(関連目次)→医療事故と刑事処分 目次 大野事件
(投稿:by 僻地の産科医)
道標主人さまが『古新聞』からみつけてきてくださいましたo(^-^)o
医療安全 米国報告 (4)日本の制度不備を痛感
大野病院事故 医師逮捕に驚きの声
読売新聞 2006年5月26日
http://
「えっ、それで医師が逮捕されるの?」
ワシントンの政府系医療機能評価機関の主任研究員、デボラ・クイーンが驚きの声を上げた。日本の福島県立大野病院で今年2月、帝王切開の手術中に女性患者(当時29歳)が失血死し、産科医が逮捕された事件を説明した時のことだ。
「医療過誤に刑事罰はなじまない」「逮捕の基準、異状死の届け出の基準が不透明だ」という医師団体などの従来の主張に、「たった1人の産科医が不在になれば地域医療が崩壊する」という要素が加わり、医療従事者の間で波紋が広がっている。
――そうした日本の事情を説明すると、クイーンは混乱した表情で、こう口にした。
「なぜ、そんな分かりにくい制度や状況を放置しているのですか」
同じ言葉を、多くの医療関係者から聞いた。
◎
米国では、医療事故が刑事事件になることはきわめてまれだ。
病院での不審な死については、具体的な届け出の基準があり、専門職が解剖の適否を判断する。解剖して初めて医療過誤が発覚した場合も、検察側に連絡する義務はなく、通常は担当者の判断に任せられるという。解剖結果の情報は基本的に閲覧が可能。民事訴訟に使うことができ、州ごとのボード(専門家委員会)がこの結果を判断材料にすることもある。
大野病院の例のほか、患者の取り違え事故、先端技術を駆使した手術でのミスなど、日本で刑事処分の対象になるケースの対応について、医療制度に詳しいボルティモア大のアラン・ライズ教授に尋ねると、「医師は免許を失い、民事で訴えられるだろう」という答えが返ってきた。
米国の行政処分は厳しい。2000年の統計では、約70万人の医師のうち、免許取り消し1642人、免許停止745人、戒告・けん責1014人。免許取り消しだけでも日本の過去35年の累計の33倍に当たり、医師数が日本の3倍弱であることを考慮しても多い。
「行政処分が日本の刑事処分に近い懲罰的な意味を持っている。それでも『医師に甘すぎる』という国民感情がある」と、ライズ教授は付け加えた。
◎
日本では、「医療事故だけを業務上過失致死罪から除外する理由はない」とする法曹界と、反発する医療界の“溝”が埋まらない。昨年、法医学、病理、臨床の3者が解剖と検証、評価を行うモデル事業が始まったが、過失の評価や公表の方法について明確な基準を出せずにいる。
「なぜ、県ごとにボードを作らないのですか。警察に頼らない事故検証と懲罰の仕組みを作らなければ、医療はダメになりますよ」。自由主義を掲げ、規制の強化には基本的に反対の立場であるはずの民間研究機関「ケイトー研究所」の担当者でさえそう懸念するのを聞き、日本の制度設計の遅れを強く感じた。
アメリカ合衆国における診療関連死の取扱いについての詳細なリポートがあります。
一般的にアメリカでは、故意や悪意以外の診療関連死が刑事事件化することはありませんが、その対応は州ごとに異なっています。
診療関連死が起きた場合は、各州の医療安全担当部局に報告する決まりがあります。
義務付けている州と、自主的な報告に任せている州があり、一律ではありません。
それに応じて、州のメディカル・ボードが医師や歯科医師、ナースなどの処分を決定します。
連邦保健局のAgency for Healthcare Quality and Researchが報告書を出しています。
Regulation of Health Policy:
Patient Safety and the States
http://www.ahrq.gov/downloads/pub/advances/vol1/Weinberg.pdf
(そのなかの一説です。)
有害事象の報告制度は一般国民からは支持されているが、いまだに医療専門職からは根強い抵抗がある。最近(2003年)のアメリカ医師会誌の調査では、有害事象を州の当局に報告することが問題の解決に有益であると答えている一般市民が71%であるのに対し、医師は23%しか有益であると答えていない。また2003年のLambらの調査では、一般市民の62%が報告を公開すべきと答えているのに対して、公開すべきと答えた医師は14%に過ぎなかった。この理由は明らかである。医師は報告がどういう結果をもたらすかを、より強く認識しており、より強く恐れているのである。つまり、医療過誤裁判だけでなく、専門職団体や医師を規定する団体(州のメディカル・ボード)から制裁的な処置を受けることを恐れているのである。いくつかの州は、このことに強い関心を持って、秘匿や非公開の法律を制定するように努めてきた。しかし、こういった法律はまだ新しく、報告が増えるかどうか見極めることはできないし、法的な異議申し立てをまだ受けていない。
義務であれ、自発的であれ、報告システムが存在するところでさえも、医師は最も報告をしない医療専門職である。これは上に述べたように、いくぶん、医療過誤裁判やある種の報復措置をおそれていることにもよる。しかし、沈黙や不開示は看護師や他の医療職と比 べて、医師文化のなかに深く埋め込まれている。このことは、法律上の義務があろうがなかろうが、自発的であろうが強制的であろうが、内部の文化が有意にかわらない限りは、報告制度への引き続きの抵抗であり続けることを示唆している。
