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(投稿:by 僻地の産科医)
「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化検討会
「総合医」の創設を医学会会長・高久氏が強調
「唐澤・日医会長の在任期間に」
と早期導入を求めるが、紆余曲折も
橋本佳子(m3.com編集長)
http://mrkun.m3.com/DRRouterServlet?pageFrom=CONCIERGE&operation=submitRating&msgId=200808062203872376&mrId=ADM0000000&rating=5&points=5
「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会の第3回会議が8月5日開催され、座長で日本医学会会長の高久史麿氏は、「総合医」の制度化の必要性を指摘した。「総合医」を創設し、学会による認定医とする構想だ。これは7月に舛添要一・厚生労働大臣が自治医科大学を視察した際、同大学学長でもある高久氏が既に言及したことでもある。
国立がんセンター中央病院院長の土屋了介氏は、「今、(制度化を)持ち出すのはあまり得策ではない。ここ数年は各診療科の専門医が診療の幅を広げて、総合医的な機能を担う。その間に家庭医(総合医)の育成を進めて、本物の家庭医(総合医)が育ったところで認定医制を導入すべき」と早期の制度化に慎重論を唱えたものの、高久氏は「若い人は何らかの資格を必要としている。制度がないと若い人は総合医をなかなか選択しない」と述べ、「総合医」の創設を求めた(以下、「総合医」「家庭医」などについて、言葉の統一がなされていないため、発言内容のまま記載)。
もっとも、現時点で関係学会のコンセンサスが得られているわけではない。日本医師会、日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会の4団体が共同で、「総合医」の創設に向けて検討しているが、「小児については学童まで診る方向で総合医のあり方を検討しているが、日本小児科学会は、『小児診療のレベルを下げることにつながりかねない』と言っている」などと高久氏は述べ、反対意見があることを紹介した。
また学校法人北里研究所評議員で、日本専門医制評価・認定機構監事でもある吉村博邦氏は、「総合医を考える場合、卒後からすぐにトレーニングを受けて総合医になるケースのほか、長年、各科の専門医として従事し、開業を機に診療の幅を広げて総合医になるケースもある。その両方をドッキングした制度にする必要があるのではないか」との意見を述べた。
そもそも前述の3学会の間でも、「患者を総合的に診る」医師の守備範囲には意見の相違があり、「総合医」をどう位置付け、いかに養成するについて意見の一致を見ていない。課題山積だが、高久氏は「個人的には、日医会長の唐澤祥人氏の体制のうちに導入したいと考えている」と話し、早急に検討を進める構えを見せた。
「家庭医は健康問題や病気の8割に対応可能」
この日の検討会のテーマは、地域医療と救急医療。福島県立医科大学地域・家庭医療部教授の葛西龍樹氏と昭和大学救急医学教授の有賀徹氏の2人が現状について解説した.
葛西氏は、長年、北海道で家庭医の育成に従事、2006年から福島で家庭医の養成に取り組んでいる。その特徴は、後期研修のカリキュラムとして家庭医の養成コースを持っているものの、大学病院だけではなく、地域の医療機関とネットワークを組み、そこをフィールドとして研修に取り組んでいる点だ。
「家庭医で、健康問題や病気の8割を占める『日常よく遭遇する状態』に対応できる」と葛西氏は家庭医の重要性を強調。その上で、家庭医が専門医と協働して医療を実践すれば、専門医は各分野の仕事により特化できるため、各基幹病院の専門医不足の緩和につながるなど、様々なメリットがあるとした。
ホームケアクリニック川越(東京都墨田区)院長の川越厚氏は、「家庭医を育てても、一人で地域に出て行くのは大変なこと。地域のバックアップ体制を整えないと、せっかく育てた医師がつぶれてしまう」などの懸念を呈した。これに対し、葛西氏は、「指導医2人、研修医2人の計4人体制で取り組んでいくことを基本に考えている」とし、家庭医の指導医も多数養成して、大学、医療機関、住民、行政、医師会などが協働し、広域な地域で、家庭医の育成と家庭医療の実践に取り組んでいく必要性を強調した。
「ガラス細工」の2次救急を救うことが急務
「トリアージ」「勤務医への手当」
「コメディカルの充実」がカギ
