(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
ついでですので、
先日の17回の記事に漏らしてしまった2つの記事も上げます(>▽<)!
死因究明のコストは1件当たり93.9万円
M3.com橋本佳子編集長 2008/12/03
http://mrkun.m3.com/DRRouterServlet?pageFrom=CONCIERGE&operation=showMessageInDetail&pageContext=CONCIERGE&msgId=200812021907117119&mrId=ADM0000000&mkep=mx-dr1.0&onSubmitTimeStamp=1228400157953&onLoadTimeStamp=1228400152125
死因究明の「モデル事業」では全国で計82事例を受け付け、うち62例は遺族などへの説明まで終了。死因究明は1件当たり93.9万円------。
先日(12月1日)、厚生労働省で開催された「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」、いわゆる“医療事故調”の会議で、こんな結果が公表されました。会議の記事は、医療維新「死因究明モデル事業は、本当に面倒で大変」にまとめましたので、こちらをお読みください。
ここでは、もう少し「数字」を追ってみます。このモデル事業は、日本内科学会などにより2005年9月からスタート。現在、医療系38学会の協力の下、全国10地域で診療に関連した死亡例の死因究明などを行っています。
【事例分析の実績】(12月1日の厚労省検討会での公表データ)
・ 事例の受付件数:2005年度(7カ月)13件、2006年度36件、2007年度15件、2008年度(8カ月)18件で、合計82事例。うち、62事例で「評価結果報告書」を作成、遺族・医療機関に説明。
・ 受付に至らなかった件数:150事例。内訳は、遺族の同意が得られず(47事例)、医療機関からの依頼がなかった(26例、モデル事業では、遺族の同意を得た医療機関からの依頼が前提)、司法・行政解剖になった(26例)など。
・ 受付から遺族・医療機関への説明会までの期間:平均10.5カ月(当初の目標は3カ月)。
・ 関係した医師数:モデル事業への協力医として、2595人の医師が事前登録。75事例の受付時点で、延べ679人の医師が実際に協力(モデル事業では、病理医・法医・臨床立会医の3人で解剖を行い、臨床評価医・法律家・総合調整医・解剖担当医など10数名から成る地域評価委員会で評価を実施)。
・ 1事例当たりのコスト:平均93.9万円。評価委員への謝礼43.6万円、解剖に要する費用39.3万円、遺体搬送料4.3万円、その他事務費等6.7万円。
【関連データ】(編集部調べ)
・ 2007年の民事訴訟の新規受付件数:944件(最高裁データ)
・ 2007年の医療事故の警察への届け出等の件数:246件(警察庁データ、「警察への医療事故の届け出、2007年は3割増」を参照)。
・ 日本法医学会の会員数:1353人(日本医学会のホームページ掲載データ)
・ 日本病理学会の会員数:4100人(日本医学会のホームページ掲載データ)、病理専門医:2053人(日本病理学会ホームページデータ)
“医療事故調”に関する厚労省の第三次試案では、一定の条件を満たす診療関連死および遺族から要望があった事例について、死因を調査するとしています。その数は図りしれませんが、例えば、2007年の民事訴訟の約1000事例を調査した場合、必要医師数は1年間で延べ約9000人(モデル事例は3年強で679人)。病理医や法医の数なども踏まえた、現実妥当性のある制度設計が求められることが浮き彫りなっています。
事故調委員会の実現性に“?”
篠原 伸治郎
MTpro 記事 2008年12月2日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0812/081202.html
—死亡調査分析モデル事業の実情示される
12月1日に第17回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が開催され,“診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業”(モデル事業)の調査の実情が報告された。
実際にモデル事業に携わった医療従事者たちは,その実行に大きな困難を伴うことを次々と報告。厚生労働省(厚労省)の示した医療安全調査委員会の大綱案・第三次試案の基本コンセプトや実際の調査プロセス案の非現実性が改めて示された形となった。
実際に死亡の調査分析に携わった医療従事者が報告
厚労省の医療安全調査委員会,いわゆる事故調の検討会で,同省の示した試案(第三次試案と大綱案)に対し,日本麻酔科学会,日本産科婦人科学会,日本救急医学会,全日本病院協会,全国医学部長病院長会議と,特にハイリスクの患者を扱う団体は,結果に基づく医療行為の調査と,処罰が結びつくことや同委員会運用のマンパワーなどの現実面から軒並み反論してきた。
一方,試案の地方委員会が行う医療事故調査に近い形で,日本内科学会は“診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業”を実施しており(実際のプロセスはPDFの3〜5ページ参照),今回は実際に調査分析に携わった3人が呼ばれ報告を行った。
今まで指摘されてきた事故調の問題点が,モデル事業でも示された
同モデル事業の札幌地域代表として出席した札幌医科大学(法医学)教授の松本博志氏は,解剖や評価の際,困難だった点として(1)解剖時の臨床立会医の確保,(2)通常の勤務と並行するなかでの法医,病理医,臨床立会医のスケジュール調整(土,日にメールで対応などもしたが,顔を合わせないとできないことがある),(3)評価における中立性の担保(ジャッジが目的でないのに,厳しい意見を言うことも),(4)モデル事業が最先端の治療を扱う各学会主導で行われているが,各地域に準じた判断が必要になる-などを挙げた。
