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(投稿:by 僻地の産科医)
安心と希望の介護ビジョン◆Vol.3
「介護報酬のアップ分は、介護従事者に還元を」
各委員がプレゼンテーション、「処遇改善」の重要性を指摘
m3.com 2008年10月02日
橋本佳子編集長
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/081002_2.html
「安心と希望の介護ビジョン」の第4回会議が10月1日、開催された。前回会議の予告通り(『キーワードは「医療・介護の連携」「住宅」』)、各委員のプレゼンテーションが行われた。リハビリテーション病院や特別養護老人ホームの経営者、介護者を支援する立場、学者、医師、ジャーナリストなど、委員の立場は多岐にわたるため、提言内容も多様だが、複数の委員から提起されたのが、介護従事者の処遇改善の必要性だ。
「経済的基盤抜きの精神論は説得力を欠く」(前田雅英・首都大学東京都市教養学部長)ことから、処遇改善のカギは給与の引き上げになる。来年4月には介護報酬改定を控えているが、石川良一・稲城市長は、「介護報酬の引き上げが、個々の介護従事者の給与の引き上げになるのかがポイント。介護報酬のアップは保険料の増加につながることでもあり、その辺りをモニタリングしていくことが必要」と指摘した。
現在、経済連携協定(EPA)に基づく外国人労働者が進められている。この点についても議論され、「足りないところを補うという発想はいいが、(受け入れには体制整備などのコストもかかるため)そう単純に多数の外国人労働者を受け入れるわけにはいかない。まずは勤務環境の改善が先決」(前田氏)との慎重論が出た一方で、「20年、30年という視点で考えた場合、高齢者はますます増える一方で、少子化が進み、すべての分野で働き手が足りなくなる。勤務環境の改善は重要だが、将来、どうするかという二段構えで考えていく必要がある」(村上勝彦・ 社会福祉法人慧誠会帯広けいせい苑施設長)と、受け入れ推進の声も上がった。
これらの発言を受けて、舛添要一・厚生労働大臣は、「年末にかけては介護報酬の議論になるが、少し大胆に発想を変えて、事業者ではなく、介護従事者に直接お金がいく仕組みを検討していい」と語った。
外国人労働者の問題については、「短期的な視点だけではなく、長期的な視点での検討も必要。将来、外国人労働者が帰化することも考えられる。海外の事例を見ると、外国人労働者の子孫が、差別と偏見を受けたり、アイデンティティークライシスを来すケースもある。日本社会として、どう受け入れていくかを考えることが必要」とした。そのほか、(1)介護ロボットの可能性の検討、(2)家事援助サービスなどにおける地域のボランティアなどの活用の検討、(3)成年後見制度の充実――などにも言及した。
会議は午後3時から午後5時までの2時間。12 人の委員のうち4人が欠席。舛添要一・厚生労働大臣は午後4時15分ごろから主席した。
「自助、共助、公助」で高齢者を支える
各委員の発言は以下の通り。
◆石川誠・医療法人輝生会初台リハビリテーション病院理事長:「在宅リハセンター」の創設を提言
「これからのリハ医療サービス」のあるべき姿として、(1)急性期病院におけるリハ機能強化、(2)各地域における回復期リハ病棟の整備、(3)リハを理解する医師の充足、(4)十分なリハ専門職(PT・OT・ST)の配置、(5)リハを理解する看護・介護職の配置、(6)発症後早期に開始し、入院期間を短縮、(7)ADLを重視したリハサービスの提供、(8)チームアプローチの成熟化、(9)介護保険における在宅リハサービスの充実、(10)分かり安いリハ医療サービスの構築――の10項目を提示。
「もう少しリハを実施すれば要介護度を改善できるケースもあるが、リハが必ずしも十分に行われていない」と指摘。介護保険の2008年4月審査分の「介護・介護予防際ビス受給者数」のデータを基に、訪問介護、通所介護、福祉用具の「御三家」の利用は多いが、一方、「訪問リハ」「通所リハ」の利用が少ない実態を示した。
