(関連目次)→ 医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
M3/キャリアブレインのあとにじほうの記事も入れてありますo(^-^)o ..。*♡
では、どうぞ!
日医に「NO!」、「物を言う」団体に
M3 橋本佳子編集長 2008/07/31
http://mrkun.m3.com/DRRouterServlet?pageFrom=CONCIERGE&operation=showMessageInDetail&pageContext=dr2.0-MessageList&msgId=200808031330968802&mrId=ADM0000000&onSubmitTimeStamp=1217769600953&onLoadTimeStamp=1217769598343
「日本医師会は、厚労省案に医師会の7割ぐらいが賛成しているというが、それは各都道府県の常任理事クラスの意見だろう。郡市医師会まで話が下りてきていない。日医は開業医の代表と言われるが、その開業医の意見すら聞いていない。われわれ諫早医師会は厚労省にパブリックコメントを何度も出し、反対している。こうした意見が、全く反映されていない。日医が郡市医師会を対象にアンケートを実施する気がないなら、われわれがアンケートを実施する。ここに参加されている医師会の皆様、協力をお願いしたい」(長崎県諫早医師会会長の高原晶氏)
「今日のシンポジストには偏りがある。現場の病院の管理者や、まさにこの問題で一番困っている勤務医を入れるべきではなかったか。日本医学会にこの点をお願いしたが、時間的余裕がないなどの理由で断られた」(全日本病院協会の西澤寛俊氏)
これは、日本医学会が7月28日に開催した「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」での発言です(公開討論会のもようは、『「第三の過ちを犯すな」、厚労省案に異議あり』を参照)。従来、医療関連団体は、日本医学会や日本医師会に対して、遠慮があるためか、公にはあまり反対意見を述べてこなかったように思いましたが、この日の公開討論会では全く様相が異なっていました。
そのほか、テーマの設定の仕方について、「なぜ今日は厚労省案についてのみ議論しているのか。民主党もこの制度に関する案を出しており、こちらの方が支持する声が多い。なぜこれを取り上げないのか」(日本麻酔科学会ワーキンググループ、帝京大学麻酔科主任教授の森田茂穂氏。『1万人アンケート!「民主党案」支持派が多数』を参照)との疑問も呈せられました。
この点については、総合司会を務めた日本医学会会長の高久史麿氏は、「個人的には民主党案も議論した方がいいと思ったが、公開討論会の時間的制約もあり、ターゲットを絞った方がいいということで、厚労省案に限って議論することにした」と、やや苦しい説明に。
日本医学会と日本医師会は、基本的には “医療事故調”に関する 厚労省案を支持しています。このため、公開討論会には、「診療関連死に関する調査委員会の設置」の必要性は認めるものの、厚労省案には異議を唱え、「意見を言いたい」という人が多く集まっていたのかもしれません。この点を差し引いても、この日の率直な意見交換に新鮮な驚きを感じました。
ではなぜ自由な発言が行われるようになったのでしょうか。
(1) “医療崩壊”と言われる現状にあって、“医療事故調”のあり方が崩壊を食い止めるか、あるいは崩壊を加速させるか、重要なカギを握っている
(2)インターネット時代、情報公開・交換が進み、一部の組織による“情報統制”的な動きができなくなり、その結果、自由な意見交換が可能になった
などが考えられます。
ただ、この日の公開討論会で一つ気になったのは、患者さんの立場からの発言がなかったことです。参加はされていたのですが、時間が足りなかったことが原因です。医療界の中でも大きく意見が分かれ、また患者さん側にも様々な意見がある中で、今後、どんな場でどのように“医療事故調”について議論されていくのでしょうか。難しい問題です。
死因究明で議論錯綜―日本医学会
キャリアブレイン 熊田梨恵
(上)http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17406.html
(中)http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17446.html
(下)http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17454.html
