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(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ2008年11月号からですo(^-^)o ..。*♡
米国ではプライマリケア医が不足
(MMJ November 2008 vol.4 No.11 p907-909)
JAMA(2008;300:1872~1875)によると、米国ではプライマリケア医の不足分が2025年には40,000人を超えるという予測が、Missouri大学と米国医療資源・サービス局(Health Resources and Services Administration)の研究グループから報告され (Colwill JM, et al. Health Aff[Mill-wood].2008 ; 27 : 232 ~241)、将来の医療に重大な問題をもたらすのではないかと危惧されているという。
影響は“医療弱者”に
これまでに報告されている研究・調査からも、将来、医療サービスの需要に応えるには医学部が現在養成している医学生の人数では足りないことが明らかになっており、今回の解析結果はその予測を裏付ける形となった。最近、米国地域医療センター協会(National Association of Community Health Centers ; NACHC)が発表した報告書でも、プライマリケア医や他の第一線の医師が需要に比べ大幅に不足するという予測が示されている(http://www.nachc.com/client/documents/ACCESS%20Transformed%20full%20report.PDF)。この報告書では、プライマリケア医などの不足によってとくに大きな影響を受けるのは、高齢者や地域医療センターの利用者、地方や都市部の所得レベルの低い地区に往みもともと十分な医療サービスを受けていない人たち、いわゆる“医療弱者"だ。
North Carolina大学保健サービス研究センターのThomas C. Ricketts副所長によると、それらのエビデンスが示されてから、医師労働人口に対する見方が変わってきたという。1990年代に米国では将来医師が過剰になると予測されたが、医師教育プログラムの定員がゆるかに増加したのに対し人口が急増した結果、プライマリケア医だけでなく全診療科目で医師の不足が起こってしまった、とRickettsは説明する。
人口増と高齢化の影響で
プライマリケア医の不足が予測される主な根拠となっているのは、人口全体の増加ならびに高齢者人口の増加だと指摘するのは、Missouri大学家庭・地域医療学名誉教授のJackM.Colwill医師だ。
Colwillらの予測によると、成人患者の治療においてプライマリケア医に要求される仕事量は2005年から2025年にかけて29%増加するという。しかし、成人を診る一般医(generalist)の供給はこの期間に7%しか増えない見込みだ。したがって、成人の治療に関して、プライマリケア医の不足人数は35,000~44,000人になる。一方、小児科医や小児も診療する家庭医に求められる仕事量は13%増加すると予測されるが、小児科診療に従事する医師の供給はこの増加分を満たすのに十分だと示されている。
これらの予測はかなり控えめな前提に基づいている、とcolwillは言う。なお今回の予測は、現在の医師の供給量は十分である、患者1人あたりの受診件数(頻度)は、今後も現行と同じであるという条件設定で計算されたものだ。しかしcolwillによると、専門家の中には、医師の供給は現時点ですでに不足しており、過去の傾向を考慮すると、患者1人あたりの受診件数は今後増加する可能性が高いという意見もあるという。
さらに、医療の需要にはさまざまな要因が影響する可能性があり、どのような形で影響を受けるのかは予測不可能である、とRickettsは指摘する。例えば、未知の疾患が見つかったり新しい治療法が登場すれば患者の需要は増大するかもしれない。遂に、医師がより効率的な治療戦略を開発すれば、医師1人あたりが治療できる患者数は増加する可能性もある、と彼は説明する。
医療サービス不足が起きている特定地域
