ!
この制度は保険商品であって、社会保証制度ではないと
明確に言い切っていますね。
【参考ニュース】
産科医療補償制度の“闇”に迫る
ニューススクランブル 2009/01/14
http://www.ytv.co.jp/ns/closeup_set.html
http://www.ytv.co.jp/ns/special/bn/2009/01/asx/sp090114.asx
「産科医療補償制度」。今年1月1日から産科医療の現場で妊婦さんたちを対象にした新たな制度が始まりました。産科医療で出産を行う妊婦から一律3万円を集め、新生児が重い脳性麻痺となった場合に、3千万円の補償金を支払うといういわば保険のような仕組みの制度なんです。しかし、制度に対して産科医療の現場からも多くの疑問の声があがっています。制度の裏に潜む闇に追跡屋が迫ります。
産科医療補償制度はどのような仕組み?
(日本医事新報 No. 4417(2008年12月20日号)p18-21)
昭和47年の日医の報告書も提言
産科医療補償制度の概要は図の通り。制度に加入する医療機関から1分娩当たり3万円を徴収し、通常の妊娠・分娩にもかかわらず脳性麻痺となった場合、児に対し合計で3000万円の補償金を支払うことと、その原因分析・再発防止を行う仕組みだ。12月2日時点の制度加入機関は全分娩施設の98・2%。
制度創設の議論は、日医が昭和47年にまとめた「『医療事故の法的処理とその基礎理論』に関する報告書」に見ることができる。この報告書では、
①医療事故が発生した場合には、厳格な審査により医師に責任ありと判断されれば速やかに賠償の責めに任ずる
②過失がないのに不可避的に生ずる重大な被害に対しては、国家的規模で損害補償を創設し救済を図る――などが提言されていた。
その後、平成18年に日医の「医療に伴い発生する障害補償制度検討委員会」が「医療に伴い発生した障害に対し、迅速・公平な補償を行う公的補償制度の導入が必須」とし、分娩に関連した脳性麻痺に対する補償制度の先行実施を求める提言を改めて行った。
評価機構が運営主体に
これを受けて同年11月、自民党医療紛争処理のあり方検討会は産科医療における無過失補償制度の枠組みを決定。さらに厚労省や日医、日産婦医会、日本助産師会などの強い要請で20年3月、日本医療機能評価機構が制度の運営主体となることが決まった。
脳性麻痺児の調査に基づいた設計
今回の制度では補償対象者を年間で約500~800人と推計している。この点について、評価機構の後信産科医療補償制度運宮部技監は、「日医の報告書や日産婦医会でも、今回の補償対象となる脳性麻痺の発生率等制度設計に必要なデータが把握されておらず、評価機構が脳性麻痺の発生率を研究している研究者に協力を依頼し、そのデータに基づいて算出した」と振り返る。
その上で、9月の社保審医療保険部会で、リスクを高めに見積もっているのでは」との意見が出されたことについては、「リスクの高低を判断するためには脳性麻痺の発生率等のデータが必要であり、今回その調査を実施した。また脳性麻痺は必ずしもすぐに診断できる症例ばかりではなく、正確な収支が分かるのは申請期間が終了する5年後になる」と説明する。
保険料についても、「私たちが日常加入している損害保険商品では、補償に充てられるのは保険料収入の約6割。今回の制度では仮に補償対象者が800人だとすると、保険料収入の8割、240億円が補償に充てられることになる」とし、保険商品としての経費等がかなり圧縮していることを説明、理解を求めている。
社会保障制度とは趣旨が異なる
また、補償対象になる範囲について「今回の基準では対象者が限られるのでは」との声があることに対しては、「通常の分娩で元気に生まれることを期待されていた児が結果的に脳性麻痺になった事例を補償するのが本制度の趣旨。未熟児の場合、諸臓器の未熟性から脳性麻痺についても発症リスクが高まり、分娩の過程に原因があるとは言いにくくなる」と説明。
「一方ですべての脳性麻痺児、障害者を支援するために国の社会保障制度があり、サービスや現金などの給付がなされていることをご理解いただきたい」と述べ、この補償制度は社会保障制度とは趣旨が異なることを強調する。
なお、基準の根拠となったのは、評価機構の産科医療補償制度調査専門委員会(鴨下重彦委員長)が19年8月にまとめた「産科医療補償制度設計に係る医学的調査報告書」(図1・2)。
それによると、出生体重2000g未満、在胎週数32週未満の児のほとんどは未熟性が脳性麻痺の原因となっている一方、出生体重2000g以上、在胎週数32週以上では未熱性が原因と考えられる児はほとんど認められなかったと結論づけている。
医学的な観点から原因を分析
制度のもう一つの柱である原囚分析・再発防止については、評価機構内に医師、助産師、法律家などで構成される原因分析委員会を設置し、報告書を作成することになった。
報告書の考え方、記載事項などについてまとめた日産婦医会によると、当事者は、報告書で指摘された事項について、学会・医会が開催する研修会等を受けることを通じて再発防止のための白己研鑽に努める必要があるとしている。
過失が明白な場合は賠償責任保険で対応も
また、調査に当たっては、背景要因や診療体制を含めた様々な観点から事例を検討。検討事象の発生時に視点を置き、その時点で行うべき適切な分娩管理等は何かを分析し、問題がない場合でも再発時限に向けて改善につながると考えられる課題が見つかれば指摘するとしている。
死因究明制度の創設で論点となっている悪質な事例への対応については、「過失が明らかな事例では法律家で構成される調整委員会で議論し、法的に賠償責任が認められれば、補償金の返還と損害賠償金の調整を行う」とし、当事者が賠償責任保険で対応する場合もあると説明。
しかし、過失があった場合でも「警察への通報や、懲罰は制度外で対応されることになる」と述べ、制度はあくまでも調査結果のフィードバックと再発防止が目的だと強調する。
純粋な原因追及を一つの柱とするこの制度が、補償金による児とその家族の救済にとどまらず、訴訟リスクの軽減という形で少しでも疲弊した産科医療現場に資するものとなることが望まれる。
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