死因究明制度の「法案大綱案」に反対する学会を巻き込んで開かれた日本医学会による「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」。「総意として賛成」の見解が既定との見方もあったが、いざふたを開けてみると、医療界の在り方そのものに対する意見から、業務上過失致死に対する法改正を求める意見、日本医師会の在り方を問う意見など、あらゆる意見が噴出。マイクを待って並ぶ人が出るほどで、議論は迷走を極めた。「氷の上を歩くような感覚で毎日診療している。一歩でも進めてほしい」と、現場の医師の声が上がる。今後、医療者と患者が共に求める中立的な第三者機関の設置に向け、医学界は総意をまとめることができるのだろうか。
討論の内容を、3回連続で紹介する。
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議論百出の死因究明の公開討論会
死因究明制度でシンポ(5)ディスカッション
対象範囲で厚労相と異論―死因究明制度の法案大綱公表
医師法21条を「削除」―民主議員案
死因究明制度「内容に問題」―医療系学会
討論ではまず、死因究明制度の第三次試案をもとにした法案大綱案について、会場からいくつかの学会の意見発表があった。
■正当な業務への刑事責任追及は反対
【日本産科婦人科学会】岡井崇理事
正当な業務の遂行として行った医療に対しては、結果のいかんを問わず、刑事責任を追及することには反対。この考えは現在も将来も変わらないと思う。しかしそれは、法律の改正を伴うことで、国民の理解を得るのに大変な年月を要する。我々はまだきちんと国民と対話していない。我々医療提供者と、国民の考え方の間にズレがある。理解してもらうには年月がかかるので、現状として非常に問題点が多い民事上の事故の取り扱いから早く改正する必要がある、という立場だ。(法案大綱案では)特に、『標準的な医療から著しく逸脱した医療』行為を警察に通知するというが、本当に悪質な事例に限られるのかが一番心配。その点の表現などの検討や、届ける対象を明確にするなど(の方法)もある。何とかこの機会にこの制度を成立させていただきたい。
■すべてを考え直す時期
【日本脳神経外科学会】嘉山孝正学術委員会委員長
日本産科婦人科学会と同じ意見だ。明治時代にできた刑法に、業務上過失致死の免責がないということが一番の問題。これには時間がかなりかかると思うので、当面どうするか。第二次、三次試案、法案大綱案と出てきたが、刑法に業務上過失の免責がないからといって、受け入れるのだろうか。われわれは社会のすべてについて、これをきっかけに考え直す時期では。患者のために、事実が(表面に)出る(医療事故)調査が大事。法案大綱案と第三次試案には反対だ。
■「○○省」は外局に
【日本小児外科学会】河原崎秀雄理事
当学会は、日本外科学会のサブスペシャリティのうちの一つであるため、基本的には同じ意見だが、大綱案には7つの問題点がある。ここでは3点を指摘する。一つ目は、「『○○省』に医療安全調査中央委員会を置く」とあるが、委員会の中立性と独立性が守られる設置形態にするためには、予算がかかるなど現実的には難しいかもしれないが、省内ではなく、外局に設置するのが望ましい。二つ目は、警察への通知について。『標準的な医療から著しく逸脱した医療』はいかようにも解釈できるので適切ではない。警察への通知は、『犯罪の可能性が高い』と委員会が判断したものに限定されるべき。医療事故死に該当するかの基準だが、臨床の現場ではこの基準がもっとも大事な判断基準になるので、早く公表してほしい。
■「改正」は語弊
【日本消化器外科学会】杉原健一理事
医療安全調査委員会(医療安全調)の独立性が明確にされていない。『標準的な医療から著しく逸脱した医療』の定義があいまい。医療事故に関する基準を、誰がどのようにしてつくるかが明確でない。遺族の警察への告訴に、どう対処するかが記載されていない。こういうシステムをつくるのは大事だが、これらの点を明らかにしてほしい。医師法21条を『改正』と法案大綱案に記載されているが、内容を見ると改正されていない。これを『改正』というのは語弊があるのでは。
■書面で意見を提出した学会
高久史麿・日本医学会長が、各学会の意見を紹介した。
一つは日本整形外科学会。「拙速な法制化には慎重であるべき。制度が責任追及の場を提供することになっては困る。民事、刑事、行政処分の場での責任追及に利用されないようにする、という言葉がない。また、『標準的な医療から著しく逸脱した医療』の判断基準の在り方に十分な議論が必要。法案大綱案には行政・司法的処分は詳細に規定しているが、本来の目的である再発防止について、(医療安全調)中央委員会の所掌義務とするにとどまり、具体的な方策などを先送りしている」
