(関連目次)→新型インフルエンザについても集めてみましたo(^-^)o
(投稿:by 僻地の産科医)
日本医事新報 2008年10月25日号からo(^-^)o!
新型インフルエンザについてです。
日本に上陸する場合はフェーズ6。。。。(>_<)!
そうかも。というか、きっとそう!
最近やっと、対策が話し合われてきていますが、まだまだ
足りない状態のような気がします。
我が家ではマスクの備蓄一応始めましたが。。。
新型インフルエンザの誤解と対策の問題点
神奈川県警友会けいゆう病院小児科部長
菅谷憲夫
(日本医事新報 N0.4409(2008年10月25日)p73-77)
【要 旨】
新型インフルエンザは近い将来必ず出現し、全国民100%が罹患・発病する。したがって、新型インフルエンザ対策では、爆発的に発生するインフルエンザ患者の診療体制の確立が最優先の課題となる。日本の新型インフルエンザ用ワクチンは効果が低く、性能向上が強く望まれ、また小児では発熱等の副作用が懸念される。H5N1プレパンデミックワクチンの備蓄は必須であるが、現時点での接種開始は時期尚早である。
誤解された新型インフルエンザ
日本の新型インフルエンザ対策の最大の問題点は、政府、マスコミ、国民全体に、「恐怖のH5N1インフルエンザ」というイメージが広まり、それを基に対策が考えられていることで、その結果が、報道(2008年1月28日、読売新聞)によれば、新型インフルエンザが大流行した場合、医療従事者の26%、特に看護師の31%が転職を考える事態となっている。
新型インフルエンザは「最強ウイルス」であり、死亡率は20%で、数百万の日本人が死亡するというようなことが、一般に信じられるようになれば、新型インフルエンザの診療は、流行前からパニックとなり、崩壊する。新型インフルエンザ対策で最も重要なことは、インフルエンザ患者の外来と入院での診療体制の確立であるが、その障害となるいくつかの誤解について、インフルエンザ専門家の立場から指摘したい。
(1)新型インフルエンザには全国民が罹患・発病する
新型インフルエンザは、鳥H5N1インフルエンザやSARSと混同され、国民からは、死亡率の高い恐ろしい感染症で、罹患を何とか避けるべき疾患と思われている。しかし、新型インフルエンザは出現すれば、半年以内に50%、数年以内には全国民が必ず罹患・発病する。その後は、毎年流行するA型インフルエンザとして、香港かぜ、ソ連かぜに代わり、10年から数十年間は流行を繰り返す。新型インフルエンザの罹患を避けることはできない。
したがって、新型インフルエンザ対策では、感染防止よりも、それに対応した外来と入院治療の確立がはるかに重要となる。
1958年のアジアかぜ出現時、全国の保健所職員と家族9万人を調査したところ、同年5月から7月の第1波で26%、9月から11月の第2波で30%が罹患したことが明らかにされている。アジアかぜの流行が始まってから、わずか半年間に56%が発病したわけである。特に小児は70~80%が罹患・発病した。
厚労省の新型インフルエンザ対策では、水際作戦や封じ込めが強調されているが、効果は極めて低いものと筆者は考えている。封じ込めは、WHOの「フェーズ4」でウイルスの感染力が弱い段階で、東南アジア等の人目密度の低い農村地域であれば成功の可能性があるが、日本で新型インフルエンザが発生する時は、「フェーズ6」の強い感染力を持つウイルスであり、封じ込めは不可能と考えるのが、インフルエンザ専門家の常識である。
(2)新型インフルエンザによる死亡者数
世界各国では、最悪の事態で、1918年のスペインかぜの死亡率を基準に対策を立案している。先進諸国では罹患・発病者の、およそ1~2%が死亡するという予測である。日本では人目の25%、約3200万人が罹患して、その1~2%、32万人から64万人の死亡と厚労省は予測している。
スペインかぜでは世界で4000万人以上が死亡した。もしも、現代にスペインかぜクラスの毒性の強いインフルエンザが出現した場合、世界で6200万人が死亡するという予測が、Lancet誌上に発表されている。論文では、スペインかぜ当時の世界各国の死亡統計を基に、現在の人口、年齢構成、経済状況に当てはめ、死亡者数の予測をしているが、6200万人の死亡者のうち、96%は発展途上国で発生するという。日本では死亡者数12万877人(4万3789人~30万8715人)としている。
