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(投稿:by 僻地の産科医)
第18回日本外来小児科学会からの発表ですo(^-^)o ..。*♡
開業医と勤務医の連携が必須
−愛知県の小児医療現場から
(Medical Tribune 2008年11月20日(VOL.41 NO.47) p.22)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41470221&year=2008
わが国では「小児救急」の分野において数多くの問題が提起されている。第18回日本外来小児科学会のシンポジウム「崩壊寸前の小児医療−愛知県における現状と対策」(司会=北條小児科内科医院・北條泰男院長,安城更生病院・久野邦義名誉院長)では,愛知県内各地域で行われている病診連携の実例が紹介され,今後の課題なども提示された。
小児救急医療の体制構築が課題
愛知県の小児医療が抱える問題の1つとして「時間外診療と救急」が挙げられる。名古屋第二赤十字病院小児科の岩佐充二部長は,愛知県内各地のデータをもとに小児救急医療の現状と問題点を提示した。同部長は,特に夜間診療所や休日診療所といった時間外診療所,小児集中治療室(PICU)が不足していると訴え,効率的かつ広域的な小児救急医療体制の整備が必要であると強調した。
求められる小児第3次救急の充実
岩佐部長は,2002年の11月から毎年愛知県で行われている小児時間外救急に関するアンケート結果を紹介した。
それによると,県内の小児人口はおよそ107万人で,そのうち年間およそ40万人が時間外で小児科を受診している。時間外の小児科受診施設は,症状の程度に関係なく,およそ60%が第2次救急医療施設,残りの40%が休日・夜間診療所である。
同部長は,この体制では軽症患者まで第2次救急医療施設が担当することとなり,各病院の負担が増え,輪番体制の崩壊を招きかねないと指摘。小児患者の重篤度を判別する県の小児救急用電話相談も,年間対応件数が1万件程度しかなく,機能しているとは考えにくいという。
愛知県では第3次小児救急医療の体制が整っておらず,2003年の調査では,救急重症患者用のICUはわずか26%であった。さらに救急が対応できるPICUについては,まだ県内に1施設もなく,深刻な状況である。
同部長はこれらの問題点の解決策として,
(1)小児医療提供体制のなかに小児第3次救急の問題も取り上げる
(2)人口300万人当たり1か所に小児救急部と小児集中治療部を設ける
(3)集中治療が必要な小児を迅速に搬送するシステムを確立する
(4)集中治療の対象疾患に対応できる小児専門分野を備える
(5)対象圏域の重症小児のデータをモニターする仕組みを構築する
(6)医師・看護師らの研修体制・後継者育成に注力する
−などを挙げた。
第1次救急医療の充実を
名古屋市の時間外診療所の体制について,津村こどもクリニックの津村治男院長が報告した。同院長は,患者の安易な受診が第2次,第3次救急医療に携わる医療従事者の負担を重くしかねないと指摘し,啓発活動や第1次救急医療の体制強化などが求められると訴えた。
コンビニ受診の抑制が重要
名古屋市では,市医師会が運営する時間外診療所と各地の患者かかりつけ医療機関が小児救急医療の第1次体制を取っている。
しかし,愛知県医師会が平成19年に行った「小児時間外救急に関するアンケート調査」によると,市内にある病院への時間外受診者数と市医師会の時間外診療所(計15か所)への受診者数に開きがあり,第2次救急医療を担当する医療機関にとって大きな負担となることが判明した(表)。
こうした事態に対し,津村院長は「患者が救急病院を気軽に受診してしまう,いわゆるコンビニ受診を抑制することが肝要である」と提言した。
同院長が抑制策として提言した3本柱は,
(1)啓発 (2)第1次救急の充実 (3)第2次救急の有料化
−である。
啓発に関しては,保健所の乳幼児健診などの機会を捉え,保護者に根気よくコンビニ受診を控えるよう呼びかけることが大切だと指摘した。
また開業小児科医だけでなく,勤務医や小児科標榜医と連携したり,患者のアクセスを考えた施設の設置など,第1次救急の充実を図ることも重要であるとした。