日本臨床整形外科学会は、「基本的には賛成ではない。厚労省、日本医師会など関係各団体の再検討を要望する。黙秘権を認めるべき。検察、司法当局が謙抑的に対応するとしているが、刑事訴訟法に基づいて自由に提訴できるため、謙抑的な対応をするという文章を法案に組み込むべき、など」
赤松クリニック。「調査結果が刑事手続きに用いられることを想定しているにもかかわらず、黙秘権が明確に担保されていない。これは刑法や憲法を凌駕するもの、など」
<意見交換>
司会の門田守人・日本医学会臨床部会運営委員会委員長の、「問題点がたくさんあり、全部というわけにはいかないので、どうしても触れなければならないところから始める。医師法21条について、医療関連死が除外される方向を目指すことは、基本的にこれでよいか。『21条でいい』『現在の大綱案では除かれていない』という意見もあるが」との投げかけで議論がスタートした。
【医師法21条をどう考えるか】
堤晴彦・日本救急医学会理事 医師法21条については、届け出ると刑事訴追されることを恐れて問題になっているのだろうが、もっと重要なのは、何が刑事訴追されるかということ。道交法でも業務上過失致死罪が問われるものは、文章で明確に決められている。しかし、医療は決められていない。医療過誤においては法律を変えないといけないという議論があるが、現行の法律を変えなくても、医療事故のどの部分が業務上過失致死罪になるかということを法曹関係者が明記するだけでかなりの部分が改善する。その議論をした上で、21条に踏み込むべき。21条だけ何とかすればよいとは考えていない。法律関係者と十分議論すべき。
関係者が警察に届けることを「ノー」と思っていない人はかなりいる。患者側も、医療事故が起きたとき、第三者機関よりも警察に届ける方がいいと思っている人もいる。個人の意見としてだが、どんどん警察に届ければよい。そうすれば警察はパンクし、自分たちが組織を何とかしないといけないという方向になる。そこまで持ち込んで、向こうが動き始めたらそれに乗ればいいだけ。今のままなら警察も検察も高みの見物だ。「やるならやってごらん、うちは使えるものは使いますよ」という態度で彼らはいくだろう。
警察側が家族側にしっかり説明してくれて、紛争が収まることもある。現場の警察官は努力しているので、そこは評価しないといけない。しかし、医師にも一部変な医師がいるように、警察にも変な人はいる。そこをどうするかということ。
■「医療行為が犯罪」という基準が狂っている
髙本眞一・日本外科学会理事 (警察の)基準が犯罪になっている。医療行為を犯罪行為として見るかどうかという最初の点で狂っているので、医師法21条によって何が起こったかを把握しようと警察は思っている。最初にこういう判断をされるのはまずいので、われわれ専門家による専門的な判断で「悪いなら悪い、いいならいい」というほうがよいのでは。
堤氏 同感だ。警察・検察が、自分たちで法的判断を決めてから動くということが問題。高本先生が(医療安全調創設に)60-100億円掛かると言った。警察・検察の中に医療的判断を行う機関をつくり、そこにわれわれ医療者が乗れば、法的判断がなされる前に医療的判断がなされるものがつくられる。そういう単純な話なのだが。
嘉山氏 医師法21条は厚労省内部でのマニュアルに近いもの。ちょうど厚労省医療安全室長の佐原康之さんがここに来ている。医師法21条をどう変えるのか聞きたい。
佐原康之・厚労省医政局総務課医療安全推進室長 医師法21条については、異常死は警察に届け出るということにしている。勤務医は病院管理者に届けて報告することで、警察への届け出義務を解除するとした。報告を受けた病院管理者は、医療法によって医療安全調査委員会に届けるという義務がある。この場合には医師法21条のような刑罰ではなく、適切に行われなかった場合に行政処分で担保していくということを第三次試案で提案している。
■このままなら「大野事件」起こる
木下勝之・日本医師会常任理事 新しい考え方の基本は、医療事故が起こった時に、医療界の専門家が原因を究明して再発予防に努めるということ。業務上過失致死傷罪になるかどうかの論点だけではない。警察に調査判断を任せていいのか。医療界が責任を持ってやろうという仕組みだから、第一歩として、我々の目を通した上で(警察に)届けた方がいい。このままならば、「福島県立大野病院事件」のようなことも起こり得る。これは大きな問題。まずは医療界が真剣に対応し、事実究明しようということがあった上で、遺族や国民も認める。その仕組みをつくろうというのが考え方の基本だと理解してほしい。