予測される医師不足の問題をさらに複雑にしている要因の1つが、医師の偏った分布である。現在、米国の地方や都市部の低所得地域ではプライマリケアヘのアクセスが限られており、今後プライマリケア医が不足すれば“医療格差”はさらに拡大すると懸念されている。
米国地域医療センター協会は今年発表した報告書の中で、このようなプライマリケア医の地域特異的な不足問題の解決が必要だと訴えている。同協会によると、これらの地域では560O万人(住民のおよそ5人に1人)が医師不足のために十分なプライマリケアを受けていないという。
「国民全体に影響を及ぼすほどの医師不足になる」と警告するのは、同協会政策担当理事のDan Hawkinsだ。大勢の人がごく基本的な予防医療を受けられない、あるいは病気が重症になる前に早期治療を受けられない事態になれば、医療費も増加する、と彼は指摘する。「いずれ国民全員が、より高い医療保険料を払いながら、医療アクセスの制限が増大する時代を迎えることになるだろう」
今回の報告書では、地域医療サービスに対する米連邦プログラムが拡充されれば、この問題を軽減できる可能性があると論じている。その理由として、政府から支援を受けた公的医療施設であれば、民間の開業施設では経営の維持が難しい地域でも運営可能なことがあげられる。
住民の多くが医療保険に未加入で、所得が低く、あるいはメディケイドに加入している地域では、医療保険からの支払いが少ないため、医師が個人開業するのは難しい、とHawkinsは説明する。「医療活動に積極的に取り組んでいる医療提供者であっても、経済的な理由から、そうした低所得地域で自立開業を実施するのは非常に厳しい」と彼は補足する。
しかし、米連邦のCommunity Health Centers Programから支援を受けている地域医療センターであれば、医療サービスの隙間を埋めるのに最適だ、とHawkinsは言う。地域医療センターが2015年までに今より3000万人多く患者を診療することができれば、米国の保健医療システム全体で年間226億ドル~404億ドル節減できる、と報告書に記されている。
だが、これらの医療センターの多くはすでに医師不足の問題に直面しており、十分なサービスを受けていない地域にも医療を提供するにはスタッフを大幅に補充する必要がある。報告書の推計によると、2015年までにさらに3000万人の患者に医療サービスを提供するには、地域医療センターにプライマリケア医を約10,000人以上、ナースプラクティナー・医療助手は5,00O人以上、そして看護師を11,000人以上増員する必要がある。今より6900万人の患者に医療を提供するという、かなり難しい目標を達成するには、地域医療センター全体でプライマリケア医を約51,000人、看護師を37,00O人増員しなくてはならない。
給与の改善
予想されるプライマリケア医の不足を食い止め、医師全体の供給を増やすには、多面的なアプローチが必要になるだろう、というのが大方の専門家の見方だ。
その1つとして、医学部卒業者の人数を増やすための戦略がすでに実施されている。米国医科大学協会(Association of American Medical College ; AAMC)は2006年に、米国内の医学部入学者枠を2015年までに30%増加させるという目標を設定した。今年5月にAAMCから発表された全米医学部調査によると、医学部入学者は2012年までに21%増(年間3,400人)が見込まれている。さらに医学部教育課程(プログラム)の新設も何件か計画されている。これらが奏効すれば、2016年までに医学部卒業計数は年回5,300人ずつ増加していくと予測される。
卒後研修プログラムの拡充も不可欠だと指摘するのは、AAMC労働人口研究センターのEdward Salsberg所長だ。彼らは卒後研修プログラム枠の増加を規制した連邦政府の政策がその後どのような影響を及ぼしたのか解析し、JAMAに最近報告している(Salsberg E,et al.JAMA 2008;300:1174~1180)。 1997年に施行されBalanced Budget Actによって卒後研修プログラムの数は一時的に抑えられたが、2002~07年に若干増加している。 Salsbergによると、卒後研修プログラムを今後も拡充していくには連邦政府からの追加支援が必要になるだろうという。
