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(投稿:by 僻地の産科医)
この前、LUPO先生とお話していたのですが、
子宮頸癌って予防可能な疾患なんですよね!
でうから、こういうのってもっと知っていただけるといいと思うんです。
とくに若年層の方々に子宮頸癌が増えてきているので~。
では、どうぞ(>▽<)!!!!
子宮頸癌に関する一般女性の認知度調査
世川 寿之 井上 正樹
(日本医事新報 N0.4401(2008年8月30日)p68-72)
世界では、年間49万人が子宮頸癌に罹患し、27万人が子宮頸癌で死亡しているが、先進国では検診の普及により子宮頸癌の罹患・死亡が減少傾向にある。我が国では、毎年8000人が新たに子宮頸癌と診断され、約2500人が子宮頸癌で死亡しており、最近、その罹患率や死亡率は20~30代で増加する傾向が見られる。
近年、子宮頸癌の原因は、ある特定のヒトパピローマウイルス(HPV)の感染であることが分子生物学的研究によって示され、その癌化のメカニズムが明らかになってきた。性交渉の経験がある女性であれば、ほとんどの女性が生涯のうちに一度はHPVに感染すると言われている。その多くは免疫により自然治癒すると考えられているが、がんを誘発する高リスク型のHPVに感染した人の一部は、5~10年以上の年月を経て子宮頸癌を発症する。
このようにHPV感染から子宮頸癌発症までの自然史がほぼ明らかになっており、簡単な検査によって子宮頸癌やその前がん病変を発見することが可能であるため、子宮頸癌は検診によって予防可能な唯一のがんとされている。ところが、他の先進国と比較すると、日本では子宮頸癌検診の受診率は著しく低い。
今回我々は、一般女性の子宮頸癌に対する関心や知識、子宮頸癌検診の受診状況を知るため、無作為に抽出した対象者に対してアンケート調査を行い解析したので報告する。
対象と方法
我々はIpsos日本統計調査のWebパネルを用いて、インターネットによるアンケート調査を行った(実施期間;2008年1月18~23目)。対象はIpsos日本統計調査に登録し、日本全国に居住し
ている16~59歳の女性で、有効回答者数は6258人であった。
①子宮癌の認知状況
②HPVの認知状況
③子宮頸癌検診の認知・受診状況
など、最大43項目の質問回答に対し解析を行った。
結 果
(1)対象者の背景
対象者6258人の年齢分布は、10代が10・0%、20代が22・2%、30代が22・6%、40代が22・7%、50代が22・4%であった。既婚者は61・5%、未婚者は38・5%であった。
職業では、専業主婦が最も多く(32・9%)、次いで会社員(18・8%)、パート・アルバイト・フリーター(15・5%)の順であった。
(2)子宮癌、子宮頸癌の認知状況(図1)
子宮癌について、全体では「名前も病気についても知っている」と回答した人は61・4%、「名前だけ知っているが病気については知らない」は34・8%、「何も知らない」は3・8%であった。年代別では、10代の61・5%が「名前だけ知っているが病気については知らない」と回答した。しかし、30代になると64・2%が、40代以上では70%以上が「名前も病気についても知っている」と回答した。
子宮頸癌については、全体では「名前も病気についても知っている」が44・9%、「名前だけ知っているが病気については知らない」が35・1%、「何も知らない」が20・0%であり、子宮癌と比較すると子宮頸癌の認知度が低いことが分かった。年代別では、子宮癌と同様の認知傾向を示し、10代の約3人に2人(69・1%)、20代の約3人に1人(30・8%)が子宮頸癌について「何も知らない」と回答した。
また、「名前も病気についても知っている」と回答した人の認知内容は、「子宮頸癌にかかる人は子宮体癌より多い」が53・3%(対象者全体の23・9%)で最も高く、続いて「日本では、子宮頸癌は最近20~30代の女性で増加している」が49・5%(対象者全体の22・2%)、「子宮頸癌になる前の段階で発見して適切な治療を行えば、妊娠や出産にもほとんど影響がない」が48・3%(対象者全体の21・7%)であった。特に20代では、「日本では、子宮頸癌は最近20~30代の女性で増加している」を認知している人の割合が他の年代よりも高かった(60・8%:20代の対象者全体の15・8%)。さらに、これらの対象者の認知経路は、「テレビ番組」48・9%、「本、雑誌」36・9%、「病院などの医療機関」が35・2%であった。中でも10代、20代では、「学校の授業」がそれぞれ48・0%(小サンプルのため参考値)、26・5%と他の認知経路に比べて高かった。
(3)HPVの認知状況(図2)
HPVについて、全体では「名前を初めて知った」と回答した人は73・7%であり、「名前もどのような病気を起こすウイルスかも知っている」と回答した人はわずか7・5%であった。年代別では、「名前もどのような病気を起こすウイルスかも知っている」と回答した人は20代で最も高いものの10・5%の認知にとどまった。また、この認知率は20代をピークに年齢が上がるに従って低下した。
またHPVが引き起こす疾患の一つである尖圭コンジローマについて質問をしたところ、「名前を初めて知った」と回答した人は67・5%であったのに対し、「名前も病気についても知っている」と回答した人は8・1%にとどまった。
(4)子宮頸癌検診の認知状況
「子宮癌検診を知っている」と回答した人は82・9%、「子宮頸癌検診を知っている」は41・3%、「子宮体癌検診を知っている」は25・3%であった。10代の56・2%、20代の22・6%がこれら三つの検診を知らないと回答した。子宮癌検診および子宮頸癌検診の認知率は、年代が高くなるにつれ上昇する傾向にあり、40代以降になると90%以上が子宮癌検診、50%以上が子宮頸癌検診を認知していると回答した。