「リハ利用が少ないのはニーズがないのではなく、基盤整備が整っていないため」とし、リハにはPT・OT・STなど様々なスタッフが関与することがサービスを複雑・分かりにくくしている要因だとし、各種リハをはじめ様々な介護保険サービスを提供する「訪問リハステーション」「在宅リハセンター」の創設を提言した。その好例として、東京都台東区にある「在宅総合ケアセンター元浅草」の例を紹介した。
◆石川良一・稲城市長:「地域力の強化」を提言
「インフォーマルのサービス(地域のボランティアなど)がないために、フォーマルサービス(介護保険)が必要範囲を超えて使われている」と問題視。「自助・公助」から、「自助・共助・公助」へのシフトが重要だとした。インフォーマルサービスに相当する「共助」が現時点では不十分であるとし、その解決に向けた稲城市の「介護支援ボランティア制度」「介護予防地域活動」の取り組みを紹介した。
「介護支援ボランティア制度」は、2007年9月からスタート。65歳以上の高齢者がボランティアとして介護支援に携わった場合にポイントを付与し、たまったポイントに応じて交付金(1000ポイント=1000円、年間最大5000円)を支払う制度。いわば有償ボランティアだ。
登録者は当初、100人程度を予定していたが、2008年8月31日現在、273人に上っている(最高齢は93歳、90歳以上が4人)。15の団体がボランティアの受け入れ機関になっている。ボランティアが、特別養護老人ホームなどに出向き、デイサービス利用者の昼食の配膳・下膳、筋力向上トレーニング教室での見守り、小物作りなどの指導や話し相手などを行う。介護支援ボランティア制度により、介護給付費を直接、間接的に抑制する効果を期待している。ボランティアを通じて、高齢者の社会参加を促す目的もある。
また、「介護予防地域活動」としては、「介護予防推進員」や「筋トレボランティア」の育成などを行い、転倒骨折予防教室などを各地域で開催している。「住み慣れた地域にいつまでも安心して住み続けることができるようにするためには、そこに住む地域住民が力を出し合って自ら取り組むことが重要」とした。
◆太田差惠子・NPO法人パオッコ理事長:介護者のサポートの必要性を提言
「パオッコ」は、「離れて暮らす親のケアを考える会」。「介護に当たっては、要介護者と同様に、家族も自らの人生を歩んでおり、必ずしも介護を優先できるわけではない。どうしたらいいのかという不安、迷いを抱えている」と指摘。具体的事例を幾つか挙げ、家族を追い込むことなく、支えるためには、24時間体制で、正確な情報提供・不安の受け入れ、緊急時出動・預かりなどを行う体制の整備が必要だとした。
◆袖井孝子・お茶の水女子大学名誉教授:QOLからQODへの転換を提言
2005年から死亡数が出生数を上回るなど、人口構成が大きく変化している現状を指摘、「いかに生きるかよりも、いかに生を終えるかが重要な課題」であるとした。
住み慣れた家や地域で尊厳を持って老い、そして死を迎えるには、終末期における日本社会にふさわしい「自己選択と自己決定」のあり方を考える必要性を指摘。人生の最終段階が質の高いものにするために、「QOL」から、「QOD」(Quality of Dying)に発想を転換し、「死に方の質」を考えることが重要だとした。
そのほか、(1)住宅政策、(2)専門職教育における、「いのちの教育」「death eduation」などの必要性にも言及した。
◆鳥羽研二・杏林大学医学部教授:リハの重要性と「療養型病床撤廃」の撤回を提言
国民の介護に対する不安は5つあるとした。
(1)寝たきり・認知症にはなりたくない
(2)寝たきり・認知症になっても家族に負担をかけたくない
(3)寝たきり・認知症になっても、最低限の自立を保持したい
(4)寝たきり・認知症になっても急に病気が悪くなったら、しっかり見てほしい
(5)寝たきり・認知症になっても尊厳を持って扱われたい――だ。
寝たきりのメカニズムとして、脳血管障害などの疾患だけでなく、うつ・意欲の低下が加わり、生活機能の低下を招くという流れを提示。「寝たきりを防ぐためには、トイレ排泄を誘導するなど、意欲・ADLを向上させるためのリハビリを行ったり、身体だけではなく精神面でのリハビリを行うことなどが重要である」とした。
さらに厚生労働省は、2011年度末までに介護療養型医療施設の廃止の方針を打ち出しているが、その撤回を求めた、高齢者が容体急変などで入院する際、介護保険施設、有料老人ホーム、在宅などのうち、いずれのルートが多いか、その実態を紹介。介護施設の中でも、介護療養型医療施設からの入院が少ないのは、「医療機関としての役割も果たしているため」とした。一方で、有料老人ホームからの入院の場合、ホームに戻るケースが少ないことから、一般病院や介護療養型医療施設が受け皿になっていると指摘。「療養型がなくなると、高齢者の救急医療は崩壊する」と危惧(きぐ)した。
◆前田雅英・首都大学東京都市教養学部長(座長):「安心」のためには施設の整備が大前提
自身が親の介護を経験した立場から、「介護施設が充実していれば、との思いがあった」と述べた。「在宅介護の重要性が指摘されているが、以前は結果的に在宅介護に取り組まざるを得なかった。介護保険ができ、日中はかなり安心して介護サービスに任せられるようになったが、それでも最終的に安心して任せられる施設の存在は大前提」とした。
そのほか、今後の改善点として、「医療と介護の連続性」を上げた。前田氏は、中央社会保険医療協議会の委員も務めるが、「これは介護の問題、といった発言が出てくる」と指摘。介護に当たっては医療的な不安が一番大きい上、高齢者の精神面でのケアをはじめ、介護の現場では「医」が登場する局面が多いが、現実には、「医師、看護師、介護士の階層性があり、非常に仕事がやりにくくなっているのでは」とした。
さらに、「介護の現場が魅力ある環境にするためには、経済的基盤抜きの精神論は説得力を欠く」とし、需要の増加に見合うだけの介護従事者を確保するためには、介護報酬の引き上げが必要だした。さらに、「経済連携協定に基づいた外国人労働者のための環境整備は必要であるものの、介護従事者の不足をこれらの労働者で補うことは不可能」と述べた。
◆村上勝彦・ 社会福祉法人慧誠会帯広けいせい苑施設長:介護人材の安定的確保を提言
「高齢者自身の選択に基づく生活、生き方を支えるのが、介護保険制度だが、それを支えるのが介護者。しかし、家族介護のために離職を余儀なくされるケースもあり、介護者の負担軽減をしないと、在宅介護の継続が難しくなる」と介護者の支援の必要性を指摘。
さらに高齢者の介護に当たっては、「住まい」関連の施策が重要であるとした。「『早めの住み替え』で、その後の在宅での生活が容易になる。しかし、それでもなお、地域に住み続けることができない場合、一体化した生活支援を持つ特養を選択肢とすることが重要」とした。特養の待機者は現在、全国で約40万人に上るとされる。今後、どの程度必要か、ニーズを見極めることが必要だとした。
さらに、(1)介護人材の安定的確保は介護保険制度の持続性を決定する要素、(2)特養においては准看護師が重度者対応を担ってきており、准看護師の制度的位置付けを明確化することが重要、などの点も強調した。
◆村田幸子・福祉ジャーナリスト:介護に対する発想の転換の必要性を提言
「安心と希望の介護」を考える際の視点として、以下の3点に言及。
(1)「介護保険が万能である」という認識を持っている人が多いが、必ずしもそうではない。介護保険には、「生活を支えるサービス」などが欠けている。今後、一人暮らし高齢世帯が増えていくため、「インフォーマルな仕組み」で充実させ、公的なサービスと組み合わせて提供することが必要。
(2)「できないことを補う介護」から「良くし、助ける介護」へ、「プラス」ではなく「引き算」への発想の転換が必要。「補う介護」では、依存度を高めることになる。要介護者が持つ能力を引き出し、生きる喜び、やる気を出すプログラムが求められる。そのためには、介護する側の意識改革、「やる気を引き出す介護とはなにか」といった視点での研修が必要。さらに、結果を出した事業者には適切な評価を行う。
(3)依然としてパターナリズムが見られるが、「自立支援の徹底」、自分の暮らしのありようは自分で決めるという社会、自己選択・自己決定ができるケアの方法論の確立が必要。
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