橋本佳子(m3.com編集長)
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080805_3.html
「東京都では年間60万件以上の救急車の出動がある。救急車の不足で、『赤い車が白い車よりも先に行っている』状況が1日約230件もある。救急患者の数の“呪縛”を逃れる一番のポイントは、救急現場や救急外来でのトリアージをいかに行うかにある」
8月5日に開催された「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会の第3回会議で、昭和大学救急医学教授の有賀徹氏は、東京都の救急医療の窮状を訴えるとともに、その対応策として都あるいは病院レベルで取り組んでいる工夫事例を紹介した。その上で、「救急医療の中でも今、特に問題なのは、2次救急。3次救急は最後の砦(とりで)であり、2次救急が崩壊すると3次救急に支障を来すが、今、1次救急を飛び越えて2次救急に患者が来ているのが現状。2次救急は『ガラス細工』の状態」と述べ、トリアージのほか、救急に従事する医師への手当、看護師などをはじめとするコメディカルの充実などの対策を求めた。
東京都では昨年6月から電話によるトリアージ開始
この日の検討会は、地域医療と救急医療がテーマ。
有賀氏は、日本救急医学会理事で、東京都の救急医療に関する検討会(迅速・適切な救急医療の確保に関する検討委員会)の座長なども務める。東京都では増加する救急車の要請に対して、2007年6月から救急の現場でのトリアージと電話によるトリアージを開始した。
前述の「赤い車が白い車よりも先に行っている」の例えは、消防車が救急車よりも先に到着する実態を指す。「交通事故で警察が救急車を呼ぶケースも少なくない。交通事故の患者の中には若者も多く、救急隊が現場でトリアージを行うと、約3分の2は自分で受診できる患者。その旨を説明すると、同意するケースが多い」(有賀氏)。
また電話によるトリアージは、都、都医師会や東京消防庁が協働して開設した「東京消防庁救急相談センター」で実施している。同センターでは、緊急性の有無や医療機関の受診の有無に関するアドバイスを行っており、平日は約80件、土・日曜日は100件ほどの相談があるという。ここで用いているプロトコールは、日本救急医学会による監修で、「電話救急医療相談プロトコール」(へるす出版)の形で出版している。
「このトリアージのプロトコールは、身体所見などを加えれば、病院の救急外来におけるトリアージにも使えるようになる」(有賀氏)。さらに、有賀氏は、東京都武蔵野市の武蔵野赤十字病院の看護師によるトリアージの実例を紹介、仮に患者が救急外来で待たされた場合でも、まずは看護師が症状を聞くなど何らかの対応をすることにより、「来院患者のクレームが減少する一方、看護師をはじめ職員の職務満足度が向上する」と有賀氏は、救急外来でのトリアージの必要性も指摘した。
救急医療の受け入れ問題では福祉的な視点が必要
有賀氏は、現在、厚生労働省が進めている救急医療をめぐる施策についても幾つか苦言を呈した。 救急医療をめぐっては、厚労省の「救急医療の今後のあり方に関する検討会」が7月30日に「中間取りまとめ案」を了承している。
この取りまとめでは、救急患者の「受け入れ困難」の問題を解消するため、
(1)患者の病状に応じて適切な医療を提供できる受け入れ先医療機関・診療科に振り分ける機能(管制塔機能)を行うシステムの整備、
(2)地域の実情に精通した救急医等を「救急患者受入コーディネーター」として配置――を提言している。
「救急医療は、『社会の吹き溜まり』でもある。お金がなくてなかなか医療機関を受診できず、病状が悪化した患者もいる。社会的弱者が救急隊を呼んでいることも多い」と、有賀氏は「受け入れ困難」の背景には様々な社会問題があると指摘。医学的な観点ではなく、福祉的な観点も踏まえたコーディネーターの必要性を強調した。
またドクターヘリについて、「東京都の場合、ドクターヘリではなく、東京消防庁のヘリコプターを使っていることが多い。その約半数に医師が同乗している。新規にドクターへリを導入するのではなく、消防部門のヘリコプターを上手に組み込むことが必要」と有賀氏は述べ、安易なドクターヘリの予算化に釘を刺した。
「1次、2次、3次救急というフレームが変わってきた」
