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(投稿:by 僻地の産科医)
産科と婦人科 2009年1月号Vol.76 No.1より
特集は母乳哺育を考えるです!
こんな論文もあったんだな~ということで、
とりあえずお読みくださいませo(^-^)o ..。*♡
月経にともなう虫垂炎
―Catamenial Appendicitis という仮説―
ハワイ大学医学部産婦人科
矢沢珪二郎
(産科と婦人科・第76巻・1号 P106-107)
外科医の間ではよくいわれることであるが,虫垂炎の診断で虫垂切除をした場合,もし虫垂の100%に炎症性所筧があるならば,その虫垂切除手術の適応となった臨床的な(虫垂炎の)診断基準は厳密すぎる,といわれている.そのような厳密すぎる診断基準では虫垂炎の診断が遅れて,穿孔率(perforationrate)が増加する.虫垂炎の臨床的診断基準は,切除した虫垂標本の10%~20%が,組織学的に炎症所見がない(false-positive appendectomy rate),やや緩やかなものが理想的である,といわれている.
2,600例の切除虫垂を調べた報告によれば,年齢をマッチした男女の虫垂の組織検査で,虫垂炎症所見のないものの割合が,女性では男性の2倍あった.その理由は不明である.
ここにご紹介する論文は3例の“月経に伴う虫垂炎(catamenial appendicitis)”症例を報告しており興味深い統その3例とも基礎疾患としてはかなりの症状をともなう子宮内腹痛をもつ,3例とも虫垂炎の診断で虫垂切除術を受けたが,虫垂の組織検査には炎症所見がなレしかし虫垂切除術により患者の症状は,劇的に消失してしまったのである.
症例1:24歳の子宮内腹痛のある女性.最近4ヵ月問,月経の最中からそのあとにかけて,右下腹部痛が増悪する.痛みは食欲不振と吐き気を伴う.腹腔鏡をしてみるとダグラス窩に少量の腹水とともに虫垂がみられた.虫垂切除術後ただちに症状は完全に消失レその後9ヵ月にいたるも痛みの再発はない.切除した虫垂には組織学的に剛性または急性の炎症所見はなく、浮腫,繊維化,内膜症,などの所見も一切みられない.唯一の所見は虫垂筋層内にマスト細胞の浸潤がみられたことである.
症例2:25歳の子宮内膜症のある女|性.すでに19歳と21歳時に、2回の腹腔鏡をうけて,内膜症が組織的に確認されている.その後アロマターゼ阻害薬アナストロゾール(anastrozole)を使用したが,あまり改善はなく,第3回目の腹腔鏡検査をうけた,そのとき10cmのやや長い虫垂はダグラス窩中に約10 ccの腹水とともにあり,虫垂切除が行われた.切除虫垂の組織所見では爆|性または急性の炎症性変化はなくバ半腹,繊維化,内膜症,などもなかった.症例1と同様に筋層にマスト細胞の増加浸潤がみられた.術後,症状は劇的に改善した.
症例3:18歳の女性で生検により内膜症が確認されていた.15歳のころより右下腹部痛があり,特に月経の前に著しい.経□避妊薬では改善がなかった.右下腹部痛のために種々な治療をうけたが改善はなかった.右下腹部痛と食欲不振のため腹腔鏡による虫垂切除を行った.虫垂のH&E組織検査では、慢性または泉1性の炎症所見はなく,浮腫,繊維化,内膜症の所見もなかった,症例1,2と同様に筋層にマスト細胞の浸潤がみられた(toluidin blue),術後,長年の症状は完全に消失してしまった.
ここではたった3例であるが,月経中に右下腹部痛と食欲不振という虫垂炎の急性症状を呈した症例である.そして,腹膜の組織学的に確認された内膜症所見,10 cm ほどの長い虫垂,ダグラス窩中の少量の腹水,などが共通頂万ある,さらに,虫垂切除後には症状(痛み)は劇的に消失してしまった.組織学的には,各症例で筋層中にマスト細胞数が増加していた.
マスト細胞増加の原因に関しては虫垂の虚血とその後の血液還流の回復という変化かその一因として考えられる.虚血と血液還流の再回復によりマスト細胞が筋層内に増加することは動物実験では確認されている.さらに,プロスタグランジンF2 alphaが虫垂の虚血に関連しているのではないか,との推定がある.
要約
ここに紹介された3症例に共通するものは,
①いずれも切除虫垂のH&E染色では正常で好中球の浸潤はない,しかしマスト細胞の増加が筋層にみられた
②患者には組織学的に確認された内服症がある
③(虫垂炎の典型的な症状として)吐き気をともなう右下服部痛がある
④この症状は月経の周辺に起こる
の4点である.腹水中のプロスタグランジン様物質が虚血性変化をもたらしているのではないか,と推定(仮説)されている.
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