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年6 月25日 (水) 15:06
道標主人先生が、紹介してくださった読売の記事はシリーズになっていますね。
ちょうど、大野病院事件が起きた直後に掲載されたので、記憶に残っています。
(私も、当時の記事をコピーしていました)
(1)患者との和解導く「謝罪」
紛争の仲介役「メディエーター」
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/feature/20060523ik06.htm
(2)プロ意識保つ“分業制”
「専門医」と「経営専門」病院長
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/feature/20060524ik05.htm
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年6 月25日 (水) 15:17
やっぱりそういう仕組みがあったんだ…
「医療過誤が刑事になるのは日本だけ」というプロパガンダはよく目にするけど、米国でこれほど医師免許取り消しが多いとは知らなかったなぁ。
医師が医師免許を取り上げられたら、娑婆にいるより牢屋にいた方がましかも、体験したくはないが(笑)
投稿情報: 元臨床医 | 2008年6 月25日 (水) 18:19
>やっぱりそういう仕組みがあったんだ
アメリカの場合、医師資格と医師免許が日本の場合とは若干ニュアンスが異なるのでは、と思います。
USMLE(米国医師資格試験)に合格すれば米国医師資格を取得できる。
自分が働く州のボードに医師免許申請をして、医師免許(医師としての労働許可)を得る。
医師免許停止になっても、医師資格そのものは、失われていないので、一定の再教育期間ののちに、USMLEとは別の医師試験(しばらく、ブランクが有った場合に臨床医として再び働きだすための試験)を受けて州の当局に再び医師免許申請ができると聞いています。州の医師免許停止を隠して、別の州に医師免許申請をして働いている医者がいることはいた。
米国の事情にお詳しい先生方も多いと思いますので、間違ってたら訂正、お願いします。
イギリスの保健省が2005年に医師と歯科医師の資格停止や資格保留に関してのプロトコールを出しています。
NHSの複数の専門医や関係する医療職による詳しい調査、当事者でない医療職からの聞き取り調査、当事者の医師の弁明(代理人による弁明も可能)、で資格停止・資格保留の有無が決まります。
証拠がない、他者からの悪意のクレームもあるようで、この場合は資格停止にはならない。
また、調査の結果で資格停止・保留が決まっても、異議申し立てができる。
公平なやりかたを取るようにしているようですよ。
人口あたりの医師数がほぼ日本と同じのイギリスで2000~2003年で実際に資格停止になった医師は毎年30人弱。
今までは単に資格停止や医療職資格剥奪だったですが、考え方を変えて、(悪意での医療過誤例を除いて)再教育機関を設けて、再び復職できるようなシステムです。
Maintaining high professional standards in the modern NHS
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4103586
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年6 月25日 (水) 20:58
診療関連死が起きた場合は、各州の医療安全担当部局に報告する決まりがあります。義務付けている州と、自主的な報告に任せている州があり、一律ではありません。それに応じて、州のメディカル・ボードが医師や歯科医師、ナースなどの処分を決定します。
---------
義務づけている州の場合、WHOのガイドラインに反しているようですが、アメリカの医師はなんとも思っていないのでしょうか。それとも、WHOのガイドラインには反していないと言うことでしょうか。
投稿情報: マシュマロ | 2008年6 月25日 (水) 22:05
マシュマロさま。
言葉が足らなかったです(いつものことですが)、すみません。
医療安全の報告を受ける部局と、処分を下す部門は別々の機関です。
クレームのうち、明らかな怠慢や診療能力不足による医療過誤が疑われる場合は調査して、処分の対象になります。
イリノイ州やメイン州のように裁判に使われないように、匿名化して、情報を開示しないことを定めている州もあれば、
原則匿名であっても、情報を開示する州もあり、規定は州ごとに異なるようです。
(具体的には、上のURLをご参照下さい)。
要するに国として一律ではなく、州ごとに対応が異なります(アメリカは医療も教育も地方分権で法律も異なる)。
それで、医師側としても医療過誤裁判に使われる可能性を考えば、有害事象の報告をためらうわけで、医師側の有害事象報告制度への信頼度が低い原因になります。
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年6 月25日 (水) 22:58