子宮癌検診、子宮頸癌検診について認知している内容として最も多く挙げられたものは、「子宮癌検診というのは通常、子宮頸癌検診を指す」(32・4%:対象者全体の28・1%)であり、次に「20歳以上の女性が子宮頸癌検診を受ける場合、市区町村(自治体)によっては費用を負担してくれる」(31・7%:対象者全体の27・5%)であった。国や市区町村(自治体)は、20歳以上の女性に対し2年に1回受診することを推奨しているが、そのことに関する認知は、29・8%(対象者全体の25・8%)にとどまった。また、10代、20代では、「この中に知っていたものは一つもない」が最も高く、それぞれ61・5%、43・0%であった。
「子宮頸癌検診を知っている」と回答した人の主な認知経路は、「病院などの医療機関」、「テレビ番組」がそれぞれ35・0%と31・0%を示した。特に、10代や20代では「学校の授業」(それぞれ28・3%、10・8%)、「家族」(それぞれ22・6%、17・5%)による認知が他の年代に比べ高かった。
(5)子宮頸癌検診の受診状況(図3)
調査対象者全体では、「子宮頸癌検診を受けたことがある」人は44・3%であった。受診経験率は
20代で15・8%、30代で49・5%、 40代で64・0%、50代で66・9%であり、年代とともに上昇した。子宮癌検診や子宮頭癌検診を知っていると回答した人に対し、子宮頸癌検診の受診経験を質問したところ、「受けたことがある」と回答した人は51・1%、「受けたことがない」と回答した人は48・9%であった。10代では99・3%、20代では79・5%が「受けたことがない」と回答した。
「子宮頸癌検診を受けたことがある」人に対して、最近の受診時期を質問すると、1年以内が50・6%、2~3年以内が24・0%であった。対象者全体の33・0%はこの3年以内に1度は検診を受けていた。検診受診者の受診方法は、「個人的に検診を受けた」45・8%、「住民検診」34・9%、「職場での検診」19・3%であり、年代が高くなるにつれ「住民検診」の割合が高くなった。
また子宮頸癌検診の初めての受診のきっかけを質問すると、「年齢的に受けたほうがいいと思ったため」24・2%、「市区町村(自治体)からのお知らせのハガキ等が届いた」23・7%、「市区町村(自治体)の広報誌に載っていた」22・3%であった。年代別で最も割合が高かったきっかけは、20代で「医師・看護師の勧め」、30代で「妊娠・出産時」、40代で「年齢的に受けたほうがいいと思ったため」、50代で「市区町村(自治体)の広報誌に載っていた」であり、各年代によって受診動機が異なることが判明した。
次に、「子宮頸癌検診を受けたことはない」人の受診しない理由は、全体では「今まで子宮頸癌検診を受けるきっかけがなかった」が37・9%と最も高かった。続いて、「ただ面倒だから」(24・5%)、「費用がかかる」(23・1%)、「検査内容がよく分からない」(22・2%)、「検診の通知がなかった」(21・9%)であった。年代別では、10代は「性交渉の経験がない」(35・2%)、「子宮頸癌検診を受けるには年齢が早すぎる」(26・0%)が高かった。20~50代では、共通して「今まで子宮頸癌検診を受けるきっかけがなかった」が最も高く、20代では「検診の通知がなかった」「検査内容がよく分からない」、30代では「費用がかかる」「ただ面倒だから」、40代以上では「ただ面倒だから」「検査されるのが恥ずかしい」が続いた(表1)。
考 察
今回の調査で、子宮頸癌について40~50代では名前や疾患についてある程度の認知があるものの、10~20代の場合、名前も疾患の知識もほとんどないとの結果が得られた。また全女性に共通して、子宮頸癌の主な原因とされるHPVに対する認知はほとんどなかった。
HPVは決して特別なウイルスではなく、通常の性行為にて日常的に伝播することが知られており、女性の性感染症の中で最も多いのがHPV感染である。現在、日本では若い女性の子宮頸癌が増加する傾向が見られているが、最近の若年女性の性活動の活発化によってHPV感染が増えれば、必然的に子宮頸癌の発生は増加すると考えられる。また10代や20代前半における性交渉の経験によって子宮頸癌発症の若年齢化か起こっている。このような現状においては、性交渉の経験をする前の学生に対して、学校、家族、メディア等を介して子宮頸癌をはじめとするHPV関連疾患に対する教育が必要と考えられる。HPV感染と子宮頸癌の関係についての情報を発信し、なぜ検診を受けなければならないかについて認識させることは、検診受診率の向上にもつながると考えられる。
前述のように、その原因や自然史が明らかになっている子宮頸癌は最も防止しやすいがんであることから、その予防対策は必須である。米国では成熟期の全女性の85%が検診を受けるような仕組みが作られており、その結果、子宮頸癌の罹患率は75%減少したと報告されている。日本では少子高齢化が叫ばれる中、成熟期の女性の子宮頸癌による死亡率の増加や子宮摘出率の増加は、今後、大きな社会問題となりうる。
平成16年に厚生労働省より「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」が通知され、子宮頸癌検診の対象年齢が20歳以上となった。今回の調査結果において、この3年以内に検診を受けた人は33・0%であり、特に20代の子宮頸癌検診の認知度は低く、ほとんどが受診していない(受診経験15・8%)という実態が明らかとなった。子宮頸癌検診を受診しない理由として、「きっかけがない」が最も多かったことから、行政からのハガキや広報誌による案内を充実させるとともに、企業などの民間機関も従業員に対して積極的に受診促進を図る必要がある。さらに、30代では受診しない理由として検診費用に対する負担感を挙げていることから、公費助成等を含めた経済的補助も重要であろう。子宮頸癌対策について、国全体で真剣に考える時期に来ていると思われる。
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