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(投稿:by 僻地の産科医)
4月産婦人科医会報の医療紛争シリーズからですo(^-^)o ..。*♡
私これ結構、好きでよくみています。
防ぎようがなかったという裁判所の判断も珍しいものだと思います。
病室での骨盤位早産後
脳性麻痺発症例の請求を棄却
〈K地裁H18・5・30〉
(日本産婦人科医会報 2008年4月1日号 No.697 p7)
本件は、ベッド産となった早産児が脳性小児麻痺となった原因は、帝切の施行時期の遅れによる分娩前後の管理過失にあるとする原告の主張を全面的に否定した事例である。
【事例】
体外受精・胚移植で妊娠した37歳初産婦
平成5年12月25日
妊娠28週3日に、前期破水のため被告病院に入院した。子宮収縮はあるものの子宮口は閉鎖、展退度は10%、ステーションは-3、感染を疑わせる所見もなかったため、児の未熟性を考慮し子宮収縮抑制剤を投与し妊娠継続するが、分娩が進行したりするか、感染が認められれば、単殿位のため帝切を施行する方針とした。
平成6年1月7日
妊娠30週2日、午後7時30分頃、CTG上2~3分ごとの収縮が出現
午後7時50分、午後8時、午後8時18分、それぞれ軽度の変動一過性徐脈(以下VD)が認められた。午後9時15分、子宮口が3cm、展退度が90~100%、ステーションが-2と分娩進行が認められたため帝切を決定し、手術の準備中に妊婦がベッド上で四つん這いになるなどしたため診察すると、胎児の殿部が外陰部に下降していた。駆けつけた医師の下、病室のベッド上で、午後9時46分、骨盤位娩出術により1,424gの新生児を出産した。
児は分娩1分後のアプガースコアが5点、5分後のアプガースコアが8点。
娩出後の緊急処置が施された後、被告病院小児科に入院した。人工呼吸管理、新生児呼吸窮迫症候群、高ビリルビン血症の治療(光線療法、交換輸血)が施行された。日齢20には、経過順調で小児科を退院した。
その後生後約1年で精神運動発達遅延、脳性麻痺と診断されている。
【主な争点と判断】
・帝王切開術の施行時期を逸し、病室のベッド上で分娩させた過失について
CTG 所見、超音波検査所見から陣発前に胎児機能不全と思われる所見のないこと、前期破水、切迫早産例での陣痛開始の判断は困難で頸管所見の進行を持って判断するため帝切施行の決定時期は妥当であること、経腟分娩となったが1回の骨盤位牽引術でスムーズに娩出可能であったので帝切と同様にストレスがかかっていない等から過失にあたらない。
・分娩後の臍帯結紮、羊水吸引、気道確保、体温管理等の新生児に対する適切かつ十分な措置が行われなかった過失について
ベッド上の分娩であったが、その後の蘇生処置は十分に行えていること、超低出生体重児としてアプガースコアの結果は、重症な新生児仮死を意味しないこと、胎便吸引症候群、低体温自体はなく、多血症の原因とも断定できない等から過失にあたらない。
本症例の時期では高度VD がPVL 発症要因になるため中等度VD の出現で娩出させることが予後改善につながるという報告があるものの、未だ十分なコンセンサスが得られていない状況にある。原告側の主張は医学的に根拠がなく、裁判官が冷静に根拠に基づき請求を棄却したことは極めて妥当と言える。ただし、今後脳性麻痺児に対する産科医療補償制度が開始された場合、救済対象外の早産児でこのような争いが増加する可能性も危惧される。高次医療機関および勤務医がさらに疲弊する原因にもなりかねない。このためEBM に基づく診療計画の説明だけではなく突発事項も踏まえた説明も必要になると考えられる。
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