永井良三・日本内科学会理事長 医師法21条による届け出で警察がパンクするというのも一つの手。しかし、そこで起こるのが、的外れな鑑定書が出てしまうということ。誰が見ても医学的に正当な鑑定書であれば問題ないが、的外れな鑑定書が出たら、警察はそれによって動く。それをいかに防止するか。その意味では、よほどの犯罪でない限り、届けるなら警察は介さない方がいい。そのことと、業務上過失を問われることは、刑法改正の話になって難しい。われわれが、刑法の改正を待たずにこの何年かの間、警察が介入しないようにどう動くかという問題だ。
堤氏 誤解があるようなだが、木下先生の言うことはその通りと思う。21条を改正しなくてよいとは思っていない。ただ、医療行為の中の何が業務上過失傷害罪になるのかの議論を先にしてほしいということ。道交法ではっきり定められているのだから、医療行為の何が業務上過失に当たるかは法律変えなくても明文化できると、全く疑問を持たずに思っている。刑法学者も同じことを述べている。法律側と医療側がきっちりするべき。木下先生と高本先生が(法務省などとの話し合いを)別なところでやったというが、それは密室の議論なのでまずいと思う。警察も検察もメンバーに入れてきっちりした議論をすべきだ。
【医師の自浄作用の発揮を】
嘉山氏 厚労省が医師法21条の内容について、カルテの改ざんや隠ぺいなどの(悪質な内容に限り警察に届けると)規定すれば混乱しない。医療界は以前より自浄作用が働いているのだから、これだけ問題点が指摘されているもの(医療安全調査委員会)をつくるのはどうか。実行可能性の問題として、ただでさえ医師不足なのに、東京・大阪(など大都市)ならできるかもしれないが、地方は無理。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業を使えばいい。このまま医療安全調の設立に突っ走れば、現場が混乱して医療崩壊が加速する。
森田茂穂・帝京大医学部麻酔科教授 医師法21条は明治時代からある。治安維持や変死体の報告に必要なものと解釈している。今の医師法21条は、医療界が勝手に拡大解釈してしまったのが始まり。医療界に一番欠けているのは、職能団体としての自律作用がないこと。そのため、患者や国民からの信頼を失った。先進国を見ても、米国のAMA、ドイツ、フランス、英国、カナダなど、政府から独立した機関で自律作用を持ち、(医師の)処分を実施している。そういった国民に信頼される医療者団体がないのが問題。
医師法21条についても、警察は警察なりに治安維持の役割がある。そこに我々が一国民として協力してもよい。「警察だから全部嫌」ではなく、同じテーブルで議論するよいチャンス。皆がこの問題に関心を持つようになったのだから、将来どうあるべきかという目標達成のため、今何ができるかを考えるべきだ。法案を通したらいい・悪いではない。そんな法案ができても元の目標が間違っていれば、現在抱えている問題は解決しない。
民主党はすでに意見を出しており、(法案大綱案との比較の)アンケートでは民主党案の方に賛成が多い。そこに(今回のシンポジウムは)何も触れていない。そういう意味で、国民的な論議になっていないのが問題だ。
■民主案の議論も残っている
高久氏 その意見に賛成。将来的には医者の集団として、自律的な処分制度をつくっていく必要がある。日本医学会が日本医師会や病院団体などと協力してつくりたい。民主党案もこの(シンポジウムの)中で取り上げるべきという意見がずいぶんあったが、厚労省が今までやってきた法案大綱案について議論しようということになった。個人的にも議論した方がいいと思ったが、時間的制限や(議論の)ターゲットを絞ったので、民主党案のことはあえて議論しなかった。法案大綱案が法律になるときは国会にかけるが、その中で厚労省案と民主党案がどうなるか。近い将来の問題として当然残されている。国会議員の先生もそう考えていると思う。
【こういう現場に誰がした】
本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長 若手代表として来たので質問したい。日本の医療界は今までまとまっておらず、医師数も医療費も世界最低レベルで、学会は臨床より論文。現場の医療者が事故を起こさないような環境にするために努力してきたのか。そういうことを一切放置し、すべて(医療安全調に)届けると言っていることが、空気が読めない「KY」だ。(医療安全調創設に)賛成している人は、若い人に今の急性期で働けと言うのか。若い人がいなくなり、日本の医療が崩壊したら救急医療を代わってやってくれるのか。
われわれ若手は危ない中、少ない人数で歯を食いしばってやっている。わたしも午前中に手術をし、食事もせずにここにやってきた。若手に夢がない環境をつくったら、グローバルスタンダードの3つ目の過ちを犯す。一つは医師不足、二つ目に低医療費、三つ目は、世界に類がない、刑事罰に結び付く医療事故調査委員会だ。もういい加減にやめてほしい。若い人はとっくに嫌になっている。
