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(投稿:by 僻地の産科医)
2008年07月号の臨床婦人科産科からですo(^-^)o ..。*♡
特集は エキスパートに学ぶ−体外受精実践講座
妊娠糖尿病の診断:100 g GTT対75 g GTT
武久徹
(臨婦産・62巻7号・2008年7月 p998-999)
日本では妊娠糖尿病の診断に75 gブドウ糖負荷試験(75 g GTT)が行われるが,北米では100 g GTTが行われている.世界保健機関(WHO)はカナダ糖尿病協会と同様に妊娠糖尿病の診断に75 g GTT使用を支持しているが,米国糖尿病協会は75 g GTT と100 g GTTのいずれの採用も可としている.しかし、米国産婦人科学会(ACOG)は100 g GTTの採用を勧めている.
75 g GTTは,100 g GTTに比べて妊婦が飲むブドウ糖液が少なくてすむ,所要時間が2時間で100 g GTT (3時間)より短くてすむという利点がある.しかし,結果の信頼度は同じなのだろうか? カナダのグループはその問題を比較検討し カナダ産婦人科学会で発表した.Armsonらは,1,000名以上の女性を対象に75 g GTTと100 g GTTを比較した.研究は,単胎妊娠女性を対象にノヴァスコティアの8施設で行われた.研究期間は2001年12月から2005年1月までとした.
妊娠24~28週で行った50 gブドウ糖投与試験が陽性の妊婦を対象とした.75 g GTTと100 gGTT施行群に無作為に分けた.平均妊娠週数は妊娠28週直前であった.
妊娠糖尿病または耐糖能異常妊婦をどのように取り扱うかは特に決めなかったが.陽性の診断が付いた奸婦には標準的な管理が行われた.すなわち,巨大児と糖尿病が直面する問題について説明し,血糖値をコントロールするために食餌療法を指示した.少なくとも1週間に1回は病院で,そして理想的には毎日自宅で空腹時と食後の血糖値を測定レ食餌療法の効果が観察された.食餌療法だけで十分にコントロールができない場合はインシュリン療法を開始した.
満期で,巨大児(新生児体重の95パーセンタイル以上)の憤度は75 g OGTT を受けた群(574人では15%であったが,100 g OGTTを受けた群(550人)では12%であった.したがって,75gOGTTを受けた群のほうが巨大児の相対危険度は24%高率であった.しかし有意差はなかった.
つまり,研究の目的の1つである「100gGTTを行った群ではより高率に妊娠糖尿病が診断できて,その結果,巨大児も減少する可能性がある」という仮説を確認できなかった.
しかし 100 g GTT施行群ではいくつかの転帰の利点があった.100 g GTT施行群では,妊娠高血圧の合併症が有意に減少した.すなわち、妊娠高血圧の発症頻度は,100 g GTT施行群では9%であったが,75 g GTT施行群では14%で、59%の増加がみられた,
さらに100 g GTT施行群では鉗子分娩の必要例が有意に減少した.そして,妊娠糖尿病例も100 g GTT施行群で有意に高率(42%対14%)であった.妊娠糖尿病と診断された率は,75gGTT施行群では100 g GTT施行群に比べ42%低率であった.研究対象となった妊婦は無作為に2群に分けられ,人口学的にも臨床的特質も類似していたので,この診新卒の差は両試験の感度の差なのだろうと,研究者達は推測している.
少なくとも妊娠糖尿病に関する信頼できる研究結果は北米で豊富にみることができる.したがって,証拠に基づく医療を行うとすると,妊娠糖尿病に関しては北米の研究結果を熟視することはできない.したがって,妊娠糖尿病の管理に関しては,出発点となる妊娠糖尿病の妊婦を正確に把捉する必要がある.75 g GTT と100 g GTTが同じように妊娠糖尿病の妊婦をピックアップできるかという問題は重要である.
今回のカナダの研究者達が行った研究の結論は興味深いものである.100 g GTTを行った群のほうが妊娠糖尿病と診断できた率が有意に高率で,それらの妊婦のほうがいくつかの産科転帰が良好であったことは100 g GTTの優越性を示唆している.
しかし,いくつかの疑問が残る.最大の疑問は、もし1例でも多く妊娠糖尿病を拾い上げることができたとして.インシュリン以外の産科管理で巨大児を減少させることができるのかという問題である.
米国の妊娠糖尿病研究の権威者の1人であるCoustanが行った研究では,妊娠糖尿病妊婦にダイエットと運動療法を行っても,巨大児を含めた産科転帰は不変だったことが示唆されている(Coustan DR,et al. AmJOG 150 : 836, 1984)(表1).インシュリン療法を行った群のみ産科転帰の改善がみられたと報告されている.したがって,妊娠糖尿病症例をピックアップできても,インシュリン療法以外の戦略で巨大児を予防することは不可能であろう.
参考資料
Ob Gyn News, 2007年8月1日号
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