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(投稿:by 僻地の産科医)
日経メディカル2月号より
紫色の顔の友達を助けたい先生の記事が出ていました(>▽<)!!!
ぜひぜひ読んでくださいませ ..。*♡
そして報道のあり方について考えていただけますと嬉しいです!
またこちらも参考にしてくださいませo(^-^)o ..。*♡
紫色の顔の友達先生からのコメント
新小児科医のつぶやき 2007-12-12
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071212
医療裁判の報道で名誉棄損
医師が自力でテレビ局に勝訴
田邉昇 中村・平井・田邉法律事務所
(Nikkei Medical 2008.2 p175-177)
東京女子医大で患者が死亡した医療事故の裁判で、医師が無罪を言い渡されました。その判決を報じたニュース番組の内容が名誉棄損に当たるとして、医師は弁護士を立てずに本人訴訟でテレビ局を訴え、勝訴しました。
事件の概要
2001年3月、東京女子医大において、心臓外科手術を受けた当時12歳の患者が、人工心肺装置の誤作動によって死亡し、担当医師2人が逮捕・刑事告訴された。逮捕されたのは、人工心肺を操作していたA助手と、手術の執刀医であったB講師。Aは人工心肺装置操作の過失による業務上過失致死の容疑で、Bはカルテ改ざんによる証拠隠滅の容疑で逮捕された。
Bには04年3月に懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が下り、確定。一方、Aは一貫して無罪を主張。東京地裁は05年11月30日、「人工心肺装置の構造自体に瑕疵があり、Aに過失を問うことはできない」として、Aに無罪の判決を言い渡した。
判決後フジテレビは、同日午後の「FNNスーパーニュース」と、翌日早朝の「めざましテレビ」、午前8時からの「とくダネ!」の中で、本件判決について概要を報道。このうち、「FNNスーパーニュース」における報道の概要は以下の通りである。
①ニュース冒頭で、「遺族は先ほど会見を行い、怒りをあらわにしています」として紹介。
②患者の父親による記者会見の映像に合わせ、「『過失責任問えない』東京女子医大元医師『無罪』心臓手術で少女死亡」をテロップ表示。
「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった、というのが、本当に、あの場にいての雰囲気でした」という患者の父親の発言に合わせ「無念の思いを語る遺族」とナレーション。
③Aの映像として、Aが拘置所から出所するときの映像を使用。
④テロップ表示やナレーションで「A被告当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」「A被告法廷では一転して過失を否定」などと、実名入りで放映。
⑤ナレーションで、「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例且当時、高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は、この事件でその承認を取り消されています」「この事故では、手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われた医師には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています」などと語り、Aの映像と並べて放映。
⑥フジテレビ担当者が第三者の弁護士に問い合わせている映像・音声とともにその弁護士のコメントとして「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置」「おこたって未熟な医師に扱わせた」との内容をテロップに表示。
⑦患者の父親による記者会見でのコメント「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています」を報道。
こうした報道内容に対して、Aはフジテレビを提訴。
①捜査機関で自白し過失を認めたなどと誤った内容を報じ、本来であれば有罪になるべきであったのに無罪になったという印象を一般視聴者に与えるものであり、名誉棄損に値する
②Aを「元医師」と表現したことは事実誤認であるばかりか、責任を取って医師を辞めた、または辞めさせられたと
の誤解を与える
③Aが拘置所から出るところを撮影し、その映像を無罪判決報道時に使用したのは肖像権の侵害に値する
―などとして、同社に総額1500万円の慰謝料の支払いを求めた。
判 決
裁判所は、放送内容が名誉棄損に当たるかどうかについては、映像やナレーション、テロップなどを含む「放送内容全体から受ける印象などを総合的に考慮して、判断すべきである」とまず総論を述べた。