山口徹・日本医学会臨床部会運営委員会作業部会長 今の論議に直接かかわる議論をしてほしい。
本田氏 この基本が抜けているから「KY」と言っている。これではお上がやっていることと同じ。全体的なことを決めてから、個々を決めないと現場は崩壊すると、現場は皆感じている。
門田氏 そういうことを議論する場ではない。
【日本医師会は郡市医師会を見ていない】
髙原晶・諫早医師会長 郡市医師会を代表してとは言わないが、木下勝之先生(日医常任理事)に聞きたい。日医は、この法案に(会員の)おおかた7割が賛成と言った。しかし、たった一回のアンケートが根拠で、それに答えたのは常任委員の一部だけ。郡市医師会まで話が来ていない。「開業医の代表の日医」とひとくくりにされるが、開業医の意見さえ一つも聞いていない。(諫早医師会は)日医、長崎県医師会、厚労省にもパブコメを何度も出した。出した揚げ句にいつも「賛成」したことにされてしまう。アンケートを取る気がないならば、わたしが郡市医師会に対し、地べたの医師会員として、問いたい。回答数がどれぐらいあるかは分からないが、日医が各県の常任理事にちょっと聞いて「7割賛成」と言うよりもしっかりした意見になる。各郡市医師会の先生方、諫早医師会からアンケートを回すので、よろしくお願いしたい。
木下氏 これは医師会の問題ではない。勤務医であれ開業医であれ、医療界にとっての問題。現状で医師法21条がある以上、このまま動く。少なくとも何か起こった場合、刑事訴追という不本意なことにならないようにという視点でやっている。医療費などの議論もあるが、これが喫緊の課題。意見がまとまらないならこの問題は続く。(それを避けるため)一歩進めるという視点できた。諫早医師会の先生のように抽象論ではなく、「具体的にここが心配」という質問をいただきたい。(そのような討論は)ここは場が違うからほかのところでお願いする。
■壇上に現場の勤務医がいない
西澤寛俊・全日本病院協会長 今回のシンポジウムには、医師会、医学会、病院団体など、限られた大きな団体しかいない。言っていいかどうか分からないが、このシンポジウムを受けた時に、どうも参加者が偏っていると思った。現場の管理者の医師、つまり勤務医の代表を入れてほしいと言ったが断られた。やはりそういう方々の議論が足りない。本田先生が言ったように、一番困っているのは現場の救急や急性期の勤務医。その声を一番大事にし、それを聞いて合意の上で作り上げるべき。あまり拙速にやると、よかれと思ってしたことでも、ますます医療崩壊が進んでとんでもないことになる。そこを考えてもう一回議論し直すべきだ。
【刑事司法の問題は】
会場の医師 業務上過失致死傷罪の改正が必要。業務上過失致死傷罪は死の可能性を予見できたという「予見可能性」と、論理的・事後的に死亡が回避可能だったという「回避可能性」という二つがあれば、犯罪として成立する。起訴されないというのは単に検察の情状。(可能性が)ゼロでなければ犯罪は成立しており、あとはすべて情状だ。なぜ起訴されるかと言っていたが、すべて検察に委ねられている。検察は法の番人で、法があると動かねばならない。法律がある限り、死の危険がある医療は常に犯罪と紙一重。誰でも「あの時ああすれば良かった」ということがあるが、それが犯罪ということで、単に情状で猶予されているだけだ。これで救急や外科医療をするのは無理。法の中に、「医療行為に関しては特に事実の当否に関して問題があるような業務過失に関しては免責される」という条文を入れる必要がある。死と隣り合わせの医療は、常に犯罪と紙一重だ。
鈴木利廣弁護士 今の意見は解釈が誤っている。「予見可能性」と「結果回避可能性」があれば犯罪になるというが、そんな法律はない。結果の「予見可能性」と「回避可能性」があり、その上で、法規範として「ねばならない」とういことがあって、初めて義務違反になる。その「ねばならない」とは、医学会がどういうスタンダードをつくるかということ。それが「標準逸脱」という考え方。標準逸脱の範囲がはっきりしないなら無罪で、起訴されない。標準的なものがあり、それをしなければいけないと医学会が言っており、命を守ることが可能なのにしなかっただけでなく、「しなければならない」のに「しない」というときに法規範が適用される。だから今の意見は刑事法の論理として間違っている。
また、報告義務との関係で刑事免責と言うが、無罪とか起訴されないとかの問題ではなく、「報告されたことが有罪判決の資料に使われない」ということを刑事免責という。世界中が医療過誤について刑事免責しているかのような議論は間違っている。
■スタンダードあっても不当な逮捕ある
