(投稿:by 僻地の産科医)
周産期医学
2008年5月号からですo(^-^)o ..。*♡
山口県における妊婦喫煙状況と
たばこの害についての知識に関する調査
佐世正勝 伊東武久 伊藤悦子 大井真由美
小野みさ江 高橋雅文 名越 究
(周産期医学 vol.38 No.5 2008-5 p617-620)
Ⅰ.目 的
日本における男性喫煙者人口は減少してきているが,女性の喫煙率は減少していない。さらに,20~30歳代の女性における喫煙率はヒ昇傾向を示している。たばこが人体に有害であることは明らかであるが,妊婦においては妊婦自身に有害であるだけでなく,妊娠や胎児そのものにとって有害である.平成13年に行われた妊産婦の喫煙実態に関する全国調査では,妊娠により喫煙妊婦の6割が禁煙を行い,84%で節煙が行われていることが報告された。また,9割の妊婦が喫煙は胎児に対して有害であることを知っており,ほとんどの妊婦が禁煙や節煙の意思をもっていることが示された。しかし,妊婦の禁煙につながる知識の詳細については明らかにされてない。禁煙には,禁煙を行うきっかけが重要である6)。今回,妊婦の禁煙指導に用いる基礎情報の収集を目的として,山口県における妊婦の喫煙状況ならびにだけこの害に関する知識について調査を行った。
Ⅱ.方 法
山口県および日本産婦人科医会山口県支部が共同して,山口県内の産婦人科標榜70施設のうち,分娩を取り扱っている44施設にアンケート調査を行った。調査期間は,平成18年10月の1ヵ月間とし,前年度の分娩取り扱い件数に応じて,アンケート調査紙を送付した。
調査項目は,年齢,妊娠週数,妊娠歴,喫煙状況,家族の喫煙状況とした。ま九,喫煙経験があるか,家族に喫煙者がいる妊婦に対して,たばこの影響に関する知識を質問した。たばこの影響に関する知識は,
胎児への影響として,
①未熟児や低出生体重児が生まれる頻度が高まる(以下,低出生)
②早産,流産の危険性が高まる(以下,早産)
③乳幼児突然死症候群の危険度が5倍近くに高まる(以下,SIDS)
子どもへの影響として,
④ニコチンは母乳中に分泌され,乳児に慢性ニコチン中毒を引き起こし,夜泣きをして眠らない,下痢,嘔吐,頻脈等の症状がみられることがある(以下,ニコチン),
⑤気管支炎やSIDSなどの病気にかかりやすくなる(以下,気管支炎)
⑥生まれてからも発達が遅れることがある(以下,発達)
自分自身への影響として,
⑦授乳中の喫煙は母乳の分泌を抑制する(以下,母乳)
⑧皮膚の老化が進み,皺や弛み,かさつきなどの原因になる(以下,老化)とした。
結果の分析には,pair t-testおよびx2検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。
Ⅲ.結 果
アンケート用紙を送付した44施設のうち,40施設(90.9%)からアンケート結果の返送があった。アンケート返送件数2594件,回収率は86.5%であった。
アンケート対象者の年齢分布は,10代が49名,20代前半が394名,20代後半が869名,30代前半937名,30代後半が307名,40代前半が33名,40代後半が2名であった。
喫煙状況が明らかな2585名のうち,喫煙をしている妊婦(以下,「妊娠中喫煙」群)は138名(5.3%),妊娠中には喫煙をしていない妊婦(以下,「妊娠中禁煙」群)は202名(7.8%),以前喫煙をしていた妊婦(以下,「喫煙の既往」群)は619名(23.9%),喫煙経験のない妊婦(以下,「喫煙歴なし」群)は1、626名(62.9%)であった。
喫煙割合は,10代が8.9%,20代前半が6.9%,20代後半が5.9%,30代前半4.1%,30代後半が5.2%,40代前半が6.1%,40代後半が0%であっ九。経産婦と初産婦の喫煙率を比較すると,経産婦(6.9%)は,初産婦(4.3%)に比べ有意に喫煙率が高かった(pく0.05)。妊娠中も喫煙をしている138名のうち,妊娠前と妊娠中の喫煙本数が明らかな125名について,妊娠前と妊娠中の喫煙本数を比較したところ,妊娠前の喫煙本数(19.7土7.5本)に比べ,妊娠中の喫煙本数(9.5土5.7本)は有意に減少していた(p<0.001)。
本人および家族の喫煙状況が明らかな2580名について,「妊娠中喫煙」群の89.1%,「妊娠中禁煙」群の85.1%,「喫煙の既往」群の62.2%,「喫煙歴なし」群の46.8%に,喫煙している家族があった。「妊娠中喫煙」群および「妊娠中禁煙」群は,「喫煙の既往」群および「喫煙歴なし」群に比べ,喫煙している家族をもつ割合が有意に多かった(pく0.0001)。また,「喫煙の既往」群は,「喫煙歴なし」群に比べ,喫煙している家族をもつ割合が有意に多かった(p<0.001)。
たばこの影響に関する知識について,「低出生」の項目に対しては92.1%の妊婦が知っていたが,「早産」,「SIDS」,「ニコチン」,「気管支炎」,「発達」,「母乳」,「老化」の各項目に関しては,それぞれ82.2%,46.3%,35.0%,58.6%,48.4%,48.8%,57.7%と「低出生」の項目に比べ有意に知識が乏しかった(表,図1)。特に,「SIDS」,「ニコチン」,「気管支炎」,「発達」,「母乳」,「老化」の項目は,知識が乏しかった。
