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(投稿:by 僻地の産科医)
「レセプトオンライン請求義務化は違憲」
医師ら961人が国を提訴
軸丸 靖子
MTpro 記事 2009年1月22日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0901/090110.html
1人あたり110万円の損害賠償求める
レセプト(診療報酬明細書)のオンライン処理を義務化するという厚生労働省(厚労省)省令は憲法に保障される「営業の自由」の侵害として,全国の医師や歯科医師ら961人が国を相手取り,オンライン化の義務がないことの確認と,1人あたり110万円の損害賠償を求める集団訴訟を昨日(1月21日),横浜地裁に起こした。
レセコン導入機関でもオンライン対応の整備必要に
原告団への参加は全国の保険医協会・医会を通じて呼びかけた。内訳は医師708人,歯科医師253人。35都道府県から参加しており,最多は神奈川県の222人になっている。第2陣の提訴も予定されており,最終的には1,200人程度になる見込み。
レセプトのオンライン請求は,2006年4月の厚労省省令で義務づけが決定されたもので,08年度から段階的に実施されている。現在は400床以上の病院が対象だが,09年3月時点でレセプトコンピュータ(レセコン)を使用している医科診療所は2010年4月から,まだレセコンを使用していない医科診療所や歯科診療所も2011年4月からはオンライン請求しか認められなくなる。
オンライン義務化の問題点は,手書きやフロッピーディスクなどの電子媒体による請求は一切認めないこと,そしてオンライン対応のシステム整備はすべて医療機関任せになっていることだ。
全医療機関のうち,手書きのレセプトで診療報酬を請求しているところは1割程度で,残りはレセコンを導入している。ただ,導入しているところでも,レセコンで作成した請求をプリントアウトしたり,フロッピーディスクなどの電子媒体に焼き付けて郵送している医療機関は少なくない。
神奈川県保険医協会保険診療対策部部長の入澤彰仁氏によると,レセコンがない医療機関の場合,いちから導入する費用は300〜400万円程度にのぼる。厚労省や日本医師会が開発した無料ソフトを使う場合でも,機器整備などで100万円ほどの出費は必要だ。現存のレセコンをオンライン対応に変更するにも15〜20万円の負担は発生する。
IT化の費用弁償として,国は初診料に3点(30円)の電子化加算をつけているが,負担を賄える額ではなく,そもそも,まだレセコンがない医療機関は電子化加算を算定できない。
営業の自由の侵害、地域医療の崩壊
オンライン請求義務化について,全国保険医団体連合会が行ったアンケート(回答は医科1万1,069件,歯科3,010件)では,「オンライン請求に対応できる」と回答した医療機関は医科46.2%,歯科33.1%にとどまり,過半数は「対応できない」か「分からない」として,義務化への不安をうかがわせた。
また,オンライン請求が義務化されれば「開業医を辞める」と回答した医療機関は,医科で1,336件(12.2%),歯科212件(7.2%)と1割前後に上った。60歳以上の高齢医師や,レセコンがなく手書きレセプトで請求している医療機関に顕著な傾向で,「オンライン対応レセコン導入に見合う収入がない」「操作に対応できない」「(IT対応ができる)人員が確保できない」が理由に挙げられている。
1割近い医師が辞めるという事態は,単に営業の自由の侵害だけでなく,地域医療の崩壊につながりかねないとして提訴に踏み切ったという神奈川県保険医協会理事長の平尾紘一氏(原告団団長)は,提訴後の記者会見で,「厚労省が狙っている“医師の定年制”を別のかたちで実現してしまうかもしれない」と懸念を表明。
入澤氏も,「無医村に近いところで,オンライン対応ができないからと医師が廃業することが起こったらどうするのか。国民の健康を考えると許されるものではない」として,オンライン対応できない医師の“切り捨て”を強く批判した。
「費用負担に耐えられるかどうか」
会見には,実際に手書きで診療報酬請求を行っている医師らも出席。オンライン義務化で生じる負担の重さを語った。
「従業員ゼロ,いわゆる弱小零細診療所といわれればそれまでだが,300万円以上という費用負担は無理を伴う」と語ったのは横浜市の開業小児科医(46歳)。
プライベートでパソコンは使っているが,情報漏出の懸念からレセコンは導入せず,いまもすべて手書きでレセプトを提出しているという。
「IT専門担当者をおけるような大きな医療機関なら良いが,小さなところではそうはいかない。医療機関でデータが漏れるというのは重大なこと。万一漏れた場合,その責任はすべて個別の医療機関にかかってくるが,その保険や賠償金も大変な負担になる」ともらした。
医科以上に手書きレセプトが多く,「年収300万円未満のワーキングプアと自嘲する先生もいる」といわれる歯科は,さらに負担が大きい。
横浜市内の歯科医師(80歳)は,「IT化の費用負担に耐えられるかどうか。こんな高齢医師のところでも,頭数にして年間700,800人の患者さんが来てくれている。この患者さんたちに,(オンライン対応ができないから)もうやれないといったらどうなるのか」と語った。
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