その上で、「FNNスーパーニュース」の報道内容について、①のように、Aが過失を認めて捜査機関での取り調べで自白し、自己の行為が業務上過失致死罪に該当することを前提に示談が成立していたとの内容を放映したことや、⑥のように、未熟な医師が危険回避義務を怠って手術を行ったかのように取れる内容が放映されていること、⑤のように原告の無罪判決に疑問があることを示唆する内容の情報を多数提供していること、②や⑦のように患者の父親の記者会見を報じながらAによる記者会見のコメントを報じていないことなどから、「これらを全体的に観察すると、本件刑事判決に批判的な視点で構成されている」と指摘。
そして、フジテレビ側の「これは無罪判決の報道であり原告の社会的評価を低下させるものではない」との主張に対し、「実際には、原告が未熟で、その過失があったために、本件事故が生じた可能性があるとの印象を与えることは否定できず、原告の社会的評価を低下させるもので、原告の名誉を棄損するものといわざるを得ない」と判示した。
一方、報道が事実である、またはそう信じるに足る理由があれば、その報道は名誉棄損にならない。この点、フジテレビ側は①の「Aが捜査機関で自白し過失を認め、遺族と示談が成立していた」といった点について、遺族や当時の院長らに対して直接謝罪の事実を確認しており、原告に直接取材をしていなくとも、過失を認めて謝罪したと信じたことには相当性があるとして、報道内容は名誉棄損には当たらないと主張した。しかし裁判所は「本件裁判の全証拠によっても、(捜査機関での自白や示談の成立などの)事実があることも、それを信じるに足る理由も認められない」として退けた。
ただ、「元医師」との表現については、「この事件に関連して医師を辞めたと想起するものとは一概にいえない」とし、名誉棄損を認めなかった。また、拘置所から出所する際の撮影の違法性についても、公道上からの撮影だった点や、身体が拘束されていなかったことなどから、これを認めなかった。その映像を使用したことについても、「古い映像を用いるのも裁量の範囲であって、(中略)社会生活上受忍すべき限度を超えて、原告の人格的利益を侵害するものと評価することはできない」とし、肖像権の侵害を認めなかった。
以上により、100万円の支払いをフジテレビに命じた(東京地裁07年8月27N日判決)。なお、フジテレビは控訴している。
解 説
今回の訴訟は、A医師が弁護士を立てない本人訴訟で企業を提訴し、勝訴を勝ち取った驚くべき裁判です。A医師は、一連の騒ぎでまるで極悪人のように報道されました。事件自体の報道についても、A医師は新聞社などを相手に勝訴していますが、A医師がウェブサイト上で公開している訴訟の書面を見ると、下手な弁護士の書面より良くできています。
マスコミに対して検察は非常に弱く、「表現の自由」を理由に、刑事事件として処理をすることはまずありません。そのため、被害を回復するには、民事訴訟で損害賠償や謝罪などを求めるしか方法がありません。
その民事訴訟も、勝つことは難しいのが実情です。今回は「自白」や「過失を認めた」などが事実でなかったことが勝訴の決め手になりましたが、表現方法を理由に勝つことは困難です。また、勝訴しても賠償額は非常に低いことがほとんどであり、報道被害に対しては、弁護士もあまり積極的に取り組みません。私も弁護士として、このままでよいのかという思いを強くしています。
報道被害に対して、マスコミは自主規制の対策を打ち出してはいます。テレビ局各社は第三者機関として、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」を、新聞社も独白の機関を、それぞれ設置しています。しかし、現状では報道被害の救済に十分機能しているとはいえません。
医療界では今、医療事故調査委員会の創設で議論が交わされています。報道機関についても、より強力な第三者機関を早急に設立する必要があるのではないでしょうか。
Q&A
3分でわかる判決のポイント
名誉棄損で提訴や告訴をするには、どのような資料が必要でしょうか?
新聞やインターネットの報道であれば、報道資料を入手しやすいのですが、テレビ報道はビデオ録画を入手する必要があり、難易度が高まります。報道内容は、本件判決にもあるように言葉だけではなくて、その用いられ方や画像との結び付きが重要ですから、ビデオ自体を証拠として提出することが前提だといえます。テレビ局には、被害を受けた取材対象者などからの開示請求があれば、番組の録画を交付する義務を課すような制度が求められます。
損害についての立証はどうすればよいでしょうか?
個人の心の被害を正確に評価することは困難ですが、具体的に精神科にいつからいつまで通院したとか、一種のPTSD(心的外傷後ストレス障害)になっているといった診断書を取得しておくと効果的です。
コメンテーターなど個人相手の訴訟は難しいでしょうか?
提訴すれば社会的耳目を集め、その後の被害抑止にもつながるでしょう。ただ、個人の場合は、報道機関より表現の自由の保障が厚い傾向がありますので、名誉棄損を成立させることはそう簡単ではありません。
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