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(投稿:by 僻地の産科医)
病院に重点配分も実感は乏しく
-2008年重大ニュース(4)-
「診療報酬改定」
キャリアブレイン 2008年12月28日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19874.html
4月に実施された診療報酬改定では、本体部分をプラス0.38%と8年ぶりに引き上げる一方、薬価部分(薬価と材料価格)は逆に1.2%引き下げたため、診療報酬トータルでは0.82%の引き下げになった。今回の改定では、勤務医不足に歯止めを掛けるため、緊急課題として勤務医の負担軽減策や、産科・小児科、救急医療を重点評価することなどが決まった。必要な財源として、医科の引き上げ分を病院に全額回したほか、診療所の財源約400億円(医療費ベース)を病院に移譲した。病院医療を重視した改定になったが、当の病院側は、必ずしも恩恵を実感できずにいる。
■基本診療料、実質的な議論は09年度から
今回の改定をめぐる中央社会保険医療協議会(中医協)による議論では、診療所の再診料を引き下げるかどうかが最大の焦点になった。中医協では支払側と診療側の意見が最後まで平行線をたどり、最終的には公益委員の判断で引き下げを見送る一方、逆に病院(200床未満)の再診料を引き上げることで決着した=図=。
診療所から病院に移譲する約400億円の財源は、診療所や200床未満の病院が算定する「外来管理加算」の要件見直し(「5分要件」の追加)や、「デジタル映像化処理加算」の廃止、軽微な処置の初・再診料への包括化などによって捻出(ねんしゅつ)。これと医科部分の引き上げに伴う新しい財源とを合わせ約1500億円が、緊急課題に掲げていた勤務医、産科・小児科の重点評価に回った。
病院(200床未満)の再診料の引き上げ幅は3点(1点は10円)。また、入院では「10対1入院基本料」を当初の1269点から1300点にまで引き上げ、よりランクの高い「7対1入院基本料」(1555点)との格差を縮小した。さらに、産科・小児科、勤務医対策の一環として、既存の「ハイリスク分娩管理加算」や「新生児入院医療管理加算」「小児入院医療管理料」などの点数を引き上げたほか、「医師事務作業補助体制加算」や「ハイリスク妊娠管理加算」を新設した。
一方、長期療養の患者の受け入れ病院が算定する「療養病棟入院基本料」では、5つの区分ごとに定められている点数が軒並み引き下げられ=図=、従来の「認知機能障害加算」も廃止された。また、特殊疾患病棟や障害者施設等入院基本料では10月以降、算定対象から脳卒中の後遺症や認知症の患者が除外され、意識障害など「重度の障害者」に限定された。
中医協が2月にまとめた改定案の答申では付帯意見として、医療機関の初・再診料や入院基本料などの「基本診療料」について水準を含め在り方を検討し、「その結果を今後の診療報酬改定に反映させること」としている。
厚生労働省の原徳壽・保険局医療課長(当時)は、6月4日に開かれた中医協基本問題小委員会で、基本診療料やDPC、薬価の在り方が次の改定の主要項目になるとの認識を示した上で、「実質的な議論は、おそらく来年度から進めていくことになる」と説明している。
■「5分要件」に賛否両論
今回の改定では、産科・小児科や勤務医対策と並んで救急医療への重点評価を緊急課題に位置付けた。大規模な急性期病院に有利な改定だったとする見方もあるが、医療機関の経営計画策定支援などを手掛けるMMオフィスの工藤高代表は、これらの病院が実際に受けることができた恩恵はわずかだと見る。
急性期病院では人員配置やハード面の整備への投資が膨らみ、利益率がどうしても低くなりがちだからで、工藤氏は「次の改定では、より抜本的な見直しが必要だ」と訴える。
診療所や中小病院の受け止め方も複雑だ。「少なくとも耳鼻科では処置の点数が上がった。『丁寧に処置をしてもこんなに低い』といった不満の声を最近、聞かなくなった」(千葉県内、耳鼻咽喉科医院)、「病院全体で一か月当たり前年比0.2%程度のプラスだった」(東京都内、一般など284床)といった声がある一方で、不満を訴える関係者も多い。
外科・内科・整形外科などを標榜し、10対1入院基本料を算定する大脇病院(東京都世田谷区、一般82床)では、今回の改定で1か月当たり数十万円の減収になった。入院基本料や再診料が引き上げられたため、当初は微増を見込んでいたが、デジタル映像化処理加算の廃止や外来管理加算の算定要件見直しによるマイナス分が上回った。特に、外来管理加算の算定数が改定の前後で半分以下に落ち込んだのが大きかったという。
同病院の宇佐美譲事務長は、「無理やり5分以上をかけることもできるが、患者さんの負担増につながることを考えれば、それもできない」と話している。
厚労省によると、外来管理加算の算定要件の見直しは、診療報酬体系を患者にとって分かりやすくするのが狙い。従来は、処置や検査を伴わない患者に丁寧な説明をした場合などに再診料への上乗せが認められていたが、「医療サービスの内容が患者にとって実感しにくい」などの指摘があったという。
そこで、「医師が実際におおむね5分を超えて直接診療を行っている場合」という算定ルールを追加し、疾病、病状や療養上の注意などに関する医師の丁寧な説明を促すことにした。
「5分要件」をめぐっては、日本医師会が「想定以上に算定が困難になっている」と主張するなど、医療団体から検証を求める声が上がっている。その一方で、「まじめに診療すれば、5分はかかるはず」と、前向きに受け止める関係者もいる。
■障害者入院基本料の見直し「患者にも過酷」
障害者施設等入院基本料を算定している福岡県内のある病院では、脳卒中の後遺症や認知症患者が算定対象から外れた10月以降も、障害者病棟を継続している。当初はほとんどがこれらの患者で占められていたが、10月をにらんで、難病やがん患者などの受け入れを促した。このため夏以降は、脳卒中・認知症患者の転院や転棟、退院手続きに追われた。
これらの患者には制度変更の中身を説明し、理解を求めた。退院に当たっては、この病院が運営する介護病床や他病院の医療療養病床を紹介したが、「なぜ、うちが?」と家族らに詰め寄られる場面もあった。この病院の医事担当者は、「病院だけでなく、患者や家族にも過酷な制度変更だった」と振り返った。
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