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(投稿:by 僻地の産科医)
ピル使用と乳癌発生との関連はあるか?
メタアナリシスについて
ハワイ大学 矢沢珪二郎
(臨婦産・62巻1号・2008年1月 p78-79)
今回はLeon Speroff氏の小文をご紹介したい.
この小文でSperoff氏は(規模の小さな)case-control studyのメタアナリシスの正確さや信頼度を鵜呑みにする危険に注意を促し,それよりは大規模なcase-control studyのほうが信頼度が高いのではないかと実例を挙げながら疑問を提出している.以下にその要旨を述べる.
最近の研究によれば.ピル(以下,0C)と乳癌発生は関係があるらしい1).この研究者らは1979年以降に発表されたcase-control studyのメタアナリシスを行い,0C使用者の乳癌発生リスクは1.19(95%CI : 1.09~1.29)と結論した.しかし,観察的研究(observational study)のメタアナリシスにはくれぐれも注意していただきたいと著者は述べている.
メタアナリシスとはいままでの諸研究の結果を集め,その質的側面を検討しそれらの所見をバイアスなしに集計しようとするものである.これにより,個々の小研究では得られない,統計的に十分な有意義を付加する数量(statistical power)や,正確さを得ることができる.メタアナリシスが普及するにつれて,その対象範囲はcase-control studyやコーホート研究にまで及ぶようになった.多くの臨床家はメタアナリシスの結果が正確で臨床的に意味のあるものだと信じている.しかし,この統計的手法には限界のあることを知らなくてはならない.観察的諸研究(observational studies)メタアナリシスのためには,研究者はどの疫学的分析の論文を採用するかに関して主観的な判断をしなければならない.さまざまな異なる(heterogenousな)論文を集め,統一のある結論を出そうとするのである.
メタアナリシスの手法は,各研究に含まれているバイアスや混乱要因(confounding factors)を正すことはできない.例えば,喫煙と肺がんの関係をcase-control研究を集めてメタアナリシスを行おうとすると,その相対危険度(RR)は20~30となる.このような場合にはあまり問題はない.これほどRRが高い場合には、10例ほどの論文を対象にメタアナリシスを行うだけで十分である.しかしRR<2.0の場合で,しかもconfidence intervalsの数値が幅広く分布する場合には,このような数学的,主観的な集計が正確で有用なものであるかどうかを疑問視するだけの価値がある.
観察的研究は,それぞれにおいて研究のデザインが異なり,患者の特質も異なり,caseとcontrolのマッチの内容も異なり,治療法や診断法,それにデータ記録の詳細も異なる.Case-control studyのメタアナリシスではsub-groupは検証されず,confounding fractorsに関する修正もできない.それよりも,臨床家は大規模なcase-control study を高く評価するべきではないか.
0Cと乳癌の関連を調べたcase-control studyの最大のものはCDCによる、35~64歳までの乳癌女性4,575人を対象としたものである2). それによれば,乳癌発生はOC開始年齢には関係がない.0Cの現在の使用者と過去の使用者の両者において,乳癌の増加はない.同様に,0C使用期間の長さもエストロゲン用量も関連がない.乳癌発生率は現在使用中でも,過去に使用したものでも相違はない.乳がんの家族暦のある場合にも関連は認められない,この米国発の研究の結果は,常に一定してOCと乳癌の関連を否定するものである.
もう1つの大規模研究はカリフォルニア,カナダ,オーストラリアの年齢40歳以前に乳癌を診断された女性を対象としたもので,その結論では,現在のOC使用者および過去のOC使用者と乳癌との関連はともにない3). われわれはメタアナリシスの結果を鵜呑みにせず、用心しなければならない.確かにOCの現在使用者と過去の使用者で20%の乳癌増加があるのかもしれない(既出,RR=1.19を差す1)).しかし,この場合の乳癌は局所性の癌に限定されているらしい.この数字は実際の数に直すと実にわずかな増加である.そして,この所見は,detection biasやsurveillance bias,さらにOCによる乳癌成長の加速化による要因があるのかもしれない。この研究に比べると,(上述の)大規模case-control studyの結果は終始negativeで,われわれに安心を与えるものである.諸研究を集め1つのプールに入れ集計するメタアナリシスは,小さなりんごをたくさん集めて大きなりんごとするというよりは,むしろりんごを混ぜ合わせてフルーツサラダを作るようなものである(内容は必
ずしも均質ではない).
Source 文献
Speroff L : Meta-analysis is to analysis as meta-physics is to physics. Contemporary ob Gyn June 1, 2007
1)Kehlenborn C,Modugno F, Potter DM, eta1:Oral
contraceptiveし1se as a risk factor for premeno-
pausal breast cancer : a meta-analysis. Mayo Clin-
ic Proc 81 : 1290-↓302,2006
2)Marchbanks PA, MCDonald JA, Wilson HG, et a1 :
Oral contTaceptives and the risk of breast cancer.
XEJM 346 : 2025-2032, 2002
3)Mine RL, Knight JA, John EM, et a1 : Oral contra-
ceptive use and risk of early-onset breast cancers
in carriers and noncanrreiers of BRCAl and
BRCA2 mutation. Cancer Epidemio1 Biomarkers
Prev l4 : 350-356, 2005
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