WHOが公式に発表している死亡者数の予測では、新型インフルエンザが出現すると、世界で200万人から600万人が死亡するとしている。これは、アジアかぜ、香港かぜを基に推測したものである。
米国NIH(国立衛生研究所)と筆者らとの共同研究では、日本の過去のパンデミックの死亡者数は、1918年のスペインかぜで48万2000人、1957年のアジアかぜで4万8000人、1968年の香港かぜでは4万4000人である。
オーストラリアのLowy研究所の予測では、パンデミックが起きると、日本で214万の死亡者が発生すると、マスコミが時々報道している。しかし、これは疫学の研究ではなく、大流行時の経済、雇用などの影響を研究した政策研究所(Thunk Tank)の報告である。実際に論文を見ると、2万人の死亡から214万人の死亡まで、mild,moderate,severe,ultraと4段階に分けて、その経済的な影響を検討している。この研究は、本来、パンデミックの死亡者数を予測したものではない。
筆者は、新型インフルエンザによる日本の死亡者数は、最悪の場合で、スペインかぜの経験から予測された数値、12万人(4万人~30万人)が最も信用できると考えているが、たとえ4万人の死亡としても、日本の医療現場は相当な混乱が予測される。最低でも、この5倍の入院は出ると考えられる。外来は大混雑となり、入院できないケースが頻発する事態となる。1999年初頭のA香港型、シドニーインフルエンザの流行時に各地で、記録的な救急車の出動回数、人工呼吸器の不足という騒動となったが、その時の死亡計数は3万2000人にすぎない。
仮に死亡者数が12万人とすれば、死亡率(厚労省の推計発病者3200万人の中での死亡者の割合)は、0・37%となる。これはワクチンも抗ウイルス薬も使用しない場合の想定である。
政府は、医療従事者にはワクチンに加えて、ノイラミニダーゼ阻害薬の予防使用とN95マスク着用を保証し、すべての医師、看護師等、医療関係者が、積極的に新型インフルエンザの診療に当たるように呼びかけるべきである。
(3)H5N1は流行しない?
鳥のインフルエンザから新型インフルエンザが発生し、近い将来、大流行が起きることは確実である。しかし、それがH5N1となるかは分からない。
赤血球凝集素(hemagglutinin ; HA)には14種、ノイラミニダーゼ(neuraminidase ; NA)には9種類あり、その組み合わせでどのような新型インフルエンザも出る可能性があるとされている。H5N1は、あくまで候補の一つにすぎない。
人のインフルエンザとして流行したことが確認されているのは、今まで、H1(スペインかぜ、ソ連かぜ)、H2(アジアかぜ)、H3(香港かぜ)の3種類だけであり、他のHAを持つ鳥インフルエンザは人の世界では流行しないという意見が、インフルエンザ専門家の間で広まっている。1800年代から現在に至るまで、この3種類のインフルエンザが繰り返し流行したことが、疫学研究から明らかにされている。
これは、いわゆる抗原循環説であり、そうすると次の新型インフルエンザの候補はH2となる。H2は、1957年から1967年までに流行したアジアかぜのHAである。もしもH2が流行すると、1968年以降に生まれた年代に大きな被害が出ることになる。
H5N1が新型インフルエンザとして流行しないという意見が広まってきたが、その根拠は、2003年に東南アジアに出現して以来、莫大な数の家禽の被害があり、しかもアジアの人口密集地域で人との接触も高頻度であるにもかかわらず、わずかに387例しか人への感染例がないことにある。H5N1は、人への感染力はかなり低いと考えられる。
日本ではマスコミを中心にH5N1が次の新型インフルエンザと確定したような報道がされているが、世界のインフルエンザ専門家の間では、上記の理由で、むしろ否定的な意見が広まっている。ただ、もしもH5N1が新型として出現した場合には、重症のインフルエンザとなるという点では意見は一致し、それがH5N1プレパンデミックワクチンの問題につながっている。
新型インフルエンザ対策の問題点
新型インフルエンザ対策には、
①ノイラミニダーゼ阻害薬による治療と予防
②ワクチンの接種
③休校、隔離、屋内イベントの中止などの感染拡大防止策
などがある。
(1)ノイラミニダーゼ阻害薬による治療と予防