木ノ元直樹弁護士 今の鈴木先生の意見で、根本的に医療者が解決できない問題は、スタンダードをいくらつくっても大野事件のような不当な逮捕・起訴があるという現実。そこをどうするかの答えが出ていないのに、法律がこうだといくら言ってもしょうがない。
鈴木氏 それは医療事故だけではなく、刑事司法全体の問題で、別の問題。刑事司法が誰から見ても公正にならない限りは、医療事故に対する刑事司法を運用してはならないというのと同じ論理だ。
木ノ元氏 大野事件の逮捕は、(逮捕した警察官に)特別公務員職権濫用罪が成立することが問題だ。
鈴木氏 わたしもあの逮捕はおかしいと言っていた。逮捕がおかしいのは医療過誤だけではない。
木ノ元氏 そういう議論があまりにも出てきていない。鈴木先生自身が言っていない。
門田氏 法律の話はちょっと置かせてください。
■早期の制度創設を
大分県の産婦人科開業医 来月20日、「大野事件」は判決公判を迎える。我々の仲間が正当な業務の遂行中に、手錠をかけられて腰縄を打たれ、逮捕・拘留・起訴された、非常にショックな出来事だ。救急などほかの科の先生も同じ思いだろう。逮捕以来多くの抗議声明文を出して頂き、産婦人科医として心強く思った。
しかし、現在も同じような事件が起こらないという保証は全くない。法律も制度も何も変わっていない。この議論があと何年続くのか。仲間は同じような危機にさらされ、明日逮捕されるかもしれない。それなりに素晴らしい夢と理想を持って働こうしている若い後輩に、こんな状況を引き継でいいのか。こういうことが起こらない制度を早く作ってほしい。細かい議論はあるだろうが、(制度は)5年で見直すというし、それぐらいの時間の余裕はある。大きな医学会や関連学会は、「基本的に賛成」と言い、「反対」ということころも「基本的には賛成」と言っている。
今日の状況を惹起したのはわれわれ医療界が社会からの信頼を失ったことがベースにあるし、これを取り戻すには時間がかかる。しかし、当面の活動ができる環境整備はできるだけ早くしてほしい。国会は解散の政局がらみで、機能不全に陥っている状況で、法案を通すのは大変。当事者のわれわれ医師が中でごちゃごちゃ割れていては法案は通らない。産科婦人科学会員は、30歳未満の女性が73%いて、40歳未満でも女性が約50%。今後、周産期にかかわる医師の6-7割は女医になるだろう。ただでさえ医師不足の中、さらに頑張れと後輩に言えない。臨時国会にでも出し、できるだけ早くこの法案を通してほしい。一開業産婦人科医の希望だ。
石川県の産婦人科開業医 毎日の診療が氷の上を歩いているような形。いろんな意見があるのは分かるが、患者のためになるよう、一歩でも進めてほしい。
■院内事故調査による医療安全確立を
中澤堅次・済生会宇都宮病院院長 一番の問題は医療安全。わたしたちは院内事故調査に重きを置きたい。院内調査は問題点もはっきりする一番よい方法で、必死にやれば患者にほとんどのことを分かってもらえるし、一対一で向き合える。第三次試案(による死因究明制度が)が(現場に)入ると、院内調査以外にもう一つのスタンダードが入る。医療の事故が起きた時、問題になるのは患者と病院・主治医の関係。スタンダードをどこに引くかが問題だが、申し訳ないが、医師会や学会にはスタンダードは引けない。医療側が必死に考え、ここにポイントがあるという学会の意見があればスタンダードになる。(医療安全調の委員は)どこで選ばれ、資格はあるのか。(業務の)委託もあるところにスタンダードを決められてしまうのか。医療安全に関してわたしたちができることはなくなる。
患者が納得するもの(医療安全調)ができることには反対しないが、試案にはさまざまな欠陥がある。黙秘権を認めるとしても、「黙秘権があるから正直なこと言わなくていいので、調査に協力してくれ」と言ったら、院内調査は全く意味がなくなる。そのように構築される医療安全には全く意味がない。患者の信頼には絶対に結び付かない。先ほどの意見は理解できるが、このまま法案を通せばますます悪くなる。納得するまで議論をお願いしたい。
■慢性期の医師にダメージ
会場の医師 30年ほど精神科医をしている。法案大綱案は、急性期や周産期などは緻密に議論しているが、慢性期や終末期、精神科医療にはとてつもないダメージになる。これまでに400人分ぐらいのかかりつけ医の意見書を書いているが、ほとんどが訴えのない腎不全や心不全など多臓器不全状態。そのような方が亡くなったら、ほとんどが原因不明だから(医療安全調に)届けるしかない。認知症の医療などは崩壊するだろう。
大病院に送ろうと考えても、専門の先生に受けてもらえないので転院できない。そうすると、家族と相談して低レベルの医療をする。それは「標準的な医療から著しく逸脱した医療」で、家族は訳も分からずサインし、患者が亡くなる。これでは、一番にわたしが(警察に)連れていかれる。