また,「早産」,「発達」,「老化」の項目において,喫煙状況の違いにおける差がみられた。「早産」の項目(図2)に関して,「妊娠中禁煙」群は,「妊娠中喫煙」群,「喫煙の既往」群に比べ有意に知っている割合が高かった。
発達の項目(図3)に関して,「妊娠中喫煙」群は他の群に比べ有意に知識が乏しかった。また,「妊娠中禁煙」群は,「喫煙歴なし」群に比べ有意に知識が乏しかった。
「老化」の項目(図4)に関して,「妊娠中喫煙」群は,「喫煙の既往」群に比べ有意に知識が乏しかった。また,「妊娠中禁煙」群に比べ知識が乏しい傾向があった。同項目に関して,「喫煙歴なし」群は,「妊娠中禁煙」群および「喫煙の既往」群に比べ有意に知識が乏しかった。
Ⅳ.考 察
今回,全山口県下に一斉に行った1ヵ月間のアンケートにより9割の分娩施設から2594件の回答を得た。山口県における平成18年の分娩件数が11,692件であることから,妊婦の4人に1人から協力を得られたことになる。
調査対象の妊婦の平均喫煙率は5.3%であり,妊娠により禁煙を行っている妊婦7.8%を加えても,同年代の平均喫煙率18.9%(20~29歳)に比べ低値であった。しかし,喫煙既往のある妊婦が23.9%あり,妊娠を意識して妊娠前に禁煙を行っていた可能性がある。未成年の喫煙が問題となっているが,若年妊婦で喫煙率が高い傾向にあり,就学時期からの積極的な禁煙教育をしなければ,妊婦の喫煙を減少させることは困難であると思われる。
喫煙をしている妊婦には,有意に高い比率で家族内喫煙者が存在していた。受動喫煙の原因の半数以上が夫であり,妊婦に禁煙教育を行い,実績を上げていくためには,夫を含めた宗族に禁煙教育を行っていく必要がある。また,家族内に喫煙者が存在していることは,妊婦(胎児)の受動喫煙だけではなく,出生後の新生児が受動喫煙をすることにつながる危険があり,子どもの出生後の環境面の改善のためにも,家族単位の禁煙教育は重要である。子どもの環境面から喫煙を考えた場合,経産婦において有意に喫煙率が高いという事実は,すでに,胎児だけてなく子どもが受動喫煙に曝露されていることを示している。母親は父親に比べて子どもとともにいる時開か長いため,母親の喫煙は父親の喫煙以上に影響が大きい。早急に対策をとる必要がある。
大井田ら5)の報告と同様に,喫煙を行ってきた女性の半数以上が妊娠判明により禁煙を行っている。また,喫煙量が妊娠前に比べ有意に減少していることより,妊婦自身が漠然とであれ妊娠や胎児に対して,たばこが有害であるという認識はもっているものと思われる。禁煙をするためには動機が重要である。妊娠を契機に禁煙教育をすることは,禁煙実行に対し時宜を得ているものと思われる。妊婦の禁煙は,胎児がたばこに曝露されることを最小限にすることにつながると考える。
喫煙経験のある妊婦,家族内喫煙者をもつ妊婦のほとんどが,たばこは妊娠や子どもにとって有害であるという知識をもっていた。特に,未熟児や新出生体重児の増加や流早産の危険性の増加については,知識の保有率が高かった。しかし,SIDSの増加や児に対するニコチンの直接的な害に関する具体的な知識をもっていた妊婦は半数以下であった。特に,妊娠中も喫煙を継続している群では,ほかの群に比べ知識が乏しい項目が多かった。一方,妊娠中に禁煙した群では,妊娠に対するたばこの害について知識をもっている割合が多い傾向があり,知識と禁煙が結びついている可能性が示唆された。このことは,妊婦の禁煙教育において,胎児や新生児に対する具体的なたばこの害を教育することが,妊婦の禁煙につながることを示していると考えられる。また,妊婦の受動喫煙,および新生児の受動喫煙を防止するために,ともに生活する家族,特に夫に対して同時にたばこの害に関する情報提供を行う必要があると思われる。
今回の調査は,時期を統一し全県下を網羅した調査であり,また,アンケートの回収率も高いことより,山口県全体の妊婦の状態を反映している調査と考えられる。この調査より得られた妊婦および家族の喫煙状況ならびに喫煙の影響についての知識に関する結果は,今後の禁煙対策にとって有益な情報となるものと思われる。
文 献
1)日本たばこ産業株式会社:全国タバコ喫煙者率調査
(http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.html)
2)厚生労働省:平成17年国民健康・栄養調査結果の概要
について,2006
3)中山脩郎:女性と喫煙.日本産科婦人科学会神奈川地
方部会雑誌43:60,2007
4)加治正行:妊婦の喫煙と子どもへの影響.成人病と生
活習慣病33:839,2003
5)大井川隆,曽根智史,武村真治:わが国における経産
婦の喫煙・飲酒の実態と母子への健康影響に関する疫
学調査.平成13年度厚生科学研究報告書,2002
6)井埜利博,渋谷友幸,斉藤洪大,他:喫煙検診による
小児受動喫煙の実態と両親への禁煙動機付け.日児誌
110 : 1105, 2006
7)尾崎末座:未成年者の喫煙・飲酒を取り巻く環境に関
する研究、平成12年度厚生科学研究費補助金健康科学
総合研究事業研究報告書,2001
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