日本のノイラミニダーゼ阻害薬備蓄は、2007年4月の段階で世界の第25位である。毎年のインフルエンザ流行に対して、世界の半数前後のオセルタミビルを使用している日本ではあるが、新型インフルエンザ用の備蓄は先進国の中で最低クラスであり、ザナミビルの備蓄はほとんどないことが問題であった。しかし、最近、日本政府は、人口の40%から50%をカバーする治療量を備蓄することを決定した。これで、日本の備蓄も世界のトップクラスとなる。
ところで、最近、オセルタミビルの耐性が懸念される事態が発生した。昨年から今年にかけてのH1N1インフルエンザの流行で、ヨーロッパでは約25%がオセルタミビルの耐性ウイルスであることが明らかになり、しかもそれが、ザナミビルには感受性であったことである。
耐性がクローズアップされてきたため、世界各国は抗ウイルス薬備蓄の20%から30%をザナミビルにすることを目指している。日本では、ザナミビルの備蓄はわずか数%であるが、さらに増加させる必要がある。
(2)ワクチン接種
ノイラミニダーゼ阻害薬備蓄には展望が開けたが、一方、新型インフルエンザ用ワクチンには問題が山積みとなっている。
(a)スプリットワクチンと全粒子ワクチン
毎年のインフルエンザワクチンは、ふ化鶏卵にウイルスを接種し増殖させた後、遠心分離をかけ卵の成分を取り去りウイルスを精製する。精製したウイルスにエーテルを加えて、ウイルス粒子を分解してワクチンを製造する。これを、スプリットワクチン(split virus vaccine ; SPL)と言う。
日本では新型インフルエンザ用ワクチンは、毎年のワクチンと異なり、エーテルを加えることなく、精製したウイルスのままでワクチンを作製する、いわゆる全粒子ワクチン(whole virus vaccine ; WV)である。WVのほうが、SPLよりも免疫原性に優れている。さらに免疫原性を高めるために、アジュバントとしてアルミを加えている。
新型インフルエンザが出現した時、迅速にパンデミックワクチン製造を開始する必要がある。しかし、ワクチンは、新型インフルエンザを分離してから、国民に十分量供給するまでには半年は要する。新型インフルエンザによるパンデミックは2ヵ月間で終息すると考えられているので、パンデミックの第1波には間に合わない。
(b)日本のワクチンは小児に接種できない?
日本では、新型インフルエンザ用ワクチンはWVである。WVは、欧米では12歳以下の小児には副作用として発熱等の全身症状が強く出るので禁忌となっている。1976年の豚型インフルエンザ騒動の時に、米国での治験において、WVは成人の半量でも、小児では発熱が多発したことが報告されている。
日本の新型インフルエンザ用ワクチンは、WVなので小児での使用はできない可能性もある。筆者は、日本でのH5N1ワクチンの小児治験での投与量が成人量と変わらないのは、治験としてもリスクが高いと感じている。
(c)欧米のワクチンはantigensparing effectが高い
欧米の新型インフルエンザ用ワクチンは、SPLで最近開発されたアジュバントを使用している。有効性で見ると、アジュバントの違いが原因であるが、日本の新型インフルエンザ用ワクチンに比べて、例えば、グラクソスミスクライン(GSK)社のワクチンは4倍程度、免疫原性が高い。単純に計算すると、同じワクチン原液で4倍のワクチンを製造することができる。例えば、2000万人分のウイルス抗原の備蓄があれば、8000万人の接種が可能である。緊急に大量のワクチンを製造するためには圧倒的に有利である。
また、欧米のSPLのほうが、日本のWVよりも安全性は高いと考えられ、小児でもSPLであれば問題はない。しかし、欧米と日本のアジュバントでの安全性の差は不明である。
(d)プレパンデミックワクチン
H5N1ウイルスが、次の新型インフルエンザとして出現する可能性については、否定的な意見が広まっているが、もしも流行すれば死亡率の高いインフルエンザとなることが危惧される。
そこで、鳥インフルエンザであるベトナムやインドネシアのH5N1ウイルスから、前もってワクチンを作製し、パンデミック発生前に免疫する試みが、いわゆるプレパンデミックワクチンとその備蓄である。したがって、プレパンデミックワクチンという手法は、H5N1に限定した新型対策である。
