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(投稿:by 僻地の産科医)
仕事で疲れてセックスどころではない?
日本家族計画協会クリニック所長
北村邦夫
毎日新聞 2008年11月20日
http://mainichi.jp/life/love/news/20081120org00m100060000c.html
僕自身が会長を担当した第49回日本母性衛生学会学術集会。その時の発表が何やかやと物議をかもしています。『みのもんたの朝ズバッ!』にも取り上げられて……。男女ともに、「仕事で疲れてセックスどころではない」が結論でした。
厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)で僕自身が担当しているテーマは「人工妊娠中絶の減少要因に関する研究」。したがって、学会での発表の意図は、「わが国の人工妊娠中絶が減少している理由」について仮説を立てて立証することにありました。(1)出生数が増えた(2)避妊教育が充実した(3)近代的避妊法が普及した(4)性交頻度が少なく妊娠の機会が減った。(1)(2)は否定され、(3)と(4)にはそれなりの根拠があると力説しました。特に(3)は低用量経口避妊薬が売り上げレベルでみれば前年比15~17%程度増え続けていること、緊急避妊法の認知度が年々高まっていることなど間違いなく中絶減少に寄与する要因と言えます。しかし、メディアの関心は(4)にあったようです。16歳から49歳の男女3000人を対象として実施した「男女の生活と意識に関する調査」から結果の一部を紹介しましょう。
日本性科学会は1994年にセックスレスを「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1カ月以上ないこと」と定義しています。セクシュアル・コンタクトにはキス・ペッティング・裸での同衾(どうきん)などが含まれることから、「この1カ月間セックス(性交渉)が行われているか」と尋ねる我々の質問は狭義にセックスレスをとらえていることになります。
婚姻関係がある男女でのセックスレス率は36.5%。2001年に朝日新聞社がインターネットで行った「夫婦の性、1000人に聞く」では28.0%、研究班として実施した2004年調査では31.9%、06年が34.6%でしたので、わが国のセックスレス化が一段と進んでいることは明らかです。
婚姻関係にありながらセックスに対して積極的になれない理由を聞くと、男性では「仕事で疲れている」がトップで24.6%(女性15.1%)、女性では「出産後何となく」が一番で21.0%(男性13.6%)、「面倒くさい」(男性9.3%、女性18.8%)、「セックスより楽しいことがある」(男性2.5%、女性8.6%)、「家族(肉親)のように思えるから」(男性6.8%、女性4.3%)などが続いています。
このコラムでも何度となく「セックスなんてやりたければやればいいし、やりたくなければ無理にやるものではない」と主張態度を超えることのなかった者が、「そうはいっても結婚しているわけだからね」と一見矛盾に満ちた発言をすることをお許しください。しかもその理由が「仕事で疲れて」「出産後何となく」「面倒くさい」「家族(肉親)のように思える」となるとひと言口を挟まずにはおれません。フランスの友人にこう言われたことがあります。「日本の夫婦って、子どもが生まれるとお互いをパパ・ママと呼び合うようになるが、これはおかしな言い方だ。これでは近親姦(かん)の臭いがしないか」と。肉親感覚ではセックスの対象になり得ないというのです。
このセックスレス。わが国の少子化と決して無縁ではありません。ということで、前述の学会では、セックスレスの解消と少子化対策という視点から次のような提案をさせていただきました。
▽仕事と生活の調和(ワークライフ・バランス)。個人に求めるだけではセックスレスは解消しません。企業主などの理解と英断がどうしても必要になります。
▽妊娠中・出産後のセックスに対する意識改革を。妊娠中・出産後のセックスに対して消極的な専門家は少なくありません。しかし、それがために出産後のセックスレスを加速させているとしたら看過できません。
▽強迫的なセックスから楽しめるセックスへ。セックスすることの面倒さは、イクとかイカない。勃起するとかしない、などのこだわりの強さと無関係ではないと思います。「気持ちよかったらもうけもの」の気安さが求められます。
▽異性間のコミュニケーション・スキルを高める。語り合うことも、見つめ合うことも、触れ合うこともせずに、お互いの気持ちを理解するには限界があります。コミュニケーションをどう図っていくかがセックスレス解消への第一歩になると確信しています。
北村邦夫(きたむら・くにお)
日本家族計画協会クリニック所長。1951年生まれ。自治医科大医学部卒。日本人の性を研究して30年の「性の語りべ」。『幸せのSEX』『ピル』『カラダの本』など著書多数。
※「スローライフ スローセックス」は『毎日らいふ』(毎日新聞社刊)に連載中。
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