(関連目次)→地方医療の崩壊 実例報告 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
県政への提言/2 周産期医療/岐阜
地域意識した施策を
長良医療センター産科医長・川鰭市郎
毎日新聞 2009年1月20日
http://mainichi.jp/area/gifu/news/20090120ddlk21010026000c.html
--県内の産科をめぐる現状は。
周産期医療体制の整理は進んできた。救急の妊婦の送り先で迷うことがないよう、母体や胎児の状況によって高次の医療機関への搬送手順やベッドの状況が一目でわかるシステムを、県や各医療機関と連携して整備した。医師不足への対策として、通常は地域の診療所から高度な中核的病院まで3段階の医療体制を採る中、高度な中核的病院に産科医を集約した。出産難民は出ていない。
--岐阜圏域に産科医が偏在しています。
東濃・飛騨地域は開業医が少なく、出産の場が制限されている。開業医で十分出産できる患者も、医師が足りなければ次々と高度な医療機関に殺到し、本当に高次医療を必要とする妊婦への対応に支障が出る。地域全体の問題として取り組まないといけない。
--なぜ産科医が不足するのですか。
リスクが高く、リターンは少ない。過酷な労働環境のため、勤務医から開業医に移る人も多い。いま働いている勤務医を辞めさせないよう環境を改善すべきだ。医学部の入学枠を増やしても、育つのは10年先。働いている医師への正当な評価や報酬が必要だ。
--若手医師の意識を高めるには。
長良医療センターでは患者情報を共有し、全員が主治医になる体制を採り、患者とのコミュニケーションや休息を取れる体制になった。学会発表など各自のテーマに充てる時間が増え、最先端医療の情報収集、発信も可能になった。
--ドクターヘリの導入が議論されています。
既存の防災ヘリは、搬送を依頼した側の医師が患者に付き添う必要があるなど、医師が現場から離れざるを得ない。山岳が占める割合が多い岐阜県には、ドクターヘリが5、6機あっても良い。
--今後の医療行政の課題は何ですか。
長良医療センターは重症心身障害者を診ている。障害者自立支援法が本格稼働すると、自力歩行が可能な患者の診療報酬の基準が変わり、入院できなくなる可能性もある。患者の親が介護できない場合に受け皿となる施設が未整備で、県の支援が必要だ。
--県政への要望は。
地域を意識した医療行政を進めてほしい。国や他地域のモデルが必ずしも有効とは限らない。国が決めたから動くというのはではなく、地域の状況にあった施策を行ってほしい。
==============
◇かわばた・いちろう
京都市出身。兵庫医科大卒。岐阜大医学部などを経て、05年3月から現職。専門は胎児治療。長良医療センターホームページで毎月、医療問題や近況報告などの情報を発信している。昨年、地域に密着した母子保健活動で著しい成果を上げた人に贈られる第30回母子保健奨励賞を受賞。岐阜市在住。53歳。
コメント