若い先生にこれ(死因究明制度)を残すのはとんでもない。家族が納得し「低レベルな医療をしていい」とならなければ、自宅でみとることはできなくなる。(医療安全調の)地方委員会から見たら、田舎の赤ひげ先生なんてとんでもない医療。慢性期の患者が溢れる社会になることを考えなければならない。
■ビジョンがない
会場の医師 とてもいい討論だが発散しているだけで、まとまらない。この議論には、二つの視点が欠けている。一つはビジョン。この法案が通った後でどういう世界が見えるかというビジョンがバラバラなので、細かい問題や意見の相違が起こる。二つ目は、この議論は学会ベースで積み上がってきたが、本来はボトムのレベルの医師全員が参加できる団体で議論すべきということ。その上で、大きなビジョンをつくれば、法曹界などを入れるのかという議論ができる。今は混とんとしているが、喫緊にビジョンと議論のステージを決めていかなければいけない。
会場の医師 法成立後、これからの日本の医療がどうなるかということに尽きる。(医療の刑事)免責がない中で、警察機関的な組織ができれば委縮医療は避けられない。だが、刑法を変えるには非常に時間がかかる。しかし、それにチャンレンジしないということはあり得ない。だからまずは、国民の信頼を得るための医療安全を推進すべきで、これが王道。国民の信頼を勝ち得る中で医療免責という構図が完成するというビジョンをもとに、議論すべき。
【討論終了】
門田氏 私がこれまで参加した医学会関係のシンポジウムで、これほど意見が錯綜(さくそう)し、活発になったものはなかった。医学会などが一つのことで立場を超えて意見交換することが過去にあっただろうか。医療界が問題を抱えていることは皆知っている。戦後60年間かかって医師会や医学会がここまで来たということを反省しなければならない。
司会のわたしと山口氏は日本医学会の臨床部会で(この問題を)仕切り直し、分科会の枠を超えてディスカッションするという新たな動きの中でやってきた。発言したいことはいろいろあるだろうが一歩前に進まないといけない。医師が足りないと25年間言い続けた腰の重い厚労省もここまで来ている。ここで団結し、一体となって方向性を探る努力をしないといけない。問題がある中でどうしていくか。また(日本医学会)臨床部会運営委員会を開き、医学会として意見を集め、いいものをつくりたいと思っている。
■ ■ ■
日本医学会は7月31日、死因究明制度について検討している臨床部会を開き、討論会が終了したことを報告した。会合終了後、事務局はキャリアブレインに対し、「引き続きこの問題について検討はしていくが、よほどのことがなければあらためて見解を出すなどの動きはないと思う」と話した。門田氏は討論会の最後に、各学会の意見を聞いていく姿勢を示したものの、同学会が6月5日に出した、「加盟105学会に対して意見を聞いた結果、第三次試案の基本的な方向性について賛成であることで一致」とする見解は今後も変わらないとみられる。
今回の討論会開催前には、日本医学会が「反対派」の学会を抑え込んで「総意として賛成」との結論を出そうとしていたとの噂も飛び交った。その噂に対し、議論を混乱させる目的で「乱入者」が送り込まれたとの見方もある。結局はガス抜きのような形で終わった今回の討論会だが、今年秋に予定されている臨時国会もあり、高久学会長が指摘する民主党案についての議論も残る。現場の医師たちの「医師たちがまとまった意見を出せないままでは何も変わらない」「氷を踏むような思いで診療している」との声に、医学界は今後、どのような答えを出していくのだろうか。
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「診療関連死の死因究明制度創設」で日本医学会公開討論会:
死因究明制度めぐり激論飛びかう
門田委員長、反省と団結を呼び掛け
じほう 2008年8月1日
診療関連死の死因究明制度創設にかかわる日本医学会公開討論会が7月28日、日医会館で開かれた。第3次試案および医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案については、いくつかの問題点が指摘される一方で、現場の産婦人科医からは薄氷を踏むような日々から一歩でも前進できるよう立法化を求める意見が示されるなど、賛否両論が飛び交う討論会となった。日本医学会臨床部会の門田守人運営委員会委員長は、「われわれは、(国民の)医療不信に対して反省するとともに、団結して一歩進まないといけない」と述べ、7月31日の運営委員会で議論するとした。
●日医、全日病、主要学会が見解を表明