プライマリケア医と専門医の給与格差も検討すべき課題の1つだ。Georgia大学のMark H. Ebell教授が最近発表した研究によると、各種分野の専門医の初任給と医学生の選択した進路(分野)の関係を調べた結果、予想どおり、給与の高い診療科を専門に選ぶ学生が多かったという(Ebell MH. JAMA 2008 ; 300 : 1131~1132)。平均初任給のもっとも低い診療科が家庭医学(185,740ドル)で、1年次家庭医学レジデンシー(卒後研修)プログラム定員枠の42.1%しか医学部卒業者で埋まっていない。
遂に、放射線科の1年次レジデンシープログラムは定員の88.7%、整形外科の研修プログラムは93.8%が埋まっている。これらの診療科では平均初任給がもっとも高く、年間400,000ドルを超えている。
平均的な医学生が卒業時に借りている教育ローンは140,000ドルを超えているため、プライマリケアに比べ給与が2~3倍高い専門分野は彼らにとって魅力的だろう、とColwillは理由をあげる。
しかし遂に言えば、プライマリケア医への報酬体系を見直し給与待遇が改善されれば、医学部卒業者への請求力も強くなるはずだ。その方法の1つとして在宅医療に彼は着目している。総合的なケアを管理し、専門医による医療との橋渡し役を務めるプライマリケア医には診療報酬を上げてはどうか、と彼は提案している。
North Carolina大学のRickettsは、医師への診療報酬が専門科目に依存せず横断的に支払われる方法がないか検討する必要もあると指摘する。本来、医師への診療報酬は患者に提供したサービスの価値と治療(介入)に要した費用に基づいて調整されるべきものだ、と彼は主張する。
医学生がプライマリケアに魅力を感じない背景には、収入以外の要因も考えられる。医学部4年生1,177人を対象に最近行われた調査によると、プライマリケアに従事した場合のライフスタイルや業務内容に対してよい印象をもっていない学生が多かったという(HauerKE, et a1. JAMA 2008;300:1154~1164)。
プライマリケア医が少ない不均衡な医師構成の問題を打開するために、米国地域医療センター協会(NACHC)はNational Health Services Corps(NHSOを拡大すべきだと主張している。 NHSCは医療サービスの足りない地域で最低2年以上働くことを条件に、医師に奨学金を給付あるいは教育ローンを返済している。これらの支援を受けている医師のおよそ半数が地域医療センターに勤務する。AAMCも同プログラムヘの参加を働きかけており、参加者数を倍増させ、年間1500人程度に増やそうと支援している。
4年以上参加すれば、プログラムが終了した後も医療サービスが不足している地域で働き続ける割合が著しく高い、とNACHCのHawkinsは効果を述べている。
ただしAAMCのSalsbergも認めるように医師供給を増やすためにすでに実施されている努力だけでは、今後予想されるプライマリケア医の不足を防ぐには十分ではなく、また専門分野間での医師人口の不均衡を是正する対策も強化する必要がある。医師以外にも、ナースプラクティショナーや医療助手を増やし、医師を効率的に活用できるよう医療の提供方法も見直すべきだ、と彼は指摘する。
プライマリケア医の供給を増やすことは、すべての診療科目の医師にもメリットがある、とColwillは考えている。
「プライマリケア医の不足が拡大すれば、そのしわ寄せは専門医にくる。プライマリケアは自分の担当外と思っていても、従来プライマリケア医が診ていた患者が押し寄せてくるからだ」と彼は警告する。「プライマリケア医の人数を増やすのが、患者、医療提供者すべてにとって最善の策だろう」
http://homepage.mac.com/k_kudo/iblog/B2007620793/C1931105600/E20060606235330/index.html
ここの
「病院が生き残ろうと思うなら、専門性を高めて効率を良くして生き残ると言う意見がある。でも、これって初めから矛盾である。じゃあ、専門性のない病院は生き残らないとするとどうなるか?生き残るのは専門病院ばかりとなる。」
「皮肉なことに専門性の高い病院だけ生き残れば、その専門性を維持することは不可能となる。必ずしも専門性を要求する病状でない患者も他医院に行く選択肢がないのだから、どっと専門性の高い病院に集中する。」
の危惧に関連(表裏一体)ですね
投稿情報: 匿名希望 | 2008年12 月30日 (火) 17:32