臨床評価医として同事業に参加した大阪大学(呼吸器外科)教授の奥村明之氏からは,同様に評価の際,現場で困難であった点として(1)適切な臨床評価医の質の担保とその選定に時間を要すること,(2)時に段ボール2箱に及ぶ解剖結果報告書を通常業務を行うなかで精読すること,(3)評価医,臨床評価医,総合調整委,解剖医,法律家等の6~7人で評価を行うが日程調整が困難,(4)遺族から時間がかかり過ぎると不満の声がある,(5)標準的医療の判断が困難,(6)無理に病名をつけなければならないときがある,(7)事務作業が繁雑すぎる—などが挙げられた。
同氏は,「報告を終えた14例のうち13例で,示した死因に遺族が納得したが,1例では調査に求められていたものが,“患者が亡くなるまでの10年に及ぶ治療の影響”という非常に広範な範囲であったため,納得を得られなかった」という。また,調査に対し,13例のうち,約3分の1で遺族に感謝されたが,「“納得”と“信頼”とは別の問題である」と指摘。「医学的に正しい結果を出そうという報告書を裁判のために使用して欲しくないという医師も多く,私も個人的にはそう思っている」と述べた。
さらに「このモデル事業の与える社会的インパクトは現在低いと言わざるを得ない」とし,厚労省案の地方委員会が実際に運用されたとしても「人的パワーの問題もあり,とても全例調査できるとは言えない」とした。
東京地域事務局調整看護師の田浦和歌子氏からは,遺族との調整に当たり,困難であった点として(1)事例ごとに医師が変わるため,そのたびに説明しなければならない,(2)解剖担当医と臨床立合医が解剖結果報告書を執筆するが,勤務医不足のなか通常の業務と並行するのは無理がある,(3)重要な役割を果たす第1評価医など,協力医を探すのが困難-などが挙げられた。
また,解剖など遺族に対して非常に気を遣う局面が連続することから,調整看護師には高いコミュニケーション能力も求められると指摘。同様に,評価医にも医学的見地だけでなく,遺族や国民の目線に立つことが求められるという。
調査結果の感触に対して質問が及ぶと,「遺族は納得も理解もしていないようだ。仕方ないと思っている人はいる」ことを明かした。
同氏は「現場でもこのモデル事業の実現については大いに疑問を持たれている。また(医療施設で対応すべき)患者さんがいるなかで,大変失礼だが,亡くなっている人について,24時間夜中でも対応することがどうなのか。厳しい労働環境のなかで調整看護師として働いてくれる人はいるのか」と率直な感想ももらした。
上記の3人はこうした困難な点を上げつつ,良かったとした点で一部の遺族から感謝されたことを挙げている。
報告1件に100万円弱,10.5か月を要し,多大な人的リソースも必要
また,同モデル事業について概説した日本内科学会の山口徹氏(虎の門病院院長)は,調査1件当たり93.9万円を要したこと,遺族の相談から評価までに平均10.5か月(目標は受付から3か月以内だったが,後に6か月以内に修正)を要したこと,遺族の解剖同意率が低かった(31.3%)ことも報告している。
東京大学大学院法学政治学研究科教授(英米法)の樋口範雄氏からは「今回提出された遺族へ提出する解剖結果報告書を読んでも,大変難しくて面倒なことをやっていることが分かる。遺族からは感謝もされており,それも重要だが,これだけの人的リソースを医療界から出してやるには+αがないといけないと思う。これを第三次試案なりに拡大したときに,果たしてできるのか」と実際的な疑問が投げかけられた。また,同氏は「第三者機関を作る大きな目的には医療不信の解消があった」と述べ「この調査が医療不信の解消につながらないといけないが,当該(患者が亡くなった)の病院については遺族が不信のままでは意味がない」と指摘した。
山口氏はこれに対し「死因究明を行うことと遺族が納得することは別の問題になってくる。そうした役割としてはメディエーションなどの裁判外紛争処理(ADR)機能が考えられ,これは本来の(目的である)死因究明からは離れ,別のテーマに踏み込まざるを得ない問題だが,そうしたセクションは病院にあるべきか,あるいはモデル事業として検討することになるのか。いずれにせよ膨大,莫大な負担になるし病院としては+αを伴わないと実現も効果の発揮もできない」と答えた。また,「モデル事業に参加した遺族は評価結果いかんに関わらず医療機関や医療界全体への信頼回復にはつながっていないが,医療従事者からは死因調査や医療評価の専門性,公平性などで満足度が高く両者で差があった」ことも明らかにした。同氏は「現在,大きな医療施設でも院内調査を行っており,調査結果のフィードバックは日本医療機能評価機構も行っている。任せられることは任せる必要がある」と指摘。「そうしたことを行い,プロセスなどで効率化を図ればかなりの症例数に対応できると思う」と述べた。
*2008年12月1日「第17回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」出席者名簿(敬称略,当日配布資料より)
○座長 五十音順
鮎澤純子 九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座准教授
加藤良夫 南山大学大学院法務研究科教授 弁護士
木下勝之 日本医師会常任理事
児玉安司 三宅坂総合法律事務所弁護士
堺秀人 神奈川県病院事業管理者・病院事業庁長
高本眞一 東京大学医学部心臓外科教授
辻本好子 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長
豊田郁子 医療事故被害者・遺族
新葛飾病院 セーフティーマネージャー
永池京子 日本看護協会常任理事
樋口範雄 東京大学大学院法学政治学研究科教授(英米法)
○前田雅英 首都大学東京法科大学院教授
南 砂 読売新聞東京本社編集委員
山口徹 国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長
山本和彦 一橋大学大学院 法学研究科教授
【オブザーバー】
片岡 弘 法務省刑事局刑事課長
北村 滋 警察庁刑事局刑事企画課長
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