(関連目次)→婦人科癌 目次 経口避妊剤(ピル)について
(投稿:by 僻地の産科医)
臨床婦人科産科2008年09月号 ( Vol.62 No.9)からです!
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今回はハワイ大学の矢沢先生から!
ピルと子宮頚部癌は関連があるのか?
ハワイ大学産婦人科教授
矢沢珪二郎
(臨婦産・62巻9号・2008年9月 p1236-1237)
最近のLancet誌にピルと子宮頚部癌との関連に関する大規模調査の結果が発表された.子宮頚部癌の直接の原因はヒトパピロマウイルス(HPV)であることはよく検証されている.HPV感染なくして,子宮頭部癌は発生しない.それでも,ピルの使用と子宮頚部癌は関連があるのであろうか.以下,Lancet誌からご紹介したい。
lnternational Agency for Research on Cancerでは,エストロゲンとプロゲステロンの組み合わせによるピル(combined oral contraceptive)を子宮頚部癌の発癌物質として分類してきた.子宮頚部癌は年齢とともに増加するが,ピルの効果が終了してしまったずっと後までも,ピルとの関連がみられる.この問題を解明しようと,オックスフォード人を中心としたグループは世界で発表されている24の論文を検討した.
方 法
16,573人の子宮頚部癌患者と35,509人の子宮頚部癌のない女性とを比較した.子宮頚部癌には浸潤性頚部癌とCIN3 carcinoma in situを含めた.
結 果
ピルを使用中の女性(current users)は子宮頚部癌の発生が増加していた.ピル使用が5年以上の場合,その相対危険度(relative risk)は1.90(CI : 1.69~2.13)であった.ピルの使用を中止するとリスクは減少し,中止後10年以上になるとピルを使用したことのない女性(never users)と同程度のリスクとなった.このような関連は浸潤性の癌においてもin situの癌においてもみられ,また,HPVテスト陽性者においてもみられた.
この結果を解釈すると,子宮頚部癌の相対危険度はピルを現在使用中の女性で増加し,ピルの服用を中止すると減少する.20歳から30歳までの10年間,ピルを使用した場合,年齢50歳までに子宮頚部癌になる集積危険度は1,000人につき発展途上国では7.3から8.3の割合に先進諸国では3.8から4.5の割合に増加する.
Editorial comment
これに対してLancet誌はEditorialでコメントを発表している。以下はその要約である.
子宮頚部癌は,そのほとんどがhuman papiloma virus (HPV)により発生し,パップスメアにより予防的にスクリーニングすることが可能であり,理論的にはHPVワクチンにより絶滅させることが可能である.HPVに曝露された女性では.どのような要因が働いて子宮癌に至るのであろうか.
子宮頚部癌はHPVにより発生する.そしてHPVへの曝露はピルの使用と無関係ではない.ピル使用者は.コンドーム使用者や性的活動を持たない女性に比較して,PHVへの曝露の機会が大きい.HPVがすでに陽性である女性群のなかで,ピルと子宮頚部癌との関進がみられるかどうかは現在不明である.ピルが子宮癌の発生原因でなくとも.HPV陽性の女性では,子宮癌に進行する可能性が大きいという可能性はある.
子宮頚部癌発生に関与するホルモンはどのように働くのであろうか.HPV感染から発癌までの経路は,いくつかの段階に分けることができる.図式的に述べれば,HPVに対する曝露→HPV感染→子宮頸部でのHPV感染の確立→高度異形成(CIN3)→発癌,という経路である.ピルはこの経路のなかで,どのように関与するのだろうか.
この問題に関して,いくつかの知見を挙げると,以下のようになる.
・子宮詣部の扁平上皮から円柱上皮への移行部であるtransformation zoneにエストロゲンが働き,HPVの感染を容易にする(この所見は未確認である).
・ピルを使用していることが,HPVへの曝露をより容易にする(性行動の機会増大).
・HPVの感染が子宮頭部で確立する際に、ホルモンが影響する可能性がある.
-実験的にベータエストリオールはHPVのmRNA transcriptionを刺激・促進する.
-HPVの子宮頸部における存続は細胞免疫の機能に左右されるが,ホルモンはサイトカインの反応に影響を与える.
-HPV感染が継続するときにCIN3に至る変化の開始にホルモンが影響するのかもしれない.例えば,HPVべ6 E7transgenicnlouse(K14E7)というマウスでは,放置しておくだけで皮膚腫傷が発生するが、ベータエストラジオールに曝露されなければ子宮頚部癌は発生しない.
ピルと子宮頭部癌との関連は,現在ピル使用中の女性群(current users)と過去に使用し女性群(past users)とに限ってみられるが,このことはピルの関与が,実験動物で示されように悪性化への進行(malignant progression)という局面でのみに限られているのかもしれない.疫学的な考察によれば,ピルと浸潤癌との関連は、ピルとCIN3との関連よりも強くはなく,CIN3まで変化が到達してしまえば,それ以上のホルモンの役割はないのかもしれない.
ピルと頸部癌との関連が原因と結果の関連であるとすれば,その公衆衛生上の意義は,ピル使用後の長期間にわたる効果にある.この論文によれば,頸部癌との関連はピル使用後すぐに減少しはじめ,10年後には微弱となる.20歳の女性が10年間ピルと使用すると,子宮頚部癌の生涯リスクは,10,000万人当たり7から10に増加するに過ぎない.子宮癌増加をもたらすからといってピルの使用を避けるべきではない.
Source
1)lnternational Collaboration of Epidemiological
Studies of Cervical Cancer. Lancet 370 : 1609, 2007
2)Sasieni Comment.Cervical cancer prevention and
hormonal contraception. Lancet 370 : 1591, 2007
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