H2とか、H7、H9が出現すると、H5N1ワクチンの備蓄は無駄となるが、H5N1インフルエンザの高い死亡率を考えると、医療関係者や、社会を維持する人々のための、H5N1プレパンデミックワクチンの備蓄は必須である。これはインフルエンザ専門家のコンセンサスである。
(e)日本のワクチンは効果が低い
H5N1プレパンデミックワクチンを流行前に接種して抗体が上昇しても、実際に新型インフルエンザが出現した時には、大幅な抗原変異が生じる可能性があるので、有効性が期待できるかどうかは分からない。
日本のプレパンデミックワクチン(日本K社製)は、欧米のワクチンに比較して効果が低く、接種後に感染防止に有効と考えられる40倍以上のHI抗体の上昇が得られたのは、わずかに17・4%の被験者にすぎない。一方、GSK社のワクチンでは、アジュバントの違いと考えられるが、84%が抗体を獲得した。日本の新型インフルエンザ用ワクチンの改良が強く望まれる。
(f)日本のワクチンは安全か
世界各国でのH5N1プレパンデミックワクチンの治験では、今までに、大きな副作用は報告されていない。しかし、ほとんど副作用のないことが確認されている毎年のインフルエンザワクチンと、同等に考えることはできない。日本の新型用ワクチンが、小児に使用できない可能性が高いことはすでに述べた。
プレパンデミックワクチンの安全性については、結局、ベネフィットとリスクで検討することになる。それには、1976年の豚インフルエンザ事件を検証する必要がある。
1976年2月に、米国の陸軍基地で、豚インフルエンザが流行し、若い兵士が死亡した。このウイルスは1918年のスペインかぜと同じH1N1型であり、「スペインかぜの再来」として大問題となった。米国では1976年の10月から豚インフルエンザワクチン接種が開始されたが、11月には、接種者からギランバレー症候群が発生することが報告された。CDC(米国疾病予防管理センター)の調査により、このワクチン接種によってギランバレー症候群の発症が7~8倍高まることが明らかとなり、12月に約4000万人の接種を終えたところで、突然、中止となった。
結局、ワクチン接種後に約500名のギランバレー症候群が発生し、死亡例も報告された。その後ブタ型インフルエンザは、二度と出現することはなかったが、副作用を巡り多数の訴訟が起きた。
欧米では、この経験が生きているので、H5N1プレパンデミックワクチンの備蓄には積極的であるが、実際のワクチン接種には慎重である。
(g)抗原原罪説(original antigenicsin)
プレパンデミックワクチン接種について、もう一つ疑問が出ている。それは、人では一生で最初に感染したインフルエンザウイルスに対する抗体(原罪)は、後年、同じ亜型の変異ウイルスに感染した場合、変異ウイルスに対する抗体よりも、上昇しやすいという問題である。
このため鳥インフルエンザH5N1のベトナム株で最初に免疫ができると、その後、H5N1が人インフルエンザとして流行した場合に、人インフルエンザのワクチンを接種しても、鳥インフルエンザのベトナム株に対する抗体が強く上昇して、肝心の人のH5N1に対する抗体が上昇しない可能性がある。
したがって、プレパンデミックワクチンを接種する場合、できる限り、最新の株のワクチンを使用すべきである。期限切れとなる古い備蓄ワクチンの接種は、抗原原罪説からは避けるべきこととなる。
(3)発熱外来は有害無益
欧米の新型インフルエンザ対策には、発熱外来の発想はない。インフルエンザは外来受診までに周囲に感染を起こす機会が十分にあり、外来だけ隔離しても感染拡大防止としての意味がないからである。物理的にも、爆発的に発生するインフルエンザ患者を少数のクリニックで診察するのは不可能ということもある。
発熱外来は誤った感染拡大防止策であり、これにより、多くの病院診療所が新型インフルエンザ患者の受け入れを避ける理由となっている。
おわりに
新型インフルエンザ対策では、診療体制の確立が最優先の課題となるが、日本では、残念ながら大幅に遅れている。政府は、医療従事者にはワクチンに加えて、ノイラミニダーゼ阻害薬の予防使用とN95マスク着用を保証し、すべての医師、看護師等、医療関係者が積極的に新型インフルエンザの診療にあたるように呼びかけるべきである。
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