公開討論会では、日本内科学会、日本外科学会、日本救急医学会、日本麻酔科学会のほか、フロアから日本産科婦人科学会、日本小児外科学会、日本消化器外科学会が、それぞれ第3次試案あるいは大綱案について意見を示した。加えて、日本医師会、全日本病院協会が医療関連団体として登壇し、会としての見解を提示した。
実際に死因究明制度については、これまでも1つの学会が複数の学会を招集しシンポジウムで議論するケースはあったが、日本医学会が同案件で、賛否で見解を分ける学会に呼び掛け、公開討論会を行ったのは今回が初めて。
●永井日内理事長 第3次試案と大綱案で不明な点を言及
今回の第3次試案に対し、一歩前に進めるべきとのスタンスに立つ日本内科学会の永井良三理事長は、第3次試案と大綱案を読み解き、今後の進展させる上で解決すべき課題について言及した。
第3次試案と大綱案の関係については、第3次試案に記載されながら、大綱案には記載されていない事項、例えば、「医療従事者などの関係者が地方委員会からの質問に答えることは強制されない」などの扱いをどうするのか、不明な点として挙げた。
さらに、「遺族からの医療事故調査の要求」について大綱案では、担当大臣に医療事故調査を申し入れた場合、管轄する地方委員会に連絡と記載されているが、遺族が担当大臣に申し出ることなく病院を刑事告訴した場合は明確にされていない。なお、同件について第3次試案では、警察が委員会による調査を勧告としている。
また、「調査委員会の職権行使」については、大綱案では「中央調査委員会および地方委員会の委員は、独立してその職権を行う」と規定されているが、中央調査委員会の判断は捜査機関に尊重されるのか不明と指摘した。この点について第3次試案では、「刑事手続きについては、委員会の専門的な判断を尊重」と規定しているが、根拠、実効性は明確ではない。
「調査委員会から警察への通知基準」でも考え方示す
「調査委員会から警察への通知基準」については、大綱案で標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡または死産の疑いがある場合としている。
永井理事長は、「専門科もしくはそれぞれの医療機関の事情に応じて“標準的な医療行為”について明確化が必要」としたほか、「故意、改ざん、隠ぺい以外は、重過失に相当する悪質な医療に限定されるべき」とした。
こうした検討結果を踏まえて永井理事長は、
<1>厚生労働省、法務省、警察庁の合意の明確化
(その根拠、範囲、実効性についての明確化)
<2>担当大臣への届け出
(医療機関の判断で届け出なかった事案に医師法21条の届け出違反を
問わないこと、遺族が警察へ直接告訴した案件は調査委員会による調査を
優先する)
<3>調査委員会から警察への通知の範囲(故意、改ざん、隠ぺい、重過失まで)
<4>委員会の判断を警察が尊重
<5>事情聴取対象者の人権の保障を、今後検討すべき課題として
挙げた。
●日本救急医学会・堤理事 医師法21条改正が万能にあらず
一方、日本救急医学会の堤晴彦理事は、医師法21条(異状死の届け出)は2次的な問題であり、本質的な問題は医療における業務上過失致死罪の対象となる行為を明らかにすることであり、医療側は明確な基準のない中で不安を感じていると訴えた。警察庁、検察庁を含む法曹界側が医療側に明示すべきだと主張した。
堤理事は、「医療側が医師法21条にこだわるのは、警察に届け出なければ、刑事訴追される可能性がなくなると信じているからではないか」との見方を示し、本質的な議論をすべきだと指摘した。
特に、救急医療については、杏林大学割りばし事件を取り上げ、受け入れた病院(いわゆる杏林大)だけが責められているが、その患者の受け入れを断った病院は複数存在するという事実。同理事は、「救急医療に従事する人間として、断った病院より受け入れた病院を評価するが、法は善意を考慮しない」とし、いまや、当直医は、救急患者を断った方が安全という風潮に懸念を示した。この風潮に歯止めをかける対策が急務となっていることを指摘した。
●反対意見も提示された総合討論
総合討論では、フロアから医療安全調査委員会が制度化されると、医療崩壊を進めるとして反対する意見が複数出された。シンポジストの全日病の西澤寛俊会長も、「病院管理者や救急勤務医は、検討されている第3次試案などでは困るのではないか」と指摘した。これに呼応するように公的病院の病院長が発言し、提示されている第3次試案に対しては、現場として了承できないと訴えた。
公開討論会に出席した厚労省医政局総務課医療安全推進室の佐原康之室長は討論会後、本紙に対して「議論で指摘された個々の課題については、検討を深めていくことが必要だ」とした上で、同討論会が次期臨時国会への法案提出を全面否定するものではないとの見方を示した。
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