有賀氏の発言に対し、座長で日本医学会会長の高久史麿氏は、「救急医療の対策と言うが、何が一番問題なのか」と問いかけた。 これに対する有賀氏の回答が、冒頭の「ガラス細工」発言だ。「1次、2次、3次救急医療というフレームには、これまでそれなりの合理性があった。このフレームができた昭和50年代はまず患者が1次救急の医療機関を受診していたが、今は初期救急のありようが変わってきており、1次救急を越えて2次救急医療機関を受診するようになり、その結果、多数の患者が訪れ、2次救急を担う勤務医は疲れ果てている。最後の砦(とりで)である3次救急を支えるためにも2次救急の対策が不可欠」(有賀氏)。
一連の議論を受けて、舛添要一・厚生労働大臣は、「トリアージをどう位置付けるかは重要な課題。トリアージ専門の医師を置けば済むのかどうか。また家庭医と専門医の連携も、家庭医によるトリアージがカギ。様々なトリアージの問題を総合的に考えていく必要がある。また救急医や産科医などへの手当も検討していく」と述べ、会議を締めくくった。
隠された資料?なぜか傍聴者には配布されず
M3.com 2008/08/05
http://mrkun.m3.com/DRRouterServlet?pageFrom=CONCIERGE&operation=submitRating&msgId=200808062203872376&mrId=ADM0000000&rating=5&points=5
8月5日に開催された、厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会の話です。
この検討会は、「公開」です。しかし、委員の先生方には配布されたにもかかわらず、傍聴者には配られなかった資料があります。北里大学産婦人科教授の海野信也先生が作成したものです。添付の資料がそれです。この検討会、5日が3回目。論客ぞろいで様々な骨太の意見が出され、過去2回の議論は白熱しました。その意見を集約し、「論点整理」の意味で海野先生がまとめたものです。
海野先生が会議当日の朝、持参されたので、コピーする時間がなかったというのが表向きの理由のようです。しかし……。医学部定員増をめぐる話とは無縁ではない、と私は見ています。海野先生の資料の柱は以下の二つ。
1) 医師養成数の増加策について
医師需要の増加への対応、医師の過剰労働緩和のために、医師養成数の増加が必要不可欠という認識で一致〔(1)2009年度は400人、ピーク時の2018年度から2024年度には現状から4000人増にする、(2)医学生一人を増やすのにかかる経費は1年に付き1000万円とする、と仮定した場合、最大で年間2400億円の経費増となる試算も提示〕。
2) 研修制度検討の必要性
診療科による医師の偏在解消のために、後期研修のあり方を中心に、医師養成について専門家が自律的に検討するための体制整備に向けた研究班の設置。
5日の会議の冒頭、座長の高久史麿先生(日本医学会会長)が、海野先生にこの資料の説明を求めたのですが、それで終わり。海野先生は、医師の養成数の数字はさておき、この2つの柱が委員の合意事項であることを確認したかったようですが、議論に入らず、曖昧なまま。高久先生は、医学部定員増の各論に入ることを懸念したのかもしれません。
実は当初、全国医学部長病院長会議の「医学部定員増」に関する意向調査の結果が公表される予定でしたが、調査を担当する山形大学医学部長の嘉山孝正先生は何も言及されませんでした。
医学部定員増をめぐっては、厚労省、文部科学省、各大学、その他の関係者による調整が続いているようです。第2回の会議では、嘉山先生が「北大は150人への定員増を希望」などと述べていました。この数字は、「財源も、また教員も確保できた場合に、何人まで増やしたいか」という趣旨で調査したもので、「理想値」ともいえます。もう少し現実的なところでは、日本私立医科大学協会の調査では、29大学で320人の定員増を要望していたので、1大学当たり平均11人。
一方、8月5日に文科省が各大学に出した通知では、2009年度の定員は「各大学の入学定員は120人を超えないことを原則とする」となっています。この通知は、各大学に来年度の入学定員増の計画の提出を求めるもので、定員増を図るためには、「地域医療貢献策」の実施が前提です。2008年度の定員は7793人。「過去最大」の定員は8280人。その差は487人。大学医学部・医科大学は、防衛医大も含めると計80。単純計算すると、1大学当たり6人の定員増です。
今後、各大学がどんな定員増員計画を出し、文科省はどのように調整していくのでしょうか。また、前述の全国医学部長病院長会議の調査結果は来週辺り、まとめる予定とお聞きしています。この医学部定員増の問題、引き続きフォローしていきます。
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