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(投稿:by 僻地の産科医)
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東京保険医協会「医療関連死シンポジウム」開催
医師法21条は別件逮捕のために使われている
日経メディカルオンライン 2008. 6. 4
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200806/506692.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/int/200806/506692_2.html
「医療関連死シンポジウム」が5月24日、東京保険医協会の主催で行われた。当日はシンポジストとして、上昌弘東大医科学研究所客員准教授、川口恭『ロハス・メディカル』発行人、井上清成弁護士、澤田石順鶴巻温泉病院医師、阿真京子氏(「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」代表)の各氏が参加。現在、医療界で大きな議論を呼んでいる第三次試案を中心に活発な意見交換が行われた。
各氏の主な発言は以下の通り。
上昌弘東大医科学研究所客員准教授
「現在第三次試案、医療安全調査委員会について医療者の間で活発な議論がされている。医療事故調には問題点が4つある。
まず、『司法は謙抑的に対応する』というが、医療事故調は責任追及の責務を負う司法に対して拘束力を持っていない。過失という概念は法的なものであり、医学的判断にはなじまない。
次に、『医療事故調は責任追及を目的としていない』というものの、組織としてできてしまえば責任追及のために機能してしまう懸念がある。
三番目に、診療関連死の届出が義務化されれば、行政処分の拡大が可能になる。行政処分のために、医療事故調の情報が使われるだろう。
四番目は、医師法21条をどうするかということ。21条をどのように改正すべきか、たくさんの案が出ている。医師法21条単独で立件された人は一人もおらず、すべて業務上過失致死で逮捕されている。別件逮捕のためにこの法律が適用されている。この法律があろうがなかろうが、立件数には影響がない可能性が高い。
今、私たちがしなければならないことは幅広い議論である。医師も、第三次試案についてはよく分からないという人も多い。近年は現場の医師がオンラインメディア、ブログを利用して問題提起を行っている。今必要なことは、国民・医療従事者・医療機関にもっと情報提供をすることだ。」
川口恭『ロハス・メディカル』発行人
「ブログで『診療行為に関連した死亡に係る死因究明の在り方に関する検討会』、大野病院事件の公判の傍聴記を掲載してきたが、マスメディアは全く報道しなかった。現在、医療事故調についての議論がなされているが、これはプラスの面とマイナスの面がある。プラス面は医療界の風通しがよくなり、議論が活発になったこと。マイナス面は医療事故の被害患者との軋轢が非常に大きくなってしまったこと。いずれにせよ、きちんとした議論のないまま、医療事故調という組織だけを作ろうとしているのは問題だ。
また、メディアには医療界と患者の架け橋の役割を期待されるが、一営利企業に過ぎないマスコミがその役目を果たすのは難しい。マスコミは記事について訴えられるのを恐れている。新聞・テレビは記者クラブが中心になっている。メディアに訴えかけて、世論を動かす為には医師が直接、記者クラブに情報を提供してはどうだろうか」
井上清成弁護士
「この10年で大きく変わったことは、民法が医療の場に入ってきたこと。現在、年間1000件の医療訴訟がある。この水面下には、更に多くのクレームがあると考えられる。そちらへの対応を考えるべきだ。スウェーデンでは、無過失保障制度が実施されている。現在の第三次試案は厚生労働省が独り勝ちする制度だ。何も言わなければ行政処分の拡大、刑法・民法の改正を追認したことになる。今こそ現場の医師が意見を表明すべき時だ」
澤田石順鶴巻温泉病院医師
「現在、医師は過酷な労働環境にさらされているが、医師の労働環境は無法状態に置かれている。労働基準法も適用されていないし、例えば医師が過労や飲酒状態で診察した場合、罰則が定められていない。よって、医療行為による有害事象に対しては、医師は堂々と刑事・民事ともに免責を要求すべきだ。
現在、第三次試案、医療安全調査委員会について議論がされているがこれは後期高齢者医療制度も合わせて考えねばならない。この二つが相まって、さらに医療訴訟の件数は増加するであろう。
一般病棟に入院して180日経つと、認知症ならびに脳卒中の患者は入院治療を受けられなくなる。もし、治療を受けずに亡くなり、それを不服として医療事故安全調査委員会に訴えたと仮定する。『適切な治療を受ければ助かった』との調査結果が出れば、医師は訴えられるだろう。
刑法211条第1項、民法719条は医師の適用を除外するべきだ。必要な法改正なしに医療事故調を創設しても、調査書それ自体が訴訟を誘発する。開業医、勤務医が一致団結して、免責なしの医療事故調創設に反対すべきである。医師自身の権利だけでなく、同時に患者が医療を受ける権利があることを主張することが必要だ」
阿真京子氏(「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」代表)
「子どもが夜中に夜中にけいれんが止まらなくなり救急外来で診察してもらったことがある。その間、救急車受け入れ要請の電話が鳴り響き、スタッフは皆疲れた様子だった。待合室は満員だったが、その中にはどうみても軽症の子どももいた。今の親は子どもの病気に対して知識がないため、子どもが病気になると全て医師に頼りきってしまう。そのことが医師の疲弊させている。
『知ろう!小児医療 守ろう!子ども達』の会員に「がんばっている医師を罰しないでほしい」という意見をどう思うか」というアンケートを取った。回答は「厳しく罰してほしい」が30%、「原因究明を」が27%、「コミュニケーションの不足」が18%であり、まだまだ医療従事者と患者の間にギャップがあることが分かった。お互いにコミュニケーションを深め、理解しあうことが大切だ。医療資源を有効に活用することを、患者の側も考えねばならない」
> 医師法21条単独で立件された人は一人もおらず、すべて業務上過失致死で逮捕されている。
> 別件逮捕のためにこの法律が適用されている。
この場合に「別件逮捕」という用語を使うのは、大変違和感があるのですが。
いわゆる別件逮捕とは、
捜査目的の事件(本件)に関する証拠が薄く逮捕状が取れないために、容疑確実な別の事件(別件、通常は本件より軽い罪)について逮捕状を取り、その身柄拘束期間を利用して本件の取調べを行うことを言います。
令状は被疑事実ごとに請求しなければならないという刑事訴訟法の「事件単位の原則」を潜脱するものであり、冤罪を産みやすい捜査手法であると批判されます。
これを医師法と業務上過失致死罪との関係にあてはめれば、
医師法違反の名目で逮捕しておいて、業過罪の取調べを行うことは「別件逮捕」です。
しかし、事実は、逮捕状は全て業過容疑で取られているというのですから、
業過罪名目で逮捕して業過罪の取調べをすることは、罪名通りの本件取調べであり、刑事訴訟法上は問題ありません。
そもそも、医師法21条違反の罪の法定刑は罰金50万円以下であり、罰金刑しかないような軽微な罪をもって逮捕することは、考えにくいです。
医師法違反が捜査に利用できるとしたら、せいぜい、任意で事情聴取する際の呼び出しの名目に使える(本当は業過罪の話を聞く目的)ぐらいではないでしょうか。でも、任意捜査は拒否できますからね。
上教授の言いたいことは、逮捕が本件か別件かという問題ではなく、
・捜査の端緒が、医師法21条による届出であって、業務上過失致死罪の自首ではないのに、業務上過失致死罪の捜査に繋がっていくのは不当である
・医師法が実質的に、業過罪の自首を強要するに等しい使われ方をしているのはおかしい
ということではないかと推測します。
しかし、その現象を「別件逮捕」と呼ぶのは通常の語法ではなく、誤解を与える表現であると思われます。
投稿情報: YUNYUN(弁護士) | 2008年6 月 6日 (金) 20:32