さらに,第1次救急体制の充実を前提として,第2次救急の有料化も検討すべきであるとした。
時間外診療の重荷が開業医にも
どの医療圏においても時間外診療の状況は厳しく,人手不足により担当医に多大な負担がかかることも多い。平谷小児科(一宮市)の平谷良樹院長は地元小児科医会の取り組みを紹介し,医療現場の窮状を報告した。また,コンビニ受診が小児患者の保護者にも広がっていることを懸念し,場合によっては保険診療による時間外診療分を徴収することも必要だと述べた。
時間外診療患者にも一部負担を
同院がある愛知県尾張西部では地元医師会が中心となって,近隣の自治体とともに尾張西部医療圏を形成している。その中核病院である一宮市民病院の夜間勤務には,研修医4人,看護師3人,事務員3人,検査技師1人,X線技師が1人,新生児特定集中治療室(NICU)を担当する小児科医が1人常駐している。
平谷院長らは平日の午後8時から10時まで小児救急外来患者を診療しているが,「看護師は他科の重症患者の対応に追われ,軽症の時間外受診が多い小児科をサポートする余裕はほとんどない。そのため,担当医自身が患者を診察室に呼び込むなど,診療行為以外の業務もすべて1人で行わなければならない。日ごろの診療とはかなり異なり,多々苦労がある」と述懐した。
小児夜間救急外来の診療時間が週2回,2時間ずつしかない現状については「参加している小児科開業医の数を考えれば仕方がない」としながらも「今後は,日中に診療している内科・小児科開業医にも参加を呼びかけ,毎日行えるようにしたい」と意気込みを述べた。また,勤務小児科医にかかる負担を減らすには,患者のコンビニ受診抑制を図るべきではないかと提案した。
その1例として同院長は,今年4月から徳島赤十字病院が,入院する必要のない,あるいは他病院の紹介状がない患者に対し一律3,150円徴収したところ,時間外受診者が大幅に減少したことを挙げ,「すべての時間外患者に対して全額公費負担とするのは,医療者側の疲弊を招きかねない」と主張した。
病診連携で勤務医の小児科離れ抑止
地方では勤務医の数が不足したまま小児医療提供体制の集約化が進められ,地域の中核病院の小児科勤務医にかかる負担は増大している。江南厚生病院(江南市)小児科の尾崎隆男副院長は,こうした状況が勤務医の開業医への転身,研修医の他科への変更などによる勤務医の不足につながっていると指摘し,問題解決に向けた病診連携の実例を報告した。
時間外・休日診療に開業医など活用
尾崎副院長は小児科勤務医の過重労働軽減のため,勤務医を休日・時間外の第1次小児救急の担当から外すことが必要であるとし,具体例として同科の診療体制を紹介した。
同院では,休診日である土曜日(第2,4,5土曜)の日勤帯(午前9時〜午後5時)には大学病院から医師を派遣してもらい,日曜祭日の日勤帯には地域の開業医を起用し,さらに準夜・深夜帯(午後5時〜翌朝9時)には院内の初期研修医や内科医を担当させ,第1次小児救急診療に対応している。これにより,小児科勤務医は当直体制で24時間・365日,第2次小児救急に専従できることとなり,結果的に負担が軽くなる(表)。
大学病院の医師や開業医の応援を仰ぐことで,人件費の増大が懸念されるが,地元自治体からの小児救急医療対策補助金で賄えるとした。
そのほか,同院では招へいした医師の身分保証・医療保険や,医師がこの病診連携に参加したことにより,休日診療システムから外れることになる該当地域の医師会への事情説明など,病診連携によって起こりうる多くの問題の対策も行っている。
同副院長は「地域のセンター病院でこの分業体制が取られることにより,より質の高い小児第1次救急医療と迅速な第2次救急医療の提供が可能となる」と強調した。
またこの体制では,診療担当として開業医が,電子カルテ記載担当として研修医が共同して携わることになり,開業医にとっては,研修医を指導したり,充実した医療施設を使用する機会を得られること,研修医にとっては,経験豊富な開業医が診療に当たる貴重な現場を見られるなどのメリットがあるとした。
なお発表後の質疑応答では,開業医と勤務医の著しい報酬格差が勤務医のモチベーション低下を招きかねないと問題視する声も挙げられた。
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