(関連目次)→医療崩壊と医療政策 目次 病院の赤字・倒産
(投稿:by 僻地の産科医)
発売が大野事件の判決の週で、どうしてもご紹介が遅れていました!
(この週がとても忙しくって。。。)
ぜひぜひ読んでくださいませo(^-^)o ..。*♡
伊関先生です!
週刊エコノミスト8月26日特大号
特集◆ 医療無残
産科・小児科医不足、病院閉鎖、医療費膨張
海外の日本医療高評価と庶民実感の乖離
自治体病院の再生策
このままでは破綻する自治体病院が続出する。経営改革を急げ。
お役所体質から脱皮し、「選択と集中」を図れ
伊関 友伸
城西大学経営学部准教授/元埼玉県庁職員
(週刊エコノミスト 2008.8.26号 p35)
経営破綻する自治体病院が相次いでいる。北海道の夕張市立総合病院(171床)は、夕張市の財政破綻とともに39億円に上る一時借入金を抱え、経営破綻した。銚子市立総合病院(393床) も、2006年に35人いた医師数が13人にまで減少し、採算悪化により今年9月末に診療を全面休止すると表明した。
総務省の地方公営企業年鑑によると、06年度に地方自治体が経営する病院数は973病院。経常黒字の病院が247病院で黒字額は計107億円。経常赤字だった病院が721病院、赤字額は計2230億円に達する。前年度の643病院、計1801億円より経常赤字の病院数、赤字総額とも増加している。06年度の診療報酬改定の大幅な抑制が、自治体病院の経営を直撃した形だ。
図は、厚生労働省が行った医療経済実態報告で、医療による収入(医業収入)を100とした場合の費用の大きさとその内訳をグラフ化したものだ。他の経営主体に比べて、自治体病院の収入に対する費用割合が高いことがわかる。これは、自治体病院が周産期医療や救急医療、僻地医療などの不採算医療を担っていることと、年功序列で一律に給与が上がる給与制度や、形式的手続きを優先する入札制度などによる非効率な病院運営に基づくものである。
財政悪化と医師不足
病院間の競争は激化している。患者も、高度・専門的な医療を指向し、地域の小さな病院や診療所よりも、都市部の大病院や専門病院を利用する傾向がある。患者獲得競争に負けた地方病院は入院患者を減らし、医療の必要性の薄い「社会的入院」患者で病床を埋めている。そうした患者の診療報酬は低く、収益悪化の要因となっている。自治体本体の財政状況も厳しく、これ以上の財政支援は困難となっている。運営資金となる手持ちの現金が底をつき、金融機関からの一時借り入れでその場を凌ぐという自治体病院も数多く存在する。
一層深刻な問題が、医師不足の問題である。病院現場で働く医師の話を聞いてみると、医師不足の原因は04年度からの新臨床研修医制度だけでないことがわかる。「本来、高度な医療をすればするほど人手がかかるのに、役所一律の定数管理で必要な人員が配置されない」「民間病院に比べて仕事はきついのに、給料が低め。時間外勤務手当がきちんと支給されないこともある」「病院の要となるべき事務職員が2〜3年で異動する」。多くの自治体病院で働く医師の悲鳴にも似た声である。なかには、特定の診療科医全員や病院の勤務医が全て退職した病院もある。
遅い意思決定
危機的な状況にある自治体病院の経営を再生するには何が必要か。何よりもまず、自治体病院が「お役所体質」から脱皮することが求められるだろう。民間を含めたすべての病院が生き残りをかけた競争をしているなかで、自治体病院の意思決定のスピードは、あまりに遅く、質も低い。収益を上げるには、必要であれば資金や人員を投入することも求められるが、予算や人事を握る財政課や人事課が力を持ち、自由にできない。
このような状況から脱却するために、病院の現場に権限と責任を与え、自立した経営体制をつくることが重要である。病院職員も公務員という既得権に安住することなく、職員一丸となって収入増とコスト削減に取り組む必要がある。
さらに、病院が提供する医療を「あれもこれも」ではなく、「あれか、これか」に絞り込むことが必要である。病院間の競争に負けないために得意分野をつくり、資源を集中させ、収益を改善させる。その一方、勤務医が過酷な勤務で退職しないよう、負担軽減を図ることも重要だ。
また、入院患者の多くが医療提供の必要性が薄い「社会的入院」であれば、大幅に病床数を縮小し、高齢者のケアを福祉施設である老人保健施設で行うことも検討すべきである。そのことにより、医師の仕事は軽減される。救急も、すべて病院の勤務医が行うのではなく、軽症の初期救急患者は開業医の協力を得て夜間診療所で対応するなど、役割分担を図るべきである。
住民の意識改革も必要
さらに言えば、自治体病院の問題は、病院に勤務する者だけの努力で解決するものではない。住民(患者)も地域医療を担う「当事者」であることを意識すべきだ。自らの病気や健康についてよく知り、かかりつけ医を持ち、何でも病院で受診するという診療行動を考え直さなければならない。軽症なのに休日・夜間に病院で診療を受ける「コンビニ医療」も減らす必要がある。
今の自治体病院の運営体制のままでは、病院財務の悪化や医師不足が契機となって、「医療崩壊」を起こす自治体病院が続出するだろう。自治体病院の崩壊を防ぐために、地域に住む関係者が「本気」の取